モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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2章 チヅルの戦い 03

ジュンキがポッケ村を出発した頃と時を同じくして、チヅル達はユーリから緊急の依頼を受け、過酷な狩り場のひとつである砂漠に足を踏み入れていた。

今回の相手はディアブロス亜種。通称黒ディアブロスと呼ばれ、ハンター達から恐れられている飛竜だ。

「ふう…」

そんなモンスターとこれから戦うのだというプレッシャーと、砂漠という過酷な環境のせいで、4人の間の会話も少なくなっていた。思わずチヅルはため息を吐き、他のメンバーを見渡した。

ショウヘイはテントの横で太刀「斬破刀」を砥いでおり、カズキは持ってきたアイテムを確認している。

「ため息吐いてどうしたの?チヅルちゃん」

そしてクレハはチヅルの横で水を飲んでいたが、チヅルがため息を吐いたのを気にして声を掛けてくる。

チヅルは、元気の無い笑みで返す。

「ううん、何でもないよ」

「そう?相当なプレッシャー、感じてるみたいだけど?」

ここで、チヅルの笑顔に一瞬曇りが差したのを、クレハは見逃さなかった。

「…話してみて?」

クレハはそう言って、チヅルに対して正面を向いて、近くの木箱に座った。

「…多分、緊張してるんだと思う。黒ディアブロスは初めてだからさ…」

「うんうん」

クレハは相槌を打つ。

「それに暑いから、余計に気が滅入ってるんだろうね、きっと…」

「そっか…」

「あ、でも大丈夫。狩り場に出たら、きっといつもの私だから」

「…頼りにしてるよ、チヅルちゃん!」

「任せてよ!」

チヅルの言葉にクレハが笑うと、チヅルもつられて笑った。

「そろそろ作戦会議をするから、集まってくれ」

ショウヘイの声を聞いて、チヅル、クレハ、カズキがショウヘイの周囲に集まる。すると、ショウヘイは狩り場の地図を乾いた砂地の上に広げた。

「まず、休息すると思われる水場はここだ」

ショウヘイは、水場があるエリアを指差す。

「戦うなら、広い場所がいいよね。となると、主に砂漠地帯か…」

「開けた岩場でも、十分戦えるよね」

クレハとチヅルもそれぞれの意見を述べる。

「カズキは?」

ショウヘイが尋ねると、カズキは苦笑いして後頭部を掻いた。

「俺は昔から考えるのが苦手だ。作戦は任せるわ」

カズキのハンターらしからぬ言葉に、チヅル、ショウヘイ、クレハは苦笑いする。

「砂漠は広い。それに今回は緊急依頼で時間が無いから、これを使おう」

ショウヘイはそう言うと、アイテムポーチから茶色の小瓶を取り出した。大型モンスターの位置を少しの時間だけ感じ取ることができる「千里眼の薬」だ。

ショウヘイは一気に飲み干すと、意識を集中させる為に瞳を閉じた。

「…隣の砂漠にいるみたいだ」

「じゃあ行くか!」

カズキの一声で、4人はベースキャンプを出発した。

 

黒ディアブロスは、すぐに見つけることができた。

通常のディアブロスは砂漠と同じ薄黄色の体色をしているのだが、黒ディアブロスはその名の通り全身真っ黒で、それは砂漠ではあまりに目立っていた。

「深追い厳禁ね」

クレハの言葉を聞いて、チヅルは一度深呼吸した。砂漠の熱い風が、肺に運ばれて胸を焼く。しかし、今のチヅルには丁度良い刺激だった。

黒ディアブロスはこちらに背を向けていたが、近付いてくる足音に気付いたのか、ゆっくりとこちらを振り向いた。チヅル達も歩みを止める。

少し間をおいて4人がそれぞれの武器を抜くと、黒ディアブロスは高々と咆哮した。

「行くぞっ!」

「死ぬなよっ!」

「行こう!チヅルちゃん!」

「うん!」

チヅルは迷うことなく駆け出した。先を走るクレハを追う形で黒ディアブロスの右翼に回り込み、事前に打ち合せしたとおりにペイントボールを投げつける。

ショウヘイは左翼側から尻尾へ向かい、カズキはランスの大きな楯を掲げて黒ディアブロスと正面に向き合う。

「さぁ!かかって来いやあああ!」

カズキの声に反応したのか、黒ディアブロスはカズキに突進した。

カズキは迫り来る巨大な二本角を「ブロスホーン」の楯で防ぎ、すれ違い様に尻尾に一突き入れた。熱い砂の大地に、赤い液体が迸(ほとばし)る。

「はあっ!」

「たあっ!」

チヅルとクレハは黒ディアブロスがカズキに向かって再び突進する前に追いつき、チヅルが左脚を斬りつけ、クレハが右脚斬りつける。

黒ディアブロスが突進すると、カズキが一突き。突進が止まる丁度手前に立っていたショウヘイが、黒ディアブロスの二本角を一閃した。

(いける…!)

チヅルは「封龍剣・超絶一門」を強く握り締めると、一気に駆け出した。クレハとカズキを追い抜き、黒ディアブロスの腹の下に潜り込む―――。

「危ないっ!」

クレハの叫び声を聞いてチヅルは本能的に横へ飛んだ。その直後、身体の横をハンマーのような黒ディアブロスの尻尾が薙ぎ払われる。

「あちちっ!」

チヅルは防具の隙間に入り込んだ砂漠の砂の熱さに驚き、慌てて立ち上がった。

「大丈夫だった!?チヅルちゃん!」

クレハが心配そうに駆け寄ってきたので、チヅルは慌てて笑顔を作った。

「うん、大丈夫。助かったよ、クレハちゃん。ありがとう」

チヅルはそう言うと「封龍剣・超絶一門」を拾い上げて、すぐクレハと共に駆け出した。ショウヘイが黒ディアブロスの噛み付き攻撃を紙一重で避け、カズキが左右に大きく揺れる尻尾を器用に突いているところに、チヅルとクレハが腹の下に潜り込む。

「「鬼人化っ!」」

チヅルとクレハは双剣の奥義、鬼人化を発動させた。そこに竜の力を乗せると、黒ディアブロスの堅い甲殻がスパスパと斬り刻まれていく。黒ディアブロスは苦し紛れに全身を使って回転攻撃をしてきたが、チヅルとクレハには当たらない。

やがて、黒ディアブロスが灼熱の砂の中に身を沈めようとしたところで、チヅルとクレハは離脱した。

「やるなあ!」

カズキの声援に、チヅルとクレハは手を上げて返事を返す。黒ディアブロスが尻尾まで砂の中に潜ったところで、ショウヘイが音爆弾を投げた。破裂し独特の音が辺りに響いたところで黒ディアブロスが上半身だけを砂の上に出し、苦しそうにもがき始める。

「やあああっ!」

「はあああっ!」

「うおあああっ!」

「おりゃあああっ!」

この隙を逃さず、4人は黒ディアブロスに総攻撃をかけた。この黒ディアブロスが砂の大地から飛び出し着地すると同時に、ショウヘイが頭部を一閃する。

すると、立派な漆黒の二本角のうちの右片方が、砂の大地に墜落した。黒ディアブロスの、悲鳴にも似た叫び声が辺りに響く。

「やるぅ!」

カズキが思わずガッツポーズ。

黒ディアブロスは一度砂の大地を踏みつけると、黒い煙を吐きながら、うなり声を上げた。

「怒ってる…!」

チヅルは本能的に身の危険を感じた。あの紅龍ミラバルカン程ではないが、凄まじい殺気を感じる。横を見るとクレハも同じのようで、顔から余裕が消えていた。

黒ディアブロスはハンター4人を順に睨むと砂の大地に潜り、戦線離脱してしまった。この砂漠エリア全体を包んだ凄まじい殺気が消え去ったと同時に、チヅルは膝から崩れ落ちた。

「はあっ…!はあっ…!」

ガルルガヘルムを取ると傍らに置き、肩で呼吸する。

「チヅル、大丈夫か?」

ショウヘイがこちらに向かって歩きながら声を掛けてきたので、チヅルは頷いて答えた。

「立てるか?」

ショウヘイがチヅルに手を差し伸べると、チヅルはそれを支えに立ち上がった。腰に括りつけている水筒を手に取り水を一口飲むと「封龍剣・超絶一門」を砥いでガルルガヘルムを被った。

「ショウヘイは強いね」

「ん?」

チヅルの言葉に、ショウヘイは少し首を傾げた。

「私なんて、黒ディアブロスがいなくなった途端に脱力しちゃったよ」

チヅルの言葉にショウヘイは小さく笑ってから口を開いた。

「普通はそういうものさ。気にすることじゃない」

「私もそう思うよ?」

クレハが、チヅルとショウヘイの間に入ってきて言った。

「私も脱力しそうだったし…。まあ、何とか堪えたけど」

クレハの言葉を聞いてチヅルが微笑んだその時、カズキの嬉しそうな声が辺りに響き渡った。

「うおー!黒ディアブロスの角!おっしゃあああ!」

カズキのあまりのテンションの高さに、チヅルとクレハとショウヘイは笑うしかなかった。


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