モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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2章 手掛かり探し 09

「ひ…酷い目に遭った…」

4人の最後尾を歩くレンヤの顔色は、まだ優れない。歩く速度を落としたレイナが横に並ぶと、水の入った革袋を差し出した。

「どうする…?ババコンガの狩りはカズキさんのフェンスさんにお任せする…?」

レイナの提案に、レンヤは「いいや…俺が倒す…」と青い顔ながら言った。

「この仕返しは…俺がやらなきゃ気が済まない…!」

「…無茶だけはしないでね」

レイナは呆れたような、でも嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

ババコンガは逃げてしまったが、ペイントボールの臭いは強烈で、そう簡単には落とせない。その威力は水の中でも有効な程だ。何より、この狩り場を熟知しているカズキとフェンスが居るので、ババコンガを見つけるまでに時間はかからなかった。

そのババコンガは、水場で傷を癒している様子だった。

「ほんの数回斬っただけなのに、弱っているな」

カズキはそこで言葉を切り、隣のフェンスの方を向いた。フェンスも頭に疑問符を浮かべて振り向く。

「腕を上げたな、フェンス」

「え?いやいや、俺もまだまだですよ」

「そんなことは無いぜ。的確に相手の弱点を狙えている証拠だろうさ、あれは」

そう言い、カズキは再び休んでいるババコンガを見る。そんな2人の姿を見て、レンヤとレイナはカズキの人間としての評価を少し改めることにしたのだった。

(カズキさん、普段は気楽そうで少しふざけているけど…)

(狩りの最中は、真剣なハンターなんだ…)

その時、何の前触れも無くカズキが振り向いたで、レンヤとレイナは心臓が止まるくらいに驚いた。

「じゃ、そろそろ行くぜ」

心の内を読まれたのかと焦ったが、そうでは無いらしい。レンヤとレイナは気を引き締める。

「レイナちゃん、ババコンガを狙撃してくれ。このメンバーの中で、遠距離攻撃が出来るのはレイナちゃんだけだ」

(れ、レイナちゃん…)

ちゃん付けで呼ばれて苦笑いしてしまうが、レイナは「は、はい…」と返事を返し、茂みで身を隠しつつババコンガを狙った。

「矢を放ったら、ババコンガにこちらの居場所を気付かれるまで続けてくれ。合図は俺が出す。そしたら、フェンスとレンヤは飛び出せ」

「ああ」

「分かった」

「じゃあ、レイナちゃんのタイミングで始めてくれ」

「分かりました」

レイナはババコンガの警戒が完全に解けた瞬間を狙い、矢を放った。

1本目の矢は真っ直ぐに飛び、水を飲もうと顔を水面に近づけるババコンガの胴体に突き刺さった。ババコンガは驚いて飛び上がるものの、そこへ第2第3の矢が刺さる。

やがてババコンガが飛んでくる矢の方向を把握し回避した瞬間、カズキは「今だ!」と言って飛び出した。フェンスとレンヤも続く。

「おりゃあああああ!」

カズキの突進は、レイナの矢によって注意が逸れていたババコンガを捉えた。水場から弾き飛ばされたババコンガは地面を転がり、苦しそうに手足をバタつかせる。

そこへフェンスが畳み掛ける。的確に、最低限の動きでババコンガを斬る。

「レンヤ!」

「うおおおおおっ!」

フェンスと入れ替わる形で、レンヤが「ボーンブレイド改」を振り下ろす。

ババコンガは身体を痙攣させたものの、それ以上動くことは無かった。

 

ジャンボ村へ戻ると、太陽は山の向こうへと沈んでいくところだった。村の小さな酒場ではショウヘイとユウキ、そして村長が酒を交わしつつ、親睦と情報交換を行っていた。

カズキ達が戻り、村長に薦められるまま席に着くと、それだけで小さな酒場は貸し切りのような状態になってしまう。

レンヤとレイナはお酒ではなく果実ジュースを片手に夕食を食べていると、村長が目の前に座った。

「お帰りなさい。ババコンガはどうだった?」

「酷い目に遭いました…」

レンヤの答えに微笑みながら、レイナも「動きが素早く、矢で狙う事が難しかったです」と答える。

村長は嬉しそうに頷きながら、今後のことも尋ねてきた。

「これから、どうするんだい?何でも、親であるジュンキ君とクレハさんを探しているとか…」

どうやらショウヘイやユウキから話を聞いたらしい。レンヤとレイナは自分達の考えを述べることにした。

「リヴァルさんとリサさん、2人に会いに行こうと思います」

「場所はポッケ村というところらしいのですが…」

レイナが村の名前を出すと、村長は「ポッケ村だって!?」と驚きを隠さなかった。

「ポッケ村といったら、このシュレイド大陸で一番北にある集落だよ?凄く遠いなぁ…」

村長は両腕を組んで眉間に皺を寄せていたが、レンヤとレイナは考えを変えるつもりは無かった。

「それでも、俺達は行きます」

「お父さんとお母さんの手掛かりが、そこにあるのなら…」

2人の言葉を聞いて、村長は「偉いね」と笑顔で言ってくれた。

「カズキ君も、ジュンキ君やクレハさんの仲間だ。彼も2人の今を知りたいんじゃないかな」

村長はそう言うと後ろを向き、酒で顔を真っ赤にしているカズキを呼んだ。

「何の用だぁ?」

「まあ、座って座って」

村長はカズキに席を薦め、話を切り出した。

「カズキ君、この2人はジュンキ君とクレハさんの手掛かりを探しにポッケ村へ行くそうだ。カズキ君はどうする?」

村長の言葉に、カズキの目の色が変わる。

「…久々にショウヘイやユウキに会えたんだ。行動を共にしたいというのが本音だが…」

カズキは最後まで言わず口を閉じてしまうが、村長は全てを理解しているかのように、一度だけ頷いた。

「この村のことが心配かい?」

「…ああ。俺とフェンスが抜けちまったら、腕の立つハンターが村から消えちまう。それは村の危機だ」

カズキの言葉に、村長は「そうだね…」と腕を組んだ。

「でも、少しくらいなら大丈夫だと思うよ。一番の問題だったババコンガは無事に狩猟出来たし」

「…いいのか?」

「この村を拠点とするハンターは、カズキ君やフェンス君だけじゃない。彼らを信じてやれないのかい?」

「…分かった。その言葉に甘えさせて貰うぜ」

カズキはそう言うと、顔を村長からレンヤとレイナへ向けた。

「俺も同行する。ジュンキとクレハの生死を知りたいからな」

その言葉を聞いて、レンヤとレイナは顔を見合わせた。そして同時に口を開き、頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 

翌朝、レンヤとレイナはフェンス、ショウヘイ、ユウキに続き、カズキを連れてジャンボ村を後にした。

目指すはシュレイド大陸最北端の集落、ポッケ村。そこに住んでいるというリヴァルとリサという人物に会い、ジュンキとクレハの手掛かりを得るのだ。


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