ドドブランゴは突然4人のハンターに囲まれてしまい、混乱しているようだった。
リサがハンマー「アイアンストライク改」で殴り、ジュンキが太刀「ラスティクレイモア」で斬りつける。油断すればカズキのランス「ブロスホーン」で突かれ、一旦距離を取ると、ユウキに狙い撃ちされる。
「一気に叩くぞ!」
「はいっ!」
「まかせろっ!」
リサがドドブランゴの右後ろ足を殴りつけ、カズキが左肩口を刺す。ドドブランゴはカズキを殴りつけるが、カズキは強固な盾でそれを防ぐ。
その間にジュンキがドドブランゴの背中を斬りつけ、噴き出した血液が雪の大地を赤く染める。痛みにドドブランゴが振り向くと、そこを狙ってリサがアイアンストライク改を顔面に打ち込む。
ドドブランゴは怯んで後退するが、間髪入れずにカズキはジュンキが斬りつけた場所にブロスホーンを突き刺す。
ここで突然、ドドブランゴが悲鳴なような咆哮を上げた。すると、雪の大地が揺れた。
「な、何だ…?」
「足元に何かいるぞ!?」
ジュンキとカズキは慌てたが、雪山生活の長いリサはこれが何を意味するのか知っていた。知っていたので、思わず下唇を噛む。
「…ブランゴ」
リサが呟いた途端に、雪の大地からブランゴが4匹飛び出した。
「なっ!」
「ちぃっ!」
ブランゴは、ボスであるドドブランゴを守るように行動を開始した。4匹は2匹ずつに別れて、ジュンキとドドブランゴ、カズキとドドブランゴの間に入る。
そしてドドブランゴは、リサと向き合った。
「リサっ!」
「大丈夫です!ここは耐えます!」
ジュンキの心配する声がドドブランゴの背後から聞こえてきたが、リサはジュンキとカズキがブランゴ4匹を倒すまで、ドドブランゴの攻撃を耐え抜くことを決めた。
リサの、ハンマーの柄を握る両手に力が入る。
(大丈夫。私はひとりじゃない)
リサが動き出すと、ドドブランゴも動き出した。ドドブランゴのタックルを避けて、背中に一撃叩き込む。
ドドブランゴはリサを振り向き、口から雪のブレスを吐きかけるが、リサはこれも余裕を持って避け、脇腹に一撃叩き込む。
深追いせず、一撃一撃確実に。
しかし、相手はブランゴのリーダー、ドドブランゴ。体格の差はもちろん、体力の差も歴然としている。
「はぁ…!はぁ…!」
リサの呼吸は、次第に荒くなってきていた。ドドブランゴは好機と見たのか、攻勢を強めてくる。
(右か、左か…)
ドドブランゴは右腕を上げた。
(左っ…!)
リサはドドブランゴの拳を避けるために、左へ跳んだ。
しかし、リサの視界にドドブランゴの拳が迫る。
(フェイント…!?)
リサは思わず目を閉じた。
しかし、ドドブランゴの拳は届かず、代わりに爆風がリサの頬を撫でた。
リサは一瞬だけ背中を振り向いた。そこには距離を置いてライトボウガンを構えているユウキがいて、右手にVサインを作っていた。
「リサっ!」
声を掛けられてリサが正面を向くと、ブランゴを倒したジュンキとカズキがドドブランゴへ駆け寄ってきているところだった。
ドドブランゴは劣勢とみたのか戦闘を離脱し、このエリアを出ていってしまった。
「ふう…」
リサは背中のアイアンストライクを外すと、砥石で磨いた。
そこへジュンキ、ユウキ、カズキが歩み寄る。
「大丈夫かぁ?」
「はい。怪我はありません」
カズキの問い掛けに、リサは笑顔で答え、そのままユウキの方を向くと頭を下げた。
「ユウキさん、先程はありがとうございました」
「いやいや、無事ならいいんだ」
ユウキは照れ臭そうに笑う。
「ささ、そんなことより、早いところ追い駆けようか」
「そうですね」
「だな」
ユウキの提案はもっともでリサとカズキは返事を返し、ジュンキは黙って頷いた。
ペイント弾の臭いを辿り、リサ達は隣のエリアへと移った。
果たして、ドドブランゴはブランゴと一緒にいた。
「ちっ…」
カズキが舌打ちした。ブランゴの数が、5匹に増えているのである。
「多いですね…」
「慕われているところを見ると、いいボスなのかもな」
「いいボスでも、狩らなきゃならんのだ、これが」
ユウキはそう言うと、クロオビボウガンを構えた。
それに呼応するようにジュンキはラスティクレイモアを抜き、カズキがブロスホーンを抜いた。
「ジュンキさん…?」
「ああ、リサも武器を構えていてね」
リサはジュンキに促されるまま、背中のアイアンストライク改を構えた。
これから何が起こるのだろうか…。
リサが疑問に思ったその時、ユウキが一発の弾丸を発射した。それは吸い込まれるように一番手前のブランゴへ近づき、頭部を貫いた。
「…!」
「いくぞ」
リサが驚いているとジュンキの声が掛り、ユウキ以外の3人はドドブランゴ目掛けて走り出した。
ドドブランゴは異常にすぐ気が付き、残った4匹のブランゴに激を飛ばす。
しかし、ブランゴ達が気付くまでに時間がかかり、その間にジュンキとカズキによって、さらに2匹が倒されてしまう。
残るはブランゴ2匹に、ドドブランゴ。
「ブランゴは私が引きつけます!」
「分かった!」
「頼んだぜ!」
リサはそう言うと速度を落とし、ドドブランゴと戦うジュンキとカズキ、そしてこれから相手をするブランゴ2匹との間に、リサは割って入った。
「ユウキさん…?」
リサはドドブランゴに背中を向けたので、リサからはユウキの姿を確認できる。そのユウキは、リサから見て左のブランゴを指差していた。リサはユウキの指示に従い、まず左のブランゴを相手にする。
するとユウキは、右のブランゴを狙い撃った。左側ブランゴの気が一瞬だけだが、ユウキの方へと逸れる。
「はあっ!」
リサはその隙を逃さなかった。アイアンストライク改の重い一撃が、ブランゴの頭部を捉える。
リサの攻撃が当たったブランゴはグシャリと音をたて、そのまま動かなくなった。
「ふぅ…。―――あ…っ!」
突然、リサの視界が横にスライドし、脇腹に衝撃を感じた。
雪の大地を転がり、慌てて起き上がる。もう一匹のブランゴが迫ってきていた。ブランゴはリサに跳びかかる。
リサにはそれがとてもゆっくりに見えていて、ボウガンの弾がブランゴの頭を貫いたのもはっきりと見えた。ブランゴの両目が裏返り、リサの手前に墜落すると、リサの時間間隔も元に戻った。
「大丈夫かー?」
「だ、大丈夫です!」
ユウキが駆け寄ってきたので、リサは慌てて立ち上がった。
ここは狩り場だ。いつまでも呆けていては危険である。
「ドドブランゴは、何とかなりそうだぞ」
「え…?」
ユウキにそう言われてドドブランゴを見ると、リサは明るい赤色の瞳を見開いて驚いた。
ブランゴ2匹を相手にしているだけの僅かな時間で、ドドブランゴは目に見えて弱っていた。
動きにキレがなく、瞳には恐れが見て取れる。
「すごい…!すごいです…!」
「俺はガンナーだから直接戦ってる訳じゃないけど、照れ臭いなぁ」
「…私も、頑張らないと!」
リサはフルフルキャップの上から頭を掻いているユウキに見向きもせず、ドドブランゴへと駆け寄った。
しかし、リサのアイアンストライク改がドドブランゴを捉える前に、ドドブランゴは空高く跳躍し、エリアを脱してしまった。
「あっ…」
「大丈夫。もう巣に戻る頃だろうから捕獲するか」
ラクティスレイモアを納刀したジュンキはそう言うと、アイテムポーチから捕獲用麻酔玉を取り出した。
「ユウキ。罠は?」
「シビレ罠をひとつ、持って来ているぞ」
近くに来ていたユウキも、背中のアイテムポーチからシビレ罠を取り出した。
「よし、じゃあ行こう。リサ、大丈夫か?」
「はい!」
リサは大きな声で返事を返し、ジュンキを驚かせた。
嬉しかった。強いハンターと共に狩りに出られるというのは、どんなハンターでも嬉しいことなのだ。
リサは消えかかっているペイントの臭いを嗅ぎ分け、率先して歩みを進めた。