高い山が連なる合間を縫うような細長い谷を抜けると、いきなり景色が灰と白になった。空は厚い雲に覆われ、白くふわふわした物が降ってくる。雪だ。
ポポと呼ばれる草食竜に引かれた荷車の中から顔を出し、レンヤとレイナは驚きと感動の声を上げた。2人は雪を見た事が無いのだ。
「雪は初めてか?」
レンヤとレイナの横から顔を出したフェンスが尋ねると、2人は目を輝かせて頷いた。
「寒くなってきたな…」
ユウキはそう言いつつ、荷車の中へ積んでおいた毛布を手に取り、防具の上から身を包んだ。
「谷を抜けたな。ポッケ村は近いぞ」
レイナが連れてきたリアに餌を与えつつ、ショウヘイがポッケ村まで近いことを知らせる。
そしてカズキは毛布に包まり、眠っていた。
「そういえば、リヴァルさんはどんな人なんですか?」
荷車の外へ出していた顔を戻すと、レンヤはユウキとショウヘイに尋ねた。すると2人は顔を見合わせ、そして困ったような表情を浮かべる。
レンヤが思わず首を傾げると、ユウキが先に口を開いた。
「なんて言うかなぁ…。横暴?」
「そうだな…。無謀?」
2人の言葉にレンヤはどう返事をしたら良いか分からず、取り敢えず黙っていることにする。
「そ、それではリサさんという方は…?」
話を続けようと、レイナも荷車の外へ出していた顔を戻した。
今度もユウキとショウヘイは顔を見合わせる。そしてユウキが言った。
「ブラコンだな」
これから会いに行く人達は奇抜らしく、レンヤとレイナの心は一層不安になったのだった。
「着いたニャー」
荷車の御者であるアイルーが告げると、荷車は止まった。真っ先にレンヤが飛び降り、雪の感触を飛んで跳ねて感じ取る。
「雪ってこんなに柔らかいんだなぁ…!」
振り返ると、レイナも嬉しそうに新しく降り積もった雪の上に足跡を残し、楽しんでいた。
「ほらほら、遊ぶ前に村長のところへ行って挨拶だろ?」
フェンスが呆れたように笑いながら、荷車から出てくる。その次に出てきたユウキはショウヘイと協力し、食料や狩りの道具が入っている木箱を降ろす。最後に出てきたカズキは腰のポーチからマタタビを取り出すと、御者のアイルーへ手渡した。
「よし、行こう」
カズキが先頭を歩き、ポッケ村の門をくぐる。レンヤとレイナも続いた。村の中も雪が積もり、白色が太陽の光を反射して眩しい。
「リアちゃん、寒くない?」
レイナは頭の上のリアを心配する。暖かなココット村の近くで出会ったリアは、レンヤとレイナの2人に同じく雪山の環境に慣れていないだろう。
だがリアは「大丈夫だよ」と言わんばかりに尻尾を動かし、レイナの後頭部を軽く突く。
「…大丈夫みたいだね」
レイナはそう言ってレンヤの方を向き、レンヤも「なら良いんだけど」と頷いた。
ポッケ村の村長は、村で一番大きな建物である集会場の前に焚き火を作り、温まっていた。ショウヘイが前に出ると、村長は笑顔で顔を上げてくれた。
「おやおや、懐かしいお客様だね…」
「村長、ご無沙汰しています」
「久しぶりだな。元気してるか?」
ショウヘイの横に並んだカズキが軽い言葉で挨拶しても、村長は笑顔のままだ。
「おやおや、初めましてのハンターさんもいらっしゃるわね。お顔をよく見せて…」
村長の言葉により、レンヤとレイナは前に出る。村長はお婆ちゃんで、温かみのある人だった。
「レンヤです。よろしくお願いします」
「レイナといいます。お世話になります」
自己紹介に、村長は「うんうん…」と頷いてくれた。
「さて…。あなた達がここへ来たのは、あの2人へ会うためかい?」
「さすが村長。お見通しですか」
ユウキの苦笑いを交えた返事に、村長は「顔に書いてありますよ」と言い、集会場を指差した。
「あの2人なら、先程山から戻ったところです。会えば喜んでくれますよ」
村長の言葉に従い、レンヤとレイナ達は集会場へと足を踏み入れた。中は暖炉で火が燃え盛り、暖かかった。内装は全て木材から成っており、壁や天井、柱、テーブルや椅子まで木で作られている。
温かみのある集会場に見惚れていると、フェンスが探している2人を見つけた。
「あ、居ました。あの2人ですよね」
指差した方を見ると、4人掛けのテーブルに2人のハンターが向かい合って座っていた。
男と女である。どちらも赤色の髪だが、男の方が深い赤色で、女の方が明るい赤色といった具合である。武器は男の方が大剣で、女の方はハンマーだ。
女のハンターは背を向けているが、男のハンターは正面を向いている。その為、フェンスが見つけた直後に男のハンターも気付いたようで、ゆっくりと立ち上がった。同時に女のハンターが振り向く。
その様子をみて、レンヤとレイナ達も歩み寄った。
「何の連絡も無しに突然やって来るなんて…。一体何があったんだ?」
眉間に皺を寄せた男のハンターは、立ち上がった女のハンターの横に並んだ。
「なぁに、大したことじゃない。今日はお前達に紹介したい人物を連れてきたんだ」
カズキが笑いながら言うが、男のハンターは眉間の皺を戻さない。
「紹介したい人物ですか…?」
女のハンターが首を傾げる中、レンヤとレイナは緊張しつつも前に出る。
「は、初めまして…レンヤ、といいます…」
「れ、レイナと申します…。よろしくお願いします…」
「俺はリヴァルだ。こっちは妹のリサ」
「初めまして。リサです」
4人が挨拶を済ませると、リヴァルは再びカズキに目線を送った。その眼は「で、何なんだこの子供は?」と言っている。
「聞いて驚くなよ。ジュンキとクレハの子供だ」
「なっ…!」
「ええっ…!」
リヴァルとリサは声に出して驚いた。その上でリヴァルは無意識に一歩下がり、リサは両手で口元を押さえてしまう。
「…そうか。あいつらから話を聞いて、もうそんなに経つのか…」
「兄さんも早く結婚しないといけませんね」
「お前はどうなんだお前は…」
リヴァルとリサのやり取りを聞いて、レンヤは「シスコンだ…」と思い、レイナは「ブラコンだ…」と思ったのだった。