ゲストハウスの自室の扉を、クレハは壊してしまいそうな勢いで開いて部屋の中に入った。
(ジュンキの出発が午前なら…今から追えば間に合う…!)
まず放り投げてしまった左腕用のレイアSアームを改めて装着し、自分の防具に異常がないか素早く確認する。
次に青色の長い髪を結び、収納ボックスを開いた。
中から必要最低限の道具を取り出し、アイテムポーチに詰めていく。
(ジュンキは話し合いで解決を図るだろうけど…もし決裂したら…)
恐らく、ジュンキは力づくで止めるだろう。そう、祖龍ミラルーツの人間駆逐計画を力づくで止めたように…。
クレハはアイテムポーチに道具を詰め終わると、続いて2組の双剣を手に取った。その内の1組…自分が強化してきた「ゲキリュウノツガイ」を見つめる。
(この一件で、私のハンターとしての全てが終わるかもしれない…)
次に、師匠から受け取った「紅蓮双刃」を見つめる。
(師匠…。私…これでいいんですよね…?)
クレハはギュッと目をきつく閉じ、そして見開くと立ち上がった。
背中に2組とも装着し、収納ボックスの蓋を閉じる。
そして部屋を出ようとして立ち止まり、部屋の中を見渡した。
「また…2人で過せるよね…?」
一言漏らし、部屋を出るクレハ。そのまま酒場には寄らず、ココット村行きの竜車に乗り込んだ。
「これで、ジュンキに追い付けるはず…」
シュレイド城へ竜車で迎えば、かなりの日数が必要になる。そこでクレハはザラムレッドかセイフレムにお願いし、シュレイド城まで運んでもらうことを考えた。
そうすればジュンキより先にシュレイド城に着き、合流することができるだろう。
しかしクレハは知らない。ジュンキもクレハと同じことを考え、いち早くシュレイド城へ向かおうとしていることを。
「クレハちゃん…!?」
飛び込んできたクレハの姿に、セイフレムは深緑の瞳を見開いた。
「セイフレム!お願いがあるの…!」
クレハはセイフレムの前で止まると、乱れた呼吸を整えようと何度も深呼吸を繰り返した。やがて落ち着いたところで顔を上げ、セイフレムにお願いする。
「私を、シュレイド城まで運んでくれない…?」
「…!」
クレハの言葉に、セイフレムは再び深緑の瞳を見開いた。
「…セイフレム?」
「…彼を、ジュンキ君を追うの?」
セイフレムの言葉に、今度はクレハが驚く番だった。
「どうしてそれを…?まさか…!」
クレハは慌てて周囲を見渡す。そういえば、いつもセイフレムの隣に居るはずのザラムレッドの姿が無い。
ジュンキも同じ考えだったと悟り、クレハは力無く笑ってしまった。
「考えてることは同じかぁ…」
「クレハちゃん…」
俯くクレハに、セイフレムが心配になって声を掛ける。
するとクレハは何とも言えない表情で顔を上げ、再びセイフレムにお願いした。
「セイフレム、私はジュンキを助けたい。お願い!私をシュレイド城まで運んで…!」
クレハの言葉に、セイフレムはゆっくり頷いた。
「…ちょっと待ってて」
セイフレムはそう言い、クレハに背を向ける。そして先程砂を被せて隠した双剣を口に咥え、クレハに差し出した。
「これって…!チヅルちゃんの…!?」
クレハは驚きのあまり両手が震え、セイフレムから受け取ったチヅルの双剣を危うく落としてしまいそうになった。
「チヅルちゃんの…封龍剣…超絶一門…!どうしてこれを…!?」
「…ジュンキ君がチヅルちゃんの亡骸を持ち帰った後に、この巣穴の中に落ちていて…。今まで黙っていてごめんなさい。これは私の罪だということを忘れない為にも、私が持っていたの…」
「そんな、罪だなんて…。でも、ありがとう」
クレハはセイフレムから受け取った「封龍剣・超絶一門」を静かに地面に置くと、背中の「ゲキリュウノツガイ」と「紅蓮双刃」も外して地面に置いた。
大切な3組6本の剣。
クレハは少し考え、やがて決心したように一度頷いた。
「決めた。全部持っていく」
クレハはまず自分の双剣「ゲキリュウノツガイ」を手に取り、普段通りに背中へと装着した。
次にチヅルの双剣「封龍剣・超絶一門」を手に取り、腰の両側に括り付ける。
最後に師匠の双剣「紅蓮双刃」を、スカート状に広がって脚を保護しているレイアSフォールドの内側へ、隠すように装着した。
「これでよし…と。お待たせ」
クレハは準備を終えてセイフレムに笑顔を見せたが、セイフレムは寂しそうな、それでいて悲しそうな目線を送ってきた。
「…本当に行くのね」
「うん。私がいないと、ジュンキの背中が危ないから」
「…分かったわ。もう私は何も言わない。さあ、乗って」
セイフレムはそう言って右脚を差し出す。
クレハが脚に乗ったことを確認してからセイフレムは翼を広げ、大空へと飛び上がった。
そしてシュレイド城の方へ…ジュンキとザラムレッドが飛んで行った方へと突き進んでいく。
「ジュンキ君が夫と共に飛び去ってから、ほとんど時間が経ってないの。もしかしたら追いつけるかもしれないけど…でも…」
「うん、分かってる。空を飛ぶことに関しては、リオレイアよりリオレウスの方が上手だもんね。無理に追い付こうとしなくていいからね」
「ごめんなさいね、クレハちゃん…」
クレハはジュンキがつい先ほど通って行ったであろう空の先を見つめる。ジュンキがシュレイド城へ着く前に追いつければ一番良いのだが、恐らく無理だろう。
「ジュンキ…」
今のクレハにできることは、ただジュンキの無事を祈ることだけだった。