モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 小さな狩人 08

太陽はまだ高い午後。対イャンクック戦闘の準備を整えたレンヤとレイナは、ココット村の裏山である「森と丘」に到着した。

「よーし、問題無いな…」

ベースキャンプを出る前に、レンヤは改めて自分の装備を点検する。つい先日完成したばかりのランポス防具に異常は無く、背中の大剣「ボーンスラッシャー」の刃は輝いている。

「レイナも大丈夫か?」

「うん。私は大丈夫」

そういうレイナの武器は弓の「ハンターボウII」へと強化され、防具もランポスとなっているが、頭用の防具を身に着けていない。理由はもちろん、リアが乗るからだ。

レンヤはレイナが頭用の防具を身に着けないことに反対した。しかし、レイナは様々な理由をつけて譲らなかった。

(まあ、視界を確保する為という理由は分かるが…)

明らかにリアを乗せたいからだろう。

レイナはガンナーであり、直接前に出て戦うことは無いはずだ、とレンヤは無理矢理納得している。

「お兄ちゃん、私は準備終わったよ?」

兄の心配を受け止めてくれていない妹の姿を見て、レンヤは内心でため息を吐いた。

 

ベースキャンプの外に出ると、そこはいつもの森と丘の風景だった。この場所のどこかにイャンクックがいるとは、とても思えない。

「いつもと変わらないな…」

「でも、なんだか空気が重たいような…」

レイナは不安な気持ちを抑えられず、頭の上のリアを撫でる。いつもは嬉しそうな鳴き声を出すリアだが、今回は何の音も出してくれない。

「周りを注意しつつ、進んでいこう」

「そうだね…」

レンヤが先を歩き、レイナが後を追う。

そのまま丘を越え、森の入り口へと差し掛かった時、2人の上を何かが通り過ぎた。大きな影が2人の背後から接近し、通過したのだ。

「これは…!」

「えっ…!」

2人同時に顔を上げる。そこには翼を広げた桃色の竜が飛んでいた。

「あれが…!」

「イャンクック…!」

イャンクックはレンヤとレイナが居る場所から、そう離れていない小高い丘の上に降り立った。するとイャンクックは翼を畳み、地面を掘り返し始める。どうやら地中の虫を食べているようだ。

「お兄ちゃん、どうする…?」

「隠れながら近づいて、不意打ちを狙いたかったけど、ここは身を隠す場所が無い。堂々と正面から行くしかないな…。レイナ、俺の後ろに居ろよ」

レンヤはそう言い、手を背中の大剣「ボーンスラッシャー」に持っていき、ゆっくりとイャンクックへ近付いていく。レイナも頭の上のリアを地面へと降ろし、背中から「ハンターボウII」を外し矢を添え、レンヤの後ろを歩く。

イャンクックとの距離が徐々に近づき、食事する音が聞き取れる程度まで近づいたところで、不意にイャンクックが顔を上げた。

「…!」

レンヤとレイナ、そしてイャンクックが視線を交える。一瞬が永遠に感じる時間の中、レンヤとレイナが唾を同時に飲み込んだ時、イャンクックは口を大きく開けて威嚇した。

「行くぞ、レイナ!」

「は、はい!」

レンヤは一気に駆け出した。イャンクックが行動を起こす前にレンヤの刃が届き、桃色の鱗を斬り裂く。

「まだまだっ!」

レンヤは更に一撃を加えるが、イャンクックはドスランポスのように動揺はしなかった。レンヤの大剣「ボーンスラッシャー」を受けても微動だにしなかったイャンクックは、その場で身体を回転させ、尻尾をレンヤに当てようとする。

「おっと…!」

レンヤは落ち着いてその場に膝を落とし、尻尾を難なく回避する。

「ペイントボール!」

レイナの声と同時に、イャンクックの身体へ桃色の液体が付着する。それは同時に臭気を放ち、目標の位置をハンターに知らせる。

「やっ!」

レンヤは膝を折った体勢から一気に跳ね、その勢いでイャンクックに斬りかかる。大剣「ボーンスラッシャー」はイャンクックの左翼膜を斬り裂いた。

背後からレイナの援護射撃が届き、同じく左翼膜へ穴を開ける。

イャンクックは奇声を上げて一度飛び上がると翼を動かし、低空を飛行してレンヤとレイナから距離を取った。

「逃げるのか…!」

「お兄ちゃん、危ない!」

後退する様子を見て、レンヤは飛び出した。イャンクックは着地すると、身体を大きく反らせる。その様子を見たレイナは、とっさにレンヤを呼び止めた。レイナの声を聞いたレンヤは慌てて踏み止まる。次の瞬間、イャンクックの口から燃え盛る液体―――火炎液が飛び出した。それはレンヤとイャンクックの中間に落ち、地面の草を巻き込んで燃え上がる。

「な、なんだ…!?」

レンヤが驚いている間にも、イャンクックは次々と火炎液を吐く。その間にレイナがレンヤの横に並び、矢を放つ。

「イャンクックは炎を吐く。覚えておかないといけないね」

レイナはそう言いつつ弓を構え、何本も矢を放った。

やがて、何本も矢を受けたイャンクックは火炎液による攻撃を止めると、レンヤとレイナに飛び掛かってくる。

ガンナーであるレイナは距離を置き、引き続き弓矢で攻撃する。

大剣使いのレンヤはイャンクックの攻撃を剣の腹で受け流す。

「くっ…!」

イャンクックの嘴(くちばし)による攻撃はレンヤの予想を超えた衝撃で、両腕が痺れた。

だがレンヤは踏み止まり、大剣を横へ振るう。目標は細い脚だ。

(大きな身体を支える細い脚は、きっと弱点になるはず…!)

レンヤは自身が回転し、イャンクックの脚へ体重を乗せて刃を当てた。

大剣「ボーンスラッシャー」は火花を散らして弾かれてしまうものの、イャンクックは奇声を上げて横倒しになった。

「今だ!レイナ!」

「はい!」

レンヤはレイナへ向けて一言放つと、地面で暴れるイャンクックへ向けて大剣「ボーンスラッシャー」を振り下ろした。桃色の鱗や甲殻が砕け、鮮血が噴き上がる。

レイナも前へ出て、急所と思われる頭を狙い撃つ。

「はああああっ!」

レンヤが三度目の大剣を振り下ろしたその時、イャンクックは体勢を整えて起き上がった。そして怒りの炎を口元から漏らしつつ、レンヤへと嘴を向ける。

「…!」

「お兄ちゃん…!」

レイナの援護射撃もむなしく、イャンクックは怒りの嘴をレンヤへと向けて振り下ろした。

レンヤは反射的に大剣の腹で防ぐが、イャンクックは執拗に追撃する。

「くっ…!ああぁ…っ!」

腕が痺れる。膝が折れる。姿勢が崩される。

レンヤは地面へ倒されてしまった。しかし、イャンクックは攻撃を止めない。レンヤは地面へ横になりながらも、必死に大剣の腹でイャンクックの攻撃を防ぎ続ける。

「お兄ちゃんから…離れろーっ!」

レイナは何本も矢を放つ。その内の一本が偶然、イャンクックの目に当たった。

イャンクックは悲鳴を上げ、レンヤの真上から退く。そして痛んだ翼を広げると、大空へと飛び上がってしまった。

ペイントボールの臭いで場所が分かると判断したレイナは弓を背中に戻し、レンヤへと駆け寄る。

「お兄ちゃん!大丈夫!?」

レイナは起き上がろうとしているレンヤの身体を掴み、何度も何度も揺らす。

「大丈夫!大丈夫だって!」

「ほ、本当…?」

「本当!本当っ!」

あまりにレイナが揺らすので、レンヤは一度離れてから立ち上がった。

「ほら、大丈夫だろ?」

レンヤは元気だぞポーズをとってみたり、その場で回転してみたりと、レイナに無事を表現した。

それでレイナも分かってくれたらしく、地面に横たわる大剣「ボーンスラッシャー」を取ってくれた。

「お兄ちゃんが無事なのは分かったけど…これ…」

「ん?ああ、これか…」

レイナが差し出した大剣「ボーンスラッシャー」はイャンクックの攻撃からレンヤを守ってくれたものの、その刀身は傷だらけだった。しかも、一部は欠けてしまっている。

「骨の部分は傷だらけだけど、刃の部分は問題無さそうだ。これなら大丈夫だよ」

「そう?ならいいけど…」

レイナの心配そうな表情をよそに、レンヤは大剣を背中へと戻した。

「それよりも、早く追わないと。休む暇を与えていると、時間切れになっちまう」

「…そうだね。急ごう」

レンヤとレイナは今一度装備を整えると、イャンクックの追撃を始めたのだった。


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