ドンドルマの街にあるハンター専用の病院で、ショウヘイは緊急入院することになってしまった。
幸いにもユウキの隣のベッドが空いていたので、ショウヘイはユウキと並ぶことができた。
「ユウキ、まだ治らないの?」
「ん~…。俺は大丈夫って言ってるんだけどなぁ…」
クレハの呆れた口調の言葉に、ユウキは小首を傾げることしかできなかった。
「ショウヘイは大丈夫?」
「ああ。症状は落ち着いている。黒ディアブロスに突進された時に、角を切り落とせてよかった」
「危うく腹に、穴が開くところだったからなぁ」
ショウヘイの答えに、カズキが自分の腹を撫でながら言った。
「それに…」
「それに…?」
クレハが小首を傾げる。
ショウヘイは目を開けると、小さく笑ってから口を開いた。
「俺は竜人だからな。ジュンキみたく、すぐ元気になるさ」
「でも、治るのは早いに越したことないだろ?元気な俺たち3人で、何とかできないかなぁ…?」
カズキがそんなことを言ったので、チヅルとクレハはカズキの方を向いた。
「例えば、よく効く薬を探してくるとかさ」
「例えば?」
「…いにしえの秘薬?」
カズキの回答に、チヅル達4人は絶句した。
いにしえの秘薬といえば、治療剤の中では最高級品で、素材も簡単には見つからないものだらけだからだ。
「いにしえの秘薬かぁ…。確か、活力剤とケルビの角…だったかな?」
「活力剤は、マンドラゴラっていうキノコと、増強剤の調合だったよね…」
「増強剤なら、ハチミツとにが虫の調合だな」
「成功率を考えると、ある程度の数はあった方がいいよね…」
チヅルの言葉を最後に、会話が途切れてしまった。
「でも、ここはハンターが集まる最大の街、ドンドルマだぜ?難しいかもしれないが、何とか集まるんじゃないか?」
「…そうだね。やってみるだけやってみよう。ね、チヅルちゃん?」
「うん。やる前から、諦めたくないもんね」
「よーし、そうと決まれば役割分担だ!俺は頑張って、マンドラゴラっていうキノコを探してくる!」
それだけ言い残し、カズキは病室を飛び出していった。
「じゃあ、私はケルビの角を探すね」
チヅルもそう言うと、病室を出る。
「う~ん、私はハチミツとにが虫かぁ。簡単な分、ふたつ用意しないとね」
クレハはひとりそう呟くと、病室の出口へ向かって歩き出した。
だが病室を出る直前に、ショウヘイとユウキに呼び止められてしまう。
「なぁに?ショウヘイ、ユウキ…」
「…すまない。迷惑をかけて」
「でも、ありがとうな。よろしく頼むぞ」
ショウヘイとユウキの言葉にクレハは笑顔で頷くと、病室を後にした。
「ふう…」
チヅルは大衆酒場の中を歩きながら、ため息を吐いた。
ショウヘイとユウキの病室を出てから既に2時間。市場の半分を歩き回ったが、まだケルビの角は見つかっていない。
大衆酒場で働くユーリにも聞いたのだが、ユーリでも売り場までは知らなかった。もちろんパーティメンバーに持っていないか聞いたが、自分を含めて、誰も持っていなかった。
「あ~あ…。こんなことなら、この前アイテムボックスを整頓した時に、売らなきゃよかった…」
チヅルはひとりでブツブツ言いながら、ハンターへの依頼が掲示されているクエストボードの前に、何となく立った。
「狩りに行ったほうが早いかな…」
チヅルは冗談半分で、ケルビ討伐の依頼を探してみた。しかし、それもない。
「ん~!もうっ!」
クエストボードには、何枚も重ねて依頼書が貼られている。チヅルは一応、下の方も探してみた。
「出てこい出てこい出てこ~い!―――あっ…!」
チヅルの目に、一枚の依頼書が飛び込んできた。それは、単にリオレイア狩猟の依頼書なのだが―――。
「エリア区分Kって確か、私がセイフレムと会った、ココット村の裏山じゃ…!」
チヅルはゆっくりと目を閉じ、一度深呼吸してから目を開くと同時に、この依頼書をクエストボードから引き剥がした。
カズキは街の市場のほとんどを回り、ようやくマンドラゴラを入手することができた。
そして意気揚々とショウヘイとユウキの病室に戻ってくると、既にクレハが椅子に座っていた。
「お、早いなクレハ」
「私は簡単だったから。で、カズキはどう?」
「ふふふ…!ジャジャーン!」
カズキはアイテムポーチから、マンドラゴラを3本、テーブルの上に置いた。
「3本も!?お疲れ、カズキ。これで材料は揃ったよ」
「ん?チヅルは?」
「チヅルは、クレハが来る前にケルビの角を5本テーブルの上に置いて、どこかに行っちまったよ」
カズキの問い掛けに、ユウキが答えた。
「どこに?」
「さあ…?」
「きっと疲れて寝てるんだよ。さ、調合しよう?カズキ」
クレハはそう言うと、調合するための道具を全部カズキに手渡した。
「クレハはやらないのか?」
「私は、手先が器用じゃないからさ…」
「…?」
カズキは大袈裟に首を傾げてみせた。