北山雫は魔法科高校の劣等生   作:ひきがやもとまち

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雫が好きすぎてヒロインにしたいと思っていたのに、気付いたら主人公にしてました。

なお、今作の雫の口調は某ギャルゲーヒロインを基にしており、
原作と比べて大分読みづらくなっております。
ご不満に感じましたらご一報ください。すぐに訂正いたします。


プロローグ「北山雫はひねくれている」

 私の前世はあっけなく死んだ。

 なんの事件もなく、なんのドラマもなく、なんの悲喜劇もなく、実にあっさりとした幕引きだった。

 

 

 ーーなのに私が今もこうして「生きていられる」のは、神様か悪魔様か、もしかしたら聖杯様によって転生させられたからなんだと、思う。

 まったく・・・本当に迷惑な話。

 死んだ人間をむりやり呼び戻しておいて何の説明もない。

 おまけに、生まれ変わった“ここ”は元いた世界とは違うし、私自身も性別が変わった。

 今の私は北山雫という名前の女の子。無表情で無感動なのがデフォルトみたいで、あんまり感情が揺れないし、揺れても顔に出にくい、いわゆる無口系無表情キャラ。

 

 別に前世の私もお喋りじゃなかったから違和感は少ない。けど、それでも男から女になると色々と齟齬が、ある。両親とのコミュニケーションも、すっごく、大変。

 

 そんなデメリットばかりの異世界転生。

 でも、嬉しかったのは、自我を引き継げた、こと。

 記憶は引き継げたけど、代わりに人格が大きく変わるタイプの転生物は、多い。私は記憶は引き継がなくても良いから、自我だけはーー正しくは“性格”だけはどうしても引き継ぎたいと思って、いた。

 

 だってーー私は生まれ変わっても“ひねくれ者”で、いたかった・・・から。

 

 ずっと・・・願って、いた。

 死んだ後も、生まれ変わった後も、天国に上った後も、地獄に堕ちた後も、私はひねくれ者であり続けたいって。

 

 だから、その夢が叶ったのは素直に嬉しい・・・と、思う。

 

 ・・・ううん。ひねくれ者が“素直”なんて言葉を使っちゃ、ダメ。何か他の表現を・・・・・・・・・思いつかない。後で考えて、みる。

 

 

 ・・・・・・とにかく、そんな風にしてひねくれ者からひねくれ少女になった私だけど、今ちょっと困った事態に陥ってる。

 

 それを解決する事は、出来る。

 

 でも、それには親の協力が必要不可欠だから・・・難しい。

 だって、ひねくれ者は親に何かを頼んだりしちゃ、ダメ・・・だから。

 全部、自分でやらないといけない・・・から。

 なによりも、これは本来私が解決すべき問題。人の手なんか借りたく、ない。

 実際、私一人でも解決できる程度の問題。・・・・・・ただ、それをするには年齢がほんのちょっとだけ・・・足り、ない・・・。

 ただ、それだけが・・・問題。私は、悪く・・・ない。私が、出来ない訳じゃない・・・ない、もん・・・。

 

 ・・・悩みに悩んだ末、百億万歩譲ってお父さんに頼むことにした。

 それが一番効率的だからで、別に私が自分には不可能だと認めた訳じゃない。・・・事実、可能なんだから、言い訳じゃ、ない。・・・ない、もん。

 

 これは不可抗力と止むにやまれぬ事情が重なったやむを得ない結果。だから私には後ろめたさも気負う必要もまったく、ない。これっぽちも、ない。

 胸を張って、堂々とお父さんに協力するように命令すればいい、ただそれだけ。

 心の底から、不本意。だけど仕方ないから私はお父さんにおねがーーもとい、命令するために書斎へと、向かう。

 向かって、着いて、そして書斎の扉の前で・・・躊躇している。

 

「・・・解決可能なのに・・・あとたった数年だけ年齢が上だったら一人で出来たのに・・・・・・」

 

 俯いて唇を噛みしめながら、私は自己の正当性を主張する。

 だって、これは紛れもない事実だから。

 本当に、私が二十代だったら簡単に解決できていた問題。何の苦労もなく、誰かの力を頼る必要も、なく。私、一人で。自分、一人で。解決、できた・・・のに。

 

「・・・転生物の神様は、理不尽。転生者には例外なくチートを与える、べき・・・」

 

 私は、これこそ真理だと思う。

 転生なんていう摩訶不思議な現象に巻き込まれたのに、なんの力も貰えないなんて絶対、変。絶対に、おかしい。巻き込んだ以上は責任を取るべき。

 

 ・・・・・・・・・でも、実際問題、今この場では無理なのが・・・現実。

 

 だから・・・すごく嫌だけど・・・やりたくなんかないけど・・・本当はやっちゃイケないんだけど・・・・・・・・・

 

 トントン・・・。

 

「・・・お父さん、入っていい? “お願い”・・・が、あるの・・・」

 

 人生で、前世も今生も併せて初めての経験。

 死んでもやりたくなかったこと、やるぐらいなら死のうと思っていたこと、それをすれば私のアイデンティティーが崩壊するだろうと非難し続けてきたこと・・・・・・

 

 

 “お父さんへのおねだり”を・・・今、私はやろうとしていた・・・。

 

 

 思わず屈辱で消え入りそうになる声を、無理矢理絞り、出す。

 運の良いことに、感情が声に出にくい体質が功を湊して相手は気づいて、ない。私はこの身体に、神の愛を・・・感じた。

 

 ・・・これなら、ほんのちょっとだけだけど、神様に感謝してもいい・・・・・・かもしれない。

 

 ここは、乗り切る。隠して、乗り切る。

 私は扉の前で一人静かに、そして小さくガッツポーズを、取る。

 

『ん? 雫か。お前からお願いなんて珍しいな。

 とりあえず、入ってきなさい』

 

 扉の奥から風格を感じさせる声が聞こえてきて、私は・・・ちょっとだけ震えた。

 

 ・・・別に怖い訳じゃ・・・ない。断じて、違う。これは・・・そう、武者震い。生まれて初めての経験に心が高ぶっている・・・それ、だけ。けっして、気圧された訳じゃ、ない。

 

「・・・し、失礼し、ます」

 

 ・・・敬語になったのは・・・室内に入る際には当然の礼儀。噛んでしまったのも・・・普段あんまり話す機会がない相手だったから緊張した・・・じゃなくて、戸惑っただけ・・・なんだから。

 ・・・別にお父さんに怒られたような気がして怯えた訳じゃ、ない。お父さんなんか、怖く・・・ない。怖くない・・・もん。

 

「・・・すー、はー、すー、はー・・・」

 

 大きく深呼吸してから書斎に入る。すると、そこにはーー「船長さん」がいた。

 

 椅子に深く腰掛けた中年の男性がテレビや雑誌で見たことのある船長さんの格好をしたお父さんが、そこに座って・・・居た。

 ギリシャ帽を目深に被り飾りボタンの付いたジャケットを着込み、ご丁寧にパイプまで咥えてる。

 前世から今まで写真では何度も見たことがあるけど、実際にお目にかかった事なんてあるはずない。

 もしかしたら都市伝説なんじゃないかなと疑っていた存在が目の前に実在している事実に、私は思わず固まって口を開けてぽかーんとしながら凝視し続けてしまった。

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 ・・・それから何分かが過ぎ去り、室内において静寂だけが時間と一緒に流れて、

 

「・・・・・・・・・・・・くっ、くく・・・・・・」

 

 やがて、お父さんが我慢できないとばかりに、取り繕っていた表情を崩して忍び笑いを漏らし始める。

 そして、どんどん笑いが声が大きくなっていって・・・最後はお腹を抱えて大笑いし始めた。

 

「・・・・・・え、と・・・あ、の・・・・・・なん、な、の・・・?」

 

 何がなんだか分からなくて唖然としている私に、笑いすぎて涙目のお父さんが、お腹を押さえて苦しそうにしながらも解説してくれる。

 

「・・・すまない・・・っ、雫がきた時に驚かせようと思って書斎にいるときはいつもこの格好をしていたのだが・・・まさか、ここまで効果があるとは予想外すぎて・・・あ、あの雫がそんな間の抜けた表情を・・・く、苦しい、腹が痛い・・・!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!(カァーーーーッ!!!)」

 

 私は、自分の顔がヤカンみたいに沸騰していくのを自覚する。

 今鏡を見れば、顔中が真っ赤に染まって茹で蛸みたいになっている自分が写るだろうという事は言われるまでもなく、分かる。

 認めたくない・・・でも、厳然たる事実だって、分かる。

 

(悔しい!恥ずかしい!悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい!!!)

 

 頭の中がその二言だけでいっぱいになる。

 これほどの辱めは生まれ変わる前から今まで経験した事が、ない。

 ひねくれ者にとっては、これ以上ない、恥辱。

 反撃手段を考えることも出来ないし、考えようという発想すらも思いつかないくらいに・・・恥ずかしい。

 激しい羞恥心に襲われて、俯きながら口元を震わせている私に、ようやく笑いを納めたお父さんが、私に向かってさっきのとは違う穏やかな笑顔を向けてくる。

 

 なんだか・・・その笑顔だけでちょっとだけ、安心して・・・許しそうになって・・・ううん、許さないし、許しちゃイケない・・・ダメ、絶対に・・・!

 

 

「・・・さて、これで緊張は解れただろう?

 なにかをお願いしたいのだったらそんなに堅くならずに、遠慮なく言ってみなさい。娘からのお願いに嫌な顔をする親など滅多にいないよ。

 少なくとも、私はそんな例外ではない。・・・だから、怖がらずに安心しておねだりしてもいいんだよ?」

 

 ・・・お父さん・・・私のこと見透かして・・・た・・・?

 

 実年齢五十過ぎ、でも剽軽な雰囲気のせいで四十前後にしか見えない私の父北山潮、世界規模の影響力を持っている大企業の経営者で『企業連合』の一員でもある、北方潮というビジネスネームを持たなければプライベートを確保する事すらも許されない経済界の大立て者。・・・・・・肩書きがちょっと怖ーーくない。ちっとも怖くない。全然平気。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・怖がってない」

 

 ・・・これは、さっきのお父さんの言葉に返事を返した・・・それだけ。いまの私が怖がってないのは、事実。

 最初に大分長く間が空いたのは・・・・・・そう、考え事をしていたから。うん、きっとそう。・・・じゃなくて、絶対に、そう。

 

 だから・・・感謝なんかして、ない。ひねくれ者は、親に感謝しちゃ、ダメ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・でも、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あり、がと・・・・・・・・・・・・・・・」

「ーーん? すまない、よく聞こえなかった。どうにも年をとったせいか耳が遠くてイカン。

 出来れば、年寄りを哀れんで、もう一度だけ言ってもらっていいだろうか?」

 

 ・・・・・・お父さんの言葉に、私はちょっとだけ、迷う。

 ひねくれ者は上から目線が、基本。

 下手に出てくる相手には強気に出る、べき。

 だから、哀れみを与えることはひねくれ者として、とても・・・正しい。

 

 正しいけど・・・ちょっと、難しい。

 今、哀れみを与えようとすれば、私がもう一度あの言葉を・・・あ、ありがとーーううん、最後まで言っちゃダメ。この言葉は、ダメ。ひねくれ者が使っちゃいけない言葉のトップランカー。絶対に、ダメ。

 

 でも・・・哀れみは、したい。

 哀れんで、感謝、したい。

 ありがとうって、言いたい。

 言って・・・哀れみたい。ひねくれ、たい。

 

「あ・・・あ、あり・・・ありが・・・・・・ありが、と・・・・・・」

「ーーううん? すまん、私の出来損ないの耳では優秀な雫の綺麗な声は聞き取り辛いらしい。出来れば大声で言ってもらえないか?この老いぼれに冥土の土産を与えてくれ。・・・頼む」

「・・・・・・・・・・・・・・・!!」

 

 たの・・・まれた。頭を・・・下げられた。

 冥土の土産を送るのは、ひねくれ者の・・・絶対法則。

 これは・・・ひねくれ者としては、強気に、そして偉そうに哀れまなくちゃ、ダメ。冥土の土産を送らないのは・・・絶対に、ダメ。

 だから・・・大声で・・・あの言葉を・・・言わなくちゃ・・・・・・ダメ。

 

 ダメ、だから・・・。言わなきゃ、ダメ・・・だから・・・・・・私は・・・頑張って・・・言う。

 

「あ、あ、あ、あ・・・・・・・・・・・・ああああありがちょうごじゃいまちた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・噛んだのは、ひねくれる事が嬉しすぎた・・・だけ。失敗は・・・・・・して、ない。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・なに、この可愛い生き物。可愛すぎて生きるのが辛い・・・・・・・・・」

「・・・?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ。年寄りは独り言が多くてな」

 

 思わず顔を真っ赤にして叫ぶようにひねくれた私の言葉に、お父さんはなぜか不思議そうな声で謎のつぶやきを漏らして私を見詰めてきた。

 とりあえず視線で問いかけたら、この返事。

 

 ・・・なんでだろう・・・? 今の私のひねくれには文句の付け所がないはずなのに・・・。ないはず・・・だよ、ね・・・?

 

「とりあえず、御馳走様。大変、おいしゅう御座いました。もう私に思い残すことは無くなった。我が人生に一片の悔い無し。

 さぁ、何でも好きなものをおねだりしてごらん! 北山家の財力と権力と人脈のすべてをつかって何でも用意してやろう!

 無人島でもカジノでも株でも・・・あ! だが男だけは用意しないぞ!雫にはまだまだ早すぎるからな!いいか?これだけは絶対だぞ!」

「い、いらない、そんなの・・・」

「本当だな!? こればっかりはお父さん絶対許さないからな!嘘だったらその可愛らしい小さなお尻を百回叩くぞ!泣くまで叩くぞ!泣いても叩くぞ!いいか?判ったな!?」

「ひ、ひゃい!わ、わかりました・・・」

 

 思わず敬語になるほどこわーーくない。怖くなんかない。全然、怖くなんかなかった。

 

 ・・・でも、ちょっと用事が出来たから早くお願いを済ませて・・・トイレ・・・に、行きたい・・・。漏れそ・・・・・・なんでも、ない。

 

「そ、それでお願いなんだけど・・・」

 

 ごくり、と唾を飲み込む。

 今回は怖い訳じゃない。・・・いや、さっきから一度も怖がったことはないけど。それだけじゃ、ない。

 怖いんじゃなくて、緊張している。

 だって・・・このお願いはこの世界では・・・あまりにも「普通じゃない」から・・・。

 この「異世界」の特殊で特別な、選ばれた者たちの間では・・・大変異常で・・・普通は、理解されない、こと。

 

 謂わば、この世界における「特権」の放棄。

 将来を狭めて、栄達から遠ざかり・・・エリートがエリートをやめて、凡人になることを望む、異常者の、行動。

 高校入学時に「一科生」ではなくなる可能性が高くなる、本来あり得ない、選択。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私・・・魔法師の子供たちがいない、普通・・・の中学校に転校、したい・・・」

 

つづく




今作の雫はヘタレで意地っ張りです。
作者の妄想が入り込みすぎてしまっておかしな事になっていますね。

次回は雫と司波兄弟の出会いです。ほのかも出ますが、ちょっと性格が変になってます。
ほのかファンの方にはあらかじめ謝罪を。ごめんなさいです。

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