モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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3章 雪山と砂漠 沼地と火山 15

「ぐっ…!」

「なんだぁ…!?」

「みんな、無事か…?」

「私は大丈夫よ…」

「私もです、先輩…」

「リサ、大丈夫か…?」

「リヴァルさん、私は大丈夫です…」

「ジュンキ…!」

「クレハ、俺は大丈夫。クレハも…無事か」

リヴァルは病室全体を見渡した。散乱する木片、舞う埃。しかし病室は以前より明るい。なぜ?

―――答えはすぐに分かった。天井が無いのだ。一面に広がる空の青、差し込む午後の日差し。そして、一匹の龍。

「…!?」

リヴァルは驚いて後ずさり、木片につまずいて転んでしまう。すると真っ赤な瞳に睨まれて、リヴァルは硬直してしまった。

「…我が名はミラルーツ。畏れ多くも、竜の世界を治めさせて頂いている統治者である…」

「ミラルーツ…!」

ジュンキの言葉にミラルーツの声が聞こえないリヴァル、リサ、ユウキ、カズキ、ベッキー、ユーリが驚愕や畏怖の表情を浮かべた。ジュンキは立ち上がり、ミラルーツの前に歩み出る。

「要点のみを話そうと思う。我が遣わした者達…。それが全て、お前たち竜人によって倒され、我には後がなくなった…」

「わざわざ降参を言いに来てくれたのか?」

ジュンキの言葉に、ミラルーツは首を横に振った。

「いや、違う。我は宣戦布告にきたのだ」

「宣戦…布告…!」

「…そうだ」

「まさかお前、この街で戦う気か…!」

ジュンキは、ミラルーツがドンドルマの街中で戦おうとするのではと思った。そんなことをすれば、先日のミナガルデ防衛戦のように街が破壊されてしまうだろう。

しかし、ジュンキの心配は杞憂に終わった。ミラルーツはまたしても首を横に振ったのだ。

「我もそこまで愚かではない。来るがよい、我が根城へ。密林の奥深く、古の塔へと。我が直々に相手をしてやろう…」

「古の塔…?」

「我は待つ。お前たち竜人という障害を取り除いてから、人間駆逐計画を再開するとしよう…」

ミラルーツはそこまで言うと純白の翼を広げ、病棟から飛び立った。街中から放たれる大砲や矢を器用に避け、青空の向こうへと消えてしまう。

「…」

ミラルーツがいなくなっても、誰ひとりとして口を開かない。いろいろな事が一気に起こり、混乱していた。

崩れた天井の一角からレンガが部屋の中へ落下し、音を立てて崩れた。それを合図に、ベッキーが口を開く。

「…取り敢えず、病室を移りましょう。屋根が無いと、雨風に晒されるわ」

ベッキーが口を閉じると、おそらく病院の医者か看護師だろう廊下を走る音が聞こえてきた。

 

別の病室に移ったリヴァル達9人は、まずミラルーツが残した言葉について整理することにした。

「ミラルーツは、人間駆逐計画を遂行する同志を失って動揺していると俺は思う」

ショウヘイはそう言い、意見を求めた。

「後がなくなった、って言ってたもんね」

クレハはそう言って腕を組む。

「会話の内容からして、ミラルーツは自身の根城で、それも単身で戦う気か?仲間でも募ればいいのに…」

「同志が倒されているんだ。自ら倒されに行くような奴はいないだろうし、そもそも信用の問題もあるからな」

「信用…。ミラルーツは人間駆逐計画の障害…俺たちだけど。を除去できるんだ、ってか」

「だろうな」

ショウヘイの言葉に、カズキとユウキは納得したように頷いた。

ミラルーツは同志を失った。これ以上退場者を出す訳にもいかず、ミラルーツは単身で障害を除去しなければならなくなったのだろう。

「事情は何にせよ、ミラルーツは単身で挑んでくるだろう。言い方は悪いけど好都合だ。ベッキー」

「何?」

「ミラルーツが言っていた古の塔って分かるか?」

ジュンキが尋ねると、ベッキーは右手の親指と人差し指を顎に当てて考え込んだ。しかし、すぐに顔を上げて首を横に振る。

「古の塔ね…私には分からないわ。ユーリ、分かる?」

「私にも分からないです。そのような狩場は聞いたことすら…」

「場所が分からないんじゃ、どうしようもないな…」

カズキはため息交じりに諦めの言葉を吐く。

「…場所なら、きっとあの方が知っていますよ」

リサの言葉に、この場にいる全員が振り向いた。

「誰が…知ってるんだ?」

リヴァルが尋ねると、リサは笑顔で答えた。

「ザラムレッドさん、とか」

 

リサがザラムレッドの名前を出した後、ジュンキとクレハの検診、及びリサの怪我が完治するまでは、こちらから行動を起こさない事が決まった。その間にミラルーツが行動を起こす可能性も否定できないが、少なくとも古の塔へ来るまで待つと言っていたので、恐らく大丈夫だろう。

ジュンキ、クレハ、リサが動けない間は、リヴァル、ショウヘイ、ユウキ、カズキの4人で狩りの準備を進めたり、壊れた武器、防具の修理へ取り掛かることにした。

そして、ベッキーとユーリはハンターズギルド内で総力を挙げて「古の塔」に関する情報を集めてくれた。

やがてジュンキ、クレハの検診が終わり、リサの退院する日が明日になった日の夜…。リヴァルはリサに呼ばれて病室を訪ねた。ジュンキとクレハはすぐに退院したので、リサは小さな個室に移っている。リヴァルは病室の扉をノックし、「どうぞ」というリサの声を聞いてから中へ入った。

「…体調はどうだ?」

「もう大丈夫です。元気になりました」

リサは入院患者用の白衣ではなく、私服だった。

「リヴァルさん、散歩に付き合ってくれませんか?」

「散歩?外出は禁止…お、おい…!」

リサはリヴァルの右手首を掴むと、強引に病室を出た。

「明日退院だろ!?明日じゃ駄目なのか!?」

「駄目です」

リサはそれだけ言い、病院の裏口から外に出た。

「分かった!分かったから離してくれ!」

リヴァルがお願いしてようやくリサが手を放してくれた。

「すみません、強引に…。どうしても今夜、話しておきたいことがあるんです」

リサはそう言って、夜のドンドルマへ足を踏み出していってしまった。


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