ポッケ村への道中、4人は誰ひとりとして口を開かなかった。
村の集会場に戻ると、そこにはショウヘイ達の姿があった。
「お疲れ。早かったな」
「ああ、リヴァルの活躍でな。…そういえばまだ紹介していなかったな。リヴァル」
ジュンキはリヴァルを呼ぶと、ショウヘイ達の紹介を始めた。
「俺はショウヘイ。武器は太刀の鬼神斬破刀。防具はナルガSだ」
「俺はユウキ。パーティ唯一のガンナーさ。武器はライトボウガンのグレネードボウガン改。防具は見ての通り、バサルSだ」
「俺はカズキ。ランス使いだ。武器はブラックテンペスト。防具はディアブロのUだ」
ショウヘイ達3人の自己紹介を受けたリヴァルだが、リヴァルは一言「リヴァルだ」と言うと集会場を出ていってしまった。リサはそんな無愛想なリヴァルを見て「失礼します」と言って、集会場を出ていった。
ジュンキとクレハがテーブルに着くと、リヴァルの話を持ち出した。
「みんなに聞いて欲しいことがあるんだ」
「どうしたんだ?改まって」
ショウヘイ達が心配そうな顔をする。話を持ちかけたのはジュンキだが、口を開いたのはクレハだった。
「リヴァル君だけど、彼は竜人だと思うの」
クレハの言葉を聞いて、ショウヘイ、ユウキ、カズキは驚いた。
「…根拠は?」
ショウヘイが尋ねてきたので、ジュンキが答える。
「俺とクレハが、リヴァルの竜を感じ取ったんだ。同時に」
ジュンキの言葉に、クレハは頷いて肯定する。
「本人は気付いているのか?」
「いや、どうだろう…。恐らく気付いて無いと思う」
ユウキの質問に、ジュンキは大まかにしか返事を返せなかった。
「だけどなぁ…」
カズキが難しそうな顔をしたのを、この場の全員が理解していた。代表してジュンキが口を開く。
「竜人としての使命を、リヴァルは背負えるのか…」
「竜人とは、世界の均衡を保つ者。世界の均衡が崩れた時、竜人は目を覚ます、だったな」
ショウヘイがジュンキの言葉に続く。
「しかし、今になってか?」
ユウキが頭に疑問符を浮かべる。
「たぶん…チヅルちゃんの分を補うためじゃないかな…」
クレハの言葉を最後に、ジュンキ、ショウヘイ、ユウキ、カズキは押し黙った。
「…リヴァル本人には、話すべきなのか?」
「…時が来たらでいいと思う」
ジュンキの問に、ショウヘイが答えた。
「その時、というのは?」
「それは監督者であるジュンキが判断しないとな」
ショウヘイの言葉に、ジュンキは苦笑いするしかなかった。
リヴァルは自宅に戻ると大剣「オベリオン」を壁に立て掛け、防具を外していく。その過程で、首から下げている一対の指輪が目に入った。両親の婚約指輪である。
「父さん…母さん…ミナ…」
それを右手で強く握り締め、瞼を閉じる。
「リヴァルさん…?」
リヴァルが振り向くと、そこには心配そうな顔をしているリサの姿があった。
「泣いているんですか…?」
リヴァルはリサに指摘されると、いつの間にか流れ出ていた涙を拭った。
「何の用だ…?」
「…どうかしたんですか?」
「触るな!」
リサが手を伸ばすと、リヴァルはそのリサの手を弾いた。パシッという音が静かに響く。
「…何があったんですか?」
「うるさい…」
「…話してみてください」
「うるさい!」
「…悲しいことだったのでしょう?」
「うるさいっつってんだろアマァ!」
リヴァルはリサのフルフルメイルの肩ベルトを掴むと、壁に押し付けた。リサは背中を強く打ち付け、息を詰まらせる。明るい赤色の瞳を涙で滲ませながら、リサはゆっくり言葉を紡いだ。
「…あなたは」
「…」
「さぞかし…孤独な日々を…送ってきたのでしょう…?」
リサはリヴァルの手を振りほどくと、リヴァルの家から駆け足で出ていった。
リヴァルはこの後、思いっ切り壁を殴った。
その夜、リヴァルは夕食のために集会場へと足を運んだ。食事はひとりで食べたいリヴァルはリサやジュンキ達と会わないようにするため、遅めに食べるようにしている。
しかし、なぜか今夜に限ってジュンキ、クレハ、ショウヘイ、ユウキ、カズキの姿が集会場にあり、リヴァルは機嫌を損ねた。
リヴァルは話し掛けられたくないので隅の席に座り、注文を取る。
「飯が不味くなる…」
遠巻きに、特にジュンキを睨みつけ、ひとり愚痴った。
突然、集会場内に拍手が巻き起こった。何事かとリヴァルも正面を向くと、そこには見慣れた女性が立っていた。
「リサ…?」
そこには普段通りの、フルフルの防具を着たリサの姿があった。リサは明るい赤色の瞳を静かに閉じると、歌い出した。
「…」
普段見られないリサの姿を、リヴァルは黙って見つめ続けることしかできなかった。
リサの歌を聞き終えた村人達やジュンキ達はリヴァルに気付くことなく集会所を後にしていったが、リサだけはリヴァルの存在に気付いていたようで、歩み寄ってきてリヴァルの斜め向かいに座った。
「先程は、すみませんでした…。お節介でしたね…」
リサは、開口一番に謝った。先程の、リヴァルの家でのことだろう。
「いや…俺も悪かった…」
「…教えて頂けませんか?」
「…何をだ?」
「リヴァルさんが、ジュンキさんやクレハさんを気嫌いすることです」
リサの質問にリヴァルは少し俯いたが、やがて口を開いた。
「…俺の両親は、リオレウスに殺されたんだ」
「…!」
リサが驚いた顔をしたが、リヴァルは話を続けた。
「俺はリオレウスが大嫌いだ。そう、この世界から消してしまいたいくらいにな。その番であるリオレイアも同じだ。だから、リオレウスやリオレイアの武器防具を愛用しているジュンキやクレハも嫌いなだけだ。見ているだけで、殺したくなるんだよ…」
「…そうですか。話してくれて、ありがとうございます」
「いや…いいさ…」
今まで誰にも話したことのない自分の過去を、初めて他人に話したリヴァルだった。
「明日は雪山へ、ドスギアノスを狩りに行くそうですよ。頑張りましょうね」
「ドスギアノスか。またそんなモンスター、俺が一撃で殺してやるよ」
「…期待してます」
リサはそう言うと立ち上がり、集会場の奥へと消えた。
リヴァルは冷めてしまった夕食を食べると明日に備え、早めに床に伏した。
「ふふふ…!」
深夜のポッケ村に響く、不気味な笑い声。
それはジュンキ、クレハ、ショウヘイ、ユウキ、カズキが5人で借りている大きな家の、キッチンルームから聞こえてきていた。
声の主はクレハ、ただひとり。他の4人は既に寝ているが、クレハはキッチンルームで刃渡り20センチは越えるだろう巨大な包丁を握っていた。
「んふふ…明日が楽しみだなぁ…!」
クレハはニヤリと笑うと、まな板の上の肉塊目掛けて包丁を振り下ろし、肉塊は両断された。