北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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久々の更新。久々故のハッチャケ過ぎたと反省しております…。
最初は冷静だったけど、途中から感情が抑えられなくて勢いのままに……次話までには冷静さを取り戻しておきます。


37話「北山雫は乙女たちの戦いを、見学したかった」

 九校戦六日目にして新人戦の三日目、午前の競技が終わった俺たち第一高校の天幕では、深雪、リーナ、エイミィたち女子ピラーズ・ブレイクの三選手と、その担当エンジニアである俺――そして雫の五人がホテルのミーティングルームに呼ばれていなくなり、七草真由美生徒会長の前に整列させられていた。

 

 俺たちがいなくなった本部天幕では、今ごろ完全なお祭り騒ぎ状態になっていることだろう。

 別に俺たちが嫌われているから、という意味ではなく、単に午前の試合結果が良すぎたというのが、その理由だ。

 

 新人戦女子ピラーズ・ブレイク三回戦三試合、全勝。午後の決勝リーグを前にして第一高校の選手だけで出場選手枠すべてを独占するという快挙が、今の時点ですでに確定したわけである。

 しかもバトル・ボードの方でも、ほのかを始めとして選手全員が決勝に進んでいるらしく、大会初参加の新人たちの成果としては快進撃という言葉すら生温いのではないかと、俺でさえ思わざるをえない出来過ぎの状況なのである。

 これでお祭り騒ぎくらいのテンションになれないのは、逆方向の問題が人格面にある可能性を疑うべきレベルかもしれない。

 ・・・・・・たとえば俺自身が実母にかけられた魔法のように。

 

 

「時間的に余裕があるわけじゃありませんから、手短に言いますね。

 皆さんの活躍のおかげで、新人戦女子ピラーズ・ブレイクの決勝リーグを、我が第一高校の出場選手が独占することになりました。これは九校戦はじまってより初の快挙です。

 司波さん、クドウさん、明智さん。本当によくやってくれました」

 

 室内で俺たちを一人だけで待っていた七草会長から賞賛され、賛辞を送られた三人は礼儀作法として三者三様にお辞儀を返す。

 丁寧に、慌てながら、そして――

 

「まっ、ワタシが参加した以上は、これぐらい当然の結果ですけど~。そんな改まってお礼を言われるほど大したことはしていませんわ、オホホホ~~♪♪」

『『『・・・・・・』』』

 

 ・・・・・・一人だけ偉そうな態度で踏ん反り返って、自尊心を大いに満たして満悦といった表情を浮かべながら、謙虚さが必ずしも美徳でない国出身者が高笑いで返礼していた。

 それが誰のことかは、今さら名をあげるまでもないので、本人の名誉と旧母国との外交関係も加味して、心の中だけでも敢えて伏せさせていただく事にしておこう。

 

 もっとも、良すぎる女子選手陣の結果に反比例して、男子選手陣は惨憺たる状態を呈しており、結果的にそれが他校にも勝てる可能性を残して気合いを出させる要因にも繋がっていたのだが・・・・・・それで男子選手たちの意欲とテンションが上がる理由になるというものでもない。

 

 

 ――尚、補足にもなり得ない余談程度の些事でしかない情報ではあったものの、この場に呼ばれている最後の一人が先の会長の言葉を聞かされたときの反応はと言うと。

 

 

「・・・・・・・・・ぼ、~~・・・・・・(´д`)」

 

 

 ・・・・・・完全に他人事という体で、どこか遠くを見つめたまま一切耳に入っている様には思えなかった・・・。

 まぁ確かに他人事ではあり、リーナに指名されたから特別に彼女専用のエンジニアを許可されていたというだけで今この場に呼ばれている。

 それだけに過ぎない存在ではあるのだが・・・・・・この結果に貢献した内訳と経緯を思い出せば、どうにも納得し切れないものを感じてしまう気がするのは、俺も調整要員とはいえ一応は男子選手の一人だからと言うことなのかもしれん・・・。

 

「え~と・・・・・・コホン。この初の快挙に対して、大会委員から提案がありました。

 決勝リーグの順位にかかわらず、学校に与えられるポイントの合計は同じになりますから、決勝リーグを行わず、三人を同列優勝としてはどうか、という提案です」

 

 会長から伝聞形式で大会委員からの提案を告げられた三人が顔を見合わせるのを見て、俺はつい唇が皮肉な形に歪んでしまうのを自覚させられた。

 会長から伝えられた理由も嘘ではないだろうが、建前という部分が強すぎる提案なのは明白な内容だったからだ。

 

 ・・・なにしろ、スピード・シューティングでもバトル・ボードでも女子選手陣は同じ結果を出している状況なのだからな・・・。

 初の快挙が一度の大会で三度も続いた後に、可能性だけなら明日のミラージ・バットでも同じことが無いとは言い切れなくなってから、女子競技の中では二番目に目立つ種目のみに言い出された提案として聞かされれば、俺でなくとも大会委員会の本音と建前が違っていることに気づかざるを得ないだろうな・・・。

 

「もちろん大会委員会からの提案を受けるかどうかは、皆さんの意思に任せるとのことですが、あまり考える時間はあげられないとの事です。今この場で決めてくれるように、と」

 

 会長からの言葉が、微妙に後ろめたさが混じっているのも、おそらく大会委員会の思惑が分かった上で、チームリーダーとしての立場から便乗せざるを得ない自分自身に多少の狡さを感じているからなのだろう。

 

 まぁ、大会委員会の気持ちも分からんではない。

 ただでさえ深雪とリーナの魔法によって、入場者数は大幅に増加していることだろうし、開催前に立案していた会場管理計画と人員配備はものの役に立たなくなっていることだろう。

 両方ともに抜本的な見直しと、規模を拡大させての再計算が必要だ。増えた客入りを捌くため人手が足りなくなっているだろう状況下で、これ以上の面倒ごとは起こして欲しくないと、美談で取り繕って厄介払いしてしまおう。・・・・・・というのが大会運営委員会の思惑だと推測される。

 楽をしたがっていると言えば、その通りだろうが――彼らの負担を増大させる一翼を担った者たちの縁者としては多少の罪悪感も禁じ得ないものもなくはない。

 

 第三者視点として会長から意見を求められた際、俺がこう答えたのも、そういう事情が関係したものではあった。

 

「達也くん、貴方の意見はどうかしら? 三人が戦うとなれば、貴方もやりにくいと思うのだけど」

「正直に言いますと、明智さんはこれ以上の試合を避けた方が良いコンディションでしょうね。三回戦は激闘でしたし、あと1時間や2時間程度で回復できるとは思えません」

 

 三人全員が決勝リーグへの参加は不可能だと暗に告げることで、彼女に花を持たせてやろうという意識が芽生えるよう促させるのに都合がいい正しい情報だけを取捨選択して回答に用いての答礼。

 それを聞いて、僅かながら安堵した表情を浮かべ直して、期待を視線に宿し始める会長のわかりやすい表情変化を見物しながら、俺は内心で肩を竦めておく。

 

 チームリーダーとしては全員が同率優勝というのは、最も無難で角が立ちづらい落とし所だと思える結末なのだろう、確かに。

 順位をつけず、参加した意思を評価して選手全員を賞賛するというのは、旧世紀の21世紀初め頃から続く日本の学校の伝統的風習らしいが、俺には合理性に欠けているように思えてならず、心からの賛同はしかねてもいる。

 

 順位をつけられることは、競争から脱落した者にとっては意欲を削がれる行為だとする理屈は分かる話ではあるが、競争に勝ち残れた者たちが敗れた者たちと同列に扱うというのも勝者側から意欲を奪うことに繋がる行為でもある。

 一長一短があることは認めるが、成功しようと努力して報われなかった者たちの不満を和らげるため、成功するために努力して報われた者たちにも小さな不満を抱かせるというのでは、誰の得にもならず全員が損をするだけでしかない。

 

 それに、公式な順位は同列であろうとも、実力差は厳然として存在している関係性では結局、不満の先送りにしかなれない可能性は高い。

 俺個人としては、あまり慮る必要性を感じさせられない方法論であり方針ではあったのだが・・・・・・とは言え。

 

「――ですが、それは明智さんの対戦した相手選手が恐るべき強敵だったからこそのものです。

 三回戦の相手だった三校の十七夜選手は、深雪とクドウを除けばピラーズ・ブレイクに参加した全選手の中でも、間違いなく最強だった人物でしょう。

 実力で明智さんが他の二人に及ばないのは、失礼ながら事実と思われますが、試合内容は決して劣るものではなかったと断言できます。

 若輩ながら魔法工学科の代表という地位に就いた者としては、明智さんの健闘が決勝リーグ唯一の棄権として、二人に劣っているように思われてしまうが如き誤解は避けるべきかと愚考します」

 

 ――会長や大会委員会の思惑に慮る必要は感じないとしても、俺個人に思惑がないということを意味する訳ではなく、目的が同じでなくとも求める結果が相手の思惑に含まれている場合には、利害が一致する限りにおいて真相の一部を語ることなく便乗するというのも、社会で生きていくための処世術の一つであるのも、また事実。

 

 だから俺は会長からの問いかけに答えた直後に、そう付け足しておくことにした。

 別に嘘を吐いたという訳でもなし、問われた質問に対する回答を“一言一句すべて正確に答えなかったこと”は地位立場に基づく社交術であって、嘘を吐いたという事には当たらない。

 詭弁じみていることは重々自覚しているが・・・・・・そうでも言って制止しなければならん事情が、今の俺にはあるのだから・・・・・・。

 

「達也くん・・・! 言わなくても私の想いを分かってくれて・・・!」

「し、司波くん・・・・・・私のことコンディション以外も、色々分かってくれてるんだ・・・(モジモジ・・・)」

「――む」

「・・・・・・お兄様・・・」

「・・・・・・ぼ~~、~・・・(ポ~~~)」

 

 ・・・・・・もっとも、その対応をどう解釈されたものか周囲から妙な視線が集中されて、不思議と居心地が悪いことは悪くなっていたのだがな。

 特に妹からのものと、そのライバルからのものが最も痛いことに関しては、問いかけてきた訳でもない立場として思うところがないわけではなかったが・・・・・・余談である。余談でしかない。そう在るべきのはずだ・・・!

 

「あ、あの~、実は私さっきから体調悪くなってまして。

 今のお話を伺う前から、棄権でも構わないと思ってたんですけど、司波くんに相談してから決めようってしてたんですが・・・・・・。

 私よりも私自身のコンディションを分かってくれてる司波くんが、そう考えてくれていたなら、私はもういいかなって・・・・・・(もじもじ・・・ポッ♡)」

「・・・・・・む~~」

「・・・・・・・・・お兄様・・・」

「・・・・・・・・・・・・ぼ~~、~・・・あ、チョウチョの、絵・・・・・・(ポ~~~)」

 

 エイミィが、目をそわそわと泳がせ始めながら俺の提案に乗って棄権を受け入れ、残る票と参戦可能選手は二人だけ。

 さっきまでは少し後ろめたい口調で会長からの提案に口ごもりながら返事をしようとしていたのだが、どうやら実力的に自分の力では深雪にもリーナにも勝ち目がないことを弁えていながら提案に乗ることで同列一位になることに狡さを感じていたことが、落ち着きのない態度の主な理由だったらしい。

 

 無論、彼女も人間である以上は、3位で十分と思っていたところに同率であっても優勝扱いになれると聞かされて欲が出たという部分も0ではなかったとは思われるが・・・・・・彼女の試合練習につき合い続け、先ほどの三回戦の試合内容を見た限りにおいて、エイミィは『無意識に力を押さえてしまっている自分』に狡さと『罪悪感』を感じている部分を強く持っている女の子だ。

 

 そんな彼女にとって、今回の提案に乗ることは『安全な勝ち方』を選んでるようで後ろめたさを覚えてしまい、といって戦える状態ではない自分のコンディションも流石に理解しているため、結果は最初から決まっているせいで余計に罪悪感を強めてしまっていた。・・・そんなところか。

 

「・・・・・・もじもじ(ポッ///)」

「・・・・・・むぅ~~~・・・」

「・・・・・・お兄さ、ま・・・」

「・・・・・・ぼ~~~~~~、~~~~・・・・・・、・・・」

 

 ――そんなところだと、俺はエイミィを信じている。

 だから二人とも、いい加減に俺を見ることはやめて七草会長を見るんだ。

 思考時間は長くとも実時間は余り経過してないとは言え、余裕があるわけではないと言われている事だし、なにか会長から追加で言うことがあるようだからっ。

 

「そうですか♪ そうですよね~☆ そんなにフラフラなんですから当然ですよね分かります! だから受理します♡

 と言うわけで、明智さんと達也くんはこう言っていますが、もう一人のエンジニアの北山さんは――」

「イヤです」

「ぴ、い・・・っ!?」

 

 労りの他に別の感情も込められた微笑みでエイミィの言葉に頷いて、次の賛成票を確保しようと雫の方へと向けて声をかけた直後。

 

 ・・・・・・割って入ってきたリーナの冷たい拒絶の一言に両断され、その拒絶に恐怖して部屋の隅まで逃げ出していく。

 

「・・・あ、あう、あう・・・・・・り、リーナ怖、こ、わ・・・っ・・・(ガクガクブルブル、えっぐえっぐ・・・)」

 

 ――声をかけられて遮られて最後まで聞けなかった雫が。

 雫だけが、部屋の隅まで逃げていって何かに祈りを捧げるようなポーズで、命乞いのような言葉を発する醜態を晒してしまっていた・・・・・・。

 

 俺が呼んだわけではなく、本来は呼ぶ必要のない、選手個人の意思がゴリ押しされた結果でしかない存在なのだから、呼び出した会長のせいですらないと分かり切ってはいるのだが・・・・・・それでも思わずにはいられない。

 

 ・・・・・・何故コイツを、この場に参加するよう呼び出してしまったのだろうか・・・・・・と。

 

「生徒会長。ミユキとの決勝リーグは、ワタシ一人だけでもお任せいただけませんかしら?」

「クドウさん? あなた突然、何を・・・」

「ミユキ、フェアに勝負と行きましょう。この先、貴女ほどの魔法師がワタシと本気で競うことのできる機会なんて、この先何回あるか分からないわよ?

 貴女も、このチャンスを逃したくはないはず・・・・・・違うかしら?」

 

 ぴくっ、と深雪の美麗な表情と眉が僅かに上下動する動きを、俺はつい何時もの癖で見ていてしまい、内心で激しく後悔させられることになる。

 

 これだ・・・・・・こうなるのは避けられなくなると分かり切っていたからこそ、俺は会長を介して伝えられた大会委員会からの提案に便乗せざるを得なかったんだ・・・。

 理想的な深窓の令嬢に見えて、実は極めて気が強く、俺を含めた特定の相手以外に対しては負けず嫌いなのが、深雪が持つ性格の知られにくい側面だった。

 

 もしコレで対戦相手が、エイミィやほのか――もしくは有り得ないことながらも、雫と優勝を競い合うというのであるなら、深雪はまだしも精神的に余裕を保ち、『相手の意気に応える』という形で勝負に応じることが可能だったろう。

 

 だが元USNAのスターズ総隊長にして、十三使徒の一人でもあるリーナは、実力的に深雪に近すぎてしまい、互角のライバルたり得る存在となってしまっている少女だった。

 

 対等なのである。自分の方が手加減する必要はなく、相手もまた深雪に「勝てる」という前提で上から目線で接してきても不遜とは感じさせない、最強に近い少女同士の競い合い。

 

 その関係を要約するなら、雫の母親であり振動系魔法で名を馳せていたAランク魔法師でもある、そして結構な毒舌家でもあった北山紅音夫人から教えられた言葉を使って、おそらくこう表現するのが適切なのだろう。

 

 

『意地の張り合い』

 

 

 ―――と。

 

 

「・・・会長。私は、“リーナが”私との試合を望むのであれば、私の方にそれをお断りする理由はありません」

「そんなに気を張る必要はないわよ、ミユキ。ちゃんとルールは守ってあげるから。

 もっとも、“貴女が”アケチさんとも勝利の栄光を分かち合うため、棄権したいって言うんだったら、ワタシの方は応じてあげてもいいんだけど~?」

「(ピクッ)・・・今の私の立場では、その言葉を信じろというのは無理ねリーナ。

 だって、“貴女が”私と戦いたがっているのだもの。このまま議論し続けたところで、リーナは意固地になって口で認めようとはしないだろうと思うけれど」

「(ぴくぴくっ)――そこはせめて『意地』と言うべきねミユキ。“貴女が”ワタシに挑戦したがって挑発しているのがバレバレになるだけだから」

 

「・・・・・・(にっこり♪)」

「・・・・・・(ニコ~リ♪)」

 

 

 

 ――――ゴォォォォォォォッ!!!!

 

 

「あ、つッ!? 熱い、よ深雪!? あとリーナ、も・・・! 熱っ!? 冷た、い・・・!? 熱冷た、いぃ~~~ッ!?」

 

 

 ・・・・・・そして、ぶつかり合うことを互いが互いに対して確定させ合っていく流れしか造ることができなくなる、二人の美しすぎる最強少女たち・・・。

 なんと言うべきなのか・・・・・・リーナのせいにすべきではないのかもしれなかったが・・・・・・深雪も変わったものである。

 

 それにしても全く・・・・・・どうしてリーナも、こんな無意味な勝負にこだわりたがるのか・・・・・・。

 深雪と戦ったところで勝敗など、考えるまでもなく明らかなのは分かり切っているだろうに・・・・・・俺としては疑問に思えて仕方がない、女心とやらが持つ非合理的な思考の一端だ。

 

 リーナが公式の試合で深雪と戦っ場合、決して彼女は勝つことができないからだ。

 たとえそれが、互いを傷つけ合わないだけで実践形式に近い魔法が放たれ合うピラーズ・ブレイクであっても結果は戦う前から確定している。

 他の者なら別として、深雪にだけは敗北は揺るがしようがない。負けると決まっている理由をリーナは持っているのだから。

 

 何故なら彼女は、元スターズの総隊長だからである。

 USNAの切り札とも呼ぶべき存在だった少女なのだ。そんな人物が今、日本の魔法科高校生として過ごすことが許されている。

 

 そんな超簡易魔法式が席巻する前の世界では、有り得なかったほどの現象を可能にしているのは、彼女が日本に亡命した際に遠縁として頼った『九島烈』の、二十年前まで世界最強の魔法師の一人と目されていた「老師」とも称されている日本政界・陰の大物の養子となったからこそのもの。

 

 即ち、九島閣下の私兵として、個人的な戦力になるという契約の元、自由と権利を保障してもらった存在が、今のリーナが置かれた立場なのである。

 

 閣下の私兵としての立場がある以上、切り札となりえる魔法が使用可能であることを衆目の前で晒せるわけがあるまい。閣下もまた、手札を軽々しく晒すことを許可するはずもない。

 対して深雪の方はと言えば、高校卒業と同時におそらく十師族の一家である《四葉》の次期当主の後継者として世間的にもお披露目されるだろうことが、ほぼ確定している現状にある。

 全力を出すにはセーフティーが掛かっているものの、今までよりは魔法の使用を制限される縛りは撤廃に近いレベルまで緩和されたと言っていい。

 

 

 必然的にリーナは、通常レベルの魔法と、通常基準のCADのみを使って深雪の相手をせねばならなくなり、全力で戦い合えれるなら勝敗は分からなくなる二人の対決も、制限の多さでリーナが敗れ、深雪に軍配が上がることは、ほぼ確実なのだ。

 

 ・・・・・・だと言うのに、何故ここまで拘る気になるのか・・・・・・。

 精神の一部を消されてしまっている俺には、永遠に分かりそうもない感情の問題であり、仮に分かることができたとしても余り分かりたいと思うことが出来そうにもない。そんな特殊すぎる感情の一つがコレか。《意地の張り合い》という奴なのか・・・。

 

 

 

 

「リーナ・・・! 覚えておきなさい、わたしはお兄様の名誉を傷つけようとする者を決して許さない!

 例えそれが口先だけのものだったとしても、貴女には私の手で、その罪を思い知らせてあげるから・・・!!」

 

「上等よミユキッ!! このHENTAI超絶ブラザーコンプレックス娘!!

 貴女が普段から犯してる、性倫理的に許されないものばっかりなブラコン性癖の罪の重さを、ワタシがGuiltyしてあげるわッ!!」

 

 

 

 ・・・・・・そういうやり取りを経て行われた新人戦・女子ピラーズ・ブレイク決勝戦を見物に来ていた観客の一人は、こう呟いたという――。

 

 

「・・・・・・おい。どこの魔界なんだ、ここは・・・・・・。

 九校戦の会場ってのは、ハルマゲドンの戦場の別名だったのか・・・・・・?」

 

 

 

 ―――と。

 そして、九校戦の歴史に名を残す一戦でありながら、誰もが試合内容について頑なに口を閉ざすようになる伝説の試合が終わった後。

 その結果として。

 

 

 

「あー、もー! 悔しい! 悔しい悔しい超悔しいわ! 負けると自分でも分かってる勝負だったけど、やっぱりミユキに負けると悔しいのよ!! 超悔しいのよ!んもー!もー!

 こうなったら、シズクー! シズクこっち来なさい! ワタシの前で、お尻出しなさい! そしてワタシにお尻叩かれなさい!! 上官が負けたからお仕置き罪でお尻ペンペンの刑よッ!!」

 

「なん、で・・・!? それにそんな罪、知らな・・・・・・ひ、ぎぃぃッ!?」

 

「いいのよ! シズクのお尻を叩かないと落ち着かないから、お尻ペンペンするだけなんだからッ!! シズクはワタシ専用のストレス発散お仕置きされる係なの!! それでいーの!!」

「理不尽過ぎ、るよ・・・・・・っ!? ちょ、ま、流石に恥ずかし、い・・・・・・ひぎ、いィィィッ!?」

 

 

 ペチーン! ペチーン!! ぺんぺんバチ――ッン!!!

 

 

 

 ・・・・・・試合後のティーラウンジで繰り広げられていた、準優勝選手と幼馴染みの少女の恥態を前にして、私は室内に足を踏み入れてすぐに回れ右して、元来た道を引き返すことしかできませんでした・・・・・・ごめん、雫。私には、この状況での救出は無理・・・。

 

                  別の見物客・少女Hちゃんによる証言

 

 

 

 

つづく


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