白い防具に身を包んだハンターは、テーブルの間を抜け、カウンターへ直行してきた。
「違うわよ。この子達に、昔の話をね…」
「昔の話…?」
白い防具のハンターはユーリの前で立ち止まり、顔をレンヤとレイナへ向けた。
「この子達に昔の話?一体どんな話を?」
「あ~、そのね…うーん…」
ユーリが言葉を濁す。白い防具のハンターは、訳が分からないと首を傾げる。
「父と母の話です…」
レンヤの言葉に、白い防具のハンターが改めて振り向く。しかし、ますます訳が分からないと首を傾げてしまった。
「両親を見失ったのか?両親の名前は?」
白い防具のハンターが尋ねると、ユーリが鬼のような形相で睨んできた。ぎょっとしたが、開きかけたレイナの口は止まらない。
「父がジュンキで、母がクレハっていいます」
「へ…?」
白い防具のハンターは、この酒場にいる多くのハンターと同様、一瞬にして凍ってしまった。ユーリと2人を交互に何度も見る。ユーリは「やれやれ…」といった感じで諦めの表情だ。
「…もしかして、何か知っているんですか?」
レイナの言葉に、2人を覆っていた暗い雰囲気が徐々に明るくなっていく。
「教えて下さい!どんな小さなことでもいいんです!父と母は、生きているんですか!?」
キラキラと輝く2人の瞳を前にして、白い防具のハンターは、答えざるを得なかった。
「あ~…まずは自己紹介だね。俺はフェンス。ジュンキさんとクレハさんは、ハンターとしての先輩みたいなものだ」
フェンスと名乗ったハンターは、続けてジュンキとクレハについて語ってくれた。
「あの2人には大変お世話になったんだよ。今はどうなっているのか、俺も詳しくは知らないんだが…」
ここでフェンスが一呼吸を置き、レンヤとレイナは耳を研ぎ澄ませた。
「リオレウスと戦って、死んだと聞いている…」
「…」
「…」
「…はぁ」
「…あれ?」
変な空気になり、フェンスは戸惑う。レンヤとレイナは首を傾げ、ユーリは何故かペーパーナイフを構えた。
「ユーリ…?どうしてナイフを俺に向けるの…?」
「んー?余計な口は塞いでしまおうかと…」
「冗談にならないからやめて。顔が本気だよ」
フェンスは何度もユーリに許しを請い、ユーリは「もういいです…」と呆れ顔でペーパーナイフを下した。
「あの~、父と母はもう亡くなっているんですか…?」
「俺はそう聞いているけど…。違うの?」
レンヤの問い掛けに、フェンスは困った顔でユーリを見る。すると、ユーリに代わってレイナが答えた。
「ユーリさんは、行方不明だと…」
「あ、あれ?そうだったかなぁ…?」
首を傾げるフェンスに、不信の目を向けるレンヤとレイナ。そして呆れ顔のユーリ。
これはまずいと思い、フェンスはある考えを閃いた。
「そうだ!今この街には、ジュンキさんとクレハさんの仲間が滞在しているんだ!会いに行かないか?」
「本当ですか!?」
レンヤとレイナの目は一気に輝きを増した。ユーリは「仕方ないわね…」と呆れ顔だったが。
「じゃあ、早速会いに行きましょう!」
「はい!」
「よろしくお願いします!」
レンヤの大きな返事とレイナの丁寧な返事を受け、フェンスはユーリに向かって軽く手を上げつつ、酒場を出て行った。
レンヤとレイナ、そしてフェンスを見送ったユーリは、大きなため息を吐いた。
すると、ユーリは顔を動かさず、目だけで酒場の端を見つめる。
そこには1組の男女。服装はハンターの防具ではなく、ギルド職員の制服だった。
その2人はユーリの視線に気付き、立ち上がる。そのままカウンターの前に立つと、2人は目深に被った帽子を少しだけ持ち上げた。
「とうとうこの時が来たみたいね。…どうするの?」
ユーリの言葉に、2人は顔を見合わせる。
「…いつまでも、誤魔化すことは出来ないか」
「まあ、無理でしょうね」
男の言葉に、ユーリは腰に両手を乗せつつ首を横に振った。
「証拠合わせもしないまま解散したんだから、この先も次々矛盾が出てきて…」
「いずれは私達の前に立つ、か…」
ユーリの言葉を女が繋ぐ。
「感動の再会を準備した方が良さそうよ?」
ユーリの言葉に、2人は再び顔を見合わせた。
「…お前だけでも、会ってきていいんだぞ?」
男の言葉に、女はキッパリと首を横に振る。
「ダメよ。私だけ抜け駆けなんて」
「…分かった。悪いな」
「いいえ…。でも…」
ここで、ユーリは女の目に涙が溜まっていることに気が付いた。
「あんなに立派な姿になって、私達の前に現れるなんて…嬉しくて…」
その言葉を聞いて、ユーリは嬉しくもなり、悲しくもなった。
この2人が14年も前から積み重ねてきた想いは、果たしてどのような結末を迎えるのか、ユーリは酒場の出口を見つめながら静かに考えたのだった。