モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 重なる想い ずれる思い 03

翌日、リヴァルは仕方なく装備を整えて自宅を出た。

自宅というのは、いつまでもリサの家を借りるわけにもいかないので村長にお願いし、小さな空き家をひとつ借りたのだ。

集会場に入ると、準備万端のリサとジュンキが待っていた。

「で、何を狩りに行くんだ?」

「これだ」

そう言ってジュンキが差し出した依頼書を読んで、リヴァルは驚いた。

「なんでドスファンゴなんだよ!?」

「除雪作業へ出る村人達の障害になっているからな」

「ふざけるな!もっとマシなモンスターを選べよ!」

リヴァルの反論を、ジュンキはまずため息で返してから説明した。

「今はこの村から出ることができないんだ。つまり、依頼は雪山のみになっている。そしてドスファンゴを討伐することが、除雪作業をする村人達の作業効率を上げることになるんだ」

ジュンキの説明を受けて、リヴァルは承諾するしかなかった。雪山から出られない以上、これ以上ジュンキを責めても仕方ない。

「…分かった。とっととドスファンゴを狩りにいこうぜ」

リヴァルは投げやりにそう言うと、リサとジュンキを置いて出発しようとした―――その時。

「待って!私も行く!」

集会場内に響いた大きな声に、リヴァルは反射的に振り向いた。そこには昨日見た女が、慌てて集会場に入ってきたところだった。

「クレハ…!?いいのか?ショウヘイ達は?」

「大丈夫。俺達のことは気にしないで行ってこい。だってさ」

ジュンキがクレハと呼んだリオレイア装備の女性ハンターは、ジュンキの問い掛けに笑顔で答えた。

「おはよう、リサちゃん」

「おはようございます、クレハさん」

「リヴァル、仲間をひとり加えてもいいか?」

「…勝手にしろ」

クレハと呼ばれたハンターはリサとの挨拶の後、リヴァルの方を向いた。

「初めましてだね。ジュンキから話は聞いてるよ。私はクレハ。よろしくね」

差し出されたクレハの手をリヴァルは握らず背中を向けて、ひとりクエスト用出入口をくぐった。

 

「武器は双剣リュウノツガイで、防具は見ての通り、リオレイアです。」

クレハは先を行くリヴァルに聞こえるよう、大きな声で言った。

あのクレハとかいう女ハンターのリオレイア装備も不思議な模様の白い布が巻かれているので、Sシリーズの防具だろう。ヘルムは被らずピアスのみで、背中まで届く青色の髪をポニーテールでまとめている。

雪山フィールドのベースキャンプまではポッケ村から歩いて移動できる距離なので、普通は竜車を使わない。今回もそうなのだが、そのせいかリヴァルとジュンキの間に距離ができていた。

リヴァルがひとりで先行し、距離をおいてジュンキが続く。ジュンキの隣にクレハがいて、リサはリヴァルとジュンキ、クレハの中間を歩いていた。

そのリサがリヴァルに近寄ると、リヴァルはつかさず口を開いた。

「…おい」

「はい」

「お前は、あの男や女と知り合いか?」

「ジュンキさんとクレハさんのことですか?知り合いというより、仲間ですね。ジュンキさんとは以前から付き合いがあるのですが、クレハさんとは最近です」

「…他にもいるのか?」

「ええ、います。ショウヘイさんに、ユウキさんに、カズキさんがいます」

「ちっ…!」

「あ、リヴァルさん!」

リヴァルは舌打ちをすると歩く速度を上げた。リサもつかさず追いかける。

「どうしてジュンキさんを気嫌いするのですか?」

「お前に答える義理はない」

リヴァルは「話はここまでだ」と言わんばかりにさらに歩く速度を上げ、リサはリヴァルに尋ねることを諦めた。

 

雪山のベースキャンプに着くと準備を済ませ、4人は狩り場へと出発した。雪山のほとりの湖を横目に、草食獣ポポの間を抜ける。

しばらく無言の4人だったが、ここでクレハが口を開いた。

「ねえ、ジュンキ…」

「ん?どうした?」

「あのさ…今、何食べたい…?」

「…え?」

突然そんなことを聞かれて、ジュンキは少し戸惑ってしまった。

しかし何らかの意図があるのだろうと熟考した後、答えを口にする。

「今は…サンドウィッチかな?アプトノスの肉をパンで挟んだやつ。最近雪山に篭もりっきりで、食べてないからなぁ…」

「サンドウィッチ…アプトノスの肉かぁ…」

「突然どうしたんだ?もしかして、クレハが作ってくれるのか?」

「ん~、秘密」

クレハは笑顔で答えると駆け出し、リサと何か話を始めてしまった。

 

雪山の洞窟を抜けて山頂近くまで登ると、開けた場所にドスファンゴはいた。

「よし。各自、怪我だけはしないように」

ジュンキの言葉が終わる前に、リヴァルはドスファンゴ目掛けて走り出した。

(どうして…俺はリオレウス野郎なんかと…)

リヴァルの頭の中は、混乱しているに近かった。

もちろん、あの男はリオレウスそのものなんかじゃない。レウスSシリーズを装備しているからそれっぽく見えるが、中身は人間だ。同族だ。

しかし、どうしてもリオレウスそのものに命令されているような気がしてならないのだ。それが、リヴァルを精神的に苦しめる。

(俺は…誓ったはずだ…)

リヴァルはリオレウスが大嫌いだ。それ以上に憎んでいる。

そのせいか、リヴァルはリオレウスの体色と同じ深い赤色も嫌いだ。

自分の深い赤色の髪や深い赤色の瞳も嫌いだし、ましてやリオレウスの素材からつくられた武器防具はもっと嫌いだ。

―――故に、ジュンキというハンターは精神的に苦手な相手なのだろう。

(この世界から…リオレウスを消し去ると…)

リヴァルの武器防具は、リオレウスの亜種であるリオソウルの素材を使って作られている。亜種とは環境の変化に適応した原種の進化系で、原種の代わりとして生きていくものである。

つまり、リヴァルがリオソウルの武器防具を使っているのは、リオソウルの原種であるリオレウスが絶滅することを願ってのものなのだ。

(―――死ね、消え去れ、リオレウス)

 

ドスファンゴは接近するリヴァル達に気づいたが、その時には既にリヴァルの間合いに入っていた。リヴァルは背中から大剣「オベリオン」を抜き、構える。

「うおおおあああああッ!」

リヴァルは大剣オベリオンをドスファンゴ目掛けて振り下ろした。

―――ドスファンゴは、見事に一刀両断された。

 

「…!」

リサはアイアンストライク改を構えたまま、硬直してしまった。

いかに大剣が重たい武器であるとしても、モンスターを一刀両断するなんてリサは聞いたことが無かった。

―――いや、ひとりだけそんなことをやってのける人物を知っているが、それは特別な理由があるのだ。

リサはこの時、本能からリヴァルを怖いと思った。

 

ジュンキは手を出さないつもりでいたので後方から見守っているだけだったが、リヴァルの攻撃を見てある種の力を感じ取っていた。

「…ジュンキ、感じた?」

「…ああ。感じた」

隣にいるクレハも感じ取ることができたようで、ジュンキは確信を持った。

「…リヴァルも竜人か」


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