「御幸さん。お待たせしました。」
「構わないぜ。俺も今来たところだ。」
と御幸先輩は用意を終えて立っていた。
暫くして立ち投げでしっかりと肩を作り
「御幸さん。座って下さい。試したいボールがあります。完成しているかを確かめる意味で。」
と俺は御幸先輩に伝える。
side御幸
「御幸さん。座って下さい。試したいボールがあります。完成しているかを確かめる意味で。」
俺はそれを聞いて思った。
こいつはまだまだ上へと行こうとしている。なら俺も負けていられないと。
「いいぜ。何を投げるんだ?」
「シンキングファストです。最近自主練の時に試していたんですけどそろそろ受けてもらいたいと思ったので。」
「分かった。でもまずはストレートから順番に行くぞ。」
と俺が伝えると匠はモーションに入る。
いつも通りの力強いフォームから投げられる斬れ味抜群の回転のかかったストレート。
変化が遅くストレートと大差ないスピードで一気に曲がる高速スライダー
ストレートに比べかなり球速が落ち変化量の大きいスライダー
低めへしっかりコントロールされたSFF
真ん中から急激に尚且つ大きく落ちる高速フォーク
かなりスピードを落としゆっくりと大きく落ちるパーム
変化量は小さいがバット一つ分滑るように斜めに曲がるシンカー
そして最後はストンと落ちる大きなドロップカーブ
これらを投げ終えてから匠が最後に
「御幸さん。シンキングファスト行きます。」
そう言ってしっかりと確認しながら腕を振りに入る。
まっすぐの軌道。
これは失敗か。
と思ったら横に滑るようにシンキングファストが曲がり始めた。
他の変化球に比べたらインパクトは小さいが十分武器になる。
俺はそう確信したと同時に恐ろしい奴だとも思った。多くの変化球を高い精度で投げ込むことの出来るコントロールに伝家の宝刀高速フォーク。
150㌔に迫るMAXスピードを持つストレートに俊足強肩を使ったフィールディング。
今まで雑誌では優人と二人合わせて投の天才永島匠、打の天才大沢優人って呼ばれていたけど間違いなく2人は努力の天才だ。しかもその努力に天才級のセンスだからな。
「御幸さん。どうでした?」
「おっとそうだった。やっぱりお前すげえよ。何であんなタイミングで変化させられるんだ?」
「握りを変えてみました。」
「なるほどな。」
「クリス先輩にアドバイスをもらいながらですけどね」
「そうか‼︎クリス先輩に‥あの人は野球に詳しからな」
「そうですね。俺は誰よりも野球のスキルと知識を持たないと誰にも勝てなかったので」
「嘘だろ‥150近い球速に左右上下緩急と使いこなせる変化球を持つお前が」
「今でこそ高い評価を貰っていますが元々は平均以下の球速にコントロールのダメピでしたからね。」
「そうかよ・・・信じられねえな」
「御幸さん」
「なんだよ」
「貴方にだけは教えますよ。俺がここを選んだ理由を。誰にも言わないで下さいよ。誰かにバレたらもう二度と信用しませんから」
「おう」