リヴァルとリサは、互いの出生から両親の死、そしてポッケ村での出会いから今までのことを包み隠さずジュンキ達に話した。
「水臭いなぁ」
「心配を掛けたくないっていう気持ちは分かるけど、仲間として話して欲しかったなー」
ユウキとクレハの言葉に、リヴァルとリサは「ごめんなさい…」と視線を落としてしまう。
「でも、ま、家族が生きていて良かったな!」
カズキの言葉に励まされ、リヴァルとリサは「はい」と答えたのだった。
「話してくれてありがとう。ショウヘイ、もういいか?」
ジュンキがショウヘイにそう尋ねると、ショウヘイは「ああ。すまなかったな、リヴァル、リサ」と言って組んでいた両腕を下した。
「さあ、今度こそ出発だ。相手は祖龍ミラルーツ。説得を試みるけど、無理だったら戦うことになる。みんな、覚悟はいいな?」
ジュンキがパーティメンバー全員に向かって意思を尋ねると、全員がしっかりと頷き返してくれた。
「じゃあ乗ろうか。俺はザラムレッドに乗るけど、クレハは?」
ジュンキが尋ねると、クレハは「ん~」とミラボレアス、ザラムレッド、セイフレムを見渡した後、一度頷いてから答えた。
「私はセイフレムに乗るね。同じ血を引くもの同士だし」
クレハはそう言ってセイフレムの元へと駆けていった。
「同じ血を引くもの、か。それなら俺は、ミラボレアスと共に行くことにする」
ショウヘイもそう言って、ミラボレアスの元へと歩き出す。
「さて、あとはどうするか…」
ジュンキは残されたリヴァル、リサ、ユウキ、カズキを見て呟く。すると背後からショウヘイに声を掛けられた。
「ミラボレアスの体長はザラムレッドやセイフレムより長い。リヴァルとリサはこっちに来るといい」
ショウヘイに呼ばれて、リヴァルとリサはミラボレアスの背中に乗った。
「俺はジュンキと一緒に行くことにするよ」
「じゃあ向こうでな」
ユウキはジュンキと共にザラムレッドに乗り、カズキはクレハと共にセイフレムに乗る。
「行こう、ミラルーツの元へ…!」
ジュンキの言葉を合図に、5人の竜人と3人の人間、そして3匹の竜と龍は陽が傾きかけた大空へと飛び上がり、ミラルーツがいるであろう古の塔へ向かったのだった。
ミラルーツが指定した古の塔は、深い森を通り、険しい山の合間を縫うように刻まれた深い谷を抜けた先の、そのまた深い森の中心にそびえ立っていた。
誰が何の目的で建てたのかは検討もつかない立派な塔は、悠久の時を経て所々が崩落し、壁面には木の根や葉が絡みついている有様である。
その塔の頂上にミラルーツが横たわっている姿を確認できたのは、視界が古の塔で埋め尽くされるくらいに接近してからだった。
「このまま降りるぞ」
ザラムレッドはジュンキの返事を聞く前に高度を下げ、そしてミラルーツが横たわっている塔の頂上、円状の広場の淵にザラムレッドは降り立った。続けてセイフレムが降り立ち、ザラムレッドとセイフレムの間にミラボレアスも降り立つ。その間、ミラルーツはピクリとも動かなかった。
それぞれの竜から降りたリヴァル達が歩き出そうとしてようやくミラルーツが身体を起こし、あくびをひとつしてから口を開いた。
「来たか、竜人よ…」
ミラルーツの呼びかけに、ジュンキ、クレハ、ショウヘイ、リヴァル、そしてリサが前に出た。
「私の考えに賛同してくれた者たちと同じく、私を説得しようとしても無駄だ。私の計画を止めたければ、殺すしかない…」
「ミラルーツ…。どうしても人間駆逐計画を止める気はないのか?」
ジュンキが一歩前に出て問い掛けたが、ミラルーツは首を横に振った。
「私がこの計画を止めて得られる利点がない以上、止めることは有り得ん…」
「つまり、人間を殺したほうが竜にとって都合がいいってこと?」
クレハがジュンキの隣に出てきてミラルーツに問い掛ける。
「そういうことだ。このまま現状を放置すれば、我々竜は近いうちに滅ぶかもしれん…」
「竜が滅ぶ?それは何故だ?」
ショウヘイも一歩前に出てミラルーツに問い掛ける。
すると、ミラルーツは笑った。
「愚問だな。人が滅ぼすのよ…。我々竜を、この世界からな…!」
「ハンターズギルドは、モンスターが乱獲されないように狩猟制限をかけているはずだ。そんな大事には発展しない」
リヴァルがその場を動かずに言い放つと、ミラルーツは鼻で笑ってから口を開いた。
「狩猟制限だと?まるで人間が我々竜を保護下に置いているようだな。まあ、今はそれが問題ではない…。ハンターと呼ばれる、我々竜を狩る者がいることは知っているが、それとは異なる者どもが動いている…」
「ハンターズギルドではない者ども…?その者が、竜を殺している…?」
リサはリヴァルに一歩寄ってから口を開いた。
「その通りだ。今はまだ準備段階なのか動きは小さいが、最近は行動範囲と規模が拡大してきている。もはや一刻の猶予もならん…!」
「我らが王、ミラルーツよ。極論ではあるが、問題の人間のみを殺してはどうか?わざわざ全ての人間を殺すのは手間ではないか?」
ザラムレッドの言葉には、竜人全員が驚いて振り返った。しかし、ザラムレッドは安心しろと言わんばかりに頷く。
「私としてはそれでも構わない。しかし血気盛んな者達は、果たしてその組織の人間だけを殺せるかな…?」
「そう、だからこそ私はその計画自体に反対だ。人を滅ぼした後、我々に待つのは破滅しかない。人と竜の絶妙な均衡でこの世界は成り立っているのだからな」
ザラムレッドは反対の意を示し、安心した竜人達は再びミラルーツと対峙する。
「しかし、このままでは我々が破滅する。同じ破滅なら、道連れだ…!」
「私たちには竜人がいる。我が王よ、人と竜の仲介者である彼らに、世界の行く末を任せてみてはどうですか?」
セイフレムもミラルーツの説得を試みる。
しかし、ミラルーツは首を縦に振らない。
「事は竜人が解決できる領域を超えている。絶対的な力を持つ私が、直接手を下さねばならん…!」
「兄者、竜人の生まれし定めをお忘れか。世界の均衡が崩れる時、古の竜人が目覚める…。今ここにいる竜人という存在が、兄者の行動を否定しているのです」
「ならば問おう!竜人よ!お前達はその手で人間を斬れるか!我々竜をその手に掛けてきたように!人を手に掛けることができるか!」
「できる!その時が来るならば、竜のために、人を斬る!」
ジュンキは断言したが、ミラルーツはそれを鼻で笑ったのだった。そして純白の翼を広げて飛び上がる。
「戯言を…!貴様ら竜人を排除し、私は人の世界を終わらせる!」
ミラルーツは声高らかに宣言し、天高く咆哮したのだった。