プロローグ
「行ってきまーす!」
靴紐を結ぶことすらもどかしく、決して立派ではない自宅を飛び出した。今日は週に一度の、隣街へのお使いの日なのだ。いつも村の農作業を手伝っていて村からほとんど出られない身なので、これが待ち遠しくてたまらない。
それが10歳の男の子ならば、尚更である。
「ちょっと待ちなさい。ちゃんとお金と籠(かご)は持ったの?」
「今持ったよー!」
後ろから聞こえる母の声に、慌てて右手にかけなしのお金を持ち、左手に農作業用の籠を携える。
「お昼までには戻ってくるのよ」
「うん!大丈夫!もう道も慣れたし!」
「気をつけて行くのよ」
「はーい!」
いつも優しい母に見送られて、家の敷地を飛び出す。
畑のあぜ道を駆け抜けて村の大通り―――と言っても竜車2台がやっとすれ違えるくらいの広さだが―――を左折し、畑の間を村の出入り口に向かって駆け抜ける。
「お兄ちゃーん!」
右手から呼ぶ声が聞こえたので足を止めて振り向くと、畑の中に小さな人影が3つ。その中のひとつが手を振っていた。妹だ。
「街に行くのー?」
「そうだよー!」
「お土産買ってきてねー!」
「ああ!」
こちらも手を振り替えし、再び駆け出す。村の門をくぐって街道に出たところで、農作業から戻ってきた父と出会った。
「おっ!街までお使いか?」
「うん!行ってきます!」
「気をつけるんだぞ」
「はーい!」
優しくて強い父に手を振り、街道を隣街へ向けて走る。子供の足で片道1時間くらいの距離があるが、それ以上に街に行けるのが楽しみで、ついつい駆け足になってしまう。
村にはないものが、街にはたくさんある。お使いも好きだが、なにより街に行くこと自体が楽しみだった。
※
燃える、家。
焼き尽くされた、畑。
薙ぎ倒された、木々。
どうして燃えてるの?
どうして焼けてるの?
どうして倒れてるの?
「え…?」
変わり果てた村の姿に、立ち尽くすことしかできなかった。お使いで隣の街まで行って帰ってきただけなのに、どうして村がこんな姿に…?
「嘘だ…」
これは夢だ。そう思い、頭を強く叩いてみたが、夢からは醒めない。
これは、現実だ。
「父さん…。母さん…。ミナ…」
思わず口から漏れる、家族の名前。体は無意識に、廃墟と化した村の中へと歩み出していた。
いつも村中を駆け回っている同年代の友達や、農作業をする大人たちの姿はない。
「…!」
何か柔らかいものを踏んだので、反射的に足元を見た。そこには誰かの、二の腕から指先までの腕。
「うああ…!」
恐怖に脚が竦(すく)み、尻餅。そして、見えた。
「あれは…」
破壊され炎上している自分の家の前に立ち、こちらに後ろ姿を見せている1匹の竜。
「リオ…レウス…?」
独り言の呟きが聞こえたのか、その竜はこちらを振り向いた。その凶悪な牙が並んだ口に咥えているのは―――。
「父さん…?母さん…?」
ここで、目が覚めた。