モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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4章 それでも世界は環り続ける 08

墜落したミラボレアスにジュンキが思わず駆け寄ると、ミラボレアスはゆっくりと目を開いた。

「私なら大丈夫だ…。それより、兄者を…」

ミラボレアスの言葉に振り返ると、ミラルーツはゆっくりと地面に降り立ったところだった。

「愚かな弟よ…。私が竜人どもを殺した後に、たっぷりと可愛がってやろう…!」

ミラルーツはゆっくりとした動作で、再びリヴァル達の前に降り立つ。言葉こそ力強いものだが、その姿は胸や背中、尻尾から出血し、純白の鱗や甲殻は薄汚れてしまっている。空を飛ぶ動作もどこかぎこちなく、少なからずダメージを受けていることが伺えるのだが。

「もうお前たちを守ってくれる竜はいない…!今度こそ…死ね…!」

ミラルーツはそう言って天に嘶く。すると再び、空から炎に包まれた隕石が降ってきた。

「くっ…!みんな、何としても回避するんだ!」

ジュンキは振り返って叫んだ。実際竜人であるリヴァル、クレハ、ショウヘイなら問題ないだろうが、竜人ではないユウキやカズキ、それに竜人であっても僅かな力しか持たないリサには厳しいだろう。

「…上ばかり気にしていていいのかな?」

背筋が凍るとはこういうことを言うのだろう。

ジュンキは背中に嫌な汗が一気に噴き出したのを感じながら、慌ててミラルーツを振り返った。あんなに距離があったのに、ミラルーツは音を立てずにジュンキの背後へと移動していたのだ。そして左から迫るミラルーツの強靭な尻尾。

「危ないっ!」

ジュンキはもう一度パーティメンバーの方を振り返り、叫んだ。リヴァル達は隕石をどう避けようかと上ばかり気にしていて、ミラルーツの攻撃に気付いていない。

そして、ミラルーツの尻尾はジュンキ以外の全員を弾き飛ばしてしまった。竜人であるリヴァル、クレハ、ショウヘイは受け身を取るなりしていたが、リサ、ユウキ、カズキは何度も地面を転がってしまう。

「手始めに、まずはお前からだ…!」

ミラルーツは舌なめずりをしてから飛び上がり、低空飛行で急接近する。その目線の先には、リサ。

「やめろ…っ!」

リヴァルがミラルーツの狙いに気づき、リサの元へと駆け出す。

迫るミラルーツの牙。伸ばされるリヴァルの右腕―――。

ミラルーツの牙はリサには届かず、リヴァルの右腕に刺さった。

「ぐっ…!」

リヴァルの真っ赤な血液が流れ出る。しかしリヴァルは怯むことなく、ミラルーツを睨む。

ミラルーツはそれを鼻で笑うと、鋭い尻尾をランスのように突き出した。真っ直ぐ心臓を狙ってくるミラルーツの尻尾を回避しようとリヴァルは身体を動かそうとして、留まってしまう。

―――もし今ミラルーツの尻尾を回避すれば、背後のリサが危ない。

リヴァルが短い時間で叩き出した答え、それは急所を外してミラルーツの尻尾を受け止めることだった。

ミラルーツの尻尾は鋭く、リヴァルの右脇腹を防具ごと貫いた。尻尾の先端はリヴァルの背中側から突き出て、リサにリヴァルの血液が降りかかる。

「兄さん…?」

「リサ…無事か…。よかった………―――」

「兄さん…!あぁ…、そんな…!いやぁ…!」

リサが呆然とミラルーツの尻尾に刺されたリヴァルの背中を見ていると、その尻尾がリヴァルの血液と共に引き抜かれた。リヴァルは背中から倒れ、リサはリヴァルの背中を受け止める。

「ふん、邪魔しおって…!」

ミラルーツは寄ってくるジュンキ達に警戒して一度距離を置くべく、今は血で汚れている白い翼を広げて飛び下がった。その様子を見届けてから、リサは胸元のリヴァルへ視線を向ける。

「兄さん!しっかり!」

リサはリヴァルの頭部を守っているリオソウルヘルムを外した。リヴァルの口元からは、真っ赤な血液が流れ出ている。

「リサ…」

「そんな…兄さん…!死なないって…約束…したのに…っ!」

リサの明るい赤色の瞳から、熱い涙が溢れ出す。リヴァルはそんなリサの涙を、そっと拭った。

「大丈夫…。俺は死なない…っ」

「え…?」

リヴァルはそう言うと、まるでミラルーツの攻撃が無かったかのように、軽々と立ち上がった。

「兄さん…!?」

「リサ…。今から端的に説明するから…質問は無しだ…っ!」

リサは無意識に頷いてしまう。リヴァルはそれを見てから一度頷く。

「奴の尻尾が俺に刺さった時…俺の体内に奴の血液が直接入ってきた…。そしてこの回復力だ…。もしかしたら、俺は本当の意味で、竜人になるのかもしれない…」

リヴァルはそう言いながら、ミラルーツの尻尾が刺さった腹部を指さす。確かに傷口は塞がり、出血は止まっている。

「リサ…。これから俺はどうなるか分からないけど…俺たち…兄妹だよな…?」

「…もちろんです」

リサは、何とか笑顔で言うことができた。リヴァルも笑顔で頷くと、その場にしゃがみ込む。

いや、それは「構えた」と表現したほうが正しいだろう。

「俺の中の竜が…目覚めるのか…?」

リヴァルは背中から大剣「オベリオン」を下すと目を閉じ、意識を集中する。身体の芯から、何かが這い出てくる、そんな感覚。それは心の臓器から指先へと広がり、全身を包み込む。

「ぐっ…!ああぁ…っ!」

突然、リヴァルの全身を激しい痛みが襲った。リヴァルの身体を動かしている筋肉が急激に膨張しているのだ。

それと同時に、リヴァルは背中に焼鉄を当てられているかのような熱さを伴った痛みを感じ、そして「何かが生えてくる」ような激痛を感じる。

リヴァルは「竜化」したのだ。以前ミラバルカンと戦った時の、ジュンキのように。

 

「あ…!ああぁ…!」

リサは口を両手で押さえ、ただ怯えることしかできなかった。

リヴァルの防具、リオソウルシリーズの胴装備であるリオソウルメイルの背中が弾け飛び、中から深蒼の翼―――本物のリオソウルの翼が生えてきたのだ。翼はリヴァルの身長を超えて成長し、おそらく実物大であろう大きさになってようやく止まる。するとリヴァルは立ち上がり、リサを振り返った。

「兄さん…!」

リサは驚きの声を上げた。リヴァルの瞳がまるでリオソウルのように、瞳孔が縦に割れているのだ。

「こんな姿になっても、俺のことを兄と呼んでくれるのか…?」

「…当たり前です」

リヴァルのいつもと変わらない口調に安心したリサは立ち上がってそう言った。リヴァルは安心したように笑い、「行ってくる」と言って歩き出したのだった。

 

「ジュンキ、あれ…!」

ジュンキはクレハに指差されて振り向くと、そこには完全な竜人となったリヴァルの姿があった。

「リヴァル…!」

「ジュンキ、これなら勝てるかも…!」

「ああ、そうだな…!」

クレハは勝算が高まったことにとても嬉しそうだが、ジュンキは別のことに関して嬉しく思っていた。

「お前は竜人として完全に目覚めた。もう一人前だな、リヴァル…」

ジュンキは人知れず微笑んでから、驚愕の表情を浮かべたまま微動だにしないミラルーツに、大剣「ジークムント」の刃先を向けたのだった。


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