「何だ…あんた…」
リヴァルが自分を落ち着けるようにゆっくり言ったが、リオレウス装備のハンターは言葉を続けた。
「まだ詳しいことが分かっていないモンスターだ。調査しに行くならまだしも、いきなり討伐は危険だと思うぞ」
リヴァルは大股でそのハンターに近づくと、そのハンターが座っているテーブルを右手で力強く叩いた。そのハンターのであろうグラスが倒れ、水がテーブル上にこぼれ広がる。
「どんな依頼を受けるかは、依頼を受けるハンターの意思が最優先される。あんたにあれこれ言われる筋合いは無い」
リヴァルとしては脅しを掛けたつもりだったが、リオレウス装備のハンターから返ってくる声は至って冷静だった。
「確かにそうだ。だが忠告だけはしたぞ。お前が勝手に死のうと俺には関係ないからな。せいぜい犬死だけはしないようにな…」
「き…貴様ぁ…!」
リヴァルは、右腕が背中の大剣オベリオンに向かって動くのを止められなかった。
「いけません!リヴァルさん!」
リサの声が集会場に響くが、リヴァルは左手に持っていたリオソウルヘルムを放り投げると、大剣「オベリオン」を両手に持った。
「死ねえええええッ!!!」
リヴァルは大剣「オベリオン」をリオレウス装備のハンターに向かって振り下ろした。このまま、リオレウス装備のハンターは大剣オベリオンの餌食になるはずだった。
しかし、リオレウス装備のハンターは席を立たずに腰を少しだけ動かすことによって、紙一重でリヴァルの攻撃を避けてみせた。リヴァルの大剣「オベリオン」はリオレウス装備のハンターではなく、椅子を破壊した。
「なっ…!」
流石にリヴァルは驚いた。しかし、リオレウス装備のハンターはため息をひとつ吐くと立ち上がり、リヴァルの前に立った。
「力づくで勝負したいなら、受けて立つけど…?」
リオレウス装備のハンターはそう言うと、背中の太刀を抜いた。
「ちっ…!くそおおおッ!!!」
リヴァルは大剣「オベリオン」を持ち上げると、リオレウス装備のハンター目掛けて斬り掛かった。
しかし、リオレウス装備のハンターはリヴァルの攻撃をまたも紙一重で避け、リヴァルの喉元に太刀の先端を突きつけた。
「…!」
「…勝負あったな」
リオレウス装備のハンターはそう言うと、リヴァルの喉元から太刀を引いた。するとリヴァルは気が抜け、その場に尻餅をついてしまった。
駆け寄ってくる足音を聞いてリヴァルが顔を上げると、走ってくるリサの姿が見えた。しかしリサはリヴァルではなく、目の前で太刀を背中に納めたリオレウス装備のハンターのもとへ向かった。
「やりすぎですよ、ジュンキさん」
「ごめん。悪乗りが過ぎたよ」
リオレウス装備のハンターはそう言うと、被っていたリオレウスのヘルムを取った。
中から出てきたのは薄い茶色の髪を黒いバンダナでまとめた、青色の瞳の男だった。
「なんの騒ぎじゃ?」
騒ぎを聞きつけて、村長が集会場へと入ってきた。
村長はリヴァル、リサ、リサがジュンキと呼んだハンターの順に見渡すと、ジュンキのもとへ歩み寄って話を始めた。
リヴァルは立ち上がったが、歩み寄ってきたリサに声を掛けられた。
「どうしていきなり斬りかかったんですか?」
「…」
「ハンターは人に武器を向けてはならず。リヴァルさんもハンターなら―――」
「そんなものは…分かっている…!」
「…リヴァルさん」
リサが残念そうな顔をして一歩下がる。
すると村長が呼んだので、リヴァルとリサもジュンキと並んで村長の前に並んだ。
「話を聞く限り、ヌシは武器を抜いたらしいの」
リヴァルは声を出さないことで肯定した。村長は話を続ける。
「感情だけで武器を抜くようでは、ハンターとして信用できぬ…。そこで、ヌシにはしばらく、このジュンキ殿についてもらうことにしたよ」
「なっ…!?」
リヴァルは驚いてジュンキを見たが、ジュンキは村長の方を向いていて、リヴァルの顔を見ようともしなかった。
「ふ、ふざけるな!どうして俺がこんな奴なんかと!」
「…ヌシの行いからして当然じゃ」
リヴァルの反論を村長は退けた。ここでジュンキが右手を小さく上げたので、村長が「どうした?」と尋ねた。
「具体的に、俺は何をすれば?」
「そうじゃの…。依頼を受けて村を出る時に同行してくだされ。もちろん、報酬も支払うよ。それから―――」
村長とジュンキの会話を、リヴァルは「にが虫」を噛み潰したような顔で聞き続けるしかなかった。
「さて、まずは自己紹介からだな」
村長が集会場を出て行った後、リヴァルとリサはジュンキに促されてテーブルのひとつに着いた。
「俺はジュンキ。よろしく」
「リサです。でも、既に知っていますよね」
「リヴァルだ。ご指導よろしくお願いしまーす」
リヴァルはとても面倒臭そうに、嫌味を込めてジュンキに言った。
「まあ、指導って言ってもあれこれ言わないから。装備を見る限り、リヴァルはなかなかの腕前を持つハンターみたいだからな」
「そーだぜ。俺の装備はリオレウスの亜種、リオソウルから作られているんだ。あんたのは通常種だな、ジュンキさん。これってもしかして、俺の方が狩りの実力は上なのかなー?」
リヴァルの言葉を、ジュンキは苦笑いしながら聞いていた。リヴァルが勝ち誇ったように鼻を鳴らすと、横に座っているリサが肘でつついてきたので、仕方なく耳を傾けた。
「リヴァルさん、ジュンキさんの防具をよく見てください。防具の所々に、白い布が巻かれていませんか?」
「ん…?」
リヴァルはリサに言われたことを、一応確認してみた。確かに、目の前に座っているジュンキが装備しているリオレウスの防具には、腕や首元などに不思議な模様が刺繍された白い布が巻かれている。
「それにですね、リヴァルさん。防具のデザインが異なっていることにも気が付いていますか?」
「…」
それはリヴァルも気付いていた。目の前のジュンキが装備しているリオレウスの防具は、一般的なレウスシリーズとはデザインが異なっている。それはまるで、リオレウスが翼を広げている状態をイメージして作られているようだ。
「…まさか」
「気付きましたか?リヴァルさん」
ここでリヴァルは思い出した。防具に巻かれる白い布には、その防具が通常より強いモンスターの素材から作られたことを意味していることを。
つまり、目の前に座っているジュンキが装備している防具は―――。
「レウスS…!」
リヴァルは目の前の男の真の実力を知って、リヴァルはただ拳を強く握り締めることしかできなかった。
「―――さてと。挨拶も済んだから、今日は解散。また明日」
ジュンキがそう言うとリヴァルは即座に立ち上がり、集会場の出口に向かって歩き出した。
「り、リヴァルさん!」
リサの制止の声も聞かずにリヴァルは集会場を出ようとする。しかし―――。
「ジュンキー!ただいまー!」
突然背後から聞こえた大きな声にはリヴァルの足も止まってしまい、何事かと集会場の中を振り返る。
そこにいたのは狩りから戻ってきた4人組のパーティだった。男が3人、女がひとり。その女がジュンキの目の前で止まり、親しそうに話を始める。
「ちっ…!」
「あっ、り、リヴァルさん!」
リヴァルは舌打ちをひとつだけすると、何も言わずに集会場を出た。なぜなら、リヴァルがリオレウスの次に嫌いなものが現れたからだ。
リオレウスの番(つがい)である、リオレイアだ。