北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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更新ですが、困りました。想定してたよりはるかにシリアスになてしまって・・・どうすればいいのやらな状態。
取りあえず出して反応見てから対応を決めさせてくださいませ。
前回でギャグやったから続きはギャグ薄めでいいだろう的思考が裏目に出過ぎたみたいですので・・・


第20話「原作との相性からシリアスになってしまいました・・・」

「はぁ、まったく男子という奴らは全く・・・少しはシュウの落ち着きを見習えばいいものを・・・(ボソッと)」

 

 あたしは司波妹を自分のすぐ近くの席まで移動させて、背後には十文字が座して睨みを利かせてもらってから席へと戻り座り込んでため息を吐く。吐かざるを得ない。

 

 兄のことが原因で不機嫌さを露わにしているうちは怖くて近寄ることさえ出来なかった男子生徒たちが、光井の活躍により吹雪を押さえて普段のお嬢様然とした楚々とした挙動に戻った途端に灯の光に釣られる誘蛾灯の蛾のごとき勢いで彼女にたかってきたので、手の届かない高見へと移動させてやったところなのだ。

 

 「自分たちとは住む世界が違うから」等とほざいておきながら、実際に高見の一員に列せられてしまうと怖くて手が出せなくなる臆病者の癖して、なにが「自分たちは司波さんと仲良くなりたいだけ」だ。

 リスクを恐れて手に入れられるリターンなど、その程度の物だと思い知れ。

 

 

『ふぅ・・・・・・』

 

 

 折しも真由美含めた女子勢だけのトークで盛り上がり、男女混合バスの一角を簡易的な女子会会場に仕上げたわけなのだが。

 

 ・・・考えてみると、この場にいる年頃女子たちのうち恋人も思い人さえいないのは真由美だけであり、女子だけで話し合っても微妙な物足りなさを感じさせられる程度には相手の男に惚れ込んでいる事実に変わりはなかったから何となく途中で冷めてきてしまった。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 司波妹と花音は窓の外に映し出される景色が変化しはじめたのを契機に風景へと視線を移し、あたしもまた手持ち無沙汰になって意味もなく男共への睨みを利かせる役に加勢していた。

 (真由美は退屈になってきたら早々に寝てしまっていた。こいつはこいつで意外とマイペースなところが昔からある)

 

 

 丁度そんな時だ。

 花音が大声で「危ない!」と、警告の悲鳴と怒号のどちらか判別しづらい叫び声を上げたのは。

 

 見ると、あたしたちが乗ってるバスの対抗車線を走っていたオフロードカーが、車体を傾けた状態で路面に火花を散らしていた。交通事故・・・なのだろう。おそらくはだが。

 

 パンクだ、と誰かが叫んだ。

 脱輪じゃないのか、と誰かが興奮した声で語っているのが聞こえてくる。

 

 その声に危機感はなく、人様の事故死を対岸の火事として見世物のように面白がって見ている彼らの心理が手に取るようにわかってしまったあたしは条件反射で不快感を露わにした。

 

(魔法師が優遇され、時代が変わり始めた今なお不動の就職先で在り続けている軍隊が防衛力として魔法師を求めていることに変わりないとは言え、人が死んでいくシーンを見て面白がれるような人間に国防を担わせる訳がなかろうに・・・・・・)

 

 そう思い、注意した方が良いかと、一瞬だけ意識が車から逸れたその刹那。

 誰かが悲鳴を漏らすのが聞こえ、小さな悲鳴が車内各所から連鎖的に引き起こされる。

 

 

 見ると、対向車線で事故っていた大型車両がいきなりスピンし始めてガード壁に激突し、どんな天文学的な偶然か、宙返りしをしながらあたしたちが乗ってるバスへと飛んで来たではないか!

 

 慌てて運転手によるブレーキがかかり、全員が一斉につんのめった。

 シートベルトを締めていなかった一部の者から悲鳴が上がったが、構うものか。自業自得だ。注意事項以前にバスを使っての長距離移動でシートベルトを締めるのは一般常識だ!バカめらが!

 

 

 ――が、バカだろうと何だろう徹底している奴らと半端に利口さを残した奴らを比べた場合、時として何も出来ないバカの方が『無害』であり、普段の半分までしか実行できなくなった状態の優秀なヒヨコの方が『有害』になってしまうのだという事実をこれからあたしは思い知ることになる。

 

 

「吹っ飛べ!」

「消えろ!」

「止まって!

 

 

 大半の者が、自分は何をすべきかも分からぬまま呆然とする中で、何名かの将来有望で優秀な生徒たちが反射的に魔法を発動させて対処しようとしてしまっていた。

 

 同一の対象物への無秩序な魔法の行使は、相克を起こして事象改変を妨げ合うだけで、却って邪魔になる。

 魔法師として初歩中の初歩でしかない常識レベルの一般認識であろうとも、覚えていて実行できる部分が半分までしかなかったとしたら意味がない。まだしも何もしてくれない方が邪魔にならない分だけマシだったと言えるほどに。

 

「バカ、止めろ!」

 

 そう叫ぼうとして立ち上がりながら、背後に振り返ろうとしたまさにその時!

 

 

「shut up!!」

 

 

 綺麗な発音のネイティブアメリカンで放たれた叱責に、魔法を使おうとしていた者達は一人残らず射竦められ、半端に発動しかけていた魔法は更に半端な半分以下の状態で術者とのつながりを完全に断ち切らせてしまった。

 

「クドウ・・・っ!!」

 

 彼女の名はアンジェリーナ・クドウ・シールズ。日本に渡ってきてから其れなりの時間が過ぎたアメリカ出身者の少女だ。

 司波妹と並んで一年の学年主席を争い合う破格の存在の一人だが、今の声に秘められていた迫力は尋常ではなく、明らかに場慣れしたプロの貫禄に満ち溢れたものだった。

 花音たちには悪いと思うが、優秀であっても半人前でしかない彼女たちとクドウとではハッキリ言って桁と格が違いすぎている。

 

 ・・・だが、いくら優秀で場慣れしていようとこの状況で出来ることは限られるはず・・・。一体どうするつもり―――って、え? 

 

 

「特化型CAD・・・?」

 

 あたしは彼女が取り出した拳銃タイプのCADに驚き唖然とさせられてしまう。

 確かに展開速度という点において汎用型より遙かに優秀なそれは、現在のような緊急事態に対処するには有効かもしれない。

 だが、格納できる魔法の数自体が少ない特化型は、予め想定した状況に合わせて事前に入力しておく必要性があり、対応可能な自体が少ないという欠点も併せ持つ。

 

 予想外の緊急事態に対処できるスピードと引き換えにして、対処できる数自体を減らしてしまったのでは『いざという時の対処方』としては本末転倒ではなかったのか? 彼女を見るまでその思っていたあたしは次の瞬間、思わず唖然呆然とさせられる。

 

 

「flameッ!!!」

 

 

 引き金型の起動装置を引き、車内に爆音を轟かせる。

 本当に発砲したわけではない。車を砲撃したわけでもない。

 ただ、デタラメな威力で撃ち放たれた対抗魔法が車に投射されていたサイオンの全てをミクロンサイズにまでズタボロに吹き飛ばし、衝撃が物理的なショックウェーブまでもを引き起こしたことで我々の鼓膜に直撃した。

 ・・・おそらくはそういう理屈だったのだろう。おそらくはだが。

 

 正直、レベルに差がありすぎて正しく認識できていたと言う自信は無くなっていたけれど・・・。

 

 

「ミユキ! 手伝ってちょうだい! 空気の扱いは貴女の方が上手だわ!」

「――っ、了解!」

 

 

 即座に反応して対応する司波妹といい、本当に今年の一年は可愛げがなさ過ぎると最上級生のあたしは思って止まない。

 

 

 

 

 

 

 

「ほう・・・先を起こされてしまったか。

 尤も、奥の手を晒さずに済んだ俺としては願ったり叶ったりの結果ではあるが・・・」

 

 作業車から降りた俺は、事の一部始終を『眼で視て観察』しながら感嘆の溜息を吐いていた。

 事故を見た瞬間、飛び方に違和感を感じた俺は即座に解析を試みたのだが、その作業に集中する暇も与えられない反応速度でバス車内から膨大な量のサイオンを感じて意識の分割を余儀なくされ、反応がやや遅れてしまった。

 

 最初は深雪が何かしようとしているのかと思ったのだが、それにしてはコントロールがなさ過ぎて秀才タイプの妹らしくない。

 野蛮とまでは言わないが、壊すことに特化した魔法の使い方は現代日本の魔法とは大きく性質を異としており外国育ちの魔法師であることは間違いない。

 

 そうなると候補として残れるのは只一人。

 噂に名高い十三使徒の一人にして、『元』USNA軍所属のアンジー・シリウスこと、リーナ以外にはあり得まい。

 

 ・・・そうなると先ほどの馬鹿げた威力とサイオン量は、例のブリューナクを模倣した物になる訳か。興味深いな。

 ただでさえ仮説の段階だったはずのFAE理論が実用化されていて、現物を使っていたらしき人物が目と鼻の先にいるのだから技術者として興味がわかない訳がない。

 

 風間少佐からブリューナクが破壊された可能性が高いという未確認情報だけは聞き出せていたものの、それ以外はサッパリだったので尚更である。

 

 そう言えば雫から「リーナ、はもともと魔工科に入りたがってい、た」と大分前に聞かされていた気がする。簡易魔法式に敗れたことで今までの自分とは決別してきたのがどうとか。

 受験勉強の中で学び取った技術を元に、最低限使えるレベルで再現したのが今視たアレという訳か。なかなかどうして恐れ入る努力量と熱意だな。どこかのバカにも見習って欲しいことこの上ない。

 

 なにしろ―――

 

「過去を捨て、て自分だけの道を探すの、は格好い、い」

 

 ・・・と、何かのアニメを見終えた直後にそう言ってから思い出したように付け足していたせいで、俺は完全に与太話の類いだと思い込まされていたのだからな・・・。

 

 

「しかし、無茶な使い方をする。どれほど威力を抑え、既存のCADでも撃てるよう低スペック化を計ろうとも、オリジナル以外であれを使えるのは一発が限界のはず。

 現在市販されている中では最高性能を誇る最高級品を、一回限りの使い捨て魔法の為だけに購入するとは剛毅なことだ」

 

 あるいは、九島閣下辺りに技術情報を売ることで今の地位を得たのかもしれない。

 どちらにしろ、今俺がやるべき異には関係ないので無視してしまって構わないだろう。少なくとも今はまだ・・・な。

 

「あのー、司波君? 浸っているところ悪いんだけどさ・・・」

「何でしょうか? 五十里先輩」

「えーと、うん。さっきのと似たような状況で似たようなこと聞くのは無粋なんだろうなーと分かってはいるんだけど、今度のはちょっとまぁその、うん。

 ――見過ごすのは倫理的にどうかと思っちゃったわけでさ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「五十里先輩・・・・・・」

「な、何かな? 司波君・・・」

「・・・・・・・口止め料は幾らぐらい積めば満足していただけますでしょうか・・・?」

「いや、僕そこまで外道じゃないからね!? 普通に『黙っておいてください』だけで誰にも他言する気なんてなかったよ僕!? て言うかこんなの、他言する方が恥ずかしいし!!」

「・・・・・・」

 

 ・・・五十里先輩の優しさが心なしか痛く感じてしまうのは何故だろうか・・・? 心を奪われた俺には分からない。

 ただ一つだけ、俺に分かるのは・・・・・・

 

 

「う、きゅ~・・・・・・(; ̄O ̄)」

 

 

 作業車を急停止させたとき、シートベルトも締めずに俺の膝上で寝ていたバカが現在は移動していて、俺が身動きしたら少年犯罪になりかねない姿勢で停止してしまっていて動けないという事実だけだった。

 

 ・・・頼む、雫。早く起きてくれないか・・・?

 ・・・・・・・・・・・・動けない・・・・・・。

 

 

 

 

 

「みんな、大丈夫?」

 

 急ブレーキで飛び起きた私は慌てて周囲を見渡しながら問いかけて、弱々しい声でだけど返事が返ってきたことに心の底から安堵する。

 

 ・・・学園最強の生徒会長が眠りこけちゃってたせいで助けられた命を助けられずに無駄死にさせちゃったなんてイヤすぎるし、仮に私だけ助かっちゃったとしても死にたくなっちゃうのは間違いないからね。

 どこの誰がどんな手段で助けてくれたかはこの際置くとして、みんなが無事に済んだことには素直に喜びたいと願う私です。

 

「危なかったけど、もう心配いらないわ。クドウさんと深雪さんの活躍で大惨事は免れたみたいだし、怪我した人がいたらシートベルトの大切さを噛み締めて、次の機会に役立ててね? もちろん、次の機会なんてないのが一番なんだけど♪」

 

 ウィンクしておどけて見せて笑いを誘い、みんなの心から恐怖と緊張を緩ませることに成功して内心ホッと一息。

 みんなを笑顔にするためには自分の不安も緊張も心の中へ押し込めて、代わりに笑顔を浮かべて見せるのが生徒会長のお仕事です。

 

「十文字くんも、ありがとう。いつもながら見事な手際ね」

「・・・いつもであれば謙遜して見せるところだが、今日ばかりは嫌味にしか聞こえんぞ七草。俺は何もしていない。するより先に一年の二人が解決してしまったからな。俺がやったのはせいぜい火の後始末ぐらいだぞ?」

「そうかしら? 仮にそうだとしても、十分立派な活躍だと私は思うけど? 会長職やってると毎度のように後始末押しつけられたりするから、縁の下の力持ちのスゴさはよーく分かっているつもりよ?」

「・・・・・・・・・」

 

 仏頂面で黙り込む十文字くん。まあ、正直言って顔はいつもこんななんだけど、今日のは少し表情選択の理由が違うかな?

 見た感じじゃ分かりづらいけど十文字くん・・・ものスゴーく反応に困ってるわね間違いなく。普段フェミニストだから、こう言うのには慣れてないのかな? ちょっとだけだけどカワイイかも。

 

「それに深雪さんとクドウさんも。素晴らしい魔法だったわ。あの短時間に絶妙な魔法を構築してみせた深雪さんの制御能力と、圧倒的パワーで車ごと火を押し返してしまったクドウさんの時と場所を選んだ力業も、私たち三年生も難しいわね」

「光栄です、会長。ですが、魔法式を選ぶ時間が出来たのは市原先輩がバスを止めてくださったからです。そうでなければ咄嗟にどんな無茶をしていたか自分でも怖いぐらいです。市原先輩、ありがとうございました」

 

 深雪さんはリンちゃんに向かって頭を下げながら、生徒として模範的な応対をしてみせてくれる。・・・流石に優等生だわ。

 

 そして、もう一人の問題児の方はと言うと。

 

「ワタシは車を見た瞬間に分かってましたから。準備する時間が十分にあった身ですので、それを勘案した場合、大したことは出来ていないと自己評価してますけど?」

 

 このように可愛くない生意気下級生の模範的な態度で応対してきます。流石は問題児。

 

「またそんな言い方をして・・・」

「事実です。これから攻撃されると分かってさえいれば、対応する為の準備はできているのが当たり前ですから」

「え・・・? こう、げき・・・?」

 

 私はと言うか、十文字くんも摩利も似たような表情でポカーンとしながら目の前にたつ、普段よりもずっと凜々しい表情を浮かべたクドウさんの顔を凝視してしまっていた。

 

 そんな私たちに彼女は静かな声で、それでいて断定口調で断言してみせる。

 

 

「先ほどのアレは事故ではなく、どこからか放たれた魔法師による特攻攻撃です。

 狙いが一高なのかまでは判然としませんが、少なくとも悪意在る第三者が攻撃の意思を持って我々を害しようと目論んで一撃を放ってきたのだけは間違いありません。警戒された方がいいと進言させていただきます」

「ちょっ・・・そんないきなり言われても・・・・・・っ」

「待て、真由美。・・・クドウ、どういう事なんだ? 詳しく説明しろ。お前はどうしてアレを事故ではなく攻撃だと判断したのかを」

「事故?」

 

 彼女は、元々の美貌に擦れた結果として後天的に付与されたものらしいシニカルで皮肉気な笑みを浮かべると躊躇うことなくこう答えを返してきた。

 

 

「タイヤがパンクして、車体がガード壁にぶつかってスピンしてジャンプして、対向車線を走っていたワタシたちが乗るバスだけにぶつかる方向へ突っ込んできた・・・こんな偶然が現実に起こりえると本気で思ってますか?」

「・・・・・・」

「偶然も、三度続けば必然です。必然を偶然のように見せかける世界を騙す技術の最たる物が魔法である以上、第三勢力からの介入とみるのは至極妥当で当然のことだとワタシは思ってます。

 会長が、生徒たちの精神的安定を優先するお気持ちはよく分かりますが――明確な敵意を以てこちらを害する目的で動き出した外部勢力があると分かった以上、情報と意識を共有しておかない限り再発を防ぐことは出来ません。

 どんなに強くなっても、魔法的セキュリティを徹底したとしても、敵からの攻撃を防ぐ手段は究極的にはただ一つだけ・・・・・・一人一人が危機感を持ち、互いを信頼し合うこと。敵に付け入る隙を与えないこと。ただ、その一つのみです。

 ・・・なにしろ最強の一人がどんなに頑張ったって、自分一人しか守れないことも世の中には往々にしてあるみたいですからね・・・・・・」


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