モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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3章 雪山と砂漠 沼地と火山 13

吹き飛ぶクレハの身体はやがて失速し、地面に触れると何度も回転し、やがて止まってそのまま動かなくなった。ラージャンは動かなくなったクレハには目もくれず、近くにいたジュンキへ目標を移す。

「ぜんいん…ころしてから…くう…!」

「クレハ!くそ…っ!」

早くクレハの元へ駆けつけたい。しかし今そんなことをすれば、今度は自分が背後からラージャンに殴られてしまうだろう。そしてそれは、クレハも決して望んでいない。

クレハは竜人だ。身体は一般的な人間よりも強固だからきっと大丈夫だと無理矢理納得し、目の前のラージャンへ意識を集中させる。

「俺も忘れるなよ!化け物!」

カズキがラージャンの背中へ槍を突き立てる。痛みに怯んだラージャンに、ジュンキは太刀「エクディシス」を走らせる。怒りに身を委ねてはならない。あくまで冷静に、ラージャンへ攻撃を加える。ラージャンが振り下ろす拳を的確に避け、脇腹を的確に斬りつけながら背中側のカズキと合流する。

「カズキ、クレハが…!」

「分かってる。だからこいつさ」

カズキはそう言ってアイテムポーチから閃光玉を取り出した。ラージャンが振り向いた時を狙って破裂させ、視界を奪う。

「さ、行ってこい。ここは俺が受け持つから」

「…すまない!」

ジュンキはカズキにラージャンを任せ、クレハのもとへと向かった。その姿を見て、カズキは人知れず微笑む。

「さてと、俺の彼女はこいつだな…!」

カズキはそう言って、視界を奪われて暴れまわるラージャンへ「ブラックテンペスト」を突き出したのだった。

 

ジュンキがクレハのもとへ駆け出した時には、クレハは自力で上半身を起こして回復薬を飲んでいた。ジュンキが近づいてきていることに気付いてか、空になった瓶の淵を左手の親指と中指で挟んで振っている。

「大丈夫か?」

「うん。痛かったけど、もう平気。でも…」

クレハはそう言って視線を下に向けた。ジュンキもクレハの視線を追う。そこにはボロボロになってしまった防具があった。

クレハの装備しているレイアSの防具。その腹部が大きく凹み、リオレイアの甲殻にはヒビが入ってしまっている。

「これは修理だなぁ…」

「動きづらくはないか?」

「ううん、それは大丈夫。それより、早く戻らないとカズキが持たないよ」

クレハはそう言いながら空瓶をアイテムポーチへ戻して駆け出す。途中で落としてしまった双剣「インセクトスライサー」を回収し、カズキの横へ並んだ。

「無理はするなよ!」

カズキの言葉にクレハは無言で頷き、双剣を構える。遅れてジュンキが出てきたところでラージャンは視界を取り戻し、一度雄叫びを上げる。

「りゅうじん…じゃま…ころす…ころす…!」

ラージャンはゆらゆらと身体を揺らしながらそう言い、一気に突進する。それをジュンキ、クレハ、カズキは最小限の移動で回避し、すれ違い様に一閃、ひと太刀、ひと突き入れる。そして背中を向けたままで立ち止まるラージャンにジュンキ達は刃を、槍を向ける。

あと少しでカズキの槍が、ジュンキの太刀がラージャンの背中に傷をつけるというところで、突然ラージャンが雄叫びを上げた。

「ぐっ…!」

ジュンキ、クレハ、カズキは両手で耳を塞いでその場に硬直してしまう。そこへラージャンが全身を器用に回転させ、3人を薙ぎ払った。ジュンキ、クレハ、カズキはそれぞれ別の方向へ飛ばされてしまう。

「くそっ…!」

ジュンキは急いで体勢を戻すために立ち上がったが、次の瞬間にはラージャンの拳が腹にめり込んでいた。クレハの時とは違い、今度は放物線を描いて吹き飛ぶ。

「あぐ…ッ!」

胃液が逆流する。ジュンキは岩の大地に墜落し、そのまま動かなくなった。

「ジュンキ…!」

先ほどジュンキがクレハを心配したように、クレハもジュンキを心配する。

そしてジュンキならきっと大丈夫という、先程のジュンキと同じ結論に至り、今は目の前のラージャンへと意識を傾けた。

「まずは…せんぶ…ころしてからだ…!」

ラージャンの言葉がクレハの脳裏に響く。

「俺を忘れてんじゃねぇえええっ!」

カズキはクレハの方を向いたラージャンに、槍を突き立てる。するとラージャンは体勢を崩して転び、のたうち回った。そこへクレハが双剣「インセクトスライサー」を構えて肉薄する。

「はああああっ!」

鬼人化、乱舞。ラージャンから血の噴水が上がる。

「おらあああっ!」

カズキがラージャンへ突進し、「ブラックテンペスト」の穂先を深々と突き刺す。すると、ラージャンはカズキの「ブラックテンペスト」を右手で掴んで自身の身体から抜き、カズキごと放り投げてしまった。

「わああああっ!」

カズキが悲鳴を上げながら飛んでいき、地面に激突する。しかし受け身を取れたのか、カズキはすぐに起き上ってその場を離れた。再びラージャンがこちらを向く。クレハは唾を飲み込んだ。

「…おいで」

クレハの言葉に反応して、襲いかかるラージャンの拳。クレハはラージャンの一撃を直前で回避し、顔面を斬りつけた。

ラージャンは悲鳴を上げて後退する。その隙にクレハはアイテムポーチに左手を突っ込み、中から閃光玉を取り出してラージャンへ投げつけた。閃光玉はラージャンの顔面で破裂し、再び視界を奪う。

ラージャンが視界を失ったのを確認してから、クレハはジュンキの元へと駆けようとした。しかしジュンキは既に立ち上がり、こちらに向かって駆け出していた。

「ジュンキ…!大丈夫なの?」

ジュンキはヘルムを被っているので表情は伺えないが、唯一露出している青色の瞳は笑っていた。

「何とかな。でも…」

そう言ってジュンキは視線を落とす。そこにはクレハと同じようにボロボロになったレウスSの防具があった。

「俺もボロボロだ」

ジュンキの言葉に、クレハは思わず笑ってしまった。

「行こう?カズキが気を引いてくれてる」

カズキは視界を奪われたラージャンとひとりで迎え撃っていた。

「勝負はこれからだよ。ね?」

「ああ、もちろんだ!」

ジュンキとクレハは互いに頷き合い、同時に駆け出す。そして2人がカズキと合流する直前に、カズキが突き出した「ブラックテンペスト」がラージャンの右目を抉った。ラージャンは悲鳴を上げて転倒し、激痛に悶える。

「やったな、カズキ…!」

「ジュンキ!動いて大丈夫なのか?」

「竜人の身体をなめるなよ?」

ジュンキが多少格好つけて言うと、カズキは声を上げずに笑ったのが表情を見なくても分かった。

「ぐ…おお…!」

ラージャンが苦しそうな声を上げたので、ジュンキとクレハに緊張が走る。

「め…が…!かたほう…みえない…!みえない…!ゆるさない…!ころす…。ころス…!コロスゥゥゥ…!!!」

ラージャンは今まで以上に大きな雄叫びを上げると、金色に染まった毛をさらに逆立て、全身に電気を纏った。

「な、なんだ…!?」

ジュンキ、クレハ、カズキは目の前の存在に本能が恐怖し、身体が勝手に後退してしまう。

「ひきさく…!ねじきる…!くいちぎるゥゥゥ…!」

ラージャンは再び雄叫びを上げ、口から電撃を放ってきた。それは直線的に伸び、ジュンキ達に迫る。3人は慌ててそれぞれ回避し、何とか事なきを得た。

「ば、化け物かよあいつは!?」

カズキの言葉はジュンキもクレハも同じだった。

「それでも、俺たちは奴を倒す。そうだろ?」

ジュンキがそう言うと、クレハもカズキも頷いてくれた。ラージャンが突進してきたので、3人はそれぞれ回避する。そしてラージャンが振り向く前に3人はそれぞれ一度ずつラージャンに攻撃を加えた。ただそれだけで、ラージャンは片膝をつく。

「カズキ!シビレ罠を使え!一気に倒そう!」

「おうよ!」

カズキの返事を聞く前に、ジュンキは駆け出す。直後にラージャンの拳が降り注ぎ、岩の大地に穴がいくつも空いた。

「こっちだよっ!」

クレハがラージャンの視界を通って気を引く。ラージャンの気がクレハに移ると、今度はジュンキがラージャンの気を引く。

そうしているうちにカズキがシビレ罠の設置を終えたので、ジュンキとクレハはラージャンを誘導しつつカズキと合流する。そしてラージャンはシビレ罠を踏み抜き、全身を痙攣させて動きを止めた。

「ジュンキ!今こそ…!」

「ああ!」

ジュンキとクレハは竜人化すると、目にも止まらない速さでラージャンを斬り刻んでゆく。

「う…おお…!ぐぬおおおおおっ!」

このまま倒せるかと誰もが思ったその時、ラージャンは予想外の行動を取った。なんとシビレ罠の効力があるにもかかわらず右拳を振り上げ、ジュンキ目掛けて振り下ろしたのだ。

「なっ…!?」

ジュンキはラージャンの想定外の行動に驚き、無意識に手中の太刀「エクディシス」を大剣のように盾として構えてしまう。「エクディシス」はラージャンの拳に横からの圧力を加えられ、鈍い金属音を立てて真っ二つに折れてしまった。

ラージャンはそのままジュンキを殴り殺そうとするが、ジュンキの目と鼻の先でラージャンの拳は動きを止めた。

「へへっ、カズキ様大活躍ってか?」

背後から聞こえた声に振り向くとそこにはカズキがいて、「ブラックテンペスト」の穂先がラージャンの脳天を貫いていた。ジュンキは一気に力が抜けてしまい、その場へ倒れるように座ってしまう。

「ジュンキ!大丈夫!?」

すぐにクレハが駆けつけ、ジュンキに怪我がないことを確認して安堵のため息を吐いた。

「よかった、無事だった…」

「ああ、俺は大丈夫だよ。でも…」

ジュンキは右手の太刀を持ち上げる。それは刃の中央から折れていた。

「太刀…折れちゃったね…」

クレハが折れた刃先を拾いながら残念そうに声を上げた。

「まあ、命あっての物種だよ。カズキもありがとう。助かった」

「いいってことよ。早いこと素材を剥ぎ取って、街に戻ろうぜ」

カズキはそう言って「ブラックテンペスト」を背中に戻し、代わりに剥ぎ取りナイフを抜いたのだった。


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