今回から定期的に掲載しますので、よろしくお願いします。
レンヤとレイナは家に戻ると、早速街へと出る準備に取り掛かった。
必要最低限の物だけを用意し、保存に向かない食品は村人へ配る。
防具を着込み、武器を背負い、家の戸締りを確認した頃にはお昼になっていた。
村長や村人達、村のハンターへ挨拶を交わし、ミナガルデの街へと出発する2人。
頭の上のリアだけが気がかりだが村へ残す訳にはいかず、仕方なく連れて行くことにしたのだった。
そして2人と1匹はミナガルデの街へ足を踏み入れる。
「大きい街…」
「凄い人…」
「クアァ…」
レンヤとレイナの第一声であり、リアの街での欠伸第一号である。
ミナガルデの街は急峻な岩山の中腹に作られており、街の入り口から見て右手側が山だが、左手側は眼下に緑に覆われた大地が広がっている。
建物は木の家ではなく、岩肌をくり抜いて作られていた。その為、街全体が白く、太陽の光を反射して明るい。その中を、多くのハンターや商人が行き来している。
街に見惚れてぼーっとしていると、リアの尻尾がレイナの後頭部に当たり、ハッとする。
「お兄ちゃん、まずは酒場へ行こう?」
「あ?ああ、そうだな…」
レンヤもレイナの言葉で意識を戻し、村長から預かった手紙を取り出す。
これは、村長がミナガルデの街で活動し易いよう書いてくれた紹介状である。中を見てはいけないと言われた上に封をされているので、2人は中身を知らないが、これを酒場にいる受付に渡すようにと言われている。
「お父さんとお母さんも、この街に来たことがあるのかなぁ」
「村長が言うに、この世界の全てを見たって話だけど…」
「さすがに大袈裟だよね…」
レンヤとレイナは苦笑いする。
すると、2人の横をひとつのハンターグループ―――パーティが通り過ぎた。見たことの無い素材を使って作られた武器や防具を身に着けた男女混合のパーティに、2人は目を奪われる。
「凄いね…」
「俺達も、いつかは立派なハンターになれるさ…。あった、ここだ」
レンヤが足を止め、レイナが横に並ぶ。そこは岩肌に穴を開けただけの簡素な出入り口だったが、両脇には酒樽と思われるものが積み重なっており、看板も出ていた。
「入ろうか」
レンヤが最初に足を踏み入れる。続けてレイナも入るが、強烈な酒とタバコの臭いに鼻をつまんでしまう。
頭の上のリアは大丈夫なのだろうかと心配したが、どうやら大丈夫なようで、特に動かなかった。
酒場の中は薄暗く、何より狭かった。村の集会場を少し広くした程度くらいの床面積しかない。窓も無い中、多くのハンター達が酒を飲み、タバコを吸うので、この場にいるだけで体調を崩しそうだ。
2人は外側を通り、カウンターと思わしき場所を目指して歩く。そんな2人に気付いたのか、ひとりの給仕が軽く手を挙げてくれた。どうやらそこが受付らしい。
「いらっしゃい。この街は初めて?」
2人がカウンターの前に着くと、その給仕は笑顔で挨拶をしてくれた。落ち着きのある感じだが、少し茶目っ気も感じさせる、そんな女性だ。
「は、はい。初めてです…」
「ココット村から来ました…」
2人して緊張から声が徐々に小さくなってしまう。
「ココット村から!いい所から来たのねー。何か紹介状のような物を持ってるかな?」
「あ、はい。これです」
レンヤはそう言うと、手に持っていた村長の手紙を渡した。
「ありがとう。あら、封がされてるわね…」
目の前の給仕はそういうと、手元を見まわし始める。ナイフかハサミを探しているのだろう。
「どうしてこの街に来たの?やっぱり、もっと腕を磨く為に?」
給仕の言葉に、レンヤとレイナは同時に頷く。
「そうです。村長に、もっと世界を見てこいと言われまして…」
「いずれは、父と母のようなハンターになることが目標です」
「へぇ~!偉いわねぇ…。ご両親のお名前は?もしかしたら、私も会ったことがあるかもしれないわよ?」
給仕がペーパーナイフを取り出しながら言った言葉に、レンヤとレイナは「本当ですか!?」と声を同時に出した。
「ええ。この酒場を利用したことがあるのなら、だけどね。覚えていなかったら、ごめんだけど…」
給仕はそう言って封を切り、中から手紙を取り出す。
「両親の名前ですけど…」
レンヤとレイナ、先にレンヤが口を開いた。
「父の名は、ジュンキっていいます」
「母はクレハという名前です」
レンヤとレイナの発した言葉は目の前の給仕の動きを止め、酒場で騒ぐハンター達を一瞬にして凍りつかせてしまった。
この場にいる全ての人間から視線を受け、レンヤとレイナの2人は何が起きたのか分からず、互いに顔を見合わせてしまう。
紙の擦れる音が嫌に大きく聞こえたので2人は振り返ると、給仕が村長の手紙を開いたところだった。
それと同時に別の給仕が手を2回パンパンッ!と叩き、酒場の喧騒は元に戻る。
「…ごめんなさいね。知っている名前だったから、つい驚いちゃった」
目の前の給仕が村長の手紙を畳むと封筒に戻し、カウンターの内側へと片づけた。
「私の名前はユーリ。あなた達のご両親とは旧知の仲よ」
「父と母を知っているんですか!?」
ユーリと名乗った給仕の言葉に、レンヤが一歩前に出る。
「あの…!父と母は、生きているんでしょうか…!」
「そ、それは…」
レンヤの問い掛けに、ユーリは目線を泳がせる。そこへレイナも一歩前へ出た。
「生きているのか、死んでいるのかも分からないんです。知っているなら教えて下さい!」
カウンター越しとはいえ、2人に詰め寄られたユーリは「分かったから落ち着いて…!」と言うしかなかった。
「あなた達のご両親、ジュンキとクレハは…」
ここでユーリは一瞬だけ目線を横に動かしたが、レンヤとレイナはユーリから目線を動かさない。
「…行方不明からの、死亡扱いになっているわ」
ユーリの言葉を聞いて、レンヤとレイナは互いに一歩身を引いた。
「…そうですか」
「ありがとう、ございます…」
「…そんなに気落ちしないで?このシュレイド大陸の、どこかで生きているかもしれないわよ?」
ユーリは必死に2人のフォローをするが、レンヤとレイナの気落ちは深かった。
そこへ、酒場の入り口から軽快な声が飛んでくる。
「ユーリさん、また軽口を叩いて新人いじめですか?」
「むっ…!」
ユーリの眉間に皺が寄ったのを見て、レンヤとレイナも酒場の入り口を振り向く。
そこには白い防具に身を包んだ、ひとりのハンターがいた。