プルフォウ・ストーリー   作:ガチャM

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舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心とした、ミネバ・ザビ、プルツー、プルシリーズたちが織り成すストーリーです。※Pixivにも投稿しています。


第6話「開始! キュベレイ操縦訓練」

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 上下という概念がない漆黒の宇宙空間で、基準とする物がないままモビルスーツで飛行することは非常に難しい。だから、最初はベテランの後に着いて飛行するのが、早く上達する最上の方法なのである。

 いま三機の《キュベレイ》は、編隊を組んで飛行していた。リードするのは姉プルツーが操縦する《量産型キュベレイ》で、その後に姫とプルフォウが搭乗する専用《キュベレイ》が続き、しんがりはイレブンの《量産型キュベレイ》が務めている。

 

『ミネバ様、遅れずに私に着いてきてください』

「わ、わかった!」

 

 姉プルツーの《量産型キュベレイ》が飛行するコースを、姫は直線的な飛行の繰り返しでトレースしていた。それはとうていスムーズな飛行とはいえず、はっきり言えば無駄の多い雑な操縦である。

 

『姫様。滑らかな飛行には、操縦桿とスロットルの繊細な操作が必要です。なるべく優しく扱ってください』

「それが難しいのだ……」

 

 姫は、やたらと大げさな動作で操縦桿とスロットルを操作している。でも、最初はどのくらい操縦桿を動かせばモビルスーツが思う通りに動くのかわからないので、仕方がないことなのだ。パイロット候補生ならば誰もが通る道なのである。

 とはいえ機体は相当に揺れていた。しかも急いで取り付けた折り畳み式サイドシートは、まったく剛性が足りなかった。

 まずいことに、気分が悪くなってきている。……どうやら酔ってしまったらしい。

 

(うぅっ、頭が……)

 

 頭が割れるように痛い。それどころか吐きそうだ。

 でもプルツーお姉さまはさすがだと、苦しみながらも思う。同系統とはいえ、初めて乗った機体をもうあんなに鋭く動かせるのだ。姉プルツーの量産型キュベレイは、驚異的にシャープな機動をみせている。バーニア・スラスターを吹かすと同時に、機体の四肢を作動させることで重心をコントロールして姿勢制御を行う。そうした『能動的質量移動による自動姿勢制御』、略してAMBACと呼ばれる機動は、通常プログラムが自動で行うが、優れたパイロットはあえて手動で行うのである。 

 でも、少し手加減して欲しい……。

 

      ※

 

「困ったものです。あれでは、ぜんぜん駄目です」

 

 姫の操縦は全く落第点だというのが、後方から観察していたイレブンの正直な感想だった。

 もちろん初めてなのだから無理に決まっている。むしろ素人にしては良くやっているのだろう。だが、いくらコンピューターがサポートしてくれるとはいっても、マニュアルでも扱うことができなければモビルスーツを自由自在に操ることはできないのだ。

 それにしても、あの荒い操縦では《キュベレイ》の中はさぞかし揺れているに違いない。プルツーお姉さまのスピードが速すぎるのだが、プルフォウお姉さまと姫様は大丈夫なのだろうか?

 イレブンは心配になり、呼びかけてみることにした。

 

「姫様、プルフォウお姉さま。機体が少し揺れているようです……。問題はありませんか?」

 

 返事はない。

 

「姫様? プルフォウお姉さま?」

 

 仕方がない。

 イレブンは通信プロトコルをオーバーライドして強制的に通信モニターを開いた。すると、必死に機体を操縦している姫と、その横で苦しげにうつむいている姉の姿が映し出された。

 

「お姉さま!? プルフォウお姉さま大丈夫なのですか! 返事をしてください!」

 

 おそらくひどい揺れで酔ってしまったのだろう。

 

「姫さま少し減速を! 機体を安定させてください!」

 

 モニター画面の中で、姉がヘルメットを外すのがわかった。その顔は蒼白で、汗でびっしょりと濡れている。姫もようやく同乗者の異常に気付いたようだった。

 

「どうしたのだ、プルフォウ!?」

「……申し訳ありません、気分が」

「それは大変だ! 私はどうすればよいのだ?!」

「どうか、お気になさらずに……」

 

 それでも姉はかなり辛そうで、荒い息を吐きながら表情を歪ませている。

 

【挿絵表示】

 

『どうした! プルフォウ状況を報告しろ!』

 

 姉プルツーからの、叱責するような通信が入ってくる。

 

「プルツーお姉さま、トラブル発生です! プルフォウお姉さまが体調不良です。機体の揺れで酔われたようです」

 

 イレブンは、完全にダウンしている姉プルフォウの替わりに報告した。

 

『なんだ情けない! 我慢しろと伝えろ。飛行スケジュールを守らなければならないんだ』

 

 姉プルツーは、にべもなく言う。だが、それもわからなくはない。今日の飛行ルートは、アクシズを出発後、コア3、鉱山小惑星キケロを経由して再びアクシズに戻るというもので、かなり長いルートだから時間的な余裕はないのである。

 

「アクシズへのETA(到着予定時刻)を少し遅らせることはできないのですか?」

『ミネバ様が搭乗されているんだ。よほどの理由がない限り勝手に変えることは許されない』

「了解です。私がサポートに入ります」

 

イレブンは機体を加速させて姫のキュベレイの右横に位置させると、その右手を自機の左手に握らせた。つまり二機を接続したのである。これで、もう一機の重量が加算されるために動作がマイルドになり、こちら側でも、ある程度コントロールすることができるようになる。

 

「姫様、一緒に飛ばせて下さい。より楽しくなりましょう」

 

 イレブンは少しパニックになりかけている姫に穏やかに話しかけた。

 

「《キュベレイ》の手を繋いだのか!?」

「そうです。姫様はそのまま操縦して下さい。揺れは私が抑えます」

「助かる。だが、モビルスーツが手を繋いで飛ぶとは面白いものだ!」

「楽しいですよ」

 

 これで、姫は先導するプルツーお姉さまの機体をトレースし易くなったはずだ。イレブンはミネバ機のオーバーな操作を、反対側に引っ張ることで抑えつつ適切な方向に修正する。それには強化人間の予測能力も役立つはずだ。

 

      ※

 

 しばらくすると揺れが収まり、プルフォウはだいぶ気分が楽になってきた。

 

「イレブン、助かったわ……」

「貸しひとつですよ? プルフォウお姉さま」

 

 訓練が終わったら妹に食事を奢らないと、とプルフォウは思った。

 

「姫様、ご心配をお掛けして……」

「宇宙を飛ぶのがこんなに楽しいとは! 私はまったく知らなかった。できるなら地球まで飛んで行きたいものだ!」

(本当に嬉しいんだな)

 

 プルフォウは心の底から喜んでいる姫をみて、キュベレイを改修して本当に良かったと思った。酔って沈んだ気分がすっと晴れるようだ。

 

「まだまだ速く飛べるぞ!」

 

 束縛から解放されるのだろう。姫として振る舞うのは想像以上のプレッシャーに違いないのだ。まだ幼いのに担がれるのも大変だが、それでも実権があるのならばまだいい。実際はハマーン閣下が全てを司り、姫様には何の権限もないのである。利発なだけにストレスも溜まるだろう。自分たち姉妹は姫様とたいして年齢に差がないが、それなりの責任と権限を与えられている。他人に傅かれ、何もかもが受け身の生活。姫様はそんな境遇から一瞬でも逃れるために、自由に羽ばたくことができるモビルスーツの操縦を望んだのかもしれない。

 プルフォウは姫の心に少し触れたから、そう想像するのだ。

 

『ミネバ様、結構な操縦でした。このプルツー感服致しました。本日はここまでといたしましょう。これより帰還致します』

 

 ほどなくETAになり、姉のプルツーが帰還する旨を姫に伝えた。

 

「そうか……残念だ」

『明日からは、より本格的な訓練になります。厳しくなります』

「わかった。帰還シークエンスを開始する」

 

 ミネバ姫は機体を減速させると、進路をアクシズへと向けた。

 

「プルフォウ、気分は良くなったか? すまなかった。私が未熟なばかりに……」

 

 姫は本当に申し訳なさそうに言った。

 

「とんでもないことです姫様。自分の鍛え方が足りないのが悪いのです。姫様の上達ぶりには本当に驚きました。姫様にはパイロットのセンスがあります。空間を把握する能力がおありなのでしょう」

 

 それはプルフォウの本音だった。けっしておべっかでないことを感じたのか、姫はにっこりと笑った。

 

「そう言ってもらえると嬉しい。これが遊びならどんなによいだろう。もっと貴公らと飛べるのにな?」

「姫様……」

「この戦争が終わったら、たくさん私と飛んでおくれ」

「お約束します、必ず」

 

 プルフォウは姫の目をしっかりと見ながら言った。


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