モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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3章 龍からの世界観 02

2日後。ジュンキ達6人の姿は、砦の中にあった。

この砦は元々、台地だった場所を龍が通れるくらいまで掘り下げて造られたもので、とても深い。

そして、このような乱開発を行ったためか山肌は荒れてしまい、木が1本も生えていない。地面はぬかるんでおり、時折深い霧に包まれてしまうのは、人間に対する大自然の怒りか―――。

龍の通り道の終点には巨大な門があり、普段はここを通る通行人のために開け放たれているのだが、今はしっかりと閉じられている。ここを突破されてしまえば、ドンドルマの街は瓦礫の山と化してしまう可能性が非常に高くなってしまうからだ。

それを防ぐために、この砦には数多のハンターが集まっていた。数は百人を超えるだろう。

「しっかし、よくこんなに集まったもんだよな~」

このような状況下でも、ユウキは声色ひとつ変えない。

「街を失いたくないからな。当たり前だろう」

ショウヘイがユウキに対し「当然だ」と言う。

「俺だったら逃げ出しちゃうな~」

とカズキ。

「でも、今は私達がいるからね」

と、カズキを肘で突きながら言うクレハ。

―――ひとりのハンターがラオシャンロンの接近を知らせてきたのは、この時だった。

「ガンナーはエリア1の高台から狙撃してくれ!」

誰かが叫ぶと、ガンナー達が移動を始める。

「お、じゃあ俺も行ってくるかな」

ユウキも例外ではなく、クロオビボウガンを担いで立ち上がった。

「先にエリア2で待ってるからな!」

ジュンキが走り去るユウキの背中に向かって言うと、ユウキは左手を挙げて答えた。

「俺達も行こう」

ジュンキの言葉に全員が頷き、エリア2へと移動する。

この砦は狩場と同じくエリア番号が振られており、高台となっていてガンナーのみ攻撃ができるエリア1。古龍を攻撃するためのエリア2からエリア4。途中のエリア3には、木造の砦が道を塞いでいる。そして最終防衛ラインのエリア5。このエリアの巨大な門を突破されればお終いである。

ジュンキ達がエリア2に入ると、そこには既に多くのハンター達が待機していた。

「パーティは2つに分けたけど、基本は離れずにいこう」

「ああ。そのほうがいいだろうな」

ジュンキの提案に、ショウヘイが乗ってくれた。

「ユウキ、大丈夫かなぁ」

「大丈夫だと思うけどな~」

心配するチヅルとは打って変わって、全く心配していないクレハであった。

 

一方のユウキは足の裏から伝わる振動を感じていた。

「来るな…」

徐々に振動が大きくなっていくと、ガンナー達は霧の向こうに意識を傾けた。

―――そして、ついにその姿が現れる。

「おお…」

「なんて大きさだ…」

ガンナー達の口から、率直な感想が漏れる。

「歩く山ね。あながち間違ってないな、こりゃ」

ユウキは苦笑いしながら、ペイント弾を撃った。脇腹で弾け、独特の臭気を漂わせる。これでジュンキ達にも接近を知らせることができるだろう。

ユウキが撃ったペイント弾を皮切りに、ガンナー達が弾や矢を撃つ。放つ。しかしラオシャンロンは振り向きもせず、ただ黙々と進行を続けた。

「勝てる気がしないなぁ…」

ユウキは愚痴をこぼしながらも、少しでも勝率を上げるために、クロオビボウガンのスコープを覗いたのだった。

 

「…ペイントの臭いだ」

「あ、本当だ」

カズキがいち早く、ペイントの臭いを嗅ぎつけた。

「いよいよだな」

「ああ。正直、自信無いけどね」

ショウヘイの声に軽く答えるジュンキ。そこにクレハが近づいてくる。

「ねえ、ジュンキ。リオレウスと話が出来たのなら、ラオシャンロンとは話が出来ないの?」

「え?どうして?」

「だってジュンキが、進路を変えて下さ~い、って言って通じたら、即解決でしょ?」

言われてみればそうである。竜人であるジュンキがラオシャンロンを説得すればよいのだ。

しかし、ジュンキは苦笑いするだけでクレハの意見を肯定しなかった。

「いや、リオレウスとは話せても、ラオシャンロンと話せる確証は無いよ。…というより信じてないでしょ?俺が竜人だってこと」

ジュンキがそう言うと、クレハは難しい顔をした。

「う~ん。信じたいけど、どうしてもこの目で見ないと信じきれないんだよね。ダメ元でいいから、ラオシャンロンに話し掛けてみてよ」

「まあ余裕があったらね」

「…臭いが強くなってきた。そろそろ来るぞ」

ショウヘイの声に、ジュンキとクレハはラオシャンロンが来る方向を向いた。今は深い霧で見えないが、ペイントの臭気は一段と強くなってきている。

そして、ガンナー達がエリア2へと戻ってきた。その中には勿論、ユウキの姿もあった。

「ただいま」

「ユウキ、どうだった?」

チヅルが尋ねると、ユウキは首を横に振った。

「デカイね。確かにあれは歩く山だ。これだけのガンナーで攻撃したのに、まったく反応を返さなかったよ」

ユウキが述べた感想の前に、ジュンキ達は黙り込む。

その時、この暗い雰囲気を吹き飛ばすように、ラオシャンロンの到着を知らせる声が響いた。

「…今は全力で当たるしかない。行こう」

ジュンキがそう言うと、他の五人はしっかりと頷いた。

 

ジュンキ、ユウキ、チヅルの3人は、ラオシャンロンの進行方向、向かって右側に向かった。

「俺は後ろで撃ってるからな!」

ユウキはそう叫んでラオシャンロンから距離を取ると、狙撃を始める。

「しっかし、おっきいね…!」

「確かに、歩く山だよな…!」

チヅルに声を掛けられて、ジュンキは苦笑いしながら答える。

「じゃ、頑張ろう!」

「おう!」

チヅルはインセクトオーダー改を抜き放ち、ジュンキはアッパーブレイズを構えた。

 

一方のショウヘイ、カズキ、クレハの3人は、ジュンキ達3人とは反対側へと向かった。

「各自、怪我だけはしないようにな」

「おう!任せとけ!」

「こんな動きの鈍い奴、大丈夫だよ!」

ショウヘイの忠告を聞きながら各々の武器を抜くと、ラオシャンロン目掛けて走り出した。

「はあっ!」

「おりゃっ!」

「たあっ!」

ショウヘイの斬破刀が、カズキのブロスホーンが、クレハのツインハイフレイムが、ラオシャンロンの甲殻を斬り裂くはずだった。

しかし、ラオシャンロンの甲殻の硬さに、全員の武器が弾かれる。

「な、なんて硬さだ…」

「諦めるな。相手は同じ生物。絶対どこかに弱点があるはずだ」

弱音を吐くカズキを激励するショウヘイ。

しかし他のハンター達も、ラオシャンロンの甲殻の硬さには悲鳴を上げていた。

 

今回、このラオシャンロン撃退戦に参加したハンターは百人を超えていた。

しかし、ラオシャンロンの進行を止めることは出来ず、あっという間にエリア2を突破されてしまった。

エリア間は直接移動することは出来ないので、エリア3へと移動するには一度砦の中を通ることになる。一度に百人が通るように計算されていない砦の通路なので渋滞してしまい、ジュンキ達がエリア3に入った時には、既にラオシャンロンも到着していた。

「まだまだ元気そうだなぁ…」

「そうだね…」

「ダメージは蓄積しているはずだ。行くぞ」

愚痴をこぼすカズキとクレハを連れて、ショウヘイは飛び出して行った。

「私達も頑張ろう!」

「おう!」

「もちろん」

チヅルの励ましに答えるユウキとジュンキ。

このエリア3でも、ジュンキ、ユウキ、チヅルとショウヘイ、カズキ、クレハはラオシャンロンを囲むように陣取った。

その他、百人を越すハンター達がラオシャンロンを止めようと武器を振るい、あるいは弾や矢を撃ち放っているが、ラオシャンロンは黙々と歩み続けている。

だが、ここでようやく、ラオシャンロンの歩みが初めて止まった。

ラオシャンロンが進み続けているこの通路を塞ぐ形で造られた、木造の砦に差し掛かったからだ。ハンター達からは歓声が上がる。

「今だ!」

「やれーっ!」

ハンター達の攻撃を一身に受けても微動だにしないラオシャンロンだったが、ここで進行方向右側へと、巨大な身体をくねらせた。

「あれは…!」

ジュンキはこのラオシャンロンの動きに近いものを、過去に見たことがあった。まるで、体当たりをするガノトトスのようである―――そう思ってハンター達に警告を発しようと思った時には、既に遅かった。

ラオシャンロンは、ガノトトスの如く、木造の砦に体当たりしたのだ。ハンター達からは悲鳴があがり、木造の砦は半壊する。

そしてラオシャンロンは再び体当たりし、木造の砦を木っ端微塵に破壊した。

そのまま、何事も無かったかのように歩みを再開する。その後姿を、誰ひとり動けないまま、見つめていた。


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