ショウヘイとユウキがドンドルマの街に戻ると、既にチヅルが戻っていた。
クレハとカズキもいたが、2人はこの7日間、街の外には出ず、ただのんびりと過ごしたらしい。勿論、ジュンキの行方については聞き込みをしてくれていた。
「で、各自、ジュンキの行方は掴めたか?」
5人揃って大衆酒場のテーブルに着くと、開口一番にショウヘイが言った。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…駄目か。まあ仕方ない。ところで、ひとつ提案があるんだ」
「なぁに?」
クレハが聞き返すと、ショウヘイは一度だけ小さく頷いてから口を開いた。
「先日、ジュンキがリオレウス…ザラムレッドだったか?に負けて大怪我を負った時に世話になった、ココット村を憶えているか?」
ショウヘイの問い掛けに、それぞれが「知っている」「憶えている」と答える。
「そのココット村で、ランポスが大量発生しているらしいんだ。だから、次の狩りは―――」
「…ランポス?」
クレハの答えに、ショウヘイは無言で頷いた。
「ま、たまにはいいと思うな。私はいいよ」
「私も」
「初心忘るべからず、ってか?俺もいいぜ」
チヅルとカズキも賛同したので、ショウヘイとユウキは目を合わせて頷いた。
「で、問題は人数だな…」
ユウキがわざとらしく不気味な笑みを浮かべながら言うと、他の4人の目付きが変わった。
そして、同時に拳を突き出す。
「せーのっ!最初はランポス!ジャンケン―――!」
「うっ、私だ…」
クレハは、握り締められた己の拳を見つめながら呟いた。
「今回は、クレハが留守番だな」
ユウキが笑いながら言うと、クレハは出来る限り意志の強い瞳をつくってユウキを振り向いた。
「お願い!ココット村までは連れてって!」
「えっ…」
ユウキが困った顔でショウヘイの方を向くと、ショウヘイはやれやれと頷いた。
「ありがとう!安心したらお腹空いちゃった」
「そういえば、そろそろお昼か。食べていかねぇか?」
カズキの提案に、他の4人は「もちろん!」と頷いた。そのタイミングに合わせるかのように、この大衆酒場で給仕をしているユーリが現れ、注文を各自取った。
その後、今回のランポス狩りに何が必要か、どんな作戦で狩りをするかを話し合っているうちに料理が運ばれてきたので、この話を中断する。
「ねえ、クレハちゃん」
「なぁに?チヅルちゃん」
隣に座っていたチヅルから声を掛けられたので、クレハは料理と格闘していたのを一時中断して、チヅルの方を振り向いた。
「どうしてあんなことを言ったの?」
「あんなこと…?ああ、ココット村まで付いて行きたいってこと?」
「うん」
「街に残っても、ひとりじゃ暇だし。それに―――。あっ、ふふっ…気になるしねぇ~」
「…へ?」
話の途中でクレハの口調が変わったので、チヅルは思わず首を傾げてしまう。
「な、何が気になるの…?」
「だってぇ…。ジュンキが昔住んでいた村だからねぇ~」
ジュンキ、という言葉を発した直後、チヅルの黒い瞳が見開いたのを、クレハは見逃さなかった。
「え、あ、そう、だね~。あはははは…」
クレハとしては、チヅルに少し意地悪をしてみようと思って言ってみたのだが、以外にも効果は抜群で、チヅルはかなりショックを受けているように見て取れた。
「…なんてね。冗談だよ、冗談」
「そ、そうだよ…ね…」
チヅルの引きつった笑顔を見て、少しやり過ぎたかなと反省したクレハだった。
「ん~っ!着いたぁ~!」
長い時間、アプトノスに引かれた荷台に乗っていたせいで固くなった身体を伸ばすために、一番最初に竜車から飛び降りた後に背伸びをしながら、クレハは青空に向かって叫んだ。
「もう、クレハちゃんはお留守番なんだよ?それなのに狩りの準備までして…」
チヅルは呆れるように言った。
今回のランポス狩りはクレハがお休みの番なのだが、当のクレハは双剣ツインハイフレイムにリオレイアシリーズ防具という、いつもと変わらないスタイルだ。
「ま、一応ね。一応」
クレハの言葉を聞いて、チヅルは小さな笑顔でため息を吐いた。
「まずは村長へ、挨拶をしに行こう」
「だな」
ショウヘイとユウキが先行したので、チヅルとクレハとカズキが2人の後を追う。
「そういえば、ショウヘイとユウキもこの村の出身なんだよね?」
「そうだよ。俺とショウヘイとジュンキは、この村で育ったんだ」
クレハの問い掛けにユウキは振り向いて答えたが、ショウヘイは微笑んで頷くだけで済ませた。
やがて、先行するショウヘイとユウキが村の中心に建つ大きな家の前で立ち止まった。
「こんにちは、村長」
「おお、ショウヘイ、ユウキ、あとは…え~っと…?」
「チヅルです」
「クレハです」
「カズキだ」
「おお、すまぬすまぬ。まだ一度だけ、しかもジュンキが大怪我するという大事の時に会っただけじゃったので忘れてしもうた。すまぬの」
「いえ、お気遣いなく…」
チヅルが慌てて返事をすると、村長は「うむ」と頷いて本題を持ち出した。
「さて、ランポスの件じゃが…どうやら群れのリーダーがおるらしい」
「リーダー。ドスランポスですね?」
ショウヘイの言葉に、村長は頷いた。
「その通りじゃ。しかも3匹いるらしい」
「三3も…?」
「ヌシらも不思議に思うじゃろう?これは儂の推測なんじゃが…。3つのグループが、縄張り争いをしておるんじゃと思う」
「なるほどな…」
カズキが頷きながら言った。
「…して、ヌシらは5人で向かうのか?」
「あ、私が留守番です」
クレハが右手を上げて一歩前に出ると、村長はゆっくりと頷いた。
「そうか。では、他の者が帰り着くまでのんびり過ごすがよい。ま、何も無い村じゃがな。ほっほっほっ…」
村長は笑いながら、1枚の羊皮紙をショウヘイに手渡す。依頼書だ。
「では、行ってきます」
「留守番頼むな」
「ま、すぐ戻るからな」
「クレハちゃん、行ってくるね」
ショウヘイ達はクレハに一声掛けると、この村の裏山を目指して村を出発した。
「行っちゃった…」
ショウヘイ達が見えなくなってから、クレハは一言漏らした。
「さてと、ヌシ、腹は減っとるかの?」
「あ、はい!」
「ほっほっほっ…。元気があってよいの。この儂の家は集会場も兼ねておる。中でゆっくり食事としようかの」
「いただきます!」
クレハは村長に連れられて、集会場の中へと足を踏み入れた。