「ドスランポスは、無事に倒せたか。よく頑張ったのぉ…」
ココット村へと戻ったレンヤとレイナはドスランポスの討伐成功を報告し、村長から褒められていた。
「怪我は無いか?」
「はい。大丈夫です」
「私も大丈夫です」
2人の報告を聞き、村長は嬉しそうに何度も頷く。
「では、報酬を渡すとするかの…」
村長はそう言うと、懐へ右手を差し入れる。そこから出てきたのは小さな皮袋。中身は報酬金だ。レンヤとレイナは一袋ずつ受け取る。
「これで村も安全じゃ。当面は危険なモンスターも出てこないじゃろうて。2人も落ち着いて狩りに出られるじゃろう」
「はい!」
村長の言葉にレンヤは大きな声で答え、レイナは笑顔でペコリと頭を下げた。
家に帰りつくと、レンヤとレイナは安堵のため息を吐いた。顔を見合わせ、同時に頷くと、2人はそれぞれのやりたい事に移る。
レンヤは背中の大剣「ボーンブレイド改」を下すと壁に立て掛け、損傷が無いか確かめる。
「大きな傷は無し…と」
レンヤは呟いて立ち上がり、レイナを探す。
レイナは頭の上で眠るリアを静かにテーブルの上へ置き、背中の弓「ハンターボウI」を外したところだった。
「レイナ、剣を洗ってくる」
「行ってらっしゃい。あ、リアちゃんの水を汲んできてくれない?」
「ああ、分かった」
レンヤはそう言うと炊事場に置いてある水汲みを持ち、家の近くを流れている小川へと向かう。
レイナは外に出るレンヤを見送ると椅子に座り、自分の獲物である「ハンターボウI」の点検に入った。
「…うん。問題無いみたいだね」
レイナは頷くと「ハンターボウI」をテーブルに置き、防具を外し始める。全てを脱いだら炊事場より布を持ち、汚れを拭う。
「…そろそろ新しい装備が欲しいかな」
今回はドスランポスだったが、今後はもっと強力なモンスターと戦うことになるだろう。それまでに、武器や防具の強化を行っておきたいところだ。
「村長さんも、しばらくは安心だって言っていたし…。次のモンスターが現れる前に…。お兄ちゃんと相談しなきゃ…」
やがて防具の掃除が終わると、レンヤも戻ってきた。
「ほーらリア、水だぞー」
レンヤが水汲みをテーブルの上に置くと、振動でリアが顔を上げた。レイナも立ち上がり、炊事場から平たい皿を用意する。そこへレンヤが水を入れると、リアは嬉しそうに飲み始めた。
今が丁度良いタイミングだと思い、レイナは口を開いた。
「お兄ちゃん、相談があるんだけど…」
「ん?どうした?」
「今回はドスランポスだったけど、次はもっと強いモンスターと戦うかもしれないから、武器と防具を強化したいと思いまして…」
語尾が小さくなってしまったレイナの言葉に、レンヤは一瞬だけ目線を外して考える表情を見せたが、すぐに頷いてくれた。
「…そうだな。しばらくは狩場も安定するらしいし、今がタイミングだろう。日が暮れる前にでも、工房へ相談に行ってみるか」
「うん!」
レンヤとレイナの会話の意味が分かっているのか分かっていないのか、リアも丁度良く「キュイ!」と鳴いたのであった。
ココット村で唯一の武具工房で相談した結果、レンヤとレイナはランポスの素材を生かした「ランポスシリーズ」と呼ばれる防具を作ることにした。武器についてはそれぞれ強化することで決まり、レンヤとレイナの装備作りの日々が始まる。
2人と1匹は、毎日のようにココット村の裏山でもある狩場「森と丘」へと狩りに出た。鉱石を集め、骨を採取し、ランポスの鱗や皮を集める。
リアの親が現れたらどうしようかと緊張しながらの狩りが続いたが、装備を強化する為に必要な素材が全て集まっても、リアの親は現れなかった。
後日、新しい武器と防具に慣れようと積極的に狩りへ出ていた2人の前に、突然村長からモンスター狩猟の依頼が舞い込んできた。
「イャンクック…?」
村長の口から発せられた名前に、レンヤとレイナは互いの顔を見合わせた。
「そうじゃ。飛竜ではないが、翼を持ち、空を飛び、火を噴くところは、飛竜と何も変わらん」
「それを、私達が…?」
レイナの少し震えた声に、村長は安心させようと笑顔を向ける。
「心配せんでもよい。イャンクックはハンターが最初に当たる壁とも言われるモンスターじゃ。じゃから、今のおヌシ達からすれば強いが、恐怖する程ではないのじゃ。人間を食べたりもしないからの」
「そ、そうですか…」
レイナの緊張が弱まったところで、隣のレンヤが口を開く。
「それで、いつまでに出発すれば?」
レンヤの言葉に、村長は顔を動かさず、目線だけを向けた。
「それは、イャンクックの狩猟依頼を受けるということじゃな?」
村長の眼力に、レンヤはゴクリと唾を飲む。隣のレイナを見ると、レイナも不安げな目を向けていた。だが次の瞬間にはレイナの青色の瞳に力が宿り、ゆっくりと頷く。
その様子を見てレンヤも一度頷き、村長を見据えた。
「大丈夫です。必ず成功させます」
村長の返事を待つ間、重たい空気が場を支配する。だがそれは、村長の突然の笑顔で一気に取り払われた。
「なに、危ないと思ったら引き返せばよい。そして、何度でも挑戦すれば良いのじゃ」
村長はそう言い、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。イャンクックの狩猟依頼書である。
「出発は、早ければ早い程良いが、焦らなくても良い。この依頼は、おヌシ達以外のハンターには伏せておる」
村長の言葉の意味が理解出来た時、レンヤとレイナは同時に頭を下げていた。
家に戻るなり、2人は装備を整え始めた。作ってから間もないランポスの防具を着込み、それぞれの武器を背負う。
「キュイ…?」
家に戻るなり狩りの準備を始める2人に対し、部屋の奥で眠っていたリアが顔を出す。
狩りの道具を収納しておくアイテムボックスから回復薬を取り出し、腰のアイテムポーチへ入れているレイナの足元へ近寄り、コンコンと脚を突く。
「あ、ごめんね。起こしちゃったかな…?」
レイナは作業する手を止め、リアを抱き上げる。
「私達、これからイャンクックって名前のモンスターと戦いに行くの。お留守番できる…?」
レイナとしては、これから危険なモンスターと戦う場所へリアを連れていきたくない。しかし、リアはレイナの言葉を理解しているのか、していないのか「キュウ…」と寂しそうな声を上げる。
困ってしまったレイナはレンヤへ目線を向ける。レンヤは連れて行くことに反対するかと思ったが「やれやれ…」と呆れたように肩をすくめるだけで、何も言わなかった。
「いい…?これから危ないところに行くから、絶対に勝手にどこかへ行ったらダメだよ…?」
レイナの言葉がやはり通じているのか、リアは嬉しそうに「キュアア!」と鳴いたのだった。