その日、ジュンキはミナガルデの街の噴水広場で街の外の森を眺めていた。以前ならそこには深い森があったのに、今ではシュンガオレンとの戦いの影響で丸裸になってしまっている。
視線を空に移し、遠くを飛んでいる飛竜を見つめていると、背後から近寄ってくる足音に気が付いた。しかし振り返ったりはせず、相手から話し掛けてくるのを待つ。
「…ジュンキ、こんなところで何してるの?」
「ん~?」
話し掛けてきたクレハはジュンキの左隣に並び、ジュンキと同じく街の外の森や空を見つめる。
「…大きな出来事だったなと思ってさ」
「そうだね。みんな、元気かな…?」
「…きっと元気だよ」
ジュンキ、ショウヘイ、ユウキの3人で作ったパーティは徐々に大きくなり、ミラルーツと戦った時には7人にまで膨らんだのだが、今は解散してしまっている。
ミラルーツとの戦いを終えて、ザラムレッドやセイフレム、ミラボレアスとはココット村で別れた。ザラムレッドとセイフレムはこれまでと変わらない日々を送り、ミラボレアスは兄達を殺した責任を取って、これからの竜の世界を引っ張っていくらしい。
リヴァル達は揃ってドンドルマの街に戻ると、そこにはシュレイド王国軍が待ち構えていた。街に入れないと立ち往生していると、街の外で待っていたベッキーとユーリに案内されてハンターズギルド専用の出入り口から街に入り、ミラルーツ戦の報告も大衆酒場ではなく、ハンターズギルドの会議室で秘密裏に行われた。そして、ベッキーからパーティを解散すること薦められたのだ。現在、ミナガルデの街やドンドルマの街、さらにはココット村やポッケ村にまで王国軍の手が伸びているというのだ。
7人パーティはただでさえ目立つ。そこでリヴァル達は、パーティを解散させることにしたのだった。
「ショウヘイとユウキは、ココット村に戻ったんだよね?」
クレハの問い掛けに、ジュンキは頷く。
「俺とショウヘイとユウキの生まれ育った村だからな。クレハはまだ行ったことが無いと思うけど、ショウヘイやユウキの家もちゃんとあるんだぞ?」
「へえ~!そうなんだ!」
クレハは「今度行きたいな~」と笑顔で言うので、ジュンキは「普通の家だぞ」と言っておく。
「カズキも生まれ育った村に帰ったんだよね?確か…ジャンボ村だっけ?私、初めて知ったよ」
カズキの出身は、パーティメンバーの誰も知らなかった。カズキが言うには拓かれたばかりの新しい村で、これからは村の手伝いをしていく予定らしい。「暇があったら来いっ!」というのがカズキの残した言葉だ。
「俺もカズキの出身を知らなかったからな。南の方の暖かい村らしいぞ」
「一度行ってみたいね」
「だな。…リヴァルとリサはポッケ村に戻ったんだよな」
「そうだね。これからは兄妹仲良く暮らします、っていうのが、リサちゃんの言葉だよ」
リヴァルとリサは血の繋がった兄妹だった。失われた家族の時間を、2人はこれから取り戻していくのだろう。
「そして、私たちはミナガルデの街に戻ってきた…」
クレハは街の方を振り返って言った。ジュンキもクレハと同様に、街の方を振り向いてから口を開く。
「ベッキーが、あなたたちはハンターズギルドの目の届くところにいて欲しい、だっけ?」
ジュンキの言葉にクレハは「そうそう…」と頷く。するとジュンキは再び街の外の方を振り向いた。
「…そういえばさ、さっきからどうしたの?街の外なんか見て」
「ん、いや…。あんなに大きな出来事があったのに、この世界は何も変わらなかったんだなって思ってさ…」
ジュンキの言葉にクレハは首を傾げたが、すぐにジュンキの言いたいことを理解してくれたみたいで、相槌を打ってくれた。
「…確かにそうだね。ミラルーツによって、この世界は崩れかけたのに…」
ミラルーツの人間駆逐計画は、この世界から、少なくともこの大陸から人間を排除するものだった。この街を行き来しているハンター、ギルド職員、商人、旅人、住人。全てが消え去りそうだったのだ。
それなのに、結局何も変わっていない。
「それでも、世界は環り続けている。こうやって、何も変わらないまま…。もちろん、ミラルーツを止めることができて嬉しいけど、寂しくもあるんだ…」
ジュンキの言葉を聞いて、クレハは言葉を慎重に選んでから、ゆっくりと口を開いた。
「…確かに何も変わらなかった。でも、変わらないままでもいいと、私は思うよ」
「…まあ、そうだな。無理に変わる必要はない…か」
「…でも、変わったものもあるよ?」
「え…?」
一瞬の間を置いてからクレハが声を上げたので、ジュンキはクレハの方を向いた。
「例えば、私の気持ちとか…さ…」
クレハは消えそうな声でそう言い、手すりに乗っているジュンキの右手の上に、自身の左手を重ねた。ジュンキは驚いてクレハを見るが、当の本人は恥ずかしそうに目線をジュンキから逸らし、顔をほんのりと赤らめている。
「チヅルちゃんが死んで私が大泣きした時、ジュンキは私を受け止めてくれたよね。嬉しかった…」
クレハの言葉に、ジュンキも徐々に顔が赤くなっていく。
「ポッケ村に活動拠点を移した後も、私の下手な料理を食べてくれたり、一緒に寝てくれたり…。狩りの最中には、何度も助けてくれたよね。…ありがとう」
クレハの言葉を聞き終えて、ジュンキは高鳴る胸の鼓動と乱れる呼吸を必死に抑えながら、真剣に言葉を選ぶ。
「そんな…。俺かって、クレハの笑顔を見ていると元気になる。クレハには、いつも笑顔でいて欲しい…」
話し終えると同時に、ジュンキはいつの間にか下を向いていた顔をゆっくりと上げる。すると、クレハと目が合ってしまい、お互い言葉に詰まってしまった。
「…」
「…」
どれくらい見つめ合っただろうか。ほぼ同時に、ジュンキとクレハが互いの顔を近づけた。2人の距離はゆっくりと狭まり、やがて唇が重なる―――。
ガタンッ!と大きな音が間近で聞こえたのでジュンキとクレハは驚き、飛び退いてしまった。そして物音の主を見つめる。それは、酒場で使うのだろう何かが入っている木箱を落としたベッキーだった。
「べ、ベッキー…!」
クレハの声を聞いて、ベッキーは慌てて落とした木箱を拾い上げた。
「あっ…!ご、ごめんなさい!邪魔する気は無かったの!ただ、驚いてしまって…!」
ベッキーは「ごめんねーっ!」と叫びながら、走って行ってしまった。そして呆然と立ち尽くすジュンキとクレハはすぐ我に返り、自分たちがこれから行おうとしていたことを思い返して赤面する。
「…」
「…」
お互いに何を言い出せば分からず困り果てていると、ジュンキとクレハの腹の虫が鳴いた。そしてクレハが照れ臭そうに笑ってから口を開く。
「…ご飯にしよっか」
「…そうだな」
差し出されたクレハの手をジュンキが握る。
ふたりは手を繋いだまま、酒場の入り口をくぐったのだった。
(MH3rd おわり)
読者の皆さん、こんにちは。
今日はMonster Hunter 3rd Storyを最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
この3rd Storyは、私が中学3年生の頃に、友人である平○君と2人で書いたリレー小説が原作になっています。
1st Storyは私がひとりで書いたのですが、2nd Storyと3rd Storyは私と、私の1st Storyを読んで共感し、一緒に書きたいと言ってくれた同じクラスの平○君と交互に書きました。
お互いの考えていることは伝え合わず、自分たちの思うがままに書いたこの3rd Storyは、A4ノート3冊という大容量でした。
今でもそのノートを大切に保管しています(中巻は紛失してしまいましたが…)。
しかし、私や平○君は中学卒業を迎えてしまい、続きの物語…つまり4th Storyを書くことが出来なくなってしまいました。
今、私の手元にある原作を読むと、1st Storyから3rd Storyの3部作で物語は完結しています。
私も平○君も中学卒業を意識し、話をまとめたのだと思います。
しかし私は中学卒業後も妄想を続け、独自に物語を発展させていきました。
独自で4th Storyを考えたりもしましたが完成せず、今でも未完です。
高校入学後は部活動が忙しかったりと手を着けなかったのですが、妄想だけは続きました。
企画書も書いては消して、書いては消して…。
中学卒業後に平○君とは別れて連絡を取っていないのですが、私と平○君を助けてくれたT君とは違う高校に通っていても半年に1度くらいは会い、一緒に続きを考えてきました。
大学生になった今でも、T君にはお世話になっています。
そしてとうとう、平○君と共同で書いた3rd Storyを再編集、掲載、完結させることができました。
私は今、非常に大きな達成感を感じています。
ここから先は原作のない、完全オリジナルの話が続きます。
企画書は私の頭の中。
中学時代に1度は完結し、その後も引きずってきた物語を終わらせる時が、まだその日は遠そうですが、確実に近づいてきています。
物語を本当に完結させた先に何が待っているのか、それは私には分かりません。
物語を完結させるその日まで、お付き合い願えたら幸いです。
最後に、お礼を。
私の小説活動に賛同し、一緒に書いてくれた平○君。
大学生になっても妄想を続けている私に付き合ってくれるT君。
キャラクターの名前を提供してくれた私の大切な友人たち。
ありがとう。
願わくばいつの日か、この物語が平○君に読まれますように。
2011.12.22 大学のパソコン室で
2012.01.30 自宅にて追記
2013.07.19 再掲載にあたり、加筆修正
2014.06.23 少し修正