次回こそ原作一章目の完結まで行きたいと切に願っております・・・!!
注:前話以上に雫に出番が少ないです。チラッとしか出てきません。
居ないとは思いますけど今作雫のファンの方がいましたらご注意をば。
「ーーあ? こりゃ一体、何の騒ぎの音だ?」
「・・・爆発音みたいね。たぶん、炸裂焼夷弾。飛び道具は専門じゃないから詳しくないんだけど、一般人が魔法師相手にするときに使う比較的ポピュラーな武装だから当たらずとも遠からずだと思うんだけど・・・」
俺一人が自主練していた放課後の闘技場にエリカがやってきて、互いが互いの練習風景を見ながら何やかやと言い合ってたら、遠くの方から爆発音が聞こえてきた。
闘技場は使用目的が荒っぽいから発生する音も通常の授業で出る音とは比較にならないほど大きい分だけ防音性能も他よりかはだいぶ高めだ。
それでもこれだけ大きいって事は、結構近くで馬鹿でかい爆発をおこさせてる爆弾魔野郎が来ているってわけで。
「なんか物騒でキナ臭い匂いがするわね。おもしろそうだから、アンタも一緒に見に行きましょ」
「・・・自分で物騒とか言いながら『おもしろそう』で見に行けるお前が、ほかの誰より物騒だと思うのは俺だけか・・・?」
むしろコイツが学校内で爆発起こしまくってる人間炸裂弾じゃねえのかなと思いながら後に付いていくと、校門の前に見た目は普通のトラックが止められていて、中から服装はともかく色が迷彩色で統一されてるとしか思えない銃で武装した男たちが飛び出してきているのが見えた。
さらには、これを予測して警戒していたらしい風紀委員ぽい黒塗りの奴らに味方のはずの一科生から攻撃を加えられて混乱しているうちに映画とかに出てくるミサイルランチャーみたいなのを背負った一人が弾をぶっ放し壁を爆発させていた。
「これはちょっと・・・相応の準備をしてこないと、危なっかしくて祭り見物も楽しめそうにないわ。レオ、私は事務室に行ってホウキ返してもらってくるから後お願い。
少しぐらいなら良いけど、私が戻ってくる前に獲物を独り占めして食べ尽くしてたら許さないからね?」
「だから怖いってお前が! なんなんだよ、お前は本当に! 鞍馬山で育った牛若丸かなんかか!?」
山に関連した歴史知識でとっさに出てきたのが、世間一般で有名じゃない方のブラックな源義経伝説だった辺り、俺も相当焦ってたんだろう。自分では落ち着いてるつもりだったが、やっぱ戦いになると血が滾るのが漢ってもんだからなぁっ!!
「あら、よくわかったわね。その通り、わたしは天狗の小山で育てられた殺人マシーンな美少女なのよ。だから警告破ると生首さらして強制的に京都観光させちゃうから。じゃあね」
「・・・・・・・・・え?」
言い捨てて去っていったエリカの野郎の捨て台詞が、めちゃくちゃイヤ~な歴史知識を思い起こさせて滾っていた血が急速に縮んでいくのを感じる。
「と、とりあえず敵倒し尽くすよりも、達也たちから説明聞くほうが先だよな! うむ! だってアイツ風紀委員だし! 俺たち一般生徒だし!」
こうして俺は手加減しながら敵倒して達也たちがくるのを待つことにした。
来たとしても俺に気づくかわからないとか、そもそも校門の方にくる保証はないとかの細かい部分は一先ずおいといて敵を殴ろう。話は殴って気絶させてからでも遅くはないはずだ。たぶんだけれども!
「うおりゃぁぁぁぁっ!!!!」
こうして俺にとっての講堂事件での戦闘が幕を開ける。
・・・・・・・・・・・・はずだったのだが。
「ーーん? あれは・・・レオか?」
爆発のあったらしい実技棟を目指して走っていた俺と深雪は、まだ少し距離のある場所に見慣れたクラスメイトが所在なさげな面持ちで呆然と立ち尽くしているのを見つけて意外そうな声を出してしまっていた。実際、意外に感じていたからだ。
てっきりコイツの性格上、こんな事態に陥ったときには問答無用で殴りに行って戦の先駆けとなりたそうな印象を抱いていたのだがな・・・。
「あー、そのなんだ。なぁ達也。このバカ騒ぎはいったい何なんだ?」
やがて接近してくる俺たちに気づいたらしいレオが、困ったような表情を浮かべて訪ねかけてきながら『その情景』が起きてる箇所を指さして教えてくれた。
そちらにいたのは校舎内に潜入していた黒服のテロリストたちだった。サブマシンガンで武装しているが、中にはアンティナイトの腕輪をはめてる奴も見受けられる。
そいつらが、そいつ等同士で、今にも殺し合いに発展しそうな激しい啀み合いを各所で演じ合っていた。
『貴様等どこに行く気だ!? 我々は本隊のための陽動だと作戦前のブリーフィングで通達しておいたのに聞いていなかったのか!?』
『うるせぇ! 俺たちが欲しかったのは日本が秘蔵している魔法技術開発関連の極秘データだけだ! あれを可能な限り閲覧して力を高めれば俺はまだまだ上に昇れる・・・超簡易魔法式の世に変わったって魔法師として食ってける才能の持ち主なんだよ!
お前ら無知で無能なウィード以下の一般人に捨て駒として利用されて堪るものか! 必ず出し抜いてやる!』
『てめぇ! 落ちぶれた元エリートの分際で、傭兵として雇ってやった俺たちエガリテに喧嘩売りやがったな!? 絶対に許さねぇ! 自慢の魔法が使えなくなって悔い改めやがれ! 《キャスト・ジャミング》!!!』
『ぐあああああっ!?』
『おい、バカやめろ!? 傭兵として雇ったブルームたち以外にも味方の魔法師がいることを忘れたのか!?』
『あ』
『ぐ、うううぅぅぅぅ・・・・・・くそがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 俺たち魔法師による正しい統治を目指す有志同盟の大儀をなめるんじゃねぇぇぇぇぇっ!!!!!』
『あっ!? お前、オレのサブマシンガンを奪ってなにをすーーぎゃっ!?』
『ふはははははははっ!!!! 魔法が使えなければ自分の身ひとつ守れやしない才能の無さを思い知って後悔しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!』
ダダダダダダダダダダダダダっっ!!!!
『くそっ! このままでは・・・やむを得ない! 応戦だ! まずは獅子身中の虫を叩き潰せ! 平和ボケした学生どもは後回しでいい!!!!』
『『うおおおおおっ!!!! くたばれ魔法師(反魔法主義者)どもーーーっっ‼‼』』
ダダダダダダダダダダダダダっっ!!!!
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
・・・・・・俺はレオと並んで茫然自失となりかけながらもその光景を、たっぷり三十秒ほど眺めてから静かに口を開いていた。
「なぁ、レオ」
「おう、なんだ達也?」
「・・・あれは一体なにをやっているんだ・・・?」
「・・・・・・いや、それオレがお前に聞いた質問・・・・・・」
冗談だと返しながら、俺は内心で頭を抱えざるをえなくなっていた。
・・・離反した敵を味方に引き込むのはわかるし、呉越同舟が長続きするものではないから一回切りの使い捨てとして参戦させるというのも理解できる。正当な戦術と呼んでいいだろう。
ーーそれなのに何故こんなバカすぎる結果を招いてしまうのだ?
簡易魔法式の影響で世の中が変わってから世界の人々は、急速にアホさ加減を増して行っているような気がしてならないのは俺だけなのか・・・? 最近こういう場面に出くわす度に、身近にいるバカの顔が頭に浮かんできて困っているのだが・・・。
俺は軽く頭を振って雑念を追い払うと、レオが求めている返答内容ーー具体的な作戦指示を伝えておくことにした。・・・もっともレオ自身どうすればいいのか判っているのだろうが、“判っているからこそ”自分以外の誰かの口から直接言って欲しい内容というのは現実に実在しているものだったから。
「だがな、レオ。悪いとは思うがこの状況下で俺たちが選べる選択肢は一つしかない。
敵同士が同士討ちするのに任せて距離を置きながら包囲して、双方ともに疲弊しきったタイミングで一気に攻めかけ包囲殲滅する。これしかない」
「だよなぁ・・・やっぱそれしかないんだよなぁー、現実的に考えて・・・」
「好みじゃないのは分かるが・・・受け入れろ。あの混乱の中に飛び込んでいったりしたら予期せぬ攻撃で要らぬ怪我して損するだけだと思うぞ?」
「・・・だよなぁー。さっきからそれやろうとして怪我した奴らが運ばれてってるの見てたから、オレも決断できずに困ってたわけでし・・・」
「・・・・・・もう居たのか、あの中に突入していった勇者たち(バカたち)が・・・・・・」
今は亡き母さんよ。俺は今、生まれて初めてあなたの魔法で施された感情と引き替えに限られた魔法の才を得られたことを感謝しても良いのではないかと思えてきているよ。
今の世の中、あまりにも人が・・・・・・バカすぎる・・・・・・。
「おーい、レオ! ホウキ! ・・・・・・っと、もう援軍到着してたのか」
エリカが事務室のある方向からCADを抱えて姿を見せる。適切な対応に心が安らぐのを感じてホッとしてしまう。戦場依存症でもないのに正しい戦闘が行える戦士を見て帰ってきた気持ちになっている辺り、俺は自分で思っていたよりずっと疲れているようだ。
(よし、今回の一件が終わったら休暇を取ろう。絶対にだ)
そう決意しながらCADを受け取り、深雪にも渡しエリカに事情を説明していると「そういえばさー」思い出したように突然話題を変えられて驚いてしまったが、彼女の気まぐれはいつものことだと慣れた調子で話の続きを待つ。
エリカは走ってくる途中で見かけた『スゴく強い女生徒』について語りだし、俺は我知らず特定の人物を頭に思い浮かべてイヤな予感に心を震わせていたところ、
「あ、あの子だわ。あのスッゴく綺麗だけどちょっと変な外人さん。たしか雫の友達じゃなかったっけ? 戦うところは初めて見たけど、あの子ものすごく強いのね。ビックリしちゃったわ」
「・・・・・・・・・」
俺は消されているはずの心を意識的に殺して揺さぶられないよう注意しながら、ゆっくりゆっくり振り向くと。
そこにいたのは案の定と言うか、他の候補が居るなら出てきて変わってもらいたいと心の底から希求してしまう元スターズの総隊長アンジェリーナ・シリウスが、猛然とテロリストたちが同士討ちしている輪の中に飛び込んでいって暴れ周り、混乱を拡大させまくっては収拾しようとする一部良識派の敵の意図を刈り取りまくっていた。
「ホアチャーーー!! ワタシは大東亜連合の特殊部隊『星一号』の隊長、リィ・アン! 貴様ら用済みとなったグラッチェ(ブランシェのこと)を始末するために派遣されてきた殺し屋よ!
さぁ、殺されるのが怖くない奴がいたらかかってきなさい! かかってこないならワタシの方から仕止めにいくつもりだから、そのつもりでね!」
『なんだこの理不尽な女はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もはや何も言うまい。
「どうかしたの達也君? 顔色悪いわよ? ーーもしかしてイヤな思い出のある知り合いだったりした?」
「いや、何でもないんだ。彼女のことも含め、気にしなくていい。あれはただのアメリカ軍特殊部隊式魔法格闘術暗殺特化型を達人レベルで極めているだけで、進む先に立ちはだからない限りは害はない存在だからな。
せいぜい、『敵を見つけたら突貫して殲滅するまで戦いをやめない、コントロールを受け付けなくなったバーサーカー』とでも思っておいてくれたらそれでいい」
「・・・いや、そんな歩く核弾頭を気にしなくていいんだったら、俺たちは何を気にして戦えばいいんだよ・・・」
「問題ない。世の中には『コントロールは利くし勝手に爆破することもないが、自分で押した爆破スイッチがどのような効果をもたらすのか予想しても意味がないキテレツ爆弾』が、人の姿をとって実在しているからな」
『あー・・・・・・』
「??? えっ、と・・・・・・な、に・・・?」
二人が「納得した」と言い足そうな表情でうなずき、保護者役なのか保護される役なのかよく分からないクドウに連れられてきていたらしい雫がトコトコ駆け寄ってきて話しかけてくる。・・・オールメンバー揃い踏みだな。まったく嬉しく感じられない面子ではあったが。
「・・・まだここにいたの? 彼らの狙いは図書館よ。こちらを襲ったのは陽動でしかない、主力は既に侵入しているわ。壬生さんもそっちにいるわ」
「小野先生・・・」
入学式で俺のクラスにも顔を出しにきたカウンセラーの小野遙先生だった。
正直、濃すぎる面子に囲まれた日常を生きてる身としてさほど印象深い人ではないのだが、今回ばかりは彼女が適任である以上、待っているしかなかった主演女優の登場に心からホッとさせられる。
やれやれ、これでようやく解決の目処が立ったな。さすがに疲れた・・・。
「後ほどご説明いただいてもよろしいですか?」
「却下します。・・・と言いたいところだけど、そうも行かないでしょうね。
ーーでも、その代わり一つお願いしても良いかしら? 壬生さんに機会を与えてあげて欲しいの」
そこから始まる『カウンセラー小野遙としてのお願い内容』は、予測できていたものだったため割愛させてもらう。こうなると分かっていたからこそ待っていたのだから、これ以上面倒ごとに頭を悩まされるのは御免被りたい。
「・・・私の力が足りなかったのでしょうね。結局、彼らに漬け込まれてしまった・・・だから!」
「甘いですね。余計な情けで怪我をするのは自分だけとは限らないんですよ?」
「ーーっ!?」
俺の返答の激しさに衝撃を受けて「くしゃり」と表情をゆがませる彼女。
よし、ここだ。ここで突けば彼女は確実にこちら側へ廻る・・・!!
「・・・で、でも彼女は剣道選手としての実績と二科生としての評価のギャップに悩まされて・・・」
言い訳じみた無意味な言葉の羅列を並べ立てる小野先生に、俺は意識して作った柔らかい笑顔を向けて先ほどより柔らかくした声音でもって優しく前言を翻して差し上げる。
「・・・安心してください、小野先生。俺は所詮、魔法科高校に所属している一生徒にすぎない民間人の少年です。
如何に相手がテロリストであり、壬生先輩が彼らに荷担するような行動を取っているとはいえ、明確な殺意を示したわけでもない同じ魔法科高校の生徒を殺してしまったのでは法律的にも世間的にも問題がありすぎます。最悪と言わず順当にいって学校を辞めさせられるのは確実でしょう。かわいい妹の深雪を置いて、そんな薄情な真似はできませんよ」
「司波君・・・」
「彼女が殺意を込めて真剣で切りかかって来た場合には相応の対処をせざるを得ませんが・・・そこまで行かない限り彼女の身の安全は確約させてもらいます。ですから安心してください」
「あ、ありがとう司波君! この恩は一生忘れないわ! 私にできることがあるなら何でも言ってみてちょうだい! 可能な限り便宜を図らせてもらうから!」
よし、言質は取ったぞ。後は追いつめるだけだ。
「では、今おっしゃった約束事を早速履行していただきましょう。今すぐ職員室に赴いて、全校生徒及び職員にテロリスト共の内紛に介入しようとせず数が減るのを待つよう指示を出してきてください。早急にです」
「え・・・?」
「どうしました小野先生? まさか俺たちに『今やることを』お願いしに来ておきながら、自分が払うべき恩返しは終わった後の成功報酬ですますつもりだったのではないでしょうね?
危険な仕事を一介の学生にお願いするわけですから、報酬の半分は前払いするのが常識ですよ?」
「え、いや、あの、その・・・お、終わった後にテロリストたちの拠点に関するデータを提供するとかじゃ・・・ダ、メ・・・?」
「契約書が存在しない口約束での成功報酬でテロリストの仲間入りを果たしている生徒を無傷で連れ帰れと? 話になりませんね。
だいたい自分の正体すら明かしていない先生が約束を守ってくれる保証などどこにもないのですから、せめて行動で示していただきたいものです」
「う、ぐ・・・ぐぐぐぅぅ・・・・・・」
「で? どうなさるのです? 先ほど先生自身がおっしゃっていたように無駄な時間を費やしすぎてしまいました。早く決めなければ手遅れになってしまう可能性も無いと保証することもまた誰にもできないのですが?」
「う、ううううううぅぅぅ・・・・・・わ、わかりましたよ! 言ってきますよ! 言ってくればいいんでしょう!? 私に、日本の学校の先生方にむかって『共食いやりたい奴らは勝手にやらせておけばいい』ってヒトデナシ発言をしてくればいいんでしょ!?」
「はい、その通りです先生。引き受けてくださって助かりましたよ。やはり教師陣の中の誰かが言い出さないと角が立ちますし、先生方も責任転嫁して命令には従おうとしないでしょうからね。
では、俺たちは行きます。壬生先輩を救うためにも急いでね。
深雪、レオ、エリカ、あとついでに雫も。みんな行くぞ!」
『お、おーっ!』
「??? お、おー・・・?」
背中を向けてトボトボと走り去っていく小野先生とは真逆に意気揚々と図書室へと向かう俺の足は快調だ。今日一番の絶好調といえるだろう。やはり先人は偉大だな。『備えあれば憂いなし』という至言を残してくれたのだから。
「おい、達也。さっきの態度はちょっと冷たいんじゃないか?」
後ろから付いてきてるレオが言って、
「私はまぁ、前から達也くんって性格悪いなぁーって思ってたから態度自体は気にならなかったけど・・・でも、そんなことより今更行っても遅すぎるんじゃないの?
仮に超簡易魔法式の防犯装置を新たに追加してたとしても、さすがに時間を浪費しすぎちゃってるし・・・」
レオと並んで付いてきているエリカが言った。
俺は知らず口元がゆるむのを抑えきれない。
「ーー二人とも、超簡易魔法式の特性がよく理解できていないみたいだな」
『え?』
「いいかい? 超簡易魔法式の長所は誰でも『簡単な魔法なら』同じ効果を発揮できる道具を作り出せるようになったと言うだけであって、強力な魔法の使用には未だ手が届いていない。使い方としては奇襲が基本だ。正面から力と力をぶつかり合う戦いには全くと言っていいほど向いていない。
セキュリティに用いる際にもこれは同様だ。正面から突破しようとしてくる相手を横合いから騙し討ちするタイプのトラップしか存在していない。ここまでは分かるか?」
「う、うん。それが一体なんの役に立つの?」
「勘違いされがちだが、窃盗に対する備えには二種類ある。
盗まれないようにする防犯と、敢えて盗ませた後で捕まえるための怪我人を出しづらくする防犯とだ」
「「・・・・・・・・・」」
「伝統ある魔法科高校の防犯システムは、基本的に前者であると推測できる。当然、仕掛けられているのは図書館内に限定されていて、その強度は日本国内でもトップレベルのはずだ。
その一方で貴重品が隠されている場所を察知させないために、図書館の警備そのものは他より一段階か二段階ほど上な程度。隠蔽の必要性から、力押しでも破れないほど厳重には施されていない。
むろん、力付くで突破するには相応以上の疲弊を要求されるのは言うまでもないことではあるがな。
そして突入時とは逆に逃亡時には最短距離で逃げ道を突き進めるようなルートを探しておくのが少数での奇襲作戦においては基本でもある」
「「・・・・・・・・・」」
「なら、後は簡単だ。逃げ道に超簡易魔法式のトラップを仕掛けておけばいい。それだけで全てが解決できる。
人がもっとも安心して油断するのは、危険から逃げ延びて安全地帯まで無事に帰ってきたことを心の底から実感したときなんだ。「あー、良かった。これでもう安心だ・・・」そう思ったときにこそ人はもっとも油断して無防備になるものなんだよ。
たとえその逃走経路の安全性が、敵によって用意され保証された罠へと続くパン屑でしかなかったとしても、事実に気付くまでは逃亡者にとってその道は希望へ続く安全な逃げ道に違いないのだから・・・・・・」
「え。じゃあ、さっきの遙ちゃんにしていた交渉は・・・」
「こちらの持ってない情報を提供してくれる相手からの要求は、容れる以外に選べる選択肢は存在しないだろう?
自分より優位にある相手と対等な立場で交渉するためにはまず相手だけが持っている優位性を奪い、第三者を巻き込むことで既成事実化する。ただしい同盟関係を築くための守るべきセオリーだよ」
“相手が精神的に無防備になっているところで説得すべき”と主張したファシストは悪魔的な天才だと俺は思う。
『う、うわー・・・・・・』
俺が長い説明を伝え終えた時、付いてきていた四人の反応は三種類だった。
エリカとレオは俺のことをヒトデナシか悪人か、もしくは悪魔であるかのような目で見てくるし。
「流石です! お兄様!」
妹の深雪は、瞳に星をいつもより多く宿しながら心からの賞賛を送ってくれてるし。
雫はーーーー
「ねぇ、達也さ、ん」
「ん? なんだ雫。今の説明で何か分からないところがあったのか?」
「う、ん・・・。今のおはな、しって・・・何のことを言ってた、の?
あと、いま達也さんた、ちなにやってる、の・・・・・・?」
『そこから!? え、一体どこから分からないまま付いてきたのアンタ!?』
・・・・・・そもそも俺の言ってる言葉を理解できる土壌が耕かされていなかった・・・・・・。
やはりこのバカを目の届かないところに放置して戦いの場に赴くのは・・・・・・ダメだ!絶対に・・・。
つづく