モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

47 / 189
2章 チヅルの戦い 02

「ねえ、クレハちゃん」

乗り込んだドンドルマ行の竜車の中で、チヅルは誰よりも先に口を開いた。

「なぁに?チヅルちゃん」

クレハは酒が回っているらしく、顔がまんのりと赤い状態だった。口調も普段と異なり、より軽くなっている。

だが頭は正常に機能しているみたいで、クレハの青い瞳はしっかりとチヅルを見返した。

「私たちの帰りを待っている間、ココット村の村長さんと何をしてたの?」

「何をって、ご飯食べていたんだよ?」

「ははは…。村長はな、外からハンターが来ると決まって食事に誘うんだ」

クレハの説明に、ユウキのフォローが横から入る。

「何かしら、ジュンキに関する手がかりを得られなかった?」

チヅルが真剣な表情でクレハに尋ねると、クレハはニヤリと笑った。

「んふふ~。やっぱり気になる~?」

「クレハちゃん、ふざけないでよ。もう…」

やっぱりまだ酒に酔っているのかとチヅルは思ったが、クレハはすぐに普段の顔に戻ったので―――それでも顔がほんのりと赤いが―――ただ悪ふざけをしただけのようだ。

クレハは首を横に振る。

「駄目。ココット村の村長はもちろん、集会場にいたハンターや給仕さん、村人にも聞いたけど、誰も知らなかったよ」

「そう…」

チヅルはクレハの言葉を聞いて、小さくため息を吐いた。

しかし、ジュンキは生きているはずなのだ。必ず、近いうちに会えるはず。

そう自分に言い聞かせていると、今度はクレハがチヅルに訪ねてきた。

「ところで、ランポス狩りの方はどうだったの?ユウキは怪我してるし…」

「ああ、もちろん説明するよ」

クレハの問い掛けには、チヅルではなくてショウヘイが答えた。

ショウヘイは竜車の中にいる全員に聞こえるよう体勢を整えてから、説明を始めた。

 

クレハは、最後まで聞いてから口を開いた。

「リオレイアの登場か…。大変だったね」

「大変だったのはチヅルだ」

「そうだよな~。チヅルはたったひとりで、リオレイアの追撃を防いだんだからな」

ユウキの言葉に、カズキが褒め言葉を乗せる。

当のチヅルは一度目を伏せたが、その後ゆっくり目と口を開いた。

「あのね…。実は私、あのリオレイアと話をしたの」

「えっ…!?」

「な…っ!」

「うそ…!?」

「…!」

ユウキ、カズキ、クレハは声に出して驚き、ショウヘイは声に出さなかったが黒い瞳を見開いた。

「うん。セイフレムって名乗ったよ、あのリオレイア…」

「セイフレム…」

クレハがその名前を、噛み締めるように呟く。

「そして、あのリオレイア…セイフレムは、私がハンターになったキッカケでもあったよ」

「え…?」

男3人は黙って聞いているが、クレハは思わず声が出た。

チヅルは以前、クレハから聞いたことがあったが、クレハがハンターになったきっかけもリオレイアなのだ。その為か、今でもリオレイアに対して特別な感情を抱いているらしく、今もチヅルの言葉を待っているクレハの青い瞳は、動揺しているように見える。

「私の村…リーンっていうんだけど、リオレイアに襲われちゃったの。そのリオレイアが、あのセイフレムなの」

「チヅルちゃん…」

クレハのか細い声だけが、ゴトゴトと揺れる竜車の中に響く。

「でも私は、恨みとかそんな感情を持ってない。だから、安心して…?」

チヅルの言葉を最後に会話は途切れてしまい、竜車のゴトゴトと揺れる音だけが異様に大きく聞こえ続けた。

 

ドンドルマの街に戻ると、ユウキは直ちにハンターズギルドが運営するハンター専用の病院へ運ばれ、検査を受けた。結果は安静と診断され、ユウキは当面ハンターを休業するとともに、念のため入院することになってしまった。

ユウキと別れたショウヘイ達4人は病院からの帰りに大衆酒場へ立ち寄り、今後の事について話し合うことにした。

今は午前なのでハンターの数は少なく、4人は難なくテーブルに着くことができた。

「さて、今後のことだが…。何か狩りに行きたいモンスターとかいるかな?」

ショウヘイがチヅル、クレハ、カズキに尋ねるが、誰も今は特に狩りたいモンスターはいないようだった。

「はーい!狩りたいモンスター…と言うより、狩って欲しいモンスターがいまーす!」

突然背後から聞き覚えのある声が聞こえたので、4人が驚いて振り向くと、そこには一枚の依頼書を手に持ったユーリが立っていた。

「ユーリ!どうしたの?」

クレハが尋ねると、ユーリは手に持った依頼書をショウヘイ達全員に見えるよう、テーブルの上に置いた。

「今、砂漠地帯の方で大暴れしていてね~。早く何とかしないと、砂漠地帯の品物がこの街に届かなくなって、物価が上がってしまうのよ」

ユーリが笑顔で差し出してきた依頼書に、記載されていたモンスターとは―――。

「黒ディアブロス…!」

チヅルは思わず口にその名前を出してから、ユーリを見上げた。

「緊急の依頼なんだけど、ハードル高くて受注してくれるハンターがいないのよ。あなた達の実力はよく知ってるからこそ、お願いしてるんだけど…?」

「…みんな、いいか?」

ユーリの言葉を受けて、ショウヘイがチヅル、クレハ、カズキに尋ねた。

もちろん、と3人は頷き返す。

「ありがとう。報酬金、サービスしておくね。緊急依頼だから、出発は遅くても今日中にお願い」

ユーリはそれだけ言うと、カウンターへと戻っていった。

「早速準備して、全員が揃い次第、出発しよう?」

「そうだな」

「そうしようぜ」

「賛成」

チヅルの意見にショウヘイ、クレハ、カズキが賛同すると、4人はすぐ準備に取り掛かった。

 

 

雪がちらつく雪山の麓(ふもと)にひとりで立ち、ジュンキは「今日こそは」と意気込んでいた。

最近は殺人衝動に駆られることもなく太刀を抜けるようになってきていて、今から背中の太刀「ラスティクレイモア」を抜いて何事もなければ、3日に一便しかないドンドルマ行の竜車に乗るつもりである。

「ふう…」

ジュンキは一息吐くと、背中の太刀「ラスティクレイモア」を抜き放った。甲高い金属音と共に、両刃の刀身が現れる。

ジュンキは両手でしっかりと柄を握り構えると、何も無い空間に斬りかかった。

「はあっ!はっ!ふんっ!やっ!」

縦斬り、縦斬り、突き、斬り上げ…。ショウヘイに教えてもらった太刀の基本動作の後、ジュンキは太刀の奥義である気刃斬りへと踏み込む。それと同時に、竜の力を解き放つ。

「せいっ!やあっ!たああっ!」

右からの横斬り、すぐに手を返して左からの横斬り、そして全身を使って渾身の縦斬り。

「はあっ…はあっ…」

ジュンキは肩で息をしながら、太刀「ラスティクレイモア」を背中へと戻した。そして、他に誰もいないのに、満足気に笑った。

「…出来た」

ジュンキは右手を目の前で握り締めると、静かに村への帰路についた。

 

ジュンキはポッケ村に入ると、一直線に村長の元へと向かった。

村長は、今日も村の奥の開けた場所で焚き火にあたっていた。

「村長」

ジュンキが声を掛けると、村長はいつもの温和な表情で、こちらを振り向いた。

「おや、お帰り。今回はどうだった?」

「無事に終わりましたよ」

ジュンキは今日も採取依頼をこなし、村長に報告した。

「うん、いつもありがとうね。納品の無事も、担当のアイルーから聞いているしの。ほれ、今回の報酬金じゃ」

村長はジュンキに、報酬金の入った革袋を渡す。

ジュンキはそれを受け取ってから、真剣な表情で口を開いた。

「村長、お話があります」

「うん?どうしたんだい?」

「…自分の目的を、果たすことができました」

「…それで?」

「今日で、この村を出ます。お世話になりました」

ジュンキの言葉に一拍置いてから、村長は口を開いた

「そうか、目的を果たせたか…。ひと月という短い期間じゃったが、ヌシのような強いハンターに来てもらえただけで、嬉しかったよ」

「そんな…、俺は、自分の目的の為に、この村に滞在しただけです」

「しかし、その滞在中に多くの依頼をこなしてくれた。感謝するよ。ありがとう。…さ、早く準備をしないと、街へ行く竜車が来てしまうよ?」

「はい。…村長、お元気で」

「ああ。またいつでもおいで」

ジュンキは村長に一礼すると、自宅代わりに住んでいた家へ急いで戻った。

玄関を開けると中へ飛び込み、この村に持ってきた道具を麻袋へ次々に詰め込んでいく。

「もう行ってしまうのですね」

突然背後から飛んできた言葉に驚いて、ジュンキは家の玄関を振り向いた。

「リサ…」

そこには、マフモフ装備姿のリサが立っていた。

ジュンキは道具を詰め終えた麻袋を肩に掛けると立ち上がり、リサの前に立った。

「リサにも、前に話したよな?俺は、ある目的の為に、この村に来たってことを…」

「ええ、覚えています。それが何か…。結局ジュンキさんは教えてくれませんでしたが、達成できたのですね」

「…ああ」

「そうですか。…いけませんよね、ここは喜ぶべきところなのに」

リサは寂しそうな笑顔を浮かべる。

「リサにも世話になったな。ありがとう」

「いえ、こちらこそ…。ありがとうございました。おかげで助かりました」

「また遊びに来るから。…仲間を連れて」

「はい。楽しみに待っています」

リサはそう言うと、ジュンキが通るための道を譲った。

ジュンキは玄関をくぐると、すぐにリサを振り向いた。

「じゃあ、また」

「ええ、お元気で」

リサはそう言うと一礼し、右手を振った。

ジュンキは返事に右手を振ると、村の出口近くにある竜車の停留所へと歩みを進めた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。