モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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外章 クレハの昔話 02

母と飛竜の戦いは、凄まじいものだった。

飛竜は、母に対して容赦なく巨体をいかした突進をしたり、灼熱のブレスを吐いたりしていた。

一方の母はそれらの攻撃を避け、少しずつ、しかし確実に攻撃を加えていく。

やがて飛竜が大きく翼を開いて後退すると、両者は睨み合い、そのまま動かなくなった。母も飛竜も真剣な表情を崩さない。

「わぁ…!」

私は、母と飛竜との戦いに魅入ってしまっていた。

飛竜に対する恐怖心を忘れ、もっとよく見えるような場所に移動しようとして、何の警戒もなく一歩を踏み出した時、私は、枯れ枝をパキッと踏み折り、音を立ててしまった。

「あっ…!」

「クレハっ!?」

急に名前を呼ばれたので顔を上げると、そこには驚きの表情を露にした母と、こちらを睨みつける飛竜の姿があった。

「早く逃げなさいっ!!!」

「えっ…あ…!」

私は、母に言われた通りにすぐ村へ走り帰ろうと思ったが、飛竜に睨まれて腰を抜かしてしまっていた。

脚に力が入らない。

「逃げてっ!!!」

母の悲鳴。

前を見ると、飛竜がこちらに向かって炎のブレスを吐いていた。

迫り来る、死のブレス―――。

その時の私には、迫ってくる炎のブレスが、やけにゆっくりと見えた。

視界の端に、こちらに向かって駆けてくる母の姿が見えたのがこの時で、次の瞬間には、私は母に抱かれていた。

衝撃。

爆発音。

灼熱。

―――私と母は、何度も地面を転がった。

 

気が付くと、私は地面に横たわっていた。

痛む身体を起こし、すぐ隣で横になっている母へと歩み寄る。

「おかあ…さん…?」

「クレハ…無事…なのね…?」

母の声が弱々しかった。

母は仰向けになっていたが、背中から真っ赤な液体が流れ出ている。

「お母さん…!」

「クレハ、早く…逃げなさい…!」

「あ…あぁ…!」

私は混乱した。

この時、飛竜の勝ち誇ったような咆哮が森に響いた事を、私は今でも覚えている。

その咆哮を聞いた私は、傍に落ちていた母の双剣の片方を両手で持ち、飛竜目掛けて我武者羅に駆け出した。

「うわあああああああああっ!!!」

両目から溢れる涙。

あまりにも小さき人の非力な突撃に、飛竜は微動だにしなかった。

しかし、私の突撃は何者かに両肩を捕まれ、阻止されてしまう。

「っ!?」

邪魔をするな、と振り向こうとしたその時、視界いっぱいに光が弾けた。

「逃げるぞ!」

男の人の声だった。

その男は私を抱えると、倒れ動けない母の傍まで駆け寄り、そこで降ろした。

「俺が君のお母さんを運ぶから、君は走れ。いいね?」

「あ、はい…」

私の返事を聞く前に母を抱え上げた男は、村のある方へと駆け出した。

一度だけ、私は飛竜の方を振り向いた。飛竜は混乱しているようで、巨大な尻尾をブンブン振り回していた。

私はその姿をしっかり目に焼き付けると、急いで母を抱えた男を追った。

 

母を背負った男は、すぐに見つかった。母はその場に寝かされていて、先程の男が介抱している。

「お母さん!」

「クレハ…」

私は母の前に座り、顔を覗き込んだ。

穏やかな、いつもの母の顔がそこにあった。

「クレハ…これから言う事をよくお聞き…。お母さんは、ハンターとして、ここで死にます…。これは、仕方のない事なの…。私は、今までたくさんの命を頂いてきたわ…。今度は、私が命を捧げる…番…」

「お母さん…?何を言ってるのか、私には分かんないよ…!」

「クレハ…あの飛竜を…リオレイアを…恨んでは駄目よ…」

「え…?」

「クレハが大きくなったら…一緒に狩りに行こうって言ったのに…。約束、守れなかったわね…。ごめんね、クレハ…」

「そんな…!お母さん!死んじゃやだよ!お母さん!」

「しっかりと…生きるのよ………―――――」

「お母さん!」

「…」

「お母さあああああんっ!!!」

「…」

「うわあああああああああっ!!!」

 

村まで、母は男―――本人はジークと名乗った―――が運んでくれた。

ジークもハンターで、母と私が村を出た後に、村へ到着したらしい。

やがて私がいないことに村人が気付き、村長がジークに私の救出と、母の援護を頼んだと、母の葬儀の準備の間に、村長が話してくれた。

そして母は、ハンターとして死んだので、装備は解かずにそのまま埋められることになった。

私は、深緑の防具に包まれた母が地面に埋まるまで、脇目もふらずに見つめ続けた。

 

翌日。

私は、村長のもとへと向かった。

村長は慰めてくれたが、私は「大丈夫です」と強がっていたのは、ちょっと恥ずかしい思い出である。

「村長。私、ハンターになる」

「母と、同じ道を歩むか…」

村長は、ジークに私の面倒を見てくれないかとお願いした。

ジークは、ひとつの村や街に活動拠点を持たないハンターなので、最初は断ったものの、私の強い意思に折れてしまい、結局「私が一人前になるまで」という条件付きで村に留まることになった。

 


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