翌日も、フェンスは村への仕入れ作業に追われるカズキを放り、ジュンキという人物探しを続けていた。
今日はショウヘイも一緒に探してくれるというので、フェンスとしては大助かりだった。
「ショウヘイさんも忙しいでしょうに、ありがとうございます」
「俺の用事はもう終わっているから、フェンスが気負う必要はないぞ」
「そう言って貰えると助かります」
フェンスはショウヘイに連れられて、武具工房を訪れた。ジュンキという人物もハンターなので、情報収集の傍ら、もしかしたら本人が現れるかもしれないというショウヘイの考えだ。
武具工房の中へ入るのは昨日を含めてこれで2度目のフェンスだが、中の温度の高さには慣れない。強力なモンスターから得られる強力な武具を加工するためには非常に高い温度が必要で、フェンスとショウヘイが立っているカウンターの外側からでも火山の噴火口のような炉の熱を感じることができた。
そんな武具工房へは、まだ朝と呼んでも違和感がない時間帯なのに多くのハンターが訪れていた。
「僕が聞き込みをしますので、ショウヘイさんはジュンキさんが現れないか見ていてくれませんか?」
「分かった。こちらは任せてくれ」
ショウヘイの了解を得て、フェンスは早速聞き込みを始めた。
武具工房に用事があるハンター達の足は途絶えず、フェンスは延々と聞き込みを続けていった。そして武具工房からフェンスとショウヘイ以外のハンターが居なくなったとき、外の太陽は空高くに昇ってしまっていた。
「ショウヘイさん、どうでしたか?」
「残念だけど、ジュンキは現れなかったよ」
「そうですか…」
「どうする?少し休むか?」
「そうですね…。お昼にはまだ早いですけど、小腹が空いてしまいました」
「少し早いが、カズキを誘って昼食にするか」
ショウヘイの提案にフェンスが頷きかけたその時、武具工房の外、ドンドルマの街中から警鐘が聞こえてきた。
「ショウヘイさん…?」
フェンスが堪らず声を上げると、ショウヘイも眉間に皺を寄せたまま口を開いた。
「あれは古龍接近警報だ…。フェンス、まずはカズキと合流しよう」
「はい…!」
フェンスはショウヘイに連れられて武具工房を出る。混乱する街中を駆け足で通り抜け、2人は大衆酒場へと入っていった。
大衆酒場の中は街のハンター達でごった返していた。ギルドへ情報を求める声や仲間を呼ぶ声で非常に騒がしくなっていて、フェンスは眩暈を覚えるほどだった。人の波を押しのけ、先行するショウヘイを見失わないようフェンスは追う。そして壁際まで移動すると、そこにはカズキの姿があった。どうやら有事の際はこの場所に集まることが、カズキとショウヘイの間で既に決められていたようだ。
「…カズキ」
「ん?ああ、ショウヘイ。フェンスも一緒か」
「状況は?」
「俺もこれから知るところだ」
カズキがそう言ってカウンターの方を顎で示す。フェンスとショウヘイがカウンターの方を向くと、丁度ユーリがカウンターの上に任王立ちして口を開かんとしているところだった。
「ユーリも相変わらず大胆だな…」
カズキは声を出して苦笑いを浮かべ、ショウヘイも頬の端を少し上げていた。
ユーリがカウンターの上に立ったことで、ハンター達の声が徐々に静まっていく。やがてこの場にいる全員の口が閉じると、ユーリは右手に握っていた紙を広げて読み上げ始めた。
「ハンターズギルドより、古龍接近のお知らせです!現在、ドンドルマの街へ古龍が接近しています!観測員の目視確認によると、赤銅色のクシャルダオラだそうです!」
クシャルダオラという名前はフェンスも聞いたことがある。風を自在に操る龍で、生きる災害だとジャンボ村の村長が言っていた。クシャルダオラという名前には街のハンター達も驚いたようで、大衆酒場が騒がしくなる。
「赤銅色のクシャルダオラか…」
「カズキ…?」
カズキも隣で苦い声を上げたので、フェンスは思わず声を掛けてしまう。すると、カズキは赤銅色のクシャルダオラについて説明してくれた。
「クシャルダオラは一定のサイクルで脱皮するんだ。鋼のような曇った銀色の体表が徐々に錆び、やがて脱皮する。脱皮の直前は身体全体が赤銅色になるんだが、性格が荒くなってしまうんだ。脱皮の直前はデリケートってことだな。だからクシャルダオラ…特に脱皮直前の奴は街をよく襲う」
フェンスは「ふぅ~ん、なるほどね~」と何となく頷いていたが、ユーリが再び声を上げたのでそちらの方を向いた。
「クシャルダオラの予想到達時刻は今日の日没前です!ハンターの皆さんには迎撃を要請します!」
ユーリは言い終わると、すぐにカウンターから降りてしまった。大衆酒場のハンター達も解散し、それぞれのパーティごとに対策を練り始めたり、大衆酒場から出て行ったりする。
「カズキ、僕たちはどうするの?」
「どうするも何も、決まってるじゃないか。クシャルダオラを迎え撃つんだよ」
カズキは当然の如く言ったので、フェンスは「ええっ!?」と驚きの声を上げてしまう。
「ぼ、僕には古龍の相手なんて無理だよ!イャンクックどころか、ドスランポスでさえまともに戦えないのに!」
フェンスの必死な訴えを、カズキは「大丈夫大丈夫!危ないと思ったら逃げればいい!」と一顧だにしなかった。フェンスはカズキの反応に顔を俯かせてしまったが、ここでショウヘイが助け船を出してくれた。
「カズキ、フェンスは古龍どころか飛竜との戦闘経験もないんだ。もう少し考えてみたらどうだ?」
「分かってるって。冗談に決まってるだろ?俺は悪魔じゃない」
悪魔め、とはフェンスの心中である。カズキはフェンスの顔を上げさせると、いつもと変わらない眩しいくらいの笑顔で言った。
「相手は古龍、クシャルダオラだ。だがこれも経験だと思う。戦わなくていい。端の方で見ているだけでいいから、参加したらどうだ?」
確かに、カズキの言うことも分かる。
フェンスは戦わないことを条件に、クシャルダオラ迎撃戦へ参加することを決めたのだった。