雪山の中の洞窟の入り組んだ先に、ドドブランゴの巣はあった。
周囲にブランゴ等のモンスターはおらず、ドドブランゴは枯れ草のベッドの上で眠っている。
「罠を仕掛けるから、発動したら投げてくれないか?」
「分かりました」
リサはジュンキから捕獲用麻酔玉を受け取った。そしてジュンキはユウキからシビレ罠を受け取ると、眠っているドドブランゴのすぐ側まで静かに近づき、シビレ罠を設置した。
シビレ罠はすぐに発動し、ドドブランゴが尋常ではない叫び声をあげながら全身を痙攣させた。
そこへリサが捕獲用麻酔玉を投げつける。2発投げつけたところで、ドドブランゴはその場に倒れ込んだ。
「捕獲完了だな」
カズキは嬉しそうに言いながら、ディアブロヘルムを外した。
「後はギルドの方が処理してくれるだろうから、俺達は村に戻ろう。お疲れ、リサ」
「はい。ありがとうございました」
レウスヘルムを外しながら言ったジュンキに、リサはそう言って頭を下げた。
直後、背後に殺気を感じて振り返る。
「っ!?」
そこには、洞窟の天井付近から、リサ目掛けて飛び掛ってくるブランゴの姿があった。ドドブランゴをシビレ罠にかけた際の叫び声に呼ばれたのだろうか。
ブランゴは、リサが振り返った時には既に空中へ飛び出しており、リサはあまりに咄嗟のことで避けることができない。
(駄目だ、当たる…!)
リサが思ったその時、すぐ側を通り抜ける、赤い人影があった。
(ジュンキさん!?)
ジュンキは目にも留まらぬ速さで背中のラスティクレイモアを抜くと、ブランゴを一閃した。
するとブランゴの身体は上半身と下半身に分離され、リサに直撃することは避けられた。
「…」
リサは絶句していた。ブランゴを一刀両断するなんて、聞いたことが無い。
「大丈夫か?リサ…」
「…!」
振り向いたジュンキの瞳を見て、リサは今日何度目かの驚きを見せた。
ジュンキの青色の瞳が、まるで竜のそれに変わっていたのだ。
「…瞳、変わってるのか?」
「…はい」
「そっか…」
ジュンキは何度か瞬きした。すると、人の瞳に戻る。
「ジュンキさん、今のが…?」
「竜の力…のひとつかな」
「…」
リサは何を言えばいいのか分からなかったが、そこはユウキとカズキがフォローに入ってくれた。
「これが竜人さ。世界の調和を整える者…だったか?」
「でもジュンキはジュンキ、そうだろう?まあちょっと怖いかもしれないけど」
「怖いは余計だ」
3人の会話を聞いて、リサは笑みを浮かべることができた。
竜人という存在はちょっと怖いけど、それ以上に大変な使命を負っていて、そしてそれ以前にハンターなんだとリサは思った。
ポッケ村に戻ると、集会場にはショウヘイとクレハがいて、これからお昼だから一緒にと誘われたので、リサは5人に混ざって食事を摂ることにした。
食事の席ではジュンキ達5人の昔話や笑い話、これからの予定や他愛のない会話が繰り広げられ、リサの顔にも自然と笑みが浮かんでいた。
リサとしてはとても楽しみだった。これからはひとりではなく、6人で行動することになる。すると狩りひとつでも選択肢がかなり広がり、狩りにも多様性が生まれてくる。
そして何よりも、一緒に笑い、一緒に悩み、一緒に泣き、一緒に喜べる仲間ができた。リサにはそれが何よりの幸せだった。
今でもユウキとカズキがお酒に酔って爆笑しているし、ショウヘイはその様子を見て静かに笑っている。クレハはジュンキに小さなソーセージを食べさせようとしていて、ジュンキは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
(ああ、これが私のパーティなんだ…)
リサはひとり穏やかな笑みを浮かべると、そっとあたたかいスープに口をつけた。
(おわり)