モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 運命の再会 02

竜車は太陽が昇りきる前に、今回の狩場である「森と丘」に着いた。3人は竜車から荷物を降ろし、ベースキャンプを整える。

「よし、じゃあ作戦会議をしようか」

一段落ついた頃に、ジュンキはチヅルとユウキを呼んだ。支給品ボックスから地図を取り出し、地面に広げる。

「戦うとしたら…」

ジュンキはそう言うと、レウスアームを着けた手で地図の「2」と「3」と「4」と指した。ここは丘陵地帯となっており、見通しが良い。

「周りに木が生えていない、ここ周辺かな」

「エリア9はまずいよね。狭いし」

チヅルはそう言って、クックアームを着けた手で地図の「9」を指す。エリア9は森の谷間みたいになっているのだ。

「巣は確かエリア5だったよな」

ユウキはそう言うと、フルフルガードを着けた手で地図の「5」を指した。

「水場はエリア9と10だったよね」

チヅルはそう言いながら、再び地図の「9」と「10」を指す。

「…とりあえず、そのリオソウルとやらをエリア9へ逃がさないってことで」

ユウキが簡単な総論を出すと、ジュンキとチヅルは頷いた。

「じゃ、後はどうやって戦うかだね」

チヅルはそう言うと、腕を組んで考え始めた。

「まず…」

ジュンキが声を上げると、チヅルとユウキはジュンキの方を向いた。

「俺がリオソウルをおびき寄せて、その間にユウキが落とし穴を置く。リオソウルを落とし穴に落としてからチヅルが大タル爆弾を置いて、俺が着火する。…どう?」

「うん。いいよ~」

「それでいくか」

ジュンキの提案に、チヅルとユウキは笑顔で頷いた。

「じゃあ準備再開」

ジュンキの一言で、チヅルとユウキは自分の準備に取り掛かった。ジュンキも背中のアッパーブレイズを抜き、砥石をかけると背中に戻した。身を守るレウスシリーズに異常が無いか確かめると、髪を軽く包んでいる黒バンダナの上からヘルムを被った。視界を確保するため、面頬は上げておく。

「準備いいよ~」

「俺もだ」

全員が準備を終えるのを確認すると、ジュンキは頷いた。

「よし…じゃあ行くか」

「オ~!」

チヅルが元気に返事して、3人はベースキャンプを出発した。狭くて暗い天然のトンネルを通り、エリア1に出る。午前の日差しがジュンキ達3人を照らした。

「ん~眩し~」

チヅルは日の光に当たるなり、気持ちよさそうな声を上げて伸びる。

「ちょ…少し待って…」

突然聞こえてきたユウキの苦しむ声に、ジュンキとチヅルは振り返る。そこではユウキが、自分の胸までの高さがある大タル爆弾を運んでいるのだ。この爆弾、威力は大きいがその分重いのだ。

「ユウキ~ファイト~」

「チヅル~…」

チヅルの声援を聞いて、ユウキはがっくりと首を落とした。

「手伝うぞ」

「ああ、悪い」

ジュンキが手を貸し、2人で大タル爆弾を運ぶ。

「時間はまだあるしさ、ゆっくり行こう?」

チヅルは意地悪そうに、しかし憎めない笑顔でそう言った。

目の前の小さな坂を下り、草を食んでいる草食竜アプトノスの横を通る。

「平和だね~」

「全然平和じゃねぇ…」

チヅルの平和な声に反し、ユウキは苦しそうな声を上げたのだった。

 

エリア1の先にある比較的広い丘であるエリア2に出ると、ユウキの口から愚痴が漏れる。

「意外と重いんだな…」

「ああ、重いよ…」

ジュンキはそんなユウキに、苦笑いしながら答える。

「ランポスはいないみたい」

チヅルがそう言うと先を歩き、ジュンキとユウキはゆっくりと歩き出した。午前のまだ涼しい風が吹き抜ける。

「ん~気持いい~」

チヅルが嬉しそうに手を伸ばす。

「チヅルも持てよ…」

ユウキが言うと、チヅルはいかにも嫌そうな顔をした。

「女の子に持たせるの?」

「お前なぁ~…」

ユウキはあきれ顔になった。

 

「ここも大丈夫みたい」

先に進んでいたチヅルの報告を受けて、ジュンキとユウキはエリア3へと入っていった。

「もう限界…」

ユウキが苦しそうに声を上げる。

「いないね~」

「ふう…そうだな…」

チヅルの声に、ジュンキが疲れ声で答える。4人はエリアのほぼ中央まで進むと、チヅルが足を止めた。

「さてと、この坂道を上るとまた丘で、このまま真っ直ぐ行くと水場があるけど、どうする?」

チヅルの問い掛けに、ジュンキとユウキはう~んと考え込んだ。そして、

「丘!」

ユウキの一言。

「よし、じゃあ行くぞ~…」

ジュンキは枯れ始めた声で、出来る限り元気に返事をした。

 

坂道を上りエリア4に入ったところで、先を歩いていたチヅルが突然止まった。

「どうした?」

ユウキが不思議そうに尋ねる。

「見つけた。リオソウル」

チヅルがそう答えると、ジュンキとユウキはその場に大タル爆弾を置いた。

「ジュンキ」

チヅルが呼ぶとジュンキは頷き、姿勢を低くしながらチヅルの隣に移動する。この位置からなら、リオソウルの尻尾が見えた。

「行くぞ」

ジュンキはそう言うと背中のアッパーブレイズの柄を握り、一気に駆け出す。そのままリオソウルとすれ違い様に右脚を斬りつけた。リオソウルはジュンキを見つけると力強く咆哮し、エリアの奥へと既に移動したジュンキを追いかけ始めた。

 

「行ってくる」

ユウキはそう言うと飛び出し、適当な場所に落とし穴を設置した。ユウキが紐を引くと火薬に火が付き、小さな爆発音と共に大きなネットが円状に広がった。その後ユウキはチヅルのところへは戻らず、狙撃するためにこのエリアの北西にある高台へと向かった。

 

「よ~し、次は私だね…」

チヅルはそう言うと、男二人掛かりで運んだ大タル爆弾を一人で持ち上げた。

「このために…爆弾を…運ばなかったのよ~っ!」

チヅルは自分を元気づけるように一人そう言うと、落とし穴の場所まで駆けて行った。

「ふんっ!」

落とし穴の上に大タル爆弾を置くと、チヅルは叫んだ。

「ジュンキ!後はよろしく!」

「分かったよ!」

遠くから聞こえたチヅルの声を聞いて、ジュンキは噛み付いてきたリオソウルを避けて両脚の間を通り抜ける。準備が整った合図としてこのエリアの高台に登ったユウキに手を振ると、チヅルと合流した。

ユウキは愛銃のクロオビボウガンでリオソウルの背中を撃つ。落とし穴とジュンキ、チヅル、ユウキの位置は丁度一直線上にあるのだ。

リオソウルは落とし穴があることには気付かずユウキ目掛けて走り、落とし穴に落ちた。

ジュンキは急いでリオソウルの落とし穴落下の影響で半分沈み込んだ大タル爆弾目掛けてペイントボールを投げつけた。爆音と共にリオソウルが悲痛な声を上げる。爆発によって腹の肉が吹き飛び、真っ赤な血液がドバドバと流れ出始めた。

「やあああああ!!!」

「はあああああ!!!」

ジュンキとチヅルは声を上げながらまだ落とし穴を脱出出来ていないリオソウル目掛けて斬りかかった。

「~♪」

ユウキは通常弾を詰めると、リオソウル目掛けて撃つ。撃つ。撃つ。

(このままいけるか!?)

そう思ったその時、リオソウルはぼろぼろの両翼で落とし穴から脱出した。ジュンキ、チヅルは距離をとる。リオソウルは着地すると、怒りの咆哮を3人に向かって放った。リオソウルの口元から灼熱の炎が噴き出す。リオソウルは一番近いチヅル目掛けて走り出した。

「私を怨むの…?」

チヅルはそう言うとインセクトオーダー改を正面で構え、リオソウルとすれ違いざまに右脚の腱を斬り付けた。新たに鮮血が吹き出し、リオソウルは体勢を崩し、地響きを立てて崩れ落ちた。

「やったか…?」

ジュンキが一言漏らす。だがリオソウルはすぐに体を起してこちらを睨んできた。

「手強いね~…」

チヅルはそう言うと、リオソウルの左翼側に回り込んだ。ジュンキは右翼側に回り、大剣の長さと重さを利用して翼膜をバッサリと裂く。

「♪~」

ユウキは通常弾で応戦する。リオソウルはぐらつきながらも飛び上がり、高台の上のユウキ目掛けてブレスを一発飛ばした。

「うおっ!」

ユウキは急いで高台から降りた。それと同時に高台が吹き飛ぶ。

「危ない危ない…」

「ユウキっ!」

チヅルが叫んだので反射的に振り向くと、ユウキは思わず薄い青色の瞳を見開いた。リオソウルが前足を突き出して引っ掻いてきたのだ。

避けられない。

「ぐああッ!!!」

左腕に鋭い痛みが走り、ユウキはその場にうずくまった。

 

「私がユウキの所まで行くよ!ジュンキはリオソウルを!」

「分かった!」

ジュンキは返事をすると、降りてきたリオソウル目掛けて走り出した。リオソウルがこちらを振り向く。それに合わせるようにして、ジュンキは閃光玉を投げた。リオソウルの目の前で弾けたそれは、一時的だがリオソウルの視力を奪う。

「はあああああ!!!」

ジュンキの渾身の一撃はリオソウルの脳天に当たり、勢いでリオソウルの顔が地面に埋まる。

だがまだ生きている。

「らあああああ!!!」

その場でジュンキはアッパーブレイズの重さを活かして自分ごと回転し、リオソウルの、鱗で守られていない喉を斬り裂く。

程なくして、リオソウルは動かなくなった。

「はあ…はあ…」

真っ白な頭の中に、ふとユウキの顔が浮かび上がる。

「そうだ…!」

ジュンキは慌ててユウキの方を向くと、チヅルが大丈夫と言わんばかりに手を大きく振っていた。

「大丈夫そうだな…」

ジュンキがそう思ったその時、突然視界がぼやけ始めた。思わず片膝をつく。

「あ…ぐ…っ!」

まただ、と思う。何かが、腹の奥底から、滲み出てくるような感覚。ジュンキはそのまま意識を手放した。

 

「ん…」

気がつくと、テントの天井が視界を覆っていた。体を起こすと、ベッドに腰掛けているチヅルと、テントの入口に立っているユウキが目に入った。どうやらここはベースキャンプらしい。

「あ、気がついた?」

「ああ…」

「また…か?」

「…みたいだ」

ユウキの問いかけは、ジュンキがリオレウスの血液に弱いことを知ってのものだ。ジュンキは苦笑いしながら答える。ふと、ジュンキは大変なことに気づいた。

ハンターは狩場で倒れると、ギルドと契約したアイルー達がハンターをベースキャンプに運んでくれるのだが、その際に報酬金の三割が割り引かれてしまうのだ。

「運ばれたってことは、もしかして報酬が…」

「ジュンキが倒れたのは、リオソウルを討伐した後だろ?」

ジュンキの心配を、ユウキは「大丈夫さ」と笑った。

「そっか…よかった」

ジュンキがそう言ったその時、チヅルの腹がグ~っと鳴った。

「お腹空いた…」

チヅルがそう言うと、ジュンキとユウキは小さく笑った。

「もうすぐ帰りの竜車が来るから、それまで待つんだな」

「む…」

チヅルは不服そうに唸ると、アイテムポーチから携帯食料を取り出して齧った。


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