「うわあああ…」
「…!」
ドンドルマの街へ降り立ったレンヤは声を出して驚き、レイナは目を見開いて驚いた。
ミナガルデの街も大きかったが、ドンドルマの街はそれ以上だった。街中を歩くハンターや商人の数はミナガルデの比ではない。
「シュレイド大陸最大の街だからな。当然、ハンターの数も最大だ」
レンヤとレイナの隣に並びつつ、フェンスはドンドルマの街について解説してくれた。
「さて、これからどうする?」
「そりゃあダークとレイスを探すんだろう?」
ポッケ村から乗ってきた竜車の荷台から狩猟道具を降ろしつつ、ユウキとカズキが今後の予定を聞いてきた。
「それについては役割分担しよう。このままダークとレイスを探す者と、宿泊場所を確保する者だ」
ユウキとカズキに続いて竜車の荷車から出てきたショウヘイは、街を見渡して言った。
「ダークとレイスが活動拠点を移している可能性は?」
フェンスが疑問点を挙げたが、ショウヘイは「その可能性は低いだろう」と指摘した。
「ダークとレイスはここ数年、活動拠点を移していない。それにあの2人は律儀なことに、活動拠点を移したりする時は手紙を出す」
ショウヘイの言葉に皆は納得したように頷いていた。レンヤとレイナはダークとレイスの2人に会ったことが無い為分からないが、礼儀正しい人達なのだと感じ取ることが出来た。
「じゃあ、俺は街中を歩かせて貰う。久々のドンドルマだからな」
「私も同じく」
最後にリヴァルとリサが竜車の荷台から降りると、御者のアイルーは街中へと竜車を引っ張って行った。
「俺は大衆酒場で部屋を取っておくぜー」
「じゃあ俺もー」
カズキとユウキが面倒臭そうに手を挙げる。
「どうせ受付が完了するまでの間、酒が飲みたいだけだろう?」
フェンスの嫌味を否定せずケラケラと笑う辺り、図星なのだろうとレンヤとレイナは思った。
「では、部屋の確保はユウキとカズキに任せる。他の者は街中の捜索だ」
ショウヘイが先導して役割が決まっていく。人通りが多い中央はリヴァルとリサ。居住地域の半分をショウヘイ、もう半分をフェンス。比較的人通りが少なく、道に迷う心配の無い外周部をレンヤとレイナが担当することになった。
「それじゃあ、夕食までには大衆酒場へ戻れよー」
ユウキとカズキは笑顔で狩猟道具が入った木箱を持ち上げ、大衆酒場へと消えていった。
「よし。では取り掛かろう」
ショウヘイの言葉に頷き、レンヤとレイナ、リヴァルとリサ、フェンスがドンドルマの巨大な街へと散っていった。
初めてのドンドルマでレンヤとレイナは一緒になって外周部を探すが、道行くハンターや商人、街の住人に声を掛けていると、時間はあっという間に過ぎていってしまった。気が付けば太陽が傾き、街が徐々に赤色へと染まっていく。
「疲れたね…」
「結構な距離を歩いたなー…」
レイナの声には疲れが感じ取れる。レンヤは周囲を見渡し、街を見渡せるように通路が外へ広がった場所に置かれたベンチを見つけると「座ろう…」とレイナを促した。
レンヤは勢い良くベンチに腰掛け、レイナは静かに腰掛ける。そして同時にため息。
「ふー…」
「ふー…」
2人は並んで街を見下ろした。ドンドルマの街は山の斜面を開拓して作られており、レンヤとレイナが座っている場所からだと中央広場を見下ろすことが出来た。
「あっ、お兄ちゃん、あれ」
「レイナ、どうした?」
レイナが身を乗り出し、中央広場の一点を指差す。レンヤも立ち上がってレイナの指差す先を見るが、中央広場を行き交う人々は米粒のように小さく、判別がつかなかった。
「あの桜色の人と蒼色の人は、もしかしてリサさんとリヴァルさんかな?」
「よく見えるなぁ」
「弓使いですから」
レンヤが目を細くして中央広場を見下ろす横で、レイナは少しだけ胸を張った。
その時、レンヤとレイナの隣にあるベンチへ2人のハンターが座った。そしてレンヤやレイナと同じように中央広場を見下ろす。
「いつ見ても素敵な場所ですね」
「そうですねぇー」
赤色の防具に身を包んだ女性のハンターは街を見下ろしつつ穏やかな口調で言ったが、青色の防具に身を包んだ男性のハンターは少し面倒臭そうに言う。
「あら?あれはもしかしてリヴァルさんとリサさんでは…?」
「えっ、本当ですかぁ…?」
女性のハンターが中央広場を指差し、男性のハンターが疑いの目を向ける。
「よく見えないんですが…」
「私の目に狂いはありません。あの蒼色と桜色の2人組、忘れる訳がありませんもの」
女性のハンターは身体を起こすと両腕を組み、何度も頷く。
「あら…?何か御用かしら?」
女性ハンターの顔がレンヤとレイナの方を向いたので、2人は驚いてしまう。どうやらいつの間にか2人は目の前の2人組ハンターを見つめていたらしい。
「あ、あの…」
突然の事にレイナは言葉を詰まらせてしまった。そこでレンヤが一歩前に出る。
「俺達は、あるハンターを探しています」
「人探し…?」
中央広場へ意識を向けていた男性のハンターも身体を起こす。
「はい。ダークとレイスという名前です」
「あ、それは私よ」
「僕ですね」
「あ…」
あまりにあっさりと認められたので、レンヤは一言漏らすことしか出来なかった。
レンヤとレイナはベンチへ腰を降ろし、ダークとレイスも同じようにした。
「俺はレンヤといいます」
「私はレイナです。私達は兄妹です…」
「まあ、可愛いハンターさんだこと」
「どうして僕達を探していたんですか?」
自己紹介に対してレイスは嬉しそうに微笑み、ダークも笑顔で尋ねてきた。レンヤとレイナは包み隠さず目的を告げる。
「俺達は、両親の手掛かりを追っています」
「両親の手掛かり…?」
「あっ、待てよ…?もしかして…?」
レンヤとレイナの目的にレイスは首を傾げたものの、ダークは思い当たる節があるようだ。
「もしかして、君たちの両親は…ジュンキさんとクレハさん…?」
ダークの言葉を聞き、レイスは目を見開いてレンヤとレイナを見つめた。
「…そうです。俺達の両親はジュンキとクレハです」
「私達は、お父さんとお母さんの居場所を探しています。心当たりはありませんか…?」
レイナの問い掛けにダークとレイスは顔を見合わせ、表情を曇らせた。
「…ごめんなさい。私達は知らないの」
「う~ん、ごめんね…」
ある程度は予想していたが、いざ聞かされると辛い。
「そ…そうですか…」
「あの、私達の両親について何か知っていそうな人は居ませんか…?」
レイナの懇願に、ダークはショウヘイやカズキといった既知の名前を出す。そこでレンヤとレイナは、これまで全ての手掛かりを手当たり次第探してきた事を伝えた。するとダークとレイスは更に表情を曇らせてしまう。
「…ごめんなさい。ジュンキさんとクレハさんの仲間は、これで全員よ」
「…!」
レイスの言葉は、手掛かりが消えた事を示すものだった。レンヤとレイナの表情が悲しみへと変わっていく様子を、ダークとレイスは辛そうに見守る。
「…もう陽が落ちます。そろそろ…」
ダークが促すと、レイスは立ち上がった。しかしレンヤとレイナは動かない。
「…私達が寝泊まりしている場所は、大衆酒場で聞くといいわ。いつでも来てね」
「…」
返事が無い2人に対してレイスはもう一声を掛けようと口を開きかけるが、ダークに制された。そのまま2人は歩き出す。すると、ダークがレイスの脇腹を肘で付いた。レイスが顔を上げると、ダークが無言で訴えてくる。レイスは立ち止まると、レンヤとレイナの2人とダークを何度も見比べた。そして諦めたように大きなため息を吐き、一度ダークを睨んでから大きな声を上げた。
「そういえば!そろそろココット村へ墓参りに行く時期ですわね!」
突然の大声に、レンヤとレイナは顔を上げた。どうやらレイスが大きな声を上げてダークと話をしているようだ。
「僕達の大切な仲間が眠っています!全員が集まるはずですね!」
ダークも大きな声でレイスに答え、そのまま2人は街中へと消えていった。