リヴァルは解散となった後、マイハウスの自室に戻って装備を整えてからリサの部屋へ足を運んだ。扉の前に立ち、ドアをノックする。
「はい?」
「俺だ。リヴァルだ」
「リヴァルさん?どうぞ、入ってください。今ちょっと手が離せなくて…」
リヴァルはリサの言葉に疑問を持って少し首を傾げたが、気にせずドアを開けた。
そこではリサがアイテムボックスの前で防具と格闘中で、それでドアを開けられなかったのかとリヴァルは苦笑いした。
「リヴァルさん、どうかしましたか?」
リサは修理した部位を含め、既にフルフルシリーズの脚、腰、胴、左腕を身に着けていた。そして今は右腕にフルフルアームを装着し、外れないように留めている。
「リサ、俺の勝手な意見なんだが…。その…ミラルーツのところへ行くのを…やめてくれないか?」
「…」
リサは黙ったままフルフルアームの装着を終え、机の上のフルフルヘルムに手を伸ばす。
「ハンターは全て自己責任で、個人の判断が最優先されるのは分かっている。けど、俺はお前を失いたくない。唯一残った家族を、失いたくないんだ…」
「…」
リヴァルは必死にリサへ気持ちを伝える。しかし、リサは一言も口にしないままフルフルヘルムの装着まで終えて、アイテムポーチに必要と思われるアイテムを詰め始めていた。リヴァルは説得を続ける。
「まだミラルーツと戦うと決まった訳じゃない。けどこれまでのように、万が一という事がある。用心に越したことはないだろ?な?」
アイテムポーチにアイテムを詰め終えたのか、それともリヴァルの言葉にとうとう怒ったのか、突然リサはリヴァルを振り向いた。リヴァルは驚いて身体を硬直させてしまうが、次の瞬間には安堵のため息を吐いていた。
リサは、笑っていたのだ。
「ありがとうございます、リヴァルさん。そこまで心配してくれているなんて」
リサはそう言ってリヴァルに近寄り、自然な距離を保って止まった。
「でも、私もこの世界に生きる人間。決して無関係ではありません。むしろ私は、ミラルーツの配下であるテオ・テスカトルとキリンをこの手で倒しています。だから私は、最後まで戦う義務があると思うんです」
「リサ…」
「リヴァルさん、そんな悲しそうな顔をしないで下さい。昔の乱暴なリヴァルさんは、一体どこへ行ったんですか?」
「あ、あれは…」
リヴァルはジュンキに叩かれ、リサに説教される以前の自分を思い出し、恥ずかしさのあまりつい顔を赤らめてしまう。
以前のリヴァルは横暴で、口が悪く、聞き分けも悪かった。
「大丈夫ですよ、リヴァルさん。私は死にません。だってもう、私はミナで一度死んでいますから…」
「…リサ」
「それに何かあったら、リヴァルさんが守ってくれるでしょう?」
リサの言葉を聞いて、リヴァルは無意識の内にリサを抱いていた。背中に腕を回し、しっかりと、もう離さないように。
「ああ…。ああ…!必ず、何かあったら、俺がリサを守ってやる…!」
「ありがとう、リヴァ…いえ、兄さん…」
リヴァルの抱擁に応えて、リサもリヴァルをそっと抱いたのだった。
陽が傾き、ドンドルマの街が夕日に染まる頃、リヴァル達は大衆酒場に集合していた。昼間の狩りから戻ってくるハンター達で徐々に賑わいを見せる大衆酒場の一角、出発者用ゲートの前。リヴァルとリサの到着を最後に全員が揃った。
「今回は特例で、パーティを分割する必要はありません。7人で出発して心配無いですよ」
ユーリは分厚い書物を持って説明してくれた。あれはマニュアルだろうか。
「懐かしいな、それ」
ユウキがユーリの持っているハンターズギルドのマニュアルを指差し、ドンドルマの街を離れるキッカケとなった事件を思い出す。
「あの時のユーリはカッコ良かったよ!」
「そう思えば、ユーリは俺たちの命の恩人かもしれないな!」
クレハとカズキも嬉しそうな声を上げ、当のユーリは「これでもハンターズギルドの職員ですからっ!」と胸に左手を当て、自身満々に鼻を伸ばしている。
「なあ、何があったんだ?」
リヴァルとリサはユーリの過去を知らないので、隣にいるジュンキに尋ねる。
「ああ、今から半年くらい前だけど、俺たちがこの酒場でシュレイド王国軍に捕まりそうになった時に助けてくれたんだ。あのマニュアルを突き付けて」
「そうなんですか…」
リサも感心したように頷いている。やがてユーリはコホンッと咳をひとつ入れてから説明を続けた。
「え~、ともかく、7人で行動することを今回に限り認めるので、その点は心配無用です。気を付けて行ってきてね」
「…じゃあ行こうか」
そう言ってリヴァルの横にいたジュンキが歩き出す…そこでリヴァルは気が付いた。ジュンキの武器が大剣になっている。折れた太刀の代わりに作ったのだろう。
「ジュンキ、その武器…」
「ん?これか?これはジークムント。リヴァルも大剣使いなら知っているだろう?」
「当たり前だ」
リヴァルは思わず眉間に皺を寄せてしまう。ジュンキの背中にある大剣「ジークムント」はリヴァルの武器である大剣「オベリオン」と形状が似ている。違うのは威力と配色だ。威力の面では攻撃力は「ジークムント」の方が上だが、「オベリオン」には龍属性の追加攻撃が付加されている。力の差はあまりないだろう。配色は「ジークムント」がリオレウスの深紅、「オベリオン」がリオソウルの深蒼だ。
「性懲りもなく、またリオレウスの武器なんだな」
リヴァルが嫌味を込めて言うと、ジュンキは苦笑いを隠さなかった。
「いいじゃないか、別に。…それとも、まだリオレウスの事を引きずっているのか?」
「…ある程度の整理はついた。リオレウスは確かに俺の家族を殺した。けど、全てのリオレウスが関わった訳じゃない。…今はそれで納得している」
リヴァルはそう言って、ジュンキから顔を逸らした。その様子を見てジュンキは誰にも気付かれないように微笑み、そっとリヴァルの左肩へ右手を置いた。
てっきり弾かれると思っていたジュンキだが、リヴァルは特に何もしてこなかった。