モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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4章 それでも世界は環り続ける 07

「兄者―っ!」

ミラボレアスは大きな声を上げながら、ミラルーツに向かってブレスを放った。

ミラルーツもブレスを放ち、ミラボレアスの放ったブレスを打ち消す。

それでもミラボレアスはブレスを放ち、ミラルーツの気を引く。

その隙に、リヴァル達はミラルーツへ駆け寄る。

「ジュンキ…」

「大丈夫。ザラムレッドは、あれくらいじゃ死なない。きっと…」

途中でクレハが心配そうな顔で話し掛けてきたが、ジュンキはクレハを安心させるためにしっかりと頷いた。2人の頭上をユウキが撃った弾丸が通り、ミラルーツの鼻先に当たる。この隙を逃さず、リヴァル達はミラルーツへ斬りかかる。

戦闘開始直後こそ眩しいくらいに純白だったミラルーツの鱗や甲殻だったが、今はミラボレアスのブレスを受け、リヴァル達の攻撃を受けてか所々黒ずみ、場所によっては出血していた。

ミラルーツは竜の王でも、神ではない。人や竜と同じ、この世界に生きている生物。

必ず倒せる。その希望だけが、リヴァル達を突き動かしていた。

「同じことを何度も何度も…!」

ミラルーツはまとわりつくリヴァル達を、尻尾を使って排除しようと振り上げる。

しかし、振り下ろされた尻尾は低空飛行で飛んできたミラボレアスによって防がれ、リヴァル達には当たらなかった。

「兄者…!」

「邪魔をするなら、例え弟であろうと許さん…!」

ミラルーツは凶悪な牙が生え揃う口を大きく開くと、ミラボレアスの首に噛みついた。ミラボレアスが悲鳴を上げる。

「ミラボレアス…!」

暴れるミラボレアスを抑えるミラルーツに、セイフレムが体当たりをかました。ミラルーツ、ミラボレアス、セイフレムは共に吹き飛び、牙が抜けたミラボレアスはその場から離れる。

「先程から邪魔ばかりしおって…!」

ミラルーツは、今度はセイフレムの首に噛みついた。セイフレムの悲鳴が辺りに響く。

「セイフレムーっ!」

クレハがミラルーツの左脚を斬りつけるも、ミラルーツはびくともしない。リヴァル、リサ、ジュンキ、ショウヘイ、カズキもミラルーツへの攻撃を続けるが、ミラルーツはセイフレムを離そうとしない。

「ジュンキ、行ってくる」

「…無茶はするなよ?」

ショウヘイの言葉をジュンキは一瞬で理解し、呆れたように笑った。ショウヘイは一度頷いてから遊んでいるミラルーツの尻尾に駆け寄り、先端から一気に背中を登っていった。そしてミラボレアスのブレスによって焼け焦げた箇所の中でも一番ひどい場所を、ショウヘイは竜人となって何度も何度も斬りつけた。その度に真っ赤な血液が噴き出し、ショウヘイを赤く染めていく。

やがてミラルーツは悲鳴を上げて暴れだし、セイフレムを離した。ショウヘイは襲い掛かるミラルーツの前脚や牙をかいくぐり、下まで無事に降りてくる。

「セイフレム…!」

クレハが慌てて駆け寄ると、セイフレムは「大丈夫…」と元気のない声を上げた。クレハはミラルーツに噛みつかれた個所を見つけ、思わず眉間に皺を寄せてしまう。ミラルーツの牙が刺さった個所からは真っ赤な血液が流れ出し、セイフレムの深緑色の鱗や甲殻を赤く染めていた。

「今、手当てを―――」

クレハがアイテムポーチに伸ばした腕を、セイフレムは優しく食むことで動きを止めた。

「私のことはいいから、クレハちゃんはミラルーツを…」

「でも…!」

「あなたの居場所は私の隣じゃなく、彼…ジュンキ君の隣でしょう?」

「…!」

セイフレムの言葉にクレハは驚き、思わず青色の瞳を見開いてしまう。

「さあ、行って。あなたは竜人。大切な戦力のはず。大丈夫よ。私も竜のひとり…そう簡単には死なないわ」

セイフレムの言葉にクレハは一瞬戸惑ったものの、やがて一度大きく頷いてから、ミラルーツのところへ駆け出したのだった。

 

「兄者…!」

ミラルーツの正面に、ミラボレアスが立つ。

「兄者ただひとりでは、我々には勝てないでしょう。どうか、降伏を…」

「うるさい…!この裏切り者があああっ!」

ミラルーツは再び噛み付こうとミラボレアスに飛び掛かるが、ユウキの放った弾丸が再び鼻先に当たり、ミラルーツはその場で踏み留まってしまう。そしてミラルーツがユウキを振り向くその瞬間を狙って、カズキが閃光玉を投げた。視界を奪うことはできなくても、一瞬の隙を作り出すために。

そして閃光玉の強烈な光は、ミラルーツにその隙を作らせた。

「いくぞ、クレハ!」

「うん!」

ジュンキとクレハは並んで駆け出す。ふたりは竜人となり、そしてミラルーツの足元で、常人では有り得ない跳躍をしてみせた。

「はああああっ!」

「やああああっ!」

ジュンキが大剣「ジークムント」で右上から左下に1本、クレハが双剣「インセクトスライサー」で左上から右下に2本の筋をミラルーツの胸元に刻む。そしてジュンキとクレハが揃って着地しその場を離れると、ミラルーツの胸元の傷から真っ赤な血液が噴き出した。

「ぐうおおあああ…!?」

ミラルーツは悲鳴を上げて1歩下がる。それと同時に、攻撃が当たらないようにと上げていた尻尾が垂れ下がった。尻尾を挟んでリヴァルとリサは同時に頷き、駆け出す。

「らああああっ!」

「たああああっ!」

リヴァルの大剣「オベリオン」が鱗を切り裂き、リサの「アイアンストライク改」が甲殻を割る。

切断こそ至らなかったが、出血させることには成功した。

「こうなったら…!まとめて始末してやろう…!」

ミラルーツは己を鼓舞するかのように天高く咆哮すると、一気に飛び上がった。リヴァル達を置いて高度を上げ、古の塔の先端部へ鎮座する。

そして、天へ向かって嘶いた。

すると不思議なことに周囲の雲が集まり、雷鳴が轟き始める。そして周囲に落雷を発生させたのだ。その数と範囲は、古龍キリンの比ではない。

「焼け死ぬがいい…!我が怒りの光によって…!」

「そうはさせんぞ…!」

ミラルーツによって発生した落雷がリヴァル達の真上に発生したその瞬間、ミラボレアスが飛び上がりその落雷を受け止めた。

「ミラボレアス!」

ミラボレアスの身体が雷撃に包まれ、光が消えると同時に落下した。

「ザラムレッド…。セイフレム…。ミラボレアス…」

ジュンキは、倒れて動かないザラムレッド、怪我を負い自由に動けないセイフレム、そしてミラルーツの雷撃によって叩き落され、起き上がろうとしているミラボレアスを見渡しながら呟いた。

リオレウス、リオレイア、そして黒龍。3匹がかりで戦いを挑んでも、ミラルーツ1匹倒せないのだろうか。

ジュンキは塔の先端部からこちらを見下ろしているミラルーツを見て、久々の敗北感が胸中に広がっていくのを否定できなかった。


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