北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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最近チート化してきている雫に抵抗を感じていましたので、今話は久々にダメな子として雫を描きました。でも、そのぶん活躍させられずに出番が少ないです・・・。
全部原作主人公任せになっちゃうとやることなくなる話ですからね、九校戦編って。本当の劣等生主人公には難しい展開です。


第18話「北山雫は久しぶりに劣等生化する」

「二年・・・組、上崎先輩。到着を確認。三年・・・組、篠原先輩。到着を確認」

 

 私の隣、で達也さんが数を数えて、る。

 今日はキューコーセンに出発する、日。大会の会場に向かうバス、に乗り込む人の数を数えるの、も技術スタッフに選ばれた人のおしご、と。

 

「一年A組、森崎俊。到着を確認。二年・・・組、千代田先輩。到着を確認」

 

 達也さん、は朝からずっと数を数えて、る。

 お日様がピカピカで暑いの、にいつもと同じポーカーフェイスで数だけ数え、て1・・・2・・・3・・・変態・・・さん。

 

「一年B組、明智英美。到着を確認。一年D組、里見スバル。到着を確認」

 

 私も一緒、に数を数え、て1・・・2・・・3・・・。エイミィが一匹、到着をかくに、ん。エイミィが二匹、柵を越えて到着、をかくに、ん。

 エイミィが・・・三匹、エイミィが四ひ、き・・・・・・・・・

 

 

 ―――ZZZZ・・・・・・・・・

 

 

 

 パンッ!!!

 

 

「は、うっ!?」

「気がついたか?」

 

 大っきな音がし、て目を覚ました、ら目の前に達也さん、がドアップでい、た。

 キョロキョロ周りを見回した、ら居眠りするまえと変わってなく、て安心し、た。

 

「良かっ、た・・・寝る前と同じ、で何も変なこと起きてな、い」

「・・・いや、隣に立って点呼を行っていた少女が立ったまま眠れる希少スキル保持者だったことに気づかされた俺にとって変なことは起きているし、常日頃からあまり良いことでは無いと感じているのだが・・・」

 

 なんだ、か朝から呆れたみたいにな顔して、る達也さん。

 

「えっ、と・・・何かあった、の?」

「なんでも無い。とにかく眠いのなら、お前は先に作業車の中に入って仮眠でも取っておけ。後は俺一人でやっておく」

「で、も・・・二人一緒に、って先輩、が・・・」

「要らん。本来なら俺もお前も絶対にこなさなければならない職務ではないのだから、俺一人で十分だろう。

 こんなものは自己満足を得るためだけの個人的理由によるものだ。お前まで巻き込まれてやる義務はないのだから、先に入って寝ておけ。向こうに到着したら忙しくなるのだからな」

「う、ん・・・。わかっ、た・・・」

 

 ボードを持ってない手、で「しっ、しっ」と追い払われ、た私は作業車の中、へ。

 ・・・・・・ネムネ、ム・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさ~い!」

 

 ――雫を車内に押し込んで眠るための口実を与えてからしばらくして、待ち人最後の一人である七草真由美生徒会長が到着する。

 俺はボードをタッチして最後の欠を採り、自分なりに与えられた役割を果たせたことに僅かながらの満足感を覚えている自分に気がつく。

 

 ・・・最近思ったことだが、どうやら俺は自分から率先して何かをするよりかは、誰かを支えている方が性に合っているらしい。

 それが、バカな幼馴染みの面倒を見させられ続けたことに起因する影響なのか否かは判然としないが・・・まぁ、誰の気分を害するものでもないから悪いことではないのだろう。たぶん。

 

「ゴメンね、達也くん。私一人の所為で、ずいぶん待たせちゃって」

「いえ、事情はお聞きしていますので」

 

 俺は答える。リップサービス目的の嘘ではない。本当に彼女の遅刻には相応の理由があったことは承知していた。

 これが「寝坊した」とか「時間を間違えた」だのと言った、どこぞのアホを彷彿させる無責任な理由であったなら俺もそれなりには不快さを感じたかも知れないが、『家の事情』であれば致し方がない。

 何しろ彼女の家は『七草家』・・・十師族の内一家なのだ。普通の家庭で用いられる『家の事情』とでは掛かる責任の負担が違いすぎている。

 

 それに元々から経済分野に長けた家であったことから、十師族の中でも特に簡易魔法式による時代の変化に合わせやすかったという事情も重なって、名実ともに現在の十師族の長として君臨することになった七草家は近年多忙さを増してきているとの情報を師匠から得ている。

 

 ――ここまで『家の事情を把握している』俺が遅刻を咎めてしまったのでは、俺自身の叱責に説得力が無くなってしまうかもしれない。

 少なくとも今の俺は「口先だけの男にはなりたくない」という無意味なプライドが生まれてしまっていることを自覚する程度には自分の内面と向き合えているつもりでいる。

 

「でも、暑かったでしょう?」

「大丈夫です。まだ朝の内ですし、この程度の暑さは、何ともありません」

「でもそんなに汗を・・・・・・って、あら? ホントに、あまり汗をかいてないのね」

「いえ、まあ、さすがに汗を乾かす程度の魔法なら使えますし・・・・・・。

 それに今時は、簡単な魔法であれば安値でどうとでもなる時代ですので」

 

 俺は自分の着ている制服を僅かにめくって、肌着がどこのメーカーの物か見えるようにして差し上げる。

 『マウンテン』関連企業であることを示すロゴを目にした彼女は「なるほどね」と、あっさり納得して引き下がってくれた。

 

「汗の水分と成分を、皮膚と衣服から空中へ発散させる『例のアレ』か・・・先週出したばかりなのにもう手に入れてるなんて目敏いわね達也くん」

「九校戦のメンバーが発表された時点で発表だけはされておりましたから」

 

 俺は肩をすくめながら、自分の固有魔法とも言える『分解』の理論を応用して基礎理論を造った簡易魔法式グッズの効能に説明責任を押し付ける。

 

「ご贔屓にどーも。以後もよろしくね?」

「いえ、こちらこそ今後ともよしなに」

 

 半端にビジネスライクなやり取りを交わす、提携して販売した新商品第一号の販売元最大手スポンサー家庭のご令嬢と、覆面開発者の片割れ。・・・事情を知るものが一人でもいたら奇異に映るであろう妙な構図となってしまった。

 事情を知るものが二人程存在している、今この時の狭い範囲内なのだが、片方は知っている知識を生かす知能が無いし、もう一人の方はおそらくたぶん・・・バスの中で荒れているだろう。恩を感じた七草会長が何とかしてくれることを期待したい。

 

「でも、ちょっとだけ安心したわ。達也くんが真夏に汗をかかない程の変態さんじゃないって事が分かって」

「変態・・・・・・」

 

 確かに言われたとおり、俺は自分のことを『真夏に汗をかかない程の変態ではない』つもりでいるが、だからと言って「それなのではないか?」と心配されていた事を知らされて僅かでも衝撃を受けない程、人間を辞めてもいないつもりだったから正直に白状して傷つけられる言い草だった。

 

 会長は、そんな俺の顔がチョッとしたツボにはまったらしく「だぁって」と、向日葵のような笑顔を浮かべてクスッと笑い、

 

「達也くんって特別すぎるところがあるから、偶に心配になるのよ」

「・・・・・・」

「誰だって得意不得意があるし、自分の方が全部上なんてことは有り得ない。そんなの一般レベルで常識ではあるんだけど、当たり前の常識を当たり前のように実行できてるってだけで結構スゴいことなんだからね?

 それを自覚もせずに自然とやってる人を見せつけられると、『この人もしかしなくても未来からきたターミネーターじゃないかしら?』とか不安に駆られちゃったりもするのよ、普通の女の子的思考で・は☆」

「・・・話の概要はわかりましたが・・・・・・」

 

 俺は敢えて“理解できた”等の表現は使わずに逸らしながら、話題をシフトするための布石として一番どうでも良い点について指摘する。

 

「・・・なぜ“ターミネーター”が出てくるのでしょう・・?」

「あら、とても大切なことじゃない? サイボークと生身の女の子の間には子供ができないって言う概念は、旧世紀から続く人類の伝統なんだもの」

 

 なるほど、と分かったフリして曖昧な答えだけ返した俺は、さっさと今の状況から脱出するため先程からバス入り口でイライラした表情をしていらっしゃる渡辺先輩の方を見ながらさり気なさを装って七草会長に注意を促す。

 

「ところで、会長。僭越とは思われますが・・・・・・大丈夫なのですか? その、渡辺会長の一件とかが・・・」

「え? 摩利がどうし・・・・・・きゃーっ!? お願い許して摩利! わざとじゃないの!

 別に遅れてきたから達也くんをからかって遊ぶ時間的余裕がなかった鬱憤を晴らしていたとかじゃなくてそのあのえっと―――そう! これは達也くんの腹黒い陰謀なのよ!!」

「い・い・か・ら・は・や・く・来・い!! この遅刻総責任者!!」

「きゃーーーーーーっ!?」

 

 

 ボカリ。

 

 

 ・・・・・・何やら重い物が落とされる音が背後から響いてくるのを聞きながら、俺は自分たち技術スタッフに割り当てられた作業車へと急ぐ。

 

 家の事情でお疲れらしい七草会長には、バスの中でグッスリとお休み頂きながら出発である。

 目指すは国防軍富士演習場の南東エリア――全国魔法科高校親善魔法競技大会の開催地。

 

 『九校戦』がおこなわれる舞台の上へと。

 

 

 

 

 

 

 ――それは、達也と雫が九校戦の会場へと向かう数日前。

 時間軸にして、達也が司波家のリビングで風間少佐から忠告を受けていた頃のこと。

 

 横浜中華街にある、某ホテルの最上階。赤と金を基調とした派手な内装の大部屋で、茶器の並べられた円卓に座して五人の男たちが悪巧みに耽っていた。

 

「首尾はどうだ?」

「予定どおりだ。第一高校には会場へ向かう途上で、最初の一撃を放たれるよう手筈を整えた。布石としては派手だが、陽動目的としてはむしろ理に適っているだろう?」

「確かに。我々にとっては理だけでなく、“利”にも叶う訳だしな・・・」

 

 ククク・・・。悪意ある含み笑いを交わし合いながら、男たちは供されている高級茶へと各々に手を伸ばす。

 

「最近では『ジェネレーター』も客薄になってきて、在庫が有り余っているからな。ましてや使い捨て用に確保しておいただけの元失敗した工作員魔法師など飼い続けておく価値はない。

 買った物は値段と価値に応じて、使うべき所で使ってしまうのが正しい商品の扱い方という物だろうよ」

「『兵器は持ってりゃ嬉しいコレクションじゃあない』か? この国に適用した相応しいやり方だな」

 

 

 ははははと、楽しそうに笑い声を上げながら香港の犯罪シンジケート『九頭龍』が動き出す。

 超簡易魔法式の登場でそれまでとは別の儲け方を確立させつつある彼らにとって、一部を除きお荷物と化しつつある大量の売れ残り品を『在庫処分』して、その犠牲の上に自らの一人勝ちという結果が先に確立してある大博打を開くため―――『イカサマ博打で大勝ちする』。

 只その為だけに彼らは九校戦への介入を開始する指示を出すため、電話機を取る。

 

 

 ――それが自分たち自身を破滅させる『死刑執行書かもしれない』などとは微塵も考えることなく、勝つことを前提としたギャンブルに彼らは大金を投じてしまった。

 

 

 時代は変わり、時は移り、世の中の有り様が如何に変わろうとも、変えることのできない真理が人間社会には存在している。

 

 

 それは―――『ギャンブルにはまると身を滅ぼす』・・・という絶対普遍の根源真理。

 

 

 

「私だ、ダグラス=黄だ。命令を伝える。―――作戦を開始せよ」

 

 

つづく・・・


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