プルフォウ・ストーリー   作:ガチャM

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舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心とした、ミネバ・ザビ、プルツー、プルシリーズたちが織り成すストーリーです。※Pixivにも投稿しています。


第7話「アクシズの午後」

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「お姉さま、もう体調は良いのですか?」

「もう大丈夫。すっかり良くなったよ。ありがとうイレブン」

 

 プルフォウは訓練のデブリーフィングが終わったあと、イレブンを連れてアクシズの繁華街のカフェにやってきた。そう、助けてくれたお礼に、イレブンに食事を奢るためだ。市街地では軍服は目立ってしまうので普段着に着替えてきていて、自分は紺のカットソーワンピース、イレブンは水色のショートサロペットという服装だ。

 本当は姉プルツーも一緒に誘いたかったのだが、これからナインやトゥエルブとのシミュレーター訓練をしなければならないのだ。姉は親衛隊隊長だから多忙なのだ。

 

「それにしても、この店は雰囲気がよいですね。スイーツも、とても美味しいです」

「でしょう? 私も気に入ってるんだよね」

 

 この店は、かなり美味しい食事を提供していて、プルフォウが知る限り、アクシズで一番だと言ってもよかった。

 前にスリー姉さんと一緒に食べたことがあって、アイスクリームパフェや、クリームがたっぷりとのったホットケーキ(それは、なんと《ザク》の形をしていた)を食べたとたん、プルフォウはこの店のファンになってしまったのだ。メニューもたくさんあって工夫されている。アクシズは物資が不足しているが、それを感じさせることがない。店長の努力の賜物だろう。だから、機会があればイレブンもこの店に連れてこようと思っていたのだ。

 

「今日はサポートしてくれてありがとう」

 

 プルフォウは妹に、彼女の好物であるアップルジュースを差し出した。

 

「たいしたことはありません。ケーキの一片でした。でも、よほどの操縦だったのですね? 姫様、意外に荒っぽいようです」

 

 イレブンがパンケーキを頬張りながら言った。

 

【挿絵表示】

 

「まだ慣れていらっしゃらないから仕方がないけどね。座ってモニターを見つめていたら、だんだん気分が悪くなってきて……。シートも悪かったけど、でも私の鍛え方が足りないんだね。恥ずかしい」

「そんなことはありませんよ。鍛えられた屈強なパイロットでも、《ドップ》や《ワッパ》に搭乗すると酔うそうです。同じくらい揺れが酷かったのでしょう。それに、あまり鍛えると筋肉が付きすぎて良くないです」

 

 イレブンは次に特大サイズのアイスクリームパフェにとりかかった。

 

「悪くはないんじゃない? 体を鍛えれば痩せるんだよ」

 

 プルフォウは太らないように気を付けているのだ。他の姉妹と比べて発育が良いのは自覚していて、胸が大きいからノーマルスーツを着るのが大変なのである。ノーマルスーツは胸と腰、股間とお尻をアーマーがぴったりと覆うデザインで、新調してもすぐにきつくなってしまうのが悩みなのだ。

 

「本当ですか?」

「うん。それに成長ホルモンが出るから、背も伸びるんじゃないかな」

「……どうせ私は背が低いです」

 

 イレブンは頬を膨らませた。

 彼女は姉妹の中でも一番背が低い。クローンだから、本当は肉体的にも差がでないはずなのだが。やはり個体差は出てしまうのだろうか。ノーマルスーツも一回も新調していない。

 

「可愛いよ、お前は」

 

 プルフォウは妹の頭を撫でた。

 その愛撫に反応して、イレブンのおさげを留めている髪飾り、サイコミュデバイスがピカッと光った。

 

「お姉さま、親衛隊のパイロットに“可愛い”というのは相応しくない形容ですよ?」

「ごめん、ごめん」

 

 プルフォウは笑いながら謝った。 

 とはいえ、実際イレブンを見て親衛隊の生え抜きのパイロットだと思う人間は、まずいないだろう。傍から見ればお菓子を食べている小さな女の子なのだから。

 だから、強化人間とかニュータイプ部隊とか、自分たち子供に過度に期待するのは止めてほしいと、プルフォウはいつも思っている。

 

「でも、正直なところ親衛隊をつとめるのは大変だよね……。訓練は厳しいし、休みもなくてさ。たまにはまとまった休みをとって、旅行にでも行ってみたいなあ」

「疲れた時には弱気になるものですよ。プルフォウお姉さまは優秀です」

「プルツーお姉さまをみると、とてもそうは思えないな」

「もっと自信をもつべきです。だったらファイブ姉さんなどは、どうしたらよいのですか? ニュータイプ能力も標準以下、モビルスーツの操縦も下手、学科の成績も最低、メカ音痴、いいところなしです」

「それは酷くない?」

「事実を言ったまでです」

「でも、お互いに助けあわないと」

「そうですよ。私たちは姉妹でありチームなのですから。だからお姉さまも気を落とさないでください」

「そうだね、イレブンの言うとおりかも」

 

 プルフォウは少し気が楽になった気がして、目の前のアイスクリームをスプーンですくった。たっぷりと生クリームとチョコレートがかかったトッピングに心を躍らせながら、ひといきに口に含む。うん、やっぱりこの店のアイスは絶品だ。冷たさと甘さが口腔を満たし、同時に心も幸せで満たされる。

 もうたまらずに二口目を口に運ぼうと思ったそのとき、プルフォウは通りの向こうから三人の男子が近づいてくるのを認めた。

 こちらに歩いてくる? 何か用があるのだろうか?

 

「あの人たち、お姉さまのお知り合いですか?」

「ううん、違うけど……」

 

 若い男たち。自分より一回り上、十七、十八くらいだろうか。彼らのラフな服装格好が、少し苦手だなと感じさせる。頭の中で警戒警報が鳴り始めた。

 

「楽しんでる?」

 

 リーダーぽい男子が、なれなれしく話しかけてくる。

 嫌だな、と思う。彼の傲岸な顔は、女の子は皆自分に夢中になると自信を持っている顔だ。強化人間の、相手の思考を読む能力を使ったわけではない。もちろんニュータイプ能力があるからといって簡単に他人の考えが分かるわけでもないのだが、女の子を誘おうとしている男子の思考を覗こうとは思わなかった。

 

「彼女を誘うのか?」「可愛い娘じゃん。スタイルもいいし」

 

 厭戦気分が、このような軽薄な人間を生んでしまうのだろう。整ってはいるが、へらへらとしてだらしない顔つきは、志がなく怠惰に日常を過ごしていることを現している。

 

「イレブン。ほら、もう帰るよ」

 

 彼らに関わりたくない。なにより知らない人間と会話するのは苦手なのだ。早く食事を切り上げて宿舎に帰らなくては。だが帰り支度をさせようと声をかけると、イレブンはまだ黙々とパフェを食べていた。しまった、もう遅い。気がつくと ニヤついた男子の顔が眼前にあった。

 

「そんなに急がなくてもいいじゃん。これから俺たちと、どっかで遊ばない?」

 

 プルフォウは、じろじろと身体を見られている視線を感じて思わず目を逸らした。

 

「いえ、もう帰ろうと思ってましたから……。どうぞ、お構いなく」

「でもさ、妹さんか? 彼女まだデザート食べてるぜ?」

 

 イレブンは空気も読まずに、ひたすらパフェやパンケーキを食べ続けている。

 

「遅くならないうちに連れて帰ります」

「そうだよな! お嬢ちゃんは早くお家に帰りましょうねぇ? お姉ちゃんは、これから俺たちと遊びにいくからさ」

 

 男子グループの一人が、イレブンの肩に手を置いて言った。

 イレブンはかなり年下にみられているのだろう。男たちは全く相手にしてない感じだ。

 

「姉妹だから顔似てるなぁ」「そんだけ食べたら、お姉ちゃんみたいにスタイルよくなりそうだよな。いまは全然だけどさ」

 

 イレブンはその言葉に気を悪くしたようだった。

 

「余計なお世話です……私も姉を置いては帰れません」

「じゃあ、お嬢ちゃんも一緒にいくか? でも、ちょっと夜遊びには早いよな」

「夜遊び?」

 

 イレブンは顔を上げて尋ねた。

 

「具体的には何をするのですか?」

「そうだな、酒を飲んだり歌ったりか? あとはゲーセンでモビルスーツバトルとかさ。俺たち強いんだぜ! こいつなんか『赤い流星』って呼ばれてんだぜ」

「おいおい、女の子はモビルスーツとか興味ねえだろ」

「やっぱカラオケか」

 

 黙って話を聞いていたイレブンは、まったくもって冷めた様子だった。

 

「私たちは未成年ですから、お酒は飲めません。歌も歌わないですしゲームもしません。あくまで私の印象ですが、あなた方とお話が合うとは思えないのです」

「飲めば会話も弾むんだよ! いいからお嬢ちゃんは、お家に帰って絵本でも読んでろよ。おまえ何歳なの?」

「十歳ですが」

「十歳かぁ~! だったらもうお家に帰る時間だ」

 

 プルフォウは、自分の年齢も十歳だとは言い出せなかった。

 

「その通りですね。さあ、お姉さま帰りましょう。こんなバカな人たちが騒ぐうるさい環境では、満足に食事もできません」

「おい! ずいぶん酷いこと言うじゃねえか!」「生意気なガキだ!」「なに頭をピカピカ光らせてんだよ!」

 

 イレブンの、かなり無礼とも思える物言いに、男子たちは明らかに気分を害したようだ。

 

「イレブンやめなさい! すみません、このとおりです。謝ります」

 

 プルフォウは平謝りで頭を下げた。イレブンは食べるのを邪魔されると機嫌が悪くなるのだ。

 

「謝ることはないぜ。君が付き合ってくれればさ。あんな妹はほうっておいて遊びにいこうぜ! ほら、お前はもう帰っちゃえよ!」

 

 男三人はイレブンを手で追い払うような仕草をすると、プルフォウの腕を掴んで強引に立たせた。一人は腰に手を回してくる馴れ馴れしさだ。

 

「こ、困ります。帰らないと……」

「いいからさ。何か欲しい服とかあれば買ってあげるけど?」「そうそう、こいつのオヤジは軍の高官だからさ、ねだった方がいいって」

「高官?」

「そうだぜ。ようするに偉いんだよ。君も、もっといい服着たいだろ?」

「そんな。知らない人から服をもらうなんて」

「もう知り合いじゃん」

 

 男たちは勝手なことを言いながら、プルフォウを連れて歩き始めた。

 弱気な自分が情けなかったが、年上の男子に強引に絡まれると足が震えてしまった。身の危機を感じて、いまは男子のひとりが掴んでいる自分のクラッチバッグを見る。バッグには携行し易いサブコンパクトモデル、ナバン・九ミリ自動拳銃が忍ばせてある。マガジンはシングルスタックの六発入りで、全体的に小さくて隠しやすく、隠密任務にもぴったりの銃だ。

 とは言っても、まさか民間人相手に銃を使うわけにはいかない。街中で発砲するなど、とんでもないことだ。習っている護身術で倒そうとも考えたが、強化人間の自分が下手に普通の人間を相手にしたら大怪我をさせてしまうかもしれない。軍人として、そんなことは絶対にできない。

 

 (イレブン、プルツーお姉さまを呼んできて! お願い!)

 

 姉プルツーなら、たとえ誘ってきた相手がシャア大佐だろうと追い払ってくれるだろう。だから助けを求める思念を妹に送った。イレブンの髪留めはサイコミュ・デバイスなので、思念波を増幅して受信や発信ができるのだ。

 受信してイレブン!

 だが、はたして受信しているのかしていないのか。イレブンは再びパンケーキをパクパクと食べ始めていた。姉の危機よりデザートを優先するなんて。プルフォウは、いよいよ泣きたくなってしまった。

 

「おい、やめろよ! 彼女が嫌がっているじゃないか」

 

 三人の脚が止まったことに気が付いて顔を上げると、目の前に一人の男の子が立っていた。その腰に手を当てる仕草に見覚えがある。見慣れていて、少し忘れていた腕。記憶が何かしらの感情を動かしたことを自覚した。

 

「なんだ、おめえ? 何道塞いでんだよ」「騎士気取りか? 勘違いするなって。ガキはすっこんでろ」

 

 三人の一人が男子の体を押しのけようとする。

 

「年下の子を誘おうとしてる奴が言うことかよ!」

 

 男子はさっと避けながら言った。

 短くカットした髪に引き締まった体。真面目で意思の強そうな目。服装からも明らかだが、彼はネオ・ジオンのパイロット候補生だ。

 

「軍のガキが何の用だよ。訓練してろ! サボってんじゃねえよ」

「サボってなんかいない。今日は非番なんだ」

「それで街に女を誘いにきたっていうのか? 坊やには早いんだよ! 遊びもよく知らないだろうが? お前はあそこのテーブルのガキとおままごとして遊んでな」

「なめるな!」

 

 パイロット候補生はプルフォウの腰に手をまわしていた男を殴りつけた。

 

「きゃあっ!」

 

 いきなり始まった喧嘩にプルフォウは悲鳴をあげた。

 

「お姉さま! 逃げます!」 

 

 いつのまにか背後にいたイレブンが、プルフォウの手を素早く引いた。

 

「イレブン!? でも彼が!」

「トラブルを起こしたと上層部に知られたら大変なことになります。あの方には申し訳ありませんが、ここは逃げるのが正しい判断です」

「そんな!」

 

 振り向くとパイロット候補生は、三人の男たちと殴りあいを始めていた。

 

「さあ、お姉さま早く!」

 

 プルフォウは妹に言われるがまま、地面に投げ出された自分のクラッチバッグを掴んで逃げた。

      ※ 

 

 三十分後、プルフォウとイレブンは、ネオ・ジオン軍の男性用寄宿舎の近くに目立たないように立っていた。

 街でおせっかいにも助けてくれた男の子を待っているのだ。さすがに、そのまま帰るのは気が引ける。

 プルフォウは、落ち着かなくて髪を結び直した。

 

「彼、大丈夫かしら……」

「心配なのですか?」

「だって、トラブルを押しつけてしまったから」

「あの方が勝手に引き受けたのですから。お姉さまが罪悪感を感じる必要はないでしょう」

「それは無責任だよイレブン。あ、彼だわ」

 

 ネオ・ジオンのパイロット候補生が、少し足を引きずった様子で歩いてくる。

 彼の名前はイロン・バルトニック。モビルスーツ操縦課程で一緒のグループだった男子だ。

 イロンもこちらに気付いたようだった。

 

「久しぶりだな。元気かい?」

「う、うん。さっきは……」

「先ほどは危ないところをありがとうございました。姉もすごく感謝しています」

「イレブン!」

 

 プルフォウは、でしゃばってきた妹の腕を掴んで止めようとするが、イレブンはかまわず話を続ける。

 

「年上の、三人の男に立ち向かうなんて勇気があります」

「いや、たいしたことないって」

「その傷、大丈夫ですか?」

 

 彼の頬には殴られたあとがあり、赤く腫れている。

 

「二、三発くらったよ。でも、やっつけてやった! もうあいつらがお姉さんにちょっかい出すことはないよ」

「安心しました。そうですよね? お姉さま」

 

 プルフォウも、トラブルを解決してもらってお礼も言わないのは、さすがに失礼だと思う。だが緊張して上手く言葉にできないのだ。

 

「あっ、ありがと……。でもその傷。喧嘩したって上官にばれたら」

「大丈夫、寮の奴らと喧嘩したことにするさ。いつものことだからな。心配してくれてるのかい?」

「別に、そんなんじゃ」

「ええ、そんなことなんです。姉は素直じゃなくて本当にすみません。こんど、ぜひ姉を食事に誘ってあげてください」

「ちょっと! イレブン!」

「いいのかい? 楽しみだなあ。可愛い妹さんだねプルフォウ」

「生意気な妹で……」

「俺には羨ましいよ。それじゃ、またな!」

「……」

 

 イロンは、さっさと行ってしまった。

 もう少し話をしても良かったのに。イレブンが余計なことばかり言うからいけないのだ。

 

「イレブン! 食事だなんてどういうつもりなの! あんた、また奢ってもらおうっていうの?」

「私はお姉さまの思考を代弁しただけです。彼を憎からず思っているのでしょう?」

「ば、馬鹿なこと……」

「訓練生のとき一緒のグループだったそうですね」

「それだけよ」

「私にはもっと親密に思えましたよ? お姉さまも、意外に隅におけませんね」

「違う!」

「そうむきになって否定せずとも良いんじゃないですか? 全力で応援させていただきますよ?」

「もう、勝手にしな!」

 

 プルフォウは妹をおいてすたすたと寄宿舎に向かって歩き始めた。

 イレブンは姉を焚付けて楽しんでいるのだ。……困った妹。

 

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