モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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3章 龍からの世界観 08

ドンドルマの街の手前で、ジュンキはひとり、竜車を降りた。リオレウスと話をするためである。

竜車が遠ざかっていくと、リオレウスはジュンキの前に降り立った。

「ひとつ、聞きたいことがあるんだけど」

「何だ?」

「紅龍ミラバルカン…。一体どんな奴か分かるか?」

「すまぬ。儂も会ったことはない」

「そっか…」

「…ヌシは、紅龍ミラバルカンが現れたら、会いに行こうと考えておるな?」

「あ、分かる?」

「…今はやめておけ」

「…でも、もしかしたら、説得できるかもしれない」

しばらくの間、ジュンキとリオレウスは互いの主張を曲げずに見つめ合っていたが、やがてリオレウスは小さくため息を吐いた。

「…やれやれ、仕方ない。儂も付いていくとするかな…」

「ありがとう…」

「街まで乗っていくか?」

「別にいいよ。歩くから」

ジュンキが背を向けて歩き出すと、リオレウスは無言で飛び去った。

 

ショウヘイ達はドンドルマの大衆酒場で、ジュンキの帰りを待っていてくれた。

ユーリに帰還の報告をし、テーブルに着く。

「今回は騒がれてないんだな」

「ユーリがさ、黒龍はどこかに行ってしまったってことにしたらしいよ」

「ま、その方が気楽でいいけどな」

ジュンキの質問にチヅルが答え、カズキが頷く。

「じゃあ、これからのことを話すけど―――」

ジュンキは一度言葉を切り、全員の顔を見回した。

「―――俺の推測でしかないけど…。近々、紅龍ミラバルカンが現れると思う。俺は説得に行きたいんだけど。みんなの意見は?」

ジュンキが尋ねると、真っ先にチヅルの口が開いた。

「私は賛成だよ。このまま放っておいたら、まずい気がする…」

「私も同じだよ」

チヅルの意見を、クレハが支持する。

「それに、それが私達竜人の、生まれた意味って気がするし」

クレハはここで口を閉じた。

ショウヘイが続く。

「竜人として、というのも全く無い訳じゃないが、俺はひとりの人間―――いや、人間だった者としては、放っておけないな」

「俺達も忘れるなよ?」

ここでユウキが口を挟む。

「俺達は竜人じゃない。だけど、人の世界を守りたい…その気持ちは一緒のはずさ。な?」

ユウキが隣のカズキに向かって少々大袈裟に振り向くと、カズキは目を閉じてウンウンと頷いた。

「じゃあ、紅龍ミラバルカンが現れたその時は、説得に行くということで、今日は解散―――ショウヘイ?」

ジュンキが解散を告げようとしたところで、ショウヘイが静かに手を上げた。

「たった今思い立ったんだが…。俺達が…。本来…人と竜の中間、つまり中立の立場のであるはずの竜人が、人の世界を守ろうと動くということは―――」

ここで、ショウヘイは言葉を切る。

ショウヘイが何を言いたいのか、他の5人は既に気付いていたが、クレハはそれを言葉に出していた。

「―――紅龍ミラバルカンと戦い、力づくで押さえつける可能性があるってことだよね…」

ジュンキは目を閉じてそのことを考えていたが、ひとつの結論に至り、目をゆっくりと開いた。

「…狩りの準備をしていこう。説得に応じなかったら、きっと生かして帰してはくれないだろうから…」

ジュンキが何を言うか分かっていたショウヘイ達だが、実際にその言葉を言われて押し黙ってしまった。

相手は紅龍ミラバルカン。まだ戦うと決まった訳ではないが、いままで見たことも聞いたことも無かった古龍を相手に、勝てるのだろうか―――。

「じゃあ、今日は解散…。各自で狩りの準備をよろしく…」

ジュンキの言葉を最後に、パーティメンバーはバラバラに散っていった。

 

「は~い」

部屋のドアがノックされたので、チヅルはドアに向かって大きな声で答えた。

直後にドアが開いて、まだリオレイアの装備を解いていないクレハが部屋に入ってきた。

「チヅルちゃん、今いい?」

「どうしたの?クレハちゃん…」

「ん~…。女だけの話」

チヅルが席を薦めると、クレハは遠慮無く座った。

チヅルがお茶を出すと、クレハは「ありがとう」と言って受け取った。チヅルも、小さな木製のテーブルを挟んで椅子に座ると、口を開いた。

「何?女だけの話って…」

「ん、ジュンキについてだよ」

「えっ…!」

チヅルの顔がうっすらと赤くなったので、クレハは内心笑っていたが、顔はあくまで真剣だ。

「チヅルちゃん、まだ告白してないでしょ」

「うん…。でも、それはまだいいって、前に酒場で話したよね?」

「でも、いつ来るか分からない紅龍ミラバルカンが現れる前に、言った方がいいよ?」

「え、どうして…?」

チヅルの質問に、クレハは少し目を伏せてから答えた。

「死ぬかもしれないから。ジュンキ、もしくはチヅルちゃんがさ…」

「えっ…」

チヅルは言葉に詰まった。

しかし、理由を聞かなければいけないので、何とか声を出す。

「ど…どうして…?」

「もし戦うことになれば、相手は未知の古龍。しかも竜の世界では王様…3兄弟の真ん中。今まで戦ってきたモンスターより、格段に死ぬ可能性が高いと思うよ、私は…」

「…」

チヅルは俯いてしまった。

しばらく考えた後、出来る限りの笑顔で、クレハと向かい合う。

「でも、きっとジュンキは死なないと思うし…。私が死んだら、ジュンキの事が好きだってことは、分からなくなると思うから…やっぱりまだいいよ」

「…ま、チヅルちゃんがそれで納得しているのなら、いいんだけどね」

クレハはそう言って、チヅルが淹れたお茶を手に取り、静かに飲む。

ここでチヅルは、黒龍ミラボレアスから竜人だと言われた時から気にしていることを、クレハへ聞いてみることにした。

「…ねえ、クレハちゃん」

「ん~?」

クレハはお茶を淹れたカップを口元から離さず、視線だけを向けてきた。

 

「…本当はクレハちゃんも、ジュンキのことが好きなんでしょ?」

 

クレハは思いっ切りチヅルの淹れたお茶を吹き出し、噎せ返った。

「ゲホッ!ゲホッ!な、何でそんなこと聞くかなぁ…」

「だって…。私は、ジュンキとクレハちゃんなら、お似合いだと思うけどな~、なんて…」

「…チヅルちゃん。それだとチヅルちゃんは、自分で恋敵を作ってることになるんだよ?」

「う~…。だって~…。ジュンキとクレハちゃんには、運命的なものを感じるんだもん…」

「…例えば?」

「ジュンキがいつも装備している、防具は何?」

「そりゃあリオレウスだよ」

「クレハちゃんがいつも装備している防具は?」

「リオレイア…」

クレハはそう答えながら、今自分が装備している深緑の防具に目を落とした。

この防具は、陸の女王とも呼ばれている雌火竜リオレイアから作られた、火耐性に優れた防具である。雌火竜と呼ばれるということは当然雄火竜もいるわけで、それが天空の王者と呼ばれているリオレウスである。

リオレウスとリオレイアは「夫婦の象徴」とされ―――夫婦?とんでもない結論に至り、クレハは顔が熱くなるのを感じた。

「いや、でもこれは偶然でしょ偶然…!」

「クレハちゃんは、竜人として何の血を引いているって言われたっけ?」

「え~っと、リオレイアの血だけど…」

「ジュンキは?」

「リオレウス…」

「…」

「…」

「…」

「…偶然だってば」

青色の瞳や青色の髪までも真っ赤に染まるのではと思うくらい顔を赤くしたクレハの様子を見て、チヅルは大きなため息を吐いた。

「ね?」

「ね、じゃないでしょ!もーっ!どうしてチヅルちゃんはそんなに弱気なのよ!」

「…」

「もうっ、知らない!私がジュンキを好きになっても、知らないからね!」

クレハは大声で喚き散らすと大股で部屋の扉へと向かい、蹴り飛ばす勢いで開けると、チヅルの部屋を出ていってしまった。

この様子を見て、チヅルは内心笑っていた。

「…ふふふ、クレハちゃんの本音が出たかな。私みたいな気持ちの弱いハンターより、はっきりしているクレハちゃんの方が似合ってると思うんだけどな。…遠慮なんてしなくていいんだよ?クレハちゃん…」

チヅルはクレハが先程まで使っていたカップを見つめながら、ひとり本音を漏らした。

 

「もうっ…どうしてクヨクヨ悩むかなぁ…!」

クレハは怒っていた。

好きなら好きとはっきり言えばいい。だが、チヅルという人物は、どうしても一歩が踏み出せないでいる。最終的には、クレハに原因があると言わんばかりだ。

「私の親切心も知らないで…!」

「クレハ…?」

突然後ろから声を掛けられた。

無意識に睨め返してしまうが、すぐに目を見開いて顔を赤くしてしまう。

なぜなら、そこにはジュンキが居たからだ。

「ジュンキ…!」

「チヅルの部屋から大きな声が聞こえたから、何かあったのかなって思って…」

ジュンキもまだ装備を解いていなかった。ヘルムは外しているが、首から下はレウスシリーズのままである。

 

ジュンキの防具はレウスシリーズ。

レウス―――。

自分の防具はレイア―――。

ジュンキはリオレウスの血を引く竜人―――。

自分はリオレイアの血を引く竜人―――。

リオレウスとリオレイアは夫婦の象徴―――。

―――夫婦?

 

「…クレハ?」

ジュンキの声に、クレハは我に返った。

「大丈夫か?顔が赤いけど…?」

「あ、あ…!」

差し伸べられたジュンキの右手に、思わず一歩退いてしまう。

「な、何でもない…!」

そのままクレハはジュンキに背中を向けて走り出し、自室の扉を壊さんとする勢いで開くと急いで閉じて、ドアに背を預けてその場に座り込んだ。

「ん~!チヅルちゃんのばぁか~!!!」

クレハは自分の震える両手を見つめた後、天井目掛けて叫んだ。


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