北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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明けましておめでとうございます。新年初の雫を読んでくれた皆様方、今年もよろしくお願いいたします。
新年一発目の更新ですが、残念なことに雫があまり活躍させられませんでした。久島老人の演説シーンとか、お風呂での話とか色々妄想しながら書いてたら尺を使いすぎました。申し訳ありませんが次回に回させて頂きますね。今回のメインは・・・千葉家かなぁ?


第22話「北山雫が参加する九校戦開始前のパーティーは無礼講?」

 来る途中で事故に見せかけた魔法師によるカミカゼ特攻アタックなんていう、映画でしか見たことないショッキングな光景を見せられはしたものの。

 ワタクシ、アンジェリーナ・クドウ・シールズ含む魔法科第一高校の面々は九校戦の会場に到着した訳なのだけれども。

 

 

「慣れないわ、この空気・・・・・・そりゃもう、ものスッゴく・・・」

 

 目の前で繰り広げられてる、各校の選手たちが入り乱れての立食パーティー。参加者は当然のごとく高校生メインだからドレスコードは礼服じゃなくて、各学校の制服。

 着るものに悩まなくていいのは助かるんだけど、この互いが互いを伺い合って社交辞令を言い合ってる雰囲気はどうしても慣れないわぁ・・・。

 

 軍にいた頃も、同盟国や仮想敵国なんかを相手に中級士官同士が歓談し合う会談パーティーは何度か出たことあるんだけど、お互いに命令さえあればいつでも相手を撃ち殺せる覚悟と度胸と、そして素人さん方にはおかしく見えるかもしれない『命を掛け合う者に対する敬意』が有ったおかげで意外と気軽に楽しめていた。

 

 なのにこのパーティー会場はなんて言うか・・・・・・お偉方と相席しての儀礼式典じみた空気が漂っていて妙に息苦しい。制服がいつもよりずっと窮屈に感じられるほど息が詰まって仕方がない。

 

 何というかこう・・・戦いを前にして緊張感はあるのに、死ぬ危険性がないからと一部だけ弛緩しているような『所詮はスポーツ大会』と楽観視している空気が混在となって生じるカオス感が、一手読み間違えただけで死が訪れるかもしれない戦場暮らしが長いワタシには合わない。ものスッゴい違和感を感じさせられて仕方がない。

 

 戦争するかもしれない相手国と仲良く肩を組み合えてた現役時代よりも、平和な日本で学生として参加させられてるスポーツ大会開催前日のパーティーの方が気が重くなる不思議とは、これ如何に?

 

 

「・・・トーヨーは、やっぱり恐ろしい国なのね・・・・・・」

 

 改めて実感しながらワタシは、それとなく周囲を見て回る。

 敵が紛れ込んでないか、念のために見て回っているのだ。

 

 あの後、会場に着いてからタツヤとコンタクトを取って、やや脅迫紛いになっちゃったけど一定の情報共有は約束させることが出来た。今はタツヤが掴んでいた情報を基に(どうやって掴んだかは企業秘密なんだってさ。ケチ!)日本人以外のアジア系人種を探し回っているんだけど・・・ダメだわやっぱり。東洋人、見た目の違いワカラナ~イ・・・・・・。

 

「・・・本気でどうしようかしら、この状況・・・・・・」

 

 ワタシは出来ることを見失い、ただ呆然と立ちすくんで周囲を見渡す変な外国人になってしまってた自分を自覚しないまま、しばらくはジーッとし続けていた。

 

 そして気付いた。

 背後から近づいてくる複数の邪なプレッシャーに!!

 

「ふぅんッ!!」

 

 気配に向かってワタシは回し蹴りを放って奇襲する。

 騙し討ちしようと近づいてくる敵には、ギリギリまで引き寄せてから奇襲する! 戦場での常識を思い知りなさい! 中国系マフィア!!

 

 

 

 

 

 

「・・・?? 何の騒ぎじゃ? 何やら会場の一部が騒がしいことになっておるのう」

「さぁ・・・、よくは聞こえなかったけど近くを通りかかったときに『四校の男子生徒が金髪で外国人の子に声かけようとして急所蹴られた』って、騒いでいた様な気がするわね・・・」

「・・・戦いを前だというのにお気楽なものね。懇親会を何か別のものと勘違いしてるんじゃないかしら。まったく軽薄で嫌になってくるわ」

「それだけ気を抜いている者が多いということじゃな。わしらも見に行ってみるか?」

「沓子はそうやってすぐ楽観視するの良くないわ」

 

 

 ・・・親の心子知らず。子の心、子供たち同士でも伝わらず。

 魔法師で有ろうと無かろうと、人は人。

 人間の脳みそは自分一人分が感知している以上の情報を収集して分析することなど出来はしないものである。

 

「あっ、あれ三校の一色愛梨さんだ。エクレール・アイリだ!! 声かけてみようぜ!」

「おうよ! さっき一高の子に声かけようとして玉砕した仲間たちの無念を今こそ晴らす時は今だ! すいませーん!」

「あの・・・三高の一色さんですよね? 良かったらお話でも・・・」

「あなた十氏族? 百家? 何かの優勝経験は?」

「へ? えーと・・・特にそういったものは・・・」

「話すだけ無駄ね。行きましょ」

「やれやれ、愛梨はあいかわらずあしらいが厳しいのぅ。一条とはえらい違いじゃ」

「あれ、その一条くんの様子が変ね・・・珍しく他校の生徒に夢中になってるみたいだけど・・・」

「なんじゃとっ!? それでは親衛隊が荒れておるのではないか!?」

「・・・ううん、アレはたぶん荒れるの無理だと思うわよ・・・?」

「??? なんかよく判らんが面白そうじゃし、わしらも行ってみるか」

 

 

 

 

「はぁ・・・明日からともに競い合う相手との懇親会だって言うのに、和やかさよりも緊張感の方が強いこの雰囲気・・・。だから本当は出たくなかったのよね、これ・・・」

 

 パーティー会場の隅で一人、壁際の花ならぬ食みだし者の悲哀を囲っていた俺の近くから七草会長がつぶやいているのが聞こえたので、礼儀正しく聞かなかったことにしたものの。

 内心で俺は彼女の意見には全面的に賛同していた。

 表の顔以外でも裏方に徹している俺は、パーティーだのレセプションだのの類いを正直苦手としていた。無理に笑顔を作るのが面倒くさいと言うのもあるが、そもそもにおいて俺は決して人との会話が上手い方ではないし、好きなわけでもない。特別嫌いなわけでもないが、苦手にはしている。

 

 そう言う人間にとって、九校戦開会式前日におこなわれる、技術スタッフ含めた各学校からの選手たち全員が強制参加させられるパーティーは苦痛でしかなかったが、俺たちを乗せたバスが大会が始まる前々日の午前中などという早すぎる時間帯に到着を予定していたかと言えばパーティーに出席するためだったのだから、これで体調不良を口実にして参加を拒否するのは本末転倒も甚だしくなってしまう。一時のことだと耐える以外に他なかろうよ。

 

「あーあー、私もクドウさんみたいにはっちゃけてストレス発散したいなー」

 

 前言撤回。会長の発言を無視するのはやめだ。礼儀だのどうだのといった形式はすべて無視してでも彼女の一挙手一投足に目を配っておかなければ大惨事になりかねない。

 信頼していないわけではないのだが、彼女は時折一瞬だけとはいえ気まぐれからトンデモない事をしでかしてくれる傾向がある。用心するにしくはなかった。

 

 

「お客様、お飲み物は如何ですか?」

 

 しばらくして、監視対象だった会長が何事もなく他校の代表グループに混ざるため歓談しに赴くのを確認してホッと息をついていた俺に声がかかり、そちらを見るとエリカが立っていた。

 だが、普段のエリカではない。なんと言えばいいのか、言ってしまっていいものなのか判然としない服装を纏い、俺の目の前まで立ちにきている。

 

「関係者とはこういうことか・・・・・・」

 

 俺は渡されたドリンクを受け取り、ウェイトレス姿をしたエリカを呆れも交えた苦笑を浮かべながら当たり障りのない言葉で評することにする。

 

「あっ、深雪に聞いたんだ? ビックリした?」

「驚いた。よく潜り込めたものだと感心していたが・・・まぁ、よく考えてみればこれくらいは当然か」

 

 俺は近年の魔法関連市場における勢力図と経済事情を思い出しながら、前言を撤回して言い直す。

 

 もともとエリカの実家である千葉家は『剣の魔法師』と渾名される、刀剣と魔法技術の併用をいち早く確立したことで勇名を成した一門として知られている。

 が、経済基盤そのものは、むしろ警備保障や防犯グッズなどのセキュリティ関連こそが主力であり、門下生たちに剣術を技術として教え広めるのは副収入となっているのが、営利企業としての千葉家の事情であったりする。

 

 彼らが教え伝える剣術は確かに素晴らしいものではあったが、技術普及の基本は一般化であり、学べば誰にでも使えるようになる体系化こそが真に社会にとって益をもたらす技術たり得ることが出来るのだ。

 

 極めなければ使いこなせない技術というのは所詮、個人の才能に依存するものだ。大量生産は限りなく不可能に近く、一般化にも技術普及にも貢献し得ない。むしろ足かせとなるしかない、選ばれた者のみが使うことを許された奇跡。それ以外の何物でもない。

 

 当然、それらを資格無き者が使おうと思えば相応の代価が必要となり、俺のような子供が生み出される結果を招いてしまう恐れがあるのは自明の理であるだろう。

 

 だからなのか、千葉家が振るう伝統ある正統派剣術の教えは意外なほど超簡易魔法式との相性が良く、彼らも旧家故の非合理的なプライドなどには目もくれずに新しい技術を学び研究し、新たな使い方を考案することに余念がない。

 

 その結果、近年では『防犯と言うより奇襲に近い』まったく新しいセキュリティ概念を確立するまでに至ってしまったのは俺から見ても驚愕に値する大偉業だったと絶賛してやまない。

 

 こと奇襲性において簡易魔法式に比肩できる魔法というのは存在していない。『そういう風に創り出された魔法』なのだから当然のことだ。

 鍛えれば向上の余地がある魔法師の使う魔法と違って、決められたことをするしかない機械で使うが故に限界がはじめから設定されている簡易魔法式は威力でも規模でも他の魔法には決して敵うことはなく、一方で発動までの速度と連射性能で他に引けを取ることは決してあり得ない部分でもある。

 

 その結果、強い相手と正面からやり合うことなく、必殺必中の間合いにまで引きずり込んでからトドメの一撃を放つ様な陰湿極まりない奇襲の手法が毎日のように考案されては千葉家の売れ筋防犯グッズの歴史に新たな名を刻み続けている今がある。

 

 

 ・・・長くなってしまったが、要するに『金とコネで大抵の軍施設に入ることが出来るのが千葉家』という状況に今ではなってしまっていると言うことである。

 無論、今身につけているコンパニオンの格好をさせるような辻褄合わせの工夫は必要だろうが、実際の接客を任せるというのは依頼された方ではなく、むしろ依頼してきた本人の趣味趣向によるところの方が大きいのではないかと俺は見ている。

 

 何故なら、怪我でもされて困るのは日常的に刀傷を負う剣の一族の娘ではなく、この会場および大会運営側の現場責任者であるだろうから。

 千葉が笑って許してくれたとしても、軍と国が責任者を許しておかない。必ずや首を差し出してご機嫌伺いをしにくると見て間違いない。余計な借りを作らずに済むためなら、現場責任者と現場監督の首を二つ並べて差し出すくらいのことが出来なければ組織の長など務まるはずもないことだし。

 

 いつの時代、あらゆるゴタゴタにおいて責任を取るべき総責任者は責任を回避して現場責任者こそが全ての咎を背負わされて腹を切らされる。世界中あらゆる場所で行われてきて、今も行われ続けている平凡な政治だ。古くさい日本の時代劇を持ち出すまでもないだろうさ。

 

「ハイ、エリカ。可愛い格好をしているじゃない。関係者って、こういうことだったのね」

「そういうこと。ねっ、可愛いでしょ? 達也くんは何も言ってくれなかったけど」

「お兄様にそんなことを求めても無理よ、エリカ」

 

 俺が黙り込んで思考に耽っていた空白の間を補ってくれるように、深雪が会話に入ってきてくれた。

 

「お兄様は女の子の服装なんて表面的なことに囚われたりはしないもの。きちんと、わたしたち自身を見てくださっているから、その場限りのお仕着せの制服などに興味を持たれないのよ」

「ああ、なるほどね。達也くんはコスプレなんかに興味はないか」

「それってコスプレなの?」

「あたしは違うと思うんだけど、男の子からしたらそう見えるみたいよ。実際、ミキがコスプレって口走ってるのが聞こえて、お仕置きしてやったばかりだし」

「僕の名前は幹比古だ!」

「うわっ、なんか呼ぶ前から本人が来たわ!? なんで!?」

「バカバカしい。同じ一高生で、しかも今はチームメイトなんだから不思議なことでもないでしょ?」

「今度は千代田先輩!? しかも、五十里先輩まできちゃってるし!」

「ふっ。なにを今更・・・私と啓はすでにして一蓮托生。離れ離れなんて、仏様が許しても私が許さないからに決まっているじゃない!」

「いや、その言い様だと誤解されちゃいそうだから、もう少し言い回しを一般水準に落とした方がいいと思うよ、花音・・・」

「それが許されるのは私の好感度が『愛してる』以下の場合に限ってまでよ、啓」

「それ以上の上があるの!?」

 

「花音、五十里の言うとおりだよ。世の中には拙速を尊ばないこともあるんだ。その言い様は、せめて結婚可能年齢に達するまではタンスの奥にでも仕舞っておけ」

「摩利さん」

「あれ? 達也さん、皆さんとご一緒だったんですね。何のお話をされてたんですか?」

 

 

 

 ・・・・・・なぜか理由は不明だが、思考を終えたら一瞬にして増殖してしまった俺の知人、友人たち一同。俺は問題児ホイホイか何かなのか・・・?

 

 ――しかし、一番注視しておくべき問題児の黒い頭髪が見当たらないのは気になるな・・・ほのかにでも聞いてみるか。

 

「ほのか、雫と一緒じゃなかったのか? アイツのことだから会場に漂う緊張感に当てられてビクビクしながら部屋の隅に避難してくると踏んで待っていてやったのだが・・・」

「雫ですか? 途中で料理の取り分けるため別れてきちゃいましたけど、でもすぐにこちらへ来ると思います・・・あ! やっぱり来ました! おーい、雫―。こっちこっち」

 

 とてとてとて。

 

「ほの、か。お待た、せ」

「おかえりなさーい。それにしても随分といっぱい取ってきたわねぇ。・・・念のために聞くけど、ちゃんと全部食べれるの?

 さすがに九校戦でだけは、いつもみたいに取ってきた半分も食べれなくて達也さんに残りを食べてもらうのはなしだからね・・・?」

「だいじょう、ぶ。ちゃんと全部責任もって食べ、るから(キラキラお目々)」

「それ絶対食べ残して親に食べてもらうことになる子供の台詞だよね雫―っ!?」

「・・・・・・・・・」

 

 

 会場内に満ちる和やかさよりも緊張感の方が目につく空気。

 それを少しだけでいい。・・・今俺の目の前で繰り広げられてる馬鹿騒ぎにも別けてくれないだろうか!? 頼む・・・っ!!

 

 

つづく

 

 

次回予告

 

「それでは来賓からの挨拶に移りたいと思います。まずは九島烈さまからです、どうぞ」

 

 コツコツコツ・・・。

 

 ・・・コソコソコソ。

 

「?? どうした、の? リーナ、おなかでも痛い、の?」

「しっ! 黙って! 今見つけられると物スッゴくヤバいことになるご老人が出てきちゃったから隠れたいのよ! 大会が終わった後のワタシを守る盾になりなさいシズク!!」

「???」

 

(↑今さっき問題起こしたばかりの、問題を起こしちゃいけないことになってる亡命者なスターズ元総隊長なアメリカ娘)

 

「・・・・・・(にっこり)」

(↑孫娘のやんちゃを見守りながら微笑んでいる好々爺。――のように見せかけている、元世界最強と目されてた魔法師)

 

 

たった一人にとって、危機的状況が訪れる(かもしれない)九島烈老人の挨拶へと続く!


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