モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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3章 再会 04

「黙っていてごめんなさい…」

レイナはドドブランゴを追い駆けている間、ずっと謝り続けていた。リサは「暴れたりしないんでしょう?だったら大丈夫よ」と言っているのだが、レイナは「でも…」と表情を曇らせる。それは先頭を歩くリヴァルが何も言わないからだとレンヤは思った。

レイナの頭に乗せてある物が防具ではなく竜の子供であることが判明して以降、リヴァルは一切口を開いていない。

「兄さん」

リサが何度目かになる呼び掛けで、ようやくリヴァルは歩みを止めて振り返った。無言のままリサと向き合い、そして呆れたように一言だけ言った。

「…分かった」

 

ドドブランゴは、山頂の近くで「陣」を張っていた。そこではドドブランゴの他に5匹のブランゴが居て、レンヤとレイナ達を待ち受けていたのだ。

「最終決戦のつもりか…」

リヴァルは呟くと背中の大剣へ右手を伸ばし、いつでも動けるように構える。

「レンヤ君とレイナちゃんは、ブランゴの相手をお願いね」

リサもそう言いつつ、背中のハンマーを手に取った。

レンヤとレイナも武器を構えると、ドドブランゴは「突撃!」と言わんばかりに咆哮した。ブランゴ達が一気に駆け出すが、リヴァルとリサは無駄な動き無く回避し、ドドブランゴとの戦闘を始めた。ブランゴ達は慌てて引き返そうとするが、そこへレンヤの大剣とレイナの矢が襲い掛かる。レンヤは目の前にしたブランゴへ一撃当てると、次のブランゴへ攻撃対象を変えた。先に攻撃を受けたブランゴは反撃しようとレンヤを追うが、そこへレイナが矢を放つ。先程打ち合わせた通りだ。

(リヴァルさんとリサさんの見よう見まねだけど…!)

(上手くいきそう…!)

偶然、レンヤとレイナの目線が重なり、2人は同時に頷いた。

ブランゴ達は次々と倒れ、ついに全てを倒すことに成功する。レンヤは後方のレイナの無事を確認し、ドドブランゴとの戦いを繰り広げているリヴァルとリサのもとへ駆け寄ろうとする。

その時、ドドブランゴは大きく後退してリヴァルとリサから距離を取ると、戦いが始まった時と同じように咆哮した。すると地面が揺れ、ブランゴが飛び出す。その数2匹。リヴァルとリサを囲む形だ。

「まずいっ…!」

レンヤは走る速度を上げようとするが、雪に足を取られて思うように進めない。リヴァルの背後に現れたブランゴは飛び掛かろうと、身体を縮めているのが見えたレンヤは、とっさに雪玉を作って投げた。その雪玉はブランゴの背中に当たり、ブランゴの気が一瞬だけ逸れた。

「今です!」

レンヤが叫ぶと、リヴァルは打ち合わせていたかのように大剣を振り上げ、背後を見ないままブランゴへ大剣を落とした。リヴァルは大剣を構え直し、すぐにドドブランゴとの戦闘を再開する。

 

一方のレイナはリサの背後を突こうとするブランゴへ矢を当てようとしていた。しかし距離が遠く、狙いが定まらない。

「当てられない…っ!」

下手をすれば、リサに当ててしまうかもしれない。そう考えると手が震え、ますます自信を失ってしまう。

「どうすれば…」

レイナは一瞬だけ気を抜き、狭くなっていた視界を元へと戻す。すると、レンヤが雪玉を作って投げ、ブランゴの気を引いている様子が目に入った。

その瞬間、レイナは稲妻の直撃を受けたかのような衝撃を感じ、すぐに弓を構えた。

(そうだ…!当てられないのなら…!)

狙いを定め、矢を放った。

「当てなくてもいいんだ!」

レイナの放った矢はブランゴではなく、リサのブランゴの中間地点である雪の上に刺さった。するとブランゴは驚き、リサへ向けていた顔がレイナの方を向く。

その瞬間をリサは逃さなかった。ブランゴが横を向くと同時にハンマーごと身体を回転させ、ブランゴの頭を正確に打った。

その勢いのまま、ドドブランゴへハンマーを直撃させる。

 

リヴァルとリサの猛攻に加え、レンヤの攻撃とレイナの援護が続き、ドドブランゴは最後の抵抗として大暴れした後、無事に狩猟することが出来た。

 

暗くなる前にポッケ村の集会場へ戻ると、フェンス達は祝勝会を兼ねた夕食会を盛大に開いていた。レンヤとレイナ達も加わり、ドドブランゴの狩猟成功を祝う。

食事の後は、それぞれの自由な時間を過ごすことになった。ユウキとカズキは雪国特有の強い酒に負けて酔ってしまい、早々に眠ってしまった。フェンスとショウヘイの2人は明日からの食糧確保の為、村の商店へと向かった。

 

そしてレンヤとレイナは村の名物である温泉へ浸かり、疲れを癒すことにした。

温泉場の入り口は男と女に分かれており、レンヤとレイナはそれぞれの場所へ入っていく。

「それじゃあ、また後で」

「うん」

レンヤは引き戸を開けると入り、雪が入らないようしっかりと閉めた。

脱衣所は焚き火が置かれ、照明の役割を果たすと同時に、脱いでも寒くないようになっていた。

「本当にこのまま来ても大丈夫なんだな…」

レンヤはひとり呟き、ランポスシリーズの防具を脱ぎ始める。

先程の祝勝会兼夕食会の時、ユウキから「装備を解かないまま行っても大丈夫」と聞いていたが、実際に訪れてその意味を理解した。脱衣所は広い割に一度に収納できる場所が少なく、その分ひとつひとつが大きく作られている。それはこの村を訪れたハンターがそのまま温泉へ入りに来ても困らないようにする為だった。

「さてと…」

レンヤは脱いだ防具を整えると、浴場へ繋がる扉をくぐった。すると目の前にもう一枚の扉がある。2重扉だ。

脱衣所側の扉を閉めてから、浴場側の扉を開ける。

「わあっ…!」

そこは湯気で覆われた不思議な空間だった。浴場は薄暗い。光は浴槽の天井部分が

開けており、そこから差し込む月の光くらいしかないからだ。

レンヤが雰囲気に呑まれていると、何の前触れも無く隣の扉が音を立てて開いた。

「へっ…?」

「えっ…?」

そこから出てきたのはレイナだった。深い湯気で殆ど見えないが、驚きの声ですぐに分かる。

「お兄ちゃん…。どうして…?」

「れ、レイナ…こそ…」

2人は叫び声も上げず、脱衣所へ戻ろうともしなかった。驚きのあまり動けないのだ。

そして2人は同時に浴槽を見る。2つの出入り口にひとつの浴槽。ここで2人はこの温泉が混浴であることに気付いたのだった。

 

もう装備を解いてしまった上、とても寒いので、レンヤとレイナは出来る限り距離を置いて温泉へ入った。

「…」

「…」

互いに背を向け、何も話さない。

レンヤはこの無言に耐えられず、先に上がろうとしたその時、消えそうなくらい小さな声が聞こえてきた。

「今日は…凄かったね…」

レンヤは浮かしかけた腰を下ろすと、レイナの声に耳を傾けた。

「リヴァルさんと、リサさん…。狩りの時の動きが、まるで鏡みたいだった…」

「…俺達も、いつかなれるさ」

「なれるかな…」

レイナの小さな声は、流れ込む温泉の音に掻き消されてしまう。今がタイミングだろうとレンヤは再び腰を上げるが、2か所ある脱衣所の扉が同時に開かれ、2人のハンターが入ってきた。

「お前らも入っていたのか」

「あらあら」

リヴァルとリサだった。

 

リヴァルはレンヤの隣に入り、リサはレイナの隣へ入った。男女の境は無く、ひとつの浴槽に4人が入っていることになる。

「リヴァルさん…。ここって混浴だったんですね…」

「ああ、そうだ。言っていなかったか」

「聞いてません…」

レンヤは目のやり場に困ってしまう。時折吹く冷たい夜風によって湯気が掻き消されると、レイナの幼い身体とリサの大人な身体が見えてしまいそうだからだ。

「明日、出発するんだな?」

「は、はい。そうです」

リヴァルの問い掛けに、レンヤは一瞬遅れてから答えた。

「考えたんだが、俺達も付いていくことにした」

「そ、そうですか。…えっ!?」

普通に返事を返してから、レンヤは驚きの声を上げた。

「迷惑か?」

「い、いえ、そんなことは…。でも、いきなりどうしてですか?」

「…気が向いたからだ」

リヴァルが素っ気なく答えたが、それを聞いたリサは「ふふっ…」と小さく笑う。レイナが頭に疑問符を浮かべると、リサはレイナにだけ聞こえる声で教えてくれた。

「兄さんも、ジュンキさんとクレハさんに会いたいみたいなの」

「えっ…?」

「もう何年も会っていないもの…。もしかしたら、本当に…」

死んでしまっているのかもしれない。その言葉を、ジュンキとクレハの子供達の前で言えないリサだった。

 

翌朝、リヴァルとリサも連れてポッケ村を出発した。

目指すはドンドルマの街。そこを拠点とする2人のハンターを探し出し、父と母の手掛かりを得るのだ。


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