モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 暴かれた真実 02

ミナガルデの街は相変わらず活気に満ち溢れ、しばらくの間とはいえココット村に滞在していたジュンキとクレハにとっては立派な騒音だった。

苦い顔をしながら竜車を降り、酒場を目指す。

「そういえば、ショウヘイとユウキはここを拠点に活動しているんだよね?いるかな?」

パーティ解散後、しばらくはショウヘイとユウキがココット村を活動拠点にし、ジュンキとクレハがミナガルデの街で活動していた。

しかし、ジュンキと結婚したクレハが静かに暮らしたいと駄々をこね、ジュンキとクレハはショウヘイとユウキの活動拠点とを交換した経緯がある。

「どうだろうな。狩りに出ていたら会えないだろうし…。会えたら良かった、くらいに考えておいたほうがいいと思うぞ」

「そうだよね。久しぶりに会いたかったなぁ…」

他愛のない会話を交わしながら、ジュンキとクレハは酒場の中に入った。ここも相変わらず騒々しく、汗と煙草の臭いが酷い。

「うえ~、久しぶりだから臭いがキツイ…」

クレハはあからさまに嫌そうな顔をし、右手の親指と人差し指で鼻を摘まんだ。

「ベッキーは…相変わらずか」

ジュンキはベッキーを探したが、そのベッキーも相変わらずカウンターの同じ場所に立って書類の整頓をしていた。そこへジュンキとクレハが近づくとベッキーは顔を上げ、一瞬再会を喜ぶような笑顔を見せてたが、すぐに真剣な顔つきになってしまう。

「久しぶりね、ジュンキ君、クレハちゃん。新婚生活、上手くいってる?」

「ありがとうベッキー。私たちは大丈夫」

ベッキーはクレハの返事に微笑みながら頷いたが、やはりすぐ真顔に戻ってしまう。

「急に呼び出したりして悪いわね。ここだと話しにくいから、奥で…」

ベッキーの提案に、ジュンキとクレハは頷く。

ベッキーは両手に持っていた書類をカウンター内のテーブルへ無造作に置くと、カウンターから出て「こっちよ」と酒場の奥へと入っていった。

 

ジュンキとクレハが通されたのは、今まで何度も入ったことがある会議室だった。

中央に設置されているテーブルにジュンキとクレハが並んで座り、ベッキーが向かい合うよう座る。

「どこから話すべきかしら…。そうね、まずはあなた達の心配を無くすことから話しましょう」

「と、言うと?」

「シュレイド王国軍に動きがある。これはモンスターを大量に狩ったりしている訳ではないわ。その点は安心して」

シュレイド王国軍が再びモンスター、特に飛竜の虐殺を加速させているのだろうかと密かに心配していたジュンキとクレハだったが、その心配は無いらしい。2人は一度顔を見合わせると、小さく安堵のため息を吐いた。

「じゃあ、その動きって何?」

クレハが尋ねると、ベッキーは目を閉じて黙考する。

「…そのことを話す前に、まずはハンターズギルドとシュレイド王国の関係を話す必要があるわ。長い話になるけど、いいわね?」

ベッキーの提案に、ジュンキとクレハは頷く。ベッキーは再び目を閉じ、言葉を選びながら説明を始めた。

「まず、ハンターズギルドの生い立ちから。ハンターズギルドは、様々な人…これには村や街も含まれるけど、そこからモンスターを討伐してほしい、捕獲してほしいといった依頼を受け、それを達成することを目的とした営利団体よ。依頼者の代わりにハンター達に依頼し、達成したら報酬を支払う…。ハンターズギルドは依頼者とハンターの仲立ち。これは分かるわね?」

ベッキーの問い掛けに、ジュンキとクレハは黙ったまま頷く。ベッキーも一度頷いてから言葉を続けた。

「でも、ハンターズギルドが組織として成立する前は、シュレイド王国軍がその役割を担っていたの」

初めて聞かされる過去の歴史に、ジュンキとクレハは素直に驚いた。だがベッキーは話を止めない。

「この大陸が長い戦争の果てに、シュレイド王国によって統一された。戦争が終われば、軍の存在価値が薄まる。戦わなければただの穀潰し集団だものね。そこでシュレイド王国軍はモンスターの討伐依頼を受けるようになったの。でも、シュレイド王国軍はあくまで対人戦に特化した集団。成果は思わしくなかったみたい。それでもシュレイド大陸内に頼れる組織はシュレイド王国軍しかなかった為、大陸中の依頼者はシュレイド王国軍を頼ったわ。仕方なく、ね。だけど、シュレイド王国軍は上位階級を狙った内部抗争が絶えなかったり、汚職、贈収賄の繰り返しで、酷い有様だったみたい。依頼達成率も下がる一方…。そこでハンターズギルドが設立されたの」

ベッキーは一度言葉を切り、唾を飲み込む。

「ハンターズギルドは営利目的の私設組織。成果を上げなくては倒産してしまう。ギルドの職員は真面目だったわ。そして、実際にモンスターと戦うハンターも対竜戦のプロ集団。働かないとお金が出ないから、ハンター達も真剣。シュレイド王国軍に対する依頼はハンターズギルドに流れ、シュレイド王国軍は本当に穀潰し集団に成り下がった…」

「国営組織は動いていなくても予算が降りて、給与が出るからな」

「ハンター達は毎日を生きるために必死だったってことだね」

ジュンキとクレハの意見にベッキーは嬉しそうに頷き、説明を再開する。

「ハンターズギルドの台頭により、シュレイド王国軍は用無しになってしまった。国内では軍の不要論まで出始める始末…。シュレイド王国軍はハンターズギルドを大層恨んだらしいわ。今でも変わらないけど、シュレイド王国軍とハンターズギルドの関係が悪いのは昔から、それこそハンターズギルドの創設からなのよね」

ベッキーはここまで言うと立ち上がり「水でも飲まない?私、喉渇いちゃった」と言い残して会議室から出てしまった。

「…シュレイド王国軍とハンターズギルドの関係って昔からだったんだね」

「言ってしまえば、商売敵みたいなものだからな」

「…ベッキーの話、まだ続きそうだね」

「もう飽きたのか?」

「ううん。飽きてはないけど疲れちゃった」

クレハはそう言うと、テーブルに突っ伏した。

「竜車に揺られてミナガルデの街に来てすぐだからな。でもベッキーはクレハのそういうところ、ちゃんと分かっているみたいだぞ」

会議室に戻ってきたベッキーを見つつ、ジュンキはそう言った。

ベッキーが持ってきた3つのグラス。その中のひとつは果物の搾り汁だったからだ。


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