北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

40 / 44
超久しぶりの更新となってしまいました……すいません。
しかも久しぶりの話なのに、内容は原作における夕食の1シーンのみ。
原作だと一瞬で終わるシーンが、今作だと1話分使われてるのは作者が好きなシーンだからだけが理由という体たらく……ホント申し訳ございません…。

挙句、時間置き過ぎたせいで終わり方だけ思い出せず、中途半端に終わってしまった……今回ばかりは猛省しなかったら許されないだろうなと自分でも自己嫌悪の最中な次第です……


35話「北山雫は夕食会だと優等生でも劣等生」

 俺こと、司波達也が技術スタッフとして参加している九校戦の会場では、朝食がバイキング形式の早い者勝ちで、昼食が仕出し弁当を各学校が用意して作り、夕食だけがホテルが有する食堂を一時間ずつ各校が使用できるという決まりになっている。

 これは学校ごとの作戦漏洩を防止するためでもあり、部外者のいない空間で仲間同士が気兼ねなく今日一日の勝利と敗北を分かち合おうという時間でもあったのだ。

 

 そういう意味では、今晩の俺が所属している魔法科第一高校の食卓風景は、見事なまでに明暗が分かれていたと言えるのではないだろうか?

 

 

「すごかったわねぇ、深雪のアレ」

「《インフェルノ》って言うんでしょ?」

「先輩たちもビックリしてた。A級魔法師でも中々成功しないのにって」

 

 新人戦女子クラウド・ボールは準優勝と入賞一人で「まぁまぁ」という程度の成績だったのに対して、新人戦女子ピラーズ・ブレイクで出場全選手三回戦進出という好成績に女子選手たちはお祭り騒ぎに気分になっていた。

 

 無理もない。ピラーズ・ブレイクは他の競技と違って、同一校の選手のみで決勝リーグを独占することも可能にはなっているルールなのだ。その快挙の可能性が見えてきた初参加の新人たちとしては、浮かれるなと言う方が難しいというのも理解できない事情ではない。

 

「やっぱり起動式は、司波君がアレンジしたの?」

「《インフェルノ》をプログラムできたのも、司波君だからですよね!」

「ほのかの幻惑作戦も、司波君が考えたって聞いてるよ?」

 

 そういう事情から、幸せのお裾分けと言うべきなのか、彼女たち女子選手のみの技術スタッフを男子たちが嫌がったため押しつけられてしまった俺もまた、はしゃぐ彼女たちの中で逆紅一点、もしくは白一点とでも言うべき立場に立たされ賞賛と質問の嵐を先ほどから浴びせられ続けていた。

 

 正直、内心で辟易しなくもなかったが、彼女たちが一種の躁状態にあり、初めての競技会参加の緊張が続く中では、この手のお祭り騒ぎが大きな気分転換にもストレス発散にもなるという心理は、軍内部でもレクリエーションが行われる場合があることなどから理解できる。

 大げさな賛辞も裏を返せば、「自分たちがそれを成したのだ」という自画自賛でもあり、自信を高めて不安を払拭して次の試合に臨めるようになるのなら、心理面でのメンテナンスという解釈も一応は可能だろう。

 

 無論、同じ一年生とはいえ工学科のトップという地位にある以上は、相手の自信が過信にまでなるようなら注意する必要が出てこざるを得ないのだが・・・・・・その域に至っていない程度なら水を差すような真似をわざわざする必要もあるまい。

 

 更に言えば、一日目のスピード・シューティングに続いて女子バトル・ボードでも参加全選手が予選突破。

 大会初参加でありながらクラウド・ボールの一つだけしか負け越してないという状況下では、「浮かれるな」どころか「調子に乗るな」さえ聞き入れてもらえない可能性が高いほどに出来過ぎな状況ができてしまっているのだ。

 

 そのような事を考えながら俺は、いつもに比べれば柔らかい声音を意識しながら素っ気なく聞こえないよう注意した短い返事を返しつつ、チラリと別の『同類たち』がいる方へと視線を投げかける――。

 

 

「リーナさんのアレ、凄かったですよね! あの格好は九校戦の歴史を確実に変えたわ!」

「エイミィも結構、決まってたよぉ? 一回戦はハラハラしたけどねぇ~」

「乗馬服にガンアクションが格好良かったよね!」

「いやいや、リーナさんの前では全てが霞むでしょう。あの服装こそ古き良き日本のファッショナブル!!」

 

「オホホホ~♪ まぁ、あの程度の服装も試合の成績も、ワタシ本来の力と比べれば大したことじゃありませんけどね、オーッホホホ☆」

 

 

「雫ちゃん、リーナさんが使ってた魔法って、あなたがプログラムしたんでしょ?」

「どうやっての!? 教えて! お願いします雫様!!」

「リーナさんがスピードシューティングで使ってたCAD調整は、司波君だけじゃなく雫ちゃんも担当してたんだよね!?」

「ほのか以外の女子選手たちが使ってた魔法も、ぜんぶ雫ちゃんがオリジナルで考えて作ったって聞いたんだけど本当なの!?」

 

「あ、あう、あ、う・・・あ・・・・・・うぅ・・・・・・(びくん、びくん、エグッ、エグッ・・・)」

 

 

 ・・・・・・俺が女子に囲まれている場所から、少し離れた食堂の一角において見事すぎるほど明暗が分かたれている女子たち二人が、同じく女子選手たちに囲まれて賛辞を送られ、一人は怯えきって泣きかけていた。

 

 言うまでもなく、USNAから非公式に亡命してきた十三使徒の一人にして、今なお世界最強魔法師の一人でもある元スターズ総隊長のアンジーことアンジェリーナ・クドウ・シールズと、遺憾ながら俺の幼馴染みであり超簡易魔法式の開発者でもある北山雫の二人である。

 

 リーナの方は、おそらく軍人時代にこういう場に出席した経験が多数あるのだろう。

 むしろ昔の輝かしい時代に戻ったような気分に浸ってなのか、普段よりも輝きを増しているような錯覚すら覚えるほど生き生きしている。

 

 ・・・・・・それでいて、謙遜を装った自慢を続けながらでも、手と口は休む事なくテーブルに並んだ豪勢な料理を減らし続けている姿は、見ている方が気まずくなって目を逸らしたい気分に襲われもするのだが・・・・・・。

 

 

 対して雫の方はといえば、完全に怯えきっていた。

 群がっている女子選手たちからすれば、見た事も聞いた事もない魔法を見せつけられ、勝てぬだろうと思われていた選手たちの試合をも勝利に導かせた雫が持つ、俺でさえ理解不可能で解析もできなかったトンデモ魔法に興奮して、少しでも話を聞かせて欲しいと願っているだけではあるのだろうが・・・・・・

 

「いいなぁ・・・・・・あたしも菜々美みたいに雫ちゃんから担当してもらえた最初の一人目だったら、もっと上の順位だったのに・・・・・・」

「ふふぅ~ん♪ まぁね~♪

 やっぱり自分の未熟さを自覚して、CAD調整のできないところは専門家を信じて委ねるって大事なんだなって、あたしは雫ちゃんに出会って間違いに気づけた一人目だったからねぇ~」

『い~い~な~~~・・・・・・雫さま! やっぱり今度は私の担当を最初に!!』

『いいえ! 私と!!!』

 

「あ、う・・・・・・あう、あう・・・・・・あう、うぅぅ・・・・・・(びくびく、ブルブル、びくんびくん・・・)」

 

 

 ・・・・・・駄目だろうな、アレは。

 好意であろうと悪意であろうと、多数の人間たちから勢いよく迫ってこられると怯えきって、俺の後ろという殻の中に逃げ込む対応しかしてこなかったカタツムリかヤドカリのような臆病すぎる少女に対して――言葉を選ばず言ってしまうなら、虫ケラのような存在にとって大きな身体を持つ存在が勢いよく突進してくるのを見ただけで動揺してしまい、とても会話など不可能だろう。あの状態ではさすがに・・・・・・。

 

 ふと、雫に涙目が俺に向けられ『助け、て・・・』と無言で懇願されているように俺には感じられ、

 

「・・・・・・ふむ」

 

 と一つ唸った後、しばしの間考えてみた上で。

 

「司波君、リーナさんが使ってたアレって《共振破壊》のバリエーションだよね?」

「正解」

 

 と、周囲に群がってきて答える間もなく話かけ続けていた女子選手たちの一人の話だけを拾い上げ、短く問題ない範囲の答えだけを返してやり、彼女たちの緊張を解いてやるためのお祭り会話の渦中へと自主的に戻っていく道を選択することにしておいた。

 

 当初は穿った見方で彼女たちの話を評してしまったが、選手が自分の使った道具の制作者を褒めるのは試合に勝つため貢献した時だけであるのは極真っ当な正しい対応であり、正当な評価といえるだろう。

 

 もともと選手が使う専用の機材を調整する技術スタッフとは裏方であり、表側に立つ選手が脚光を浴び、こうして成功のお裾分けとして賛辞を送ってくれるのは、自分の力だけで勝てたと思い上がる者たちより遙かに賞賛されて然るべき、正しく正当な行動であったと評価できる。

 

 よってこの場合、俺も雫も選手の勝利のために貢献した裏方の技術スタッフとして、正当に仕事を評価され褒められるということへの正常な喜びを知れるようになる事もまた、健全な社会人として卒業後は歩み出す高校生らしい学びの一環と言えるだろう。

 

 まして今の俺は、望んで就いた地位でないとは言え魔法科高校初の魔法工学科主席入学者で、代表でもあるという過分な地位役職を与えられている身でもある。地位に伴い果たすべき責任と義務というものがあるのだ。

 

 悪いが雫、俺は工学科の代表として、一生徒であるお前を今日ばかりは千尋の谷に突き落とそうと思う。見事這い上がってこいとまで無茶ぶりする気はないが・・・少しぐらいは人から賞賛されるという状況も体験してみるといいだろう。

 

 なにしろお前は、それだけの事をしたのだから・・・・・・偉業をなした本人として名乗れる日は来なくとも、今日のように褒め称えられることぐらい許されていい・・・そのはずだ・・・。

 

 

 

「・・・うわ。摩利、見た? 司波君のあの笑顔・・・・・・」

「うむ。『仕方ないな』と言いたげな表情で笑って見せながらも、その裏では黒々とした本心を隠して取り繕っている時の笑顔だ。長い間、真由美とコンビを組んでいた私には分かる。間違いない」

「・・・・・・ねぇ、摩利。今の発言はどういう本心を隠してのものだったのかしら? 詳しく説明して欲しいんだけどちょっと!?」

 

 

 ――なにやら遠くから会長たちが、他の上級生たちと共に俺たち一年生組が騒いでいる方を見ながら何事かを語り合っていたようだったが・・・・・・おそらく大会初参加の新人たちの心情に配慮して『仕方ないな』と苦笑だけで済ませてやろうと示し合わせていただけだろう。

 

 良識ある上級生の対応とは、そういうものだ。

 『最強世代』とも称されていた先輩たちが一挙に抜け落ちる、来年以降からの九校戦を踏まえて「てこ入れ」を考えてくれているであろう会長たちには頭が下がる思いしかない。

 

 ・・・・・・だから、もう少し頑張ってこい雫。骨ぐらいは拾ってやる。

 

 

 とは言え、だ。

 物事には裏と表があり、誰かにとっての幸福が別の誰かにとっての不幸になりかねないのと同じ論理によって、自分たちにとっても不幸には作用しておらず損もしていないにも関わらず、損害を被ったかのように感じられてしまう厄介な側面が人の心とやらには存在しているのも確かな事実ではあるようだった。

 

 

 

「でも司波君と雫ちゃんのおかげで、いつも以上の力が出せたのは間違いないし!!

 司波君と雫ちゃんが担当してくれて本当ラッキーでした♪

 二人を譲ってくれた男子には感謝ですね」

 

 女子の一人が無邪気な笑みを浮かべながら言った、多大な勘違いと―――無邪気な残酷さが込められた発言を口にしてしまった瞬間。

 俺の立場では、苦笑する意外に反応の仕方を選びようもなかったが・・・・・・苦笑で済ませることのできない立場にいる人間の事も、今の俺には理解できるようになってもいた。それが理由である。

 

 ガタンッ!!!

 

「あ! おい、森崎ッ!」

 

 荒々しい音を立て、席から立ち上がると同時に制止の声も聞かず、早足でお祭り気分に満たされた食堂の外へと歩み出していき、数人の仲間たちが後を追っていった男子生徒の後ろ姿。

 

 ・・・・・・女子選手たちにとっては、まさしく快挙というしかないスピード・シューティングに続く三つの競技の全選手予選通過という好成績。

 だが、それは同時に不振の続く男子選手たちにとって自分たちの戦績を相対的評価で、実際より更に低く感じさせるに十分すぎるほどの威力があったはずのものだった。

 

 一日目のスピード・シューティングでは一人が準優勝して、残りは予選落ち。優勝した三校が一位と四位で、この時点では『女子の成績が出来過ぎだった』で済ませられる範囲だったのだが、続くバトル・ボードでも女子は全員が予選を通過して男子は一人だけ。

 せめて女子が不振と言うほどではなくとも、他と比べれば「まぁまぁ」の結果にとどまっていたクラウド・ボールで遅れを取り戻せれば彼らのプライド的に救いもあったのだろうが・・・・・・残念な事実として、熱意が結果に結びつくことは人の社会では最高の幸福の一つなのが現実というものだった。

 

 そこに来て、俺だけでなく雫の見た目が派手な魔法を見せつけられた後では、事情を知らぬものから見れば余計に彼らが見窄らしく見られてしまっている事は容易に想像がつきやすく、そうなれば彼らのプライドや克己心がプラスの方向に作用してくれる可能性はほとんど期待できなくなって行かざるを得ないほどに落ち込んでいくしかない。

 

 それらの気持ちは、分からなくもない。

 昔の俺なら、非合理的で無駄の多い思考だと切り捨てる事できただろうが・・・・・・『自分より劣っていると感じているバカ』に幾度も後塵を拝し続けた経験をもつ今の俺にとっては、彼らの気持ちは理屈の上で分からなくもない程度にまで身近なものに感じられて仕方がない・・・。

 

 

「――ちょっと皆さん、ごめんなさい。ワタシ、お花摘みに行きたくなっちゃって。

 シズク、あとの事よろしく。任せたからね? 失敗したらグランマより怖いお仕置きよ」

「ふ、え? なに、が? 何を頼まれた、の私・・・・・・って、ふえええ、えぇぇ・・・ッ!?」

 

 

 そう言い残して、ガタンと音を立てて席を立ち、部屋を飛び出していった金色の輝きを視界の端にとめながら、俺は女子たちとの話し合いというか一方的な話しかけられ続ける儀式へと帰還していく道を選びながら―――心の中で思ってもいた。

 

 

 ――――他者と協力し合って戦う、というのも決して悪いものではないのだという事を、最近になって良く理解できるようになった分だけは、雫を早めに助けに行ってやるべきかもしれないな――――と。

 

 気の迷いかも知れないが、今夜はそういう気分だった。そういう事にしておこう。

 

 

 

つづく




注:リーナの発破掛け内容を思い出して書けた場合でも、森崎くんの未来は変わりません。
流石に、気持ちの変化で爆弾は、どーにも出来るようになれない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。