「ダークとレイスに会えたのか」
大衆酒場に戻ったレンヤとレイナは、街中でダークとレイスに会えたことを伝えた。
「そろそろ墓参りの時期だと言っていました」
レンヤの報告に、テーブルを囲んでいる全員が固まる。
「誰のお墓ですか…?」
レイナも疑問に思って尋ねるが、誰も返事を返さない。
「ま…まさか…!」
「えっ…。え…?」
重たくなる空気に、レンヤとレイナは最悪の結末を想像してしまった。しかしそれはショウヘイの言葉によって否定される。
「違う。ジュンキとクレハの墓じゃない。昔の仲間の墓だ」
「そ、そうですか…」
レンヤとレイナはひと安心する。すると次の疑問が出てきた。
「墓参りの時期と言っていましたが、皆さん集まるんですか?」
「あ?ああ…。年に1回だけな…」
カズキが無意識に答えた。するとユウキが肘で突いたが、その意味はレンヤとレイナには分からない。
「その他に収穫は?」
ショウヘイの言葉に、フェンスやリヴァル、リサは首を横に振る。するとショウヘイはレンヤとレイナを見た。
「これからどうする?」
ショウヘイの問い掛けに、レンヤとレイナは顔を見合わせて頷いた。
「そのお墓へ行きたいです」
「今は、それしか情報がありませんから…」
2人の意見についてどう思うか、ショウヘイは無言の目配せで問い掛けたが、誰も意見を言わなかった。
「分かった。ココット村へ戻ろう」
ドンドルマの街を出たレンヤとレイナ達は、ミナガルデの街で一度乗り換えてココット村を目指した。
レンヤとレイナにとっては久しぶりの故郷に、安堵の心が身体を満たした。
「かー、いつ来ても変わらないなー」
「それがココット村の良いところじゃねぇか」
カズキの言葉に呆れるユウキ。その隣でリヴァルとリサが感傷に耽っているようだった。
「いつ来ても、懐かしくなる」
「そうですね…」
レンヤとレイナが集団の先頭を歩き、村長を探す。
村人達は突然現れた大勢のハンターに驚きこそしたものの、恐怖や畏怖の感情は見受けられない。むしろ懐かしんだり、手を振る人もいるくらいだ。
「どうして皆さんのことを知っているんですか?」
レンヤの問い掛けに、ショウヘイは珍しく口元を緩めて答えた。
「俺とユウキはココット村の出身だ」
「えっ!?」
レンヤとレイナは同時に驚いた。そんな話は聞いたことが無いからだ。
「どうして教えてくれなかったんですか!?」
レンヤが問い詰めるが、ショウヘイは目線を上げて正面を見つつ答えた。
「聞かれなかったからな」
そして手を軽く挙げる。その動作を見てレンヤとレイナも前を向いた。
そこには村の集会場があり、村長はレンヤとレイナが出発した日と同じ場所に立っていた。
「レンヤとレイナや、よく戻ったのぉ」
村長はレンヤとレイナの前に立つと、握手で労ってくれた。そして一歩下がり、レンヤとレイナの背後に並ぶハンター達を見渡す。
「久しい顔ぶれじゃのう…」
村長の言葉にユウキとカズキは苦笑いし、ショウヘイとフェンスは軽く頭を下げた。リヴァルとリサは村長と握手を交わす。
「リヴァル殿とリサ殿は本当に久しぶりじゃな。よく来て下さった…」
「いえ。この2人の同伴ですので」
「兄の同伴ですから」
謙遜する2人に村長は嬉しそうに頷く。
「そうじゃ。既に4人が来ておるぞい」
「4人…?」
レンヤとレイナは顔を見合わせると、村の共同墓地へと歩き出した。少し遅れてショウヘイ達も付いてくる。
村の共同墓地は、ココット村の集落から少し離れた場所にある。そこには村人と、この地で亡くなったハンターが安置されているのだ。
墓石が整然と並ぶ中、ひとつの墓の前には2人のハンターが立っていた。赤色の防具に身を包む女性ハンターと、青色の防具に身を包む男性のハンター。レイスとダークだった。
2人は近づく複数の足音に気付き、顔を上げた。
「ダークさん、レイスさん…」
レンヤが声を掛けると、2人は何も言わないまま墓石の前を空けてくれた。レンヤとレイナは顔を見合わせるが、無言のまま墓石の前に立つ。その墓石には名前だけが記されていた。
「チヅル…?」
レンヤとレイナは顔を上げる。するとショウヘイが話してくれた。
「今から15年近く前の話だ。ひとりの仲間が単身でリオレイアと戦い、負けて死んだ」
「そう…だったんですか…」
「…」
レンヤとレイナの顔は悲痛に歪み、静かに黙祷した。ショウヘイ達も静かに祈る。
「…もういいだろう」
ショウヘイの声に目を開くレンヤとレイナ。すると、レイナがあるものに気が付いた。
「お花が4つ…?」
チヅルの墓前には花の束が4つある。レンヤとレイナ達は村へ到着後すぐにこの墓所を訪れた為、誰も花を持ってきてはいない。ダークとレイスが供えたと考えるのが自然だが、ひとり2つも供えるだろうか。
「レンヤ君、レイナちゃん」
ダークが声を掛け、そのまま墓所の外へ通じている道を見た。そして再びレンヤとレイナを見る。
2人は最初こそ意味が分からなかったが、自然と脚が動いてしまっていた。
レンヤとレイナは並んで墓所から外へと通じる道を歩く。少し後ろをショウヘイ達が続いて歩く。
やがて道の両側に並んだ木々が消えて開けた場所に出ると、レンヤとレイナの歩みは止まった。
そこには、2人の人間と2匹の竜がいた。
2人の人間は一見して、ハンターズギルドの職員みたいだった。男の方は茶色の髪に青色の瞳。女の方は髪も瞳も青だ。2匹の竜はどちらも実際に見るのは初めてだが、多くの人々から話を聞いて知っていた。深紅の方は雄火竜リオレウス。深緑の方は雌火竜リオレイアだ。
どうして2匹の竜は目の前の人間を襲わないのだろうか。レンヤとレイナは不思議に思ったが、今はそれ以上の出来事が起きていて、それどころではなかった。
「キュウウッ!」
突然、レイナの頭の上のリアが立ち上がり、前へ跳躍した。リアは地面に激突する前に小さな翼を動かし、どうにか着地すると、小さな脚を懸命に動かしてリオレウスとリオレイアのところへと向かう。その足取りは頼りなく、時折倒れそうになりながら、懸命に前へと進んでいく。やがて立ったまま動かない男女2人の間を通り、リオレウスとリオレイアの前に到達すると、リオレイアはリアの顔を舐めた。リアは嬉しそうに鳴く。
「お母さん…?」
「父さん…?」
どちらが先に言ったのか。それとも同時だったのか。
目の前に立つ女は両手で顔を覆い、男はその肩を支えた。
レンヤとレイナは歩き出す。途中から駆け足になる。そして全力疾走となる。
「お母さん…っ!」
「父さん…!」
レンヤとレイナは飛びついた。しっかりと受け止め、抱き締める、ジュンキとクレハ。
「…誰だ?俺達の居場所を教えたのは…?」
ジュンキの問い掛けは、レンヤとレイナの再会を見守るショウヘイ達に投げ掛けられる。
ショウヘイは首を少し傾げただけだ。
ユウキとカズキは嫌味なくらい笑顔を向けている。
フェンスは嬉しそうに笑って腕を組んでいた。
リヴァルは口元を少しだけ緩めているし、リサは自分の出来事のような顔をしている。
ダークは「ごめんっ!」と両手を合わせているし、レイスは目を見開いて泣いていた。
「まったく…」
ジュンキは呆れて苦笑いし、クレハと子供達を静かに抱いた。