モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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長い間お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
連載再開の目途がある程度立ったので、プロローグを掲載します。


Monster Hunter 6th Story
プロローグ


苦しそうな彼女の声。今の自分にできること、それは祈ることだけだ。

目の前、手を伸ばせばすぐ届く距離にある扉の向こうへ彼女が姿を消してから、どれくらい経ったのだろうか。廊下の突き当たりにある窓から差し込む陽の光から察するに、相当な時間が経過しているはずだ。

「…っ」

扉の奥から時折漏れる、彼女の押し殺したような悲鳴を聞く度に、両手で顔を覆い隠してしまう。

落ち着かないといけない。自分が慌ててどうするのだ。今大変なのは彼女の方なのに。

彼女の担当医師は大丈夫だと言っていたが、何らかの拍子に死んでしまうこともあると聞いている。もし運悪く彼女が死んでしまったら…。

積もる不安に耐えられず、立ち上がって廊下の端から端を何度も行き来した。彼女の悲痛な叫びを耳にする度に閉じられた扉の前に立ち、少しでも彼女の状況を知ろうと耳を当てて中の様子を探ろうとした。だが今は精神的にも肉体的にも疲れてしまい、今は廊下の端に置かれた長椅子に腰掛けている。

再び、彼女の悲鳴。これまでにない声量だ。

「頼む…!耐えてくれ…!」

両手を膝の上に組み、血の流れが止まってしまうくらいに強く握る。

その時、これまで断続的に聞こえてきていた彼女の悲鳴が一切聞こえなくなった。

立ち上がり、慌てて扉の前に立つ。

そして聞こえた、新しい命の声。

「産まれた…!」

この世界に誕生した新たな命の声を聞くと自然に脚の力が抜け、思わずその場に座り込んでしまった。

「新しい命が…ふたつ!?」

同時に聞こえる、異なる産声。時を同じくして、別の命が生まれたのだろうか。それは大変喜ばしいことなのだが、ふたつの目の声も同じ扉の向こうから聞こえてきている。

「そんな…まさか…!」

立ち上がろうと床に手をついたその時、今まで頑なに入室を拒んでいた扉が内側より開かれた。部屋の中から出てきたのは彼女の担当医師。その表情は笑顔だった。

「おめでとうございます。双子ですよ」

「ふ…双子…?」

思わずオウム返し。ふらつく両脚を引き摺るようにして部屋の中に入ると、そこにはベッドに寝かされている彼女と、2人の赤子をぬるま湯で洗う助産婦が2人。彼女はこちらに気付くと、まるで天使のような微笑みを浮かべて頷いてくれた。すぐに駆け寄り、彼女の右手を両手で包む。

「よく頑張ったな…!」

俺の言葉に、彼女は涙を流す。すると2人の助産婦が俺と彼女にそれぞれの赤子を手渡してくれた。そして一度深く頭を垂れて、担当医師と助産婦2人は部屋から出ていく。これからの準備があるのだろうか。それとも気を使ってくれたのかもしれない。

「男の子と、女の子だってさ」

「そうか。名前、両方とも無駄にならなかったな」

俺の言葉に、彼女は微笑みながら頷く。彼女が子を宿してからというものの、2人は子の名前を何度も何度も考えた。

「男の子ならレンヤ…女の子ならレイナ…」

彼女の言葉に、俺は頷く。だが彼女の次の言葉に、俺は緩んでいた表情を引き締めなければならなかった。

「2人の成長を…私たちは見届けられないのね…」

「…お前だけでも」

俺の言葉に、彼女は顔を上げる。彼女の表情からは揺るがない決心を感じるが、それでも言わずにはいられない。

「お前だけでも、この子たちと一緒にいていいんだぞ?」

「それはダメ」

彼女はキッパリそう言って俺から目線を外し、正面にある廊下へと通じる扉を見つめる。

「私はあなたと一生を添い遂げるって決めたの。だから私だけなんて…ずるいよ」

「ずるくなんかない。この子たちには母親が必要だ」

「…村のみんなに預けようって決めたじゃない」

「…」

彼女の言う通りだ。俺と彼女は以前から話し合い、子を授かった場合は村に預けようと決めていたのだ。それを俺が一方的に破ろうとしているのだから、彼女が怒るのももっともである。

「…ごめん。でも、本当にいいんだな…?」

「うん」

「この子たちは、きっと俺たちを恨むと思うぞ?」

「…うん。それでも、それがこの子たちの為になる。そうでしょう?」

彼女に見上げられて、俺は思わず目線を彼女から腕の中の赤子に移す。ほとんど生え揃っていない青色の髪と純粋な青色の瞳。それは自然と彼女のことを彷彿させ、俺はその赤子からも目を背けてしまった。

「でもね、いつかこの子たちが私たちを追いかけてきて…いつの日にか見つかってしまう気がするの」

彼女はそう言って腕の中の赤子を撫でる。薄い茶色の髪に青色の瞳は、俺に似たのだろうか。

「…退院したら、村に行こう。村長に何を言われるか分からないけど、きっと理解してくれる」

「そうだね…」

彼女はそう言いつつ、赤子を優しく抱いた。

「この子たちの、未来の為だもんね…」

彼女の涙交じりの声を聞いて、俺は腕の中の赤子に目を落とした。すると腕の中の赤子は満面の笑みを浮かべ、俺の心の内を癒してくれたのだった。




本格的な連載再開まで、今しばらくお待ちいただけると幸いです。

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