「ジュンキさんとクレハさんのことを知っている2人は、私の狩り仲間でもあり、先輩でもあるんだ」
先頭を歩くフェンスは、酒場を出てからずっと、これから会いに行く2人のハンターのことを話していた。
レンヤとレイナは置いて行かれないよう気を付けつつ、フェンスの言葉に耳を傾ける。
「俺は2人のお遣いで、酒場へ狩りの依頼書を見に行ったところだったんだ」
「その2人のハンターは、一体どこにいるんだよー?」
レンヤがフェンスに聞くと同時に、フェンスはとある建物の前で歩みを止めた。そして入口を指差す。
「この武具工房の中で待っているんだよ」
フェンスはそう言い、武具工房の中へと歩みを進める。レンヤとレイナは一瞬遅れてフェンスの後を追った。
武具工房の中は薄暗く、そして暑かった。目の前にカウンターがあり、そこで2人のハンターが武具職人と思われる人物と話をしている。時折カウンターの奥から聞こえてくる鉄を叩く音は、今まさに武器か防具を作っているところなのだろう。この施設が暑いのは熱せられた鉄を扱っているからだ。
「ショウヘイさん、ユウキさん、今戻りました」
ショウヘイとユウキという名前で呼ばれた2人のハンターは、揃ってフェンスの方を向いた。
「遅かったな。またユーリに捕まっていたのか?」
ボウガンを背負った男に言われ、フェンスは苦笑いする。
「まあね。でも、凄い発見があったよ」
フェンスはそう言い、レンヤとレイナを呼び寄せた。
「フェンス、この子達は?」
太刀を背負った男に声を掛けられ、レンヤとレイナは思わず背筋を伸ばした。
ボウガンを背負った男も太刀を背負った男も、興味の目を向けてきたからだ。背もフェンスより頭一つ高く、威圧感があるのも理由だ。
「俺はユウキ。見ての通り、ガンナーだ」
ユウキはそう言い、右手を差し出す。レンヤとレイナは交互に握手を交わした。
「俺はショウヘイと言う。太刀を使っている」
ショウヘイは名乗っただけで、握手を求めはしなかった。
「改めて、俺がフェンス。この3人でパーティを組んでいるんだ」
フェンスはそう言い、ショウヘイとユウキの横に並んだ。こうやって見ると、フェンスが一番若そうだ。
「初めまして。レンヤと言います」
「レイナと申します。よろしくお願いします」
レンヤとレイナは同時に頭を下げた。
「それで、凄い発見というのは、この子達なのか?」
ユウキの問い掛けに、フェンスは笑顔で頷いた。
「この2人は、ジュンキとクレハの子供だ」
フェンスの口から出た言葉を聞き、ショウヘイとユウキは目を見開いた。
「そんな…!ジュンキとクレハの子供…!?」
「…そうか。もうそんなに経つか…」
ユウキは驚きを隠そうとせず、逆にショウヘイは目を閉じた。
「思えば、クレハが身籠ったと聞いたのが15年くらい前か…。道理で俺も老けるわけだぁ…」
ユウキはそう言って腰を落とし、目線をレンヤとレイナに合わせた。
「ジュンキとクレハは、俺達の古い仲間だ。改めてよろしくな」
「は、はい…」
ユウキはレンヤの右手を掴むと、今度は何度も上下に振る強烈な握手をした。
「思えば俺も35…。2人の子がハンターになっていても不思議じゃないか」
ショウヘイもそう言うと腰を落とし、レイナと握手した。
「それで、今日はどうしてこの街へ来たんだ?」
ユウキの言葉に、レンヤとレイナは顔を見合わせ、一度頷いてから口を開いた。
「俺達は、父さんと母さんを探しているんだ」
「ショウヘイさんと、ユウキさんは、何か知りませんか?」
2人の真剣な眼差しに、今度はショウヘイとユウキが顔を見合わせる番だった。
「ああ、あの2人ね…。ジュンキとクレハは…」
ユウキの発した言葉に、この場の全員が注目する。
「…ジュンキとクレハは、フルフルに食べられてしまったんだ」
暑いはずの武具工房が、氷に閉ざされた瞬間だった。
レンヤとレイナは顔を見合わせ、同時に首を傾げた。
「フルフルに、食べられたんですか?」
レンヤの問い掛けに、ユウキは頷く。
「ああそうさ。あれは10年くらい前だったかなぁ…」
「フェンスさん。両親の死は、リオレウスと戦ってでは…?」
レイナの問いに、フェンスは「あ~それはね…」と目線を天井へ向けてしまう。
そしてユウキは「あれ?違うの?」とショウヘイに聞き「俺は何も聞かされていない」と素っ気ない返答をされていた。
「ユーリさんは、行方不明としか言っていない…」
「どういうことなのかな…?」
レンヤとレイナが頭に疑問符を浮かべていると、突然ユウキが両手を叩いて大きな音を出した。
「と、とにかく!ここで話しを続けるのもなんだし、酒場へ移ろう、な?」
ユウキは怪しいくらいに引きつった笑顔を浮かべ、レンヤとレイナの背中を押したのだった。
酒場に入ると、ショウヘイは「依頼を見てくる」と言って掲示板の方へと行ってしまった。
レンヤ、レイナ、フェンス、ユウキの4人が空いている席に着くと、カウンターからユーリがメニューを持って出てくる。
「どう?何か情報は掴めた?」
ユーリの問い掛けに、思わず苦い顔を浮かべるレンヤとレイナ。それを見たユーリはフェンスとユウキを見て、小さくため息を吐いた。
「他に情報を持った仲間は居ないの?」
ユーリの言葉に、ユウキは「うーん、どうかなぁ…」と両腕を胸の前で組み、考え込んでしまう。
すると、フェンスが「そうだ…」と顔を上げた。
「カズキさんなら、何か知っているかもしれませんね」
フェンスの言葉に、レンヤとレイナは身を乗り出した。
「カズキさんという方は、どこに居るんですか!?」
「教えて下さい…!」
テーブル越しにフェンスへ迫る2人。身体を反らして距離を置こうとするフェンス。
その間に、1枚の依頼書が上から降ってきた。
レンヤとレイナが顔を上げると、そこにはショウヘイが立っていた。
「手伝うなら、教えなくもない」
そう言い、ショウヘイは依頼書をテーブルの上に置いた。