「馬鹿な…!?どうして現代に、完全な竜人が出てくるのだ…!?」
ミラルーツは誰が見ても動揺していた。そこへミラボレアスが身体を起こして口を開く。
「兄者の血が、彼を目覚めさせたのです。次兄ミラバルカンと同じように…」
「…!」
「その時は彼が完全たる竜人となり、次兄は倒された…」
ミラボレアスは鼻でジュンキを指してそう言うと、ミラルーツはリヴァル達でも聞き取れるくらいの音量で歯軋りした。
「私も愚かなミラバルカンと同じと言いたいのか!私は、あんな無様な死に方はせん!」
ミラルーツは吐き捨てるようにそう言うとリヴァルの方を振り返り、言い放つ。
「例え目の前に立ち塞がるのが人と竜の仲介者、2種族間の希望の光であっても、私の計画の邪魔をするというのならば容赦はせん!」
ミラルーツは身体を反らせてブレスを溜めると、一気にリヴァル目掛けて放った。リヴァルはそれを避けようとはせず、黙ったまま大剣「オベリオン」を構えた。
そしてミラルーツのブレスがリヴァルに当たる直前、ブレスはリヴァルを中心に2つへ割れて飛んでいった。
リヴァルが、ミラルーツのブレスを斬ったのだ。
「私のブレスを斬ったか…!」
ミラルーツの顔が苦虫を噛み潰したように険しくなる。
「それだけか…?なら、今度は俺からいくぞ…!」
リヴァルはそう言うと、大剣「オベリオン」で地面を叩きつけた。すると地割れが一直線にミラルーツへと迫り、地割れの中から剣山のように鋭い岩が何本も突き出てくる。
「くっ…!」
ミラルーツは慌てて飛び上がり、リヴァルの攻撃を回避する。ミラルーツはそのまま高度を上げ、どんどん小さくなっていく。こうなるとリヴァルでもどうしようもない。すると、ミラボレアスが話し掛けてきた。
「完全なる竜人よ。私の背中を使って下さい」
「…頼む」
リヴァルは一度頷くと、ミラボレアスの背中に登った。
「儂も、いつまでも寝ていられんな…」
その声と共に、端の方で横になっていたザラムレッドが起き上がる。
「大丈夫なのか?」
ザラムレッドに一番近いショウヘイがザラムレッドの負傷を気にかけたが、ザラムレッドは「案ずるな」とだけ言って飛び上がった。ミラボレアスと共に飛び上がり、ミラルーツを追いかけて高度を上げていく。
ミラルーツは逃げようとはしておらず、ただ空に上がっただけのようだった。
「…逃げないんだな」
ミラルーツと同じ高度に達してから、リヴァルはそう口を開いた。
「もう私には後がないのだ!ここでお前たち竜人を血祭りに上げないと、私の計画への信頼性が失われ、今まで付いてきた同志たちも私のもとを去ってしまうだろう!故に私は逃げぬ!…いや、逃げられんのだ!」
ミラルーツはそう言うと、リヴァルへ噛みつかんと口を大きく開いて、ミラボレアスの上のリヴァルへ迫る。リヴァルはそれをミラボレアスから飛び離れることによって回避し、ミラルーツとすれ違いざまに背中を斬りつけ、ミラルーツを挟んで反対側を飛んでいるザラムレッドの上に着地する。ミラルーツの背中からは新たに血が噴き出し、雨のように地上へと降り注ぐ。
「ぐうあああぁぁぁ…!」
「お前の負けだ。諦めろ」
「私は負けん…!負けんぞおおおっ!」
ミラルーツはリヴァルを捕えようと前脚を伸ばすが、リヴァルはザラムレッドから大空へと飛び、すれ違いざまに斬りつけて、ミラボレアスの上に着地する。すると、ミラルーツの両前脚が音もなく本体から切り離され、落下していった。切り口からは川の流れのように血液が滴り落ち、ミラルーツの悲鳴が雲海にこだまする。
「ああああああああッ!!!私の腕があああああッ!!!」
「…」
リヴァルは黙ったまま、叫び暴れるミラルーツを見つめる。そのミラルーツが鬼のような形相でリヴァルを睨むと、噛み殺そうと牙を向ける。
「死ねえええ竜人―ッ!!!」
ミラルーツの突撃にリヴァルは跳躍し、ミラボレアスは高度を下げて回避する。
「どこへ…!?」
ミラルーツは周囲を見渡した後、頭上を見上げて目を見開いた。リヴァルが大剣「オベリオン」を構え、一気に降下してきているのだ。
「来いっ!噛み殺してやるわ!」
リヴァルは黙ったまま、ミラルーツへ降下を続ける。
その時、ミラボレアスとザラムレッドがリヴァルの背後へとブレスを放った。ミラボレアスの巨大なブレスにザラムレッドのブレスが混じり、それが雲を突き抜ける。
そしてミラルーツへ突き刺さるように太陽の光が差し、ミラルーツは一瞬だが目を閉じて顔を逸らせてしまう。そこへリヴァルの大剣「オベリオン」が、ミラルーツの右翼を根元から切り裂いた。
「ぐうううううおおおおおああああああああああッ!!!!!」
ミラルーツの悲鳴。
しかし、リヴァルの大剣「オベリオン」はミラルーツの翼の骨格や筋肉に遮られしまい、翼を切断することはなく、その中間で止まってしまった。
「しまった…!」
完全な竜人になって初めて、リヴァルの顔に焦りが出る。そこをミラルーツが狙わないはずがなかった。
「せめて…ッ!お前だけでも殺してやるぞ…ッ!」
ミラルーツの翼に刺さった大剣「オベリオン」にぶら下がる形のリヴァルに、ミラルーツの牙が迫る。
殺される。
そう思ったリヴァルの横を、何かが目に見えない速さで上空へと駆け上っていった。「それ」にはリヴァルもミラルーツも気を取られ、つい見上げてしまう。太陽に重なってしまい色は黒一色だが、それは竜だった。その竜から何か飛び出し、リヴァルとミラルーツのもとへと降りてくる。それは人だった。大きな剣を持った人。
「ジュンキ…?」
自然と、名前が口から出た。
「やっぱり、俺がいないと駄目か?」
ジュンキは大剣「ジークムント」を構えると、リヴァルが通った刃の道をなぞり、リヴァルの大剣「オベリオン」を上から叩き付けた。リヴァルとジュンキの大剣が、ミラルーツの右翼を根元から断つ。
ミラルーツはこれまで以上に悲惨な声を上げて地上へと落下していき、リヴァルとジュンキはミラボレアスの背中に着地した。
ミラルーツが落下してくるのを見て、リサ達が逃げているのがよく見える。やがてミラルーツは土煙を上げて塔の上に落下したのだった。
塔の上に降り立つと、リヴァルの背中から生えたリオソウルの翼はリヴァルの身体へと沈み込んでいった。そしてリヴァルとジュンキはリサ達に迎えられて、横たわるミラルーツの前に立つ。ミラルーツは閉じていた目を開くと、息も絶え絶えに語り始めた。
「私の…負けか…。これで竜たちの希望は…私の翼のように…断ち切られてしまった…」
「兄者…」
ミラボレアスの声に、ミラルーツは顔を上げた。
「弟ミラバルカンは死に、私ももうすぐ死ぬ…。これから訪れるであろう暗黒の時代を…お前が治めてみよ…」
「分かっています。兄者達に刃向った、私の責務です」
ミラボレアスの言葉を聞き終えると、ミラルーツは目線を竜人達―――リヴァル、ジュンキ、クレハ、ショウヘイ、リサへと向けた。
「竜人たちよ…戦う前に言ったこと…覚えているか…?お前たちは…世界のために…人を斬れるのかと…私は問うた…。そしてお前たちは答えたな…?できる…と…」
ミラルーツの言葉に頷いたのは、そう宣言したジュンキだけ。それでもミラルーツは満足したのか、表情を緩めて小さく頷いた。
「…教えてくれないか?」
ここでリヴァルが声を上げた。この場にいる全員の視線が集まる。
「どうして人間を滅ぼそうとした?その真の理由を聞かせてくれ」
ミラルーツはリヴァルの言葉を聞いて、一度考えるように目を閉じた。
「竜が…人間に滅ぼされるからだ…」
「その竜を滅ぼそうとしている人間って誰なんだ?教えてくれ」
リヴァルの言葉を聞いて、ミラルーツは一度竜人達の顔を見てから口を開いた。
「お前たちは…本気なのだな…。本気で…我々竜のことを…。よかろう…」
ミラルーツはここで一度言葉を切った。
「奴らは…全員同じ武器を…。同じ防具を着けていた…。先頭に立つ人間が命令を下し…集団で行動するところを私は見た…。その数は千人を下るまい…」
「そんなに…!?」
クレハが驚きの声を上げる。
「奴ら…同じ旗をいくつも掲げていたな…。確か模様が―――」
ミラルーツの言った旗の模様を聞いて、リヴァル達は声を上げて驚いたのだった。
「シュレイド王国軍…!」