北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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入学編ラストの回です。九校戦編に行くため駆け足になっちゃったことを謝罪します。ごめんなさい。次回から雫を元通り活躍させたいと思っております。

そして今回、一番活躍するため「あの娘」が参戦・・・!?


13話「北山雫は魔法科高校の劣等生『入学編END』」

 ーーこれは、当時の時点で俺が知る由もない裏事情についてなのだが。

 図書館めざして走っていた俺、司波達也はいくつかの勘違いをしていたことに未だ気づいていなかった。

 

 1つは、小野先生が言っていた「こちらで暴れているのは陽動で、主力は本命の図書館に向かった」という情報を俺は「主力=最高戦力」と解釈してしまってこと。

 

 あの表現は小野先生の主観から見た敵状であり、ブランシェのリーダーである司一の主観とは必ずしも一致しない。

 奴がこのとき主力と考えていたのは「落ち目になった自分を裏切らないと信じられるほど洗脳し尽くした特殊工作員」であって、暴れるだけしか脳がない戦闘力に特化した捨て駒兵士たちではなかったのである。

 

 そのため、図書館に向かっていた主力は忠誠心過多、戦闘力過小な工作員ばかりで構成されており、戦力的には敵の主力は捨て駒として切り捨てる予定の暴れている方だったのだ。

 ・・・事件後にこれを知ったエリカは激しく憤り、レオを生け贄に捧げることでようやく沈静化し、俺はレオに謝罪の意味を込めて奢らされたビンテージ物のスポーツシューズ代金を失う羽目になるのだが・・・所詮は余談である。

 

 このとき重要だったのは今一つある勘違いについてだ。

 

 俺はこの時点で敵の動きを計算によって見抜いていたが、味方の中に個人的感情で動いて結果的に敵の意図を挫いていた人物が存在する可能性を微塵も考慮していなかった。既存の概念にとらわれないアイデアが売りのトーラス・シルバーが、とんだ権威主義に陥っていたものだと反省するしかない。

 これでは雫を追い越すにはまだまだ時間がかかりそうだな・・・・・・・・・・・・ちくしょうめ。

 

 

 ーー閑話休題。

 その個人的感情で動いて、敵の意図を挫いていた人物を俺は以前から知っていた。旧知の知り合いではあるが、知己とは呼べない。その程度の親密度しかない相手なのだが・・・ふむ。ーーーまさか、あいつがなぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 特別閲覧室へと続く、他と比べても一際ほそい廊下の前で私、壬生紗耶香はひとり自問自答していた。

 

(法による差別の撤回と、平等な社会を作るのが私たちの目的だったはずなのに・・・なぜ? どうして? 彼らは争い合わなくてはならなくなってるの!?)

 

 ーー私の目の前では今、二人の男性が死闘を繰り広げていた。

 一科生と二科生、ブルームとウィードという、ある意味で今の状況を象徴しているような取り合わせだったけど、この戦いはなんだかとてつもなく歪なように私には思えてならないのだ。

 

 

「もう諦めろ森崎! いくら魔法技能の才能に恵まれた一科生と言えども、キャスト・ジャミングで魔法を封じられた状態のまま、しかも素手で俺に勝つことは出来ない!」

 

「舐めないでもらいましょう司甲先輩! 森崎一門は副業としてのボディガード業務の方が社会的認知度は高い家系です! 《クイック・ドロウ》でさえ副産物にすぎないほどにね! 守りきる戦いでなら、俺は魔法無しでも十分に戦える!!」

 

 

 剣道部の主将で、ブランシュ日本支部リーダーの弟さんでもある司甲先輩と、一年生で一科生で風紀委員でもある森崎駿君がキャスト・ジャミングによって魔法が封じられた状態で接近戦を繰り広げ続けていたのだ。

 

「森崎! 辰巳も沢木も兄さんが部下に命じて足止めしてくれている! 増援がくる気配もない! この場で戦ってる最後の一人はお前だけ・・・だというのに何故だ!? なぜ、そうまでして俺たちの前に立ちふさがる!? そこまでして守りたいほど魔法の才能による社会的優遇措置を失うのが惜しいのか!?」

「ーーそんなものは関係ない! 魔法は人間が持つ技能の一つで、超簡易魔法式も人が魔法の力を使えるようにするという意味では魔法師の術式と同じでしかない!

 なら、簡易魔法式に俺たち魔法師の仕事が奪われるのは、俺たち魔法師の技能が簡易魔法式より劣っていたと言うだけだ! 劣っているなら越えればいいだけのこと!

 ブルームもウィードも、敵に負けて劣っていると思い知らされた自分が自信を取り戻すには努力しかない! その事実に今回の事件でようやく気づけました!」

 

「・・・・・・っ!?」

 

 ーーそうよ! それさえ出来ていたら私にだって、もしかしたら・・・っ!!

 

「ですから司先輩! 俺は、その点についてだけはあなたに感謝しています!

 その礼として・・・俺は俺の磨き上げてきた技術で、あなたの幻想をぶち壊す!!」

「くぅ・・・っ!?」

「ーーーっ!!」

 

 森崎君がはなった一言で、司主将がうめき、私は息を飲まされる。

 この瞬間。私は・・・私たちは本当の意味で“彼らの努力に負けた”ことを自覚した。

 

「も、も・・・森崎ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!!!」

 

 追いつめられた司主将が、全身全霊を込めた捨て身の一斬を放つため飛び出す。

 ・・・明らかな相打ち狙い。だと言うのに森崎君は躱して横からの一撃を放とうとしない。

 

「こい! 司主将! 魔法師は何もかも理想的に収められるスーパーマンじゃないから、こういう風にしかあなたを助ける術を俺は持たない! その事実を他の誰より俺自身が思い知るためにも、俺はあなたの一撃を正面から打ち破る!!!!」

 

 彼は防ぐために退かず、倒すため前に出る。司主将を倒して守るためにも前に出る。

 守る対象より後ろにいたのでは守れない。だからこそ前に出る。

 二人の叫びと身体がぶつかり合おうとした、まさにその瞬間・・・!!!

 

 

「森さき何この光マブシはべしっっ!?」

「司主しょおの光マブシへぶしっっ!?」

 

 

 ・・・・・・いきなり目の前に光の球が現れて、激しく明滅するのを見させられた私たちは三人共に気絶して床に伸び、事件が終わって保健室で治療してもらってるときに目覚めるまで眠り続けて目覚めることはなかった。

 

 こうして、何が起きたのかよくわからない内に私にとっての事件は終わりを迎えさせられることになる。

 

 余談だが、この一件でなんの見せ場も山場も与えられなかったことを自分に才能がなかったせいだと激しく自己嫌悪していた私を支えてくれた剣術部の桐原君と事件後にお付き合いすることになる私だが。それはまた別の話として別のところで語りたい。

 今はとにかく、おやすみなさい。ぐー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「達也さん、私たちが行こうとしている部屋の前で邪魔してた人たちには、眠ってもらいました。どうでしたか!? 私、お役に立てていましたか!?」

「あ、ああ。ご苦労様ほのか。ありがとう、助かったよ本当に・・・」

 

 笑顔で私にお礼を言ってくれる達也さん! それだけで胸がいっぱいになって嬉しさのあまり魔法の制御を誤ってしまいそうになりますよね! 本当に!

 

 みなさん、お久しぶりです! 光井ほのかです! 誰に向かって自己紹介してるのか自分でもよくわかんないですけど関係ないです! 舞い上がっちゃってますからね!

 

 最近、達也さんのまわりで色々起きてるのは聞いてましたし、私も注意深くストーキ・・・こほん。達也さんの周囲に不審人物がいないか警戒してたんですけど運悪く出てきたところに出会せなくてストレスの溜まり具合がマッハでした! 

 だから今日こそは!と思って、達也さんの名前を叫びながら学校中を走り回ってやっと見つけることが出来た達也さんたち。急いでるようでしたから単刀直入に用件をお聞きしたら「図書館に悪い人たちが入り込んだから退治しにいく」そうなんです!

 さすがです達也さん! ヒーローですね! 吉備団子はいりませんから私も連れていってください!とお願いしたら快く受け入れてくれて。

 

 しかもですよ!しかもですよ!? あの達也さんが私に! この光井ほのかにこう言ってくれたんです!!

 

『実は急いでいてな。出来るだけ無駄な戦闘は避けたいと思っていたから、ほのかと会えた俺たちは運が良かった。

 もし敵に見つかったとしても、ほのかが何とかしてくれるだろう?』

 

 ・・・って! きゃーーーーーーーーーっっ!!!!!☆☆☆☆☆

 達也さんにここまで熱烈なお願いされたのは初めてだった恋する乙女にとって、ここでやる気を見せなければいつ見せるというの!? 今でしょ!?

 

 そんな風にやる気出しまくって洗脳用魔法《イビル・アイ》を使ったら、出力の調整を間違えて魔法が届く範囲内にいた図書館の中にいる人たち全員にかけちゃったみたい。・・・恋する女の子は時々やりすぎちゃったりもします。テヘ☆

 

 

 

 

「まぁ、今回は敵がテロリストで殺したとしてもたぶん、言い訳は立つと思うが・・・普段は使用を控えような、ほのか? さすがに君たち二人の仲良しコンビを同時に相手取って勝てると思うほど俺の胃は奢っていないつもりからな? 本当に・・・」

「またまた~。達也さんったら冗談ばっかりー♪ 魔法力はともかく、私たち程度が達也さんに及ばないことぐらい自覚してますから気を使ってくれなくても大丈夫ですよ~♪

 でも、お世辞とわかっていても達也さんに誉めてもらえるのは嬉しいですから頑張ります!」

「・・・・・・・・・」

 

 ・・・やはり、ほのかを同行させたのは失敗だったかもしれない。俺はこのとき本気で後悔し始めていた。

 

 それを加速させるように届いてくる、想定外な二つの報告。

 

 

『おーい、学校一の苦労学せーい。こっち来て見ろよ、逃げだそうとしてたっぽいテロリストが伸びてるぜ?』

『こっちの閲覧室内には護衛役の精鋭っぽい連中が伸びてるわね。何かあったのかしら?』

 

 

「・・・・・・ほのか、頑張らなくても今日はもう既にして、君がナンバー1だ・・・」

「??? ――なんだかよく分かりませんけど、誉めていただきありがとうございます!」

 

 普段から割と思い込みが強い一面を見せている彼女は、一度こうと決めたらテコでも動こうとしない場面が時として多発する。

 その事実を長いつきあいで熟知していた俺は、こういう時のほのかを説得するのは無駄だと判断して穏便な言葉で同行を許可したのだが・・・・・・どこで失敗したのだろうか? まるで思い当たらない。

 思い当たらないが、早急にこの場を移動しないと拙かろう危機的状況に陥っていることだけは理解できていた。

 

「こいつらの計画は失敗した。なら、これ以上ここに留まっても意味がない。残党が駆けつけてくる前に、ここを離れよう。

 白蟻はいくら駆除しても巣穴をつぶさない限り、根本的問題は解決しないことだしな・・・」

 

 

 逃げるための方便ではあったが、単なるその場限りの口実という訳でもなかった。

 なぜなら俺たちはこの後すぐに白蟻の巣を駆除するため、テロリスト共のアジトへ乗り込んでいって退治してしまったからである。

 

 小野先生から先の契約通りに敵の情報を(タダで)入手した俺が仲間たちーー正確には一部だけで十分すぎる戦力だったのだがーーを引き連れて敵の本拠へ乗り込む旨を生徒会長および風紀委員長へ伝えると即座に「危険すぎる!許可できない」との決定が言い渡された。

 役割上、適切な判断であり決定でもあったから俺に不満はないのだが。・・・ただ、今回に限っては無用な心配だったと裏事情を知る者として思わずにはいられない。知っているとは残酷なものだったんだなぁ・・・。

 

 

「学外のことは警察に任せるべきだわ」

「そして壬生先輩を、強盗未遂で家裁送りにするんですか?」

 

 ほのかの魔法によって眠らされて目を覚まさない(要するに遠因は俺)壬生紗耶香先輩をダシに説得するのは気が引けたのだが・・・やむを得まい。下手をしたらテロリストを鎮圧した最大の功労者まで実刑判決を受けかねないからな。ここは多少強引にでも手柄というか、貸しを作っておくにしくはない。

 

「なるほど、警察の介入は好ましくない。だからといって、このまま放置することもできない。同じような事件を起こさせない為にはな。

 だがな、司波。相手はテロリストだ。下手をすれば命に関わる。俺も七草も渡辺も、当校の生徒に命を懸けろとは言えん」

「当然だと思います。最初から委員会や部活連の力を借りるつもりはありませんでしたから」

 

 ・・・そこから始まるビジネスの世界で鍛え上げた詭弁ハッタリ美辞麗句、結果良ければ全て良しの巧言令色パレード。伊達に雫の幼馴染みはやっていないし、ルイのビジネスパートナー、トーラス・シルバーもやっていないのだ。

 

 なるほど、確かに相手は大物。十師族が一家、十文字家の次期当主である十文字克人だ。経験に偏りがある今の俺では部分的に勝ち目のない強敵ではあるだろうが・・・生憎と俺一人で相手をする気は端から存在していない。

 

 なぜなら俺はトーラス・シルバー。世界に冠たる北山グループ傘下の企業であり、CAD開発技術で世界を牽引している『ノース』の天才技術者ルイと業務提携を結んでいる身なのだ。役割上、当然のように北方潮からも色々手ほどきを受けさせられているのである。・・・・・・“いろいろ”と・・・。

 

「壬生先輩のためだけではありません。自分の生活空間がテロの標的にされたのですから、俺はもう当事者ですよ。

 自分たちの平和な日常を守るためには、魔法師であろうと一般人であろうと自衛しなければならないときがある。それは平和な今を生きる俺たちすべての日本人にとって当然の権利であり義務でもあります。違いますか会長?」

「それは・・・でも、だけど・・・」

「なにも敵を殲滅しようなどとは思っていません。ですが、敵の拠点がこちらを攻撃可能な状態で目の前に設営された以上、攻勢防御のため攻撃拠点だけでも潰しておくのは自衛の範囲内行動だと俺は考えます。それは敵からの攻撃を防ぐための反撃であって、敵本拠への攻撃意志は欠片ほどもないからです。ざっと攻めて、さっと退く。コレでよくはありませんか七草会長?」

「あう、あう、あう・・・・・・」

 

 頭痛が増すだけだから細かい部分は省略するが、経済界の大立て者・北方潮から直々に手ほどきを受けた(受けさせられたと表現するのは得られた物の膨大さから遠慮したい)俺の交渉術は、本来畑違いの商談において全十師族の長たちに勝るものだと確信している。・・・本当に色々と言われているのだからな。いろいろと。

 

 

 ーー結果。小野先生から提供していただいた敵本拠の位置を材料に使って総責任者の会長相手におこなった交渉の甲斐はあり(失礼ながら十文字会頭は現場責任者にすぎないので、総責任者が「うん」と頷いた決定には従わなくてはならない立場にある)全会一致で俺たちの作戦は黙認されることが決定された。

 

 短時間の間に憔悴しきっていた会長たちに見送られながら車へと急ぐ俺たちだったが、ここで思わぬ助っ人に参入された。

 

 

「・・・言いくるめられた気もするが、序列の秩序には従おう。ただし、車は俺が用意する。十師族に名を連ねる十文字家の者として、これだけは一歩たりとも妥協できん。わかったな? 一年生で平の風紀委員司波達也よ」

「よう、司波兄。俺も参加させてもらうぜ。剣道部員として十文字部活連会頭の許可は得てるんだ、異論はないだろう?」

 

 

 詭弁には詭弁を。序列には序列を。組織の秩序には組織の秩序というわけである。・・・存外、現代に生きる魔法使いを育成するための教育機関、魔法科高校は俗っぽい・・・。

 

「はぁ・・・俺は別にかまいませんが・・・・・・期待していた展開にならなくても落胆されないで頂けると助かります」

「「????」」

 

 二人は訳が分からないと言う顔をしていたが・・・・・・すぐに思い知ることになる。

 

 

 才能に溺れることなく研磨され続けた本物の力と、努力もせず人を利用して伸し上がることしかしてこなかった贋作との間に広がる絶対的な性能差というものを・・・っ!!

 

 

「ようこそ諸君、僕が“元”ブランシュ日本支部のリーダー、司一だ。もっとも今日でこの肩書きともオサラバするので覚えておいていただかなくて結構だがね。

 スポンサーもなく、資金は下りず、今回の一件で残っていた最後の軍資金も尽きた! ブランシュはもう終わりだ! 僕は、沈みゆく泥船にしがみつくほどバカではない!

 ・・・本心を白状するならば、魔法科高校に秘蔵されている極秘データを盗みだして海外に高飛びする予定でいた。金になりそうなデータだけを抽出して逃げ出すだけなら時間的にも猶予はあると思っていたからね。

 組織の理念を信じ貫くバカ共全員は養いきれない。どのみち捨てるのなら金を手に入れるために、今使い潰してしまえばいいとも思っていた。残念ながら不確定事項が乱入してきたことで破綻してしまったわけだけど・・・・・・それだけの価値ある犠牲だったようだ!

 そう! 君を手に入れることが出来る機会を得られるのなら安い犠牲だった!

 僕の部下から聞いた君の力と仲間たち、その全てを僕の物にできるのならばブランシュなんて惜しくはない! いくらでも再建できるし、新しい組織を立ち上げるのだって悪くはないだろう!!

 ――だから司波達也君と、その友達諸君! 君たちは今日から我が同士に・・・いや!

 “僕の物”になるがいい!!!!!」

 

 

 

 

「私はあなたの物にはなりません!

 私は私の物じゃなくて「彼」の物なんですからーーーーっ!!!

 あなたなんか、こうです! えーーーーーーーっい!!!」

 

 

 

 

 ピカァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!

 

 

「え。これ、ちょっ、ウソ? 本物? 本物のイビル・アイじゃないのコレ!?

 意識に外部から干渉する洗脳魔法は、違法で卑怯だと思いまーーーーっす!?」

 

 

 

 

 ・・・・・・ぱたり。

 

 

 

 

「・・・愚かだな。お前の犯した過ちは三つある。

 一つは、光井ほのかの前で『物にする』などと口走ってしまったこと。

 二つは、魔法発動までにメガネを外して上へ向かって投げるのに利き手である右手を使い、CADの操作には騙しやすくて便利だからと左手を使ってしまったこと。

 そして一番致命的だった三つ目は、光波振動系魔法の使い手でありながら鍛錬を積むことなく、ほのかを敵に回してしまったことだ・・・・・・。

 才能もなく、努力もしてこなかったお前に、ほのかの相手は十万年ほど早すぎたんだよ・・・。顔を洗って努力し直して出直してこい、大物ぶった三流の似非魔法師モドキ」

 

「・・・・・・ポリポリ(頬をかきながらお株を奪われて出るに出れない桐原先輩。今出るのは流石に格好悪すぎた)」

 

 

 

 

 ・・・こうして俺にとっての魔法科高校入学に始まる珍事の数々は、一先ず決着が付いた。

 

 ーー疲れた! おまけに空しい! 徒労感だけが膨大で、達成感が少しもない仕事というのは初めての経験だ! トーラス・シルバーとしても四葉のガーディアンとしても経験したことのない空しさと疲労感に苛まれつつ、俺は敵の拠点である廃工場を跡にして学校へと来た道を戻る。

 

 あまりにも早く片が付きすぎてしまったため、警察は到着しておらず、ほのかの件もあるので十文字会頭に説明責任を押しつけて逃げ帰ってくることにした訳なのだが・・・

(こういう時に事情を深く知ってる者は言ってはならない言葉で迷うから適切ではない。何も知らなければ何も説明できない)

 

 

「お兄様」

「うん?」

「深雪は、いつまでもお兄様について行きますから。

 仮にお兄様が、音の速さで駆け抜けて行かれても。空を突き抜け、星々の高みへ翔け昇られても」

「深雪・・・気持ちは嬉しいんだが・・・・・・この体勢でその台詞を言われると凄みしか感じられないぞ?」

 

 

 疲れ切って寝てしまった(図書館まで走ったからなぁ・・・)雫を抱き抱えて運んでやりながら俺は、三歩下がって等距離を保ちながら1ミリもつかず離れずついてくる(最近構ってやれなかったからなぁ・・・)キラキラ輝く瞳のほのかと、その更に後ろから不機嫌顔でついて行かざるを得ない(手柄がないからなぁ・・・)深雪という、巻き込まれるのを恐れたレオたちから置いて行かれるほど厳しい状態で帰路を急がされていた。

 

 雫の涎で汚れる制服が、今日に限って妙に重たく感じてしまう・・・・・・。

 

「はい。当然のことかと思われます。牽制ですから」

「・・・・・・・・・」

 

 深雪からの刺々しい視線の針に刺され続けて針のムシロ状態になりながら、俺は今しか経験できない普通の学生として過ごす『日常』へと戻る道のかたすがら、心の中で決意していた。

 

 

 ・・・・・・今度の日曜日は・・・・・・休むぞ! ーーと。

 

 

「むにゃ、むにゃ・・・カレーライスが食べた、い・・・・・・ハヤシライス、も・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

そして日曜日。

石川県金沢市 国立魔法大学付属第三高校

 

 

「お疲れさま、将輝。ねぇ、このニュースは見た?」

「ジョージ。第一高校にテロリストが進入か・・・。負傷者もいるようだが?」

「ん? ライバルの心配?」

「いや、負傷したのはむしろテロリストの方だろう。やりすぎて過剰防衛になっているのではと思ってな」

「ハハハ! 将輝らしいね。でも、どんなに一校の連中が強かろうと将輝に・・・クリムゾン・プリンスに敵なんていないさ」

「ーーーああ」

 

 

 

 

 

東京都。司波邸。

 

「あら、お兄様。どうされたのです? こんなに早起きされるなんて・・・たしか昨日の晩に『明日はゆっくりするするつもりだから起こさなくていい』とおっしゃられていましたのに・・・」

「・・・気にしないでくれ深雪。悪夢で目が覚めただけだから・・・犯罪が露見し、騒ぎを収めさるため奔走しなければならなくなると言う最低最悪の悪夢にね・・・・・・」

 

*この直後、肉体維持に問題あるレベルに達したため達也さんの肉体はフラッシュ・キャストによる自己修復で回復させられ、休む必要がなくなってしまいましたとさ。

 

 

次回から「九校戦編」が始まる予定です。




なんとなく思ったこと:
『達也さん苦労編』の方が適切な気がしてきました。(笑)

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