プルフォウ・ストーリー   作:ガチャM

13 / 17
舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心とした、ミネバ・ザビ、プルツー、プルシリーズたちが織り成すストーリーです。※Pixivにも投稿しています。




第13話「激闘!モビルスーツ・バトル」

     13

 

 

「姫様、プルフォウお姉さま! 遅くなりまして申し訳ありません!」

防御機動(ディフェンシブ)! こちらは二機の敵に追われてる!」

 

 イレブンが敵機の迎撃に向かったあと、さらに別方向から増援が出現し、プルフォウは姫に回避パターンを指示して、なんとか攻撃を回避していた。ファンネルで応戦もしているが、敵もさすがにこの武器を研究していて、デブリを盾にして巧みに攻撃を防がれてしまっていた。ファンネルには、相手のセンサーを騙して誤認させる(デコイ)の役目もあるが、これだけデブリが多ければ、その機能もあまり役には立たない。さらに、ファンネルに内蔵されたビーム砲はそれほど強力ではないことが問題だった。つまり、かなり接近させて直撃させる必要があるということだ。しかも、こちらもデブリを盾にして後退しているから、ファンネルのビームを直撃させるのはかなり難しかった。

 

 地球連邦軍やエゥーゴは、まだ脳波誘導兵器を量産化していないので、その性能について過大評価しているが、ファンネルとて万能ではない。事実、このように上手く攻撃を避けるパイロットも現れ始めている。内蔵ビームを廃止して、ファンネルそのものを誘導ミサイル化するというアイデアもあるのだが、サイズの問題でどうしても弾頭が小さくなり、威力不足になってしまう。それにサイコミュはかなり高価なので、使い捨てには出来ないのだ。だが、数発でも装備していれば有用かもしれない。これは技術本部に相談するべきことだろう。でも、それは生き残ることができたときの話。

 

「敵は意外に速い!」

 

 エゥーゴ製のモビルスーツMSA-003《ネモ》は量産タイプで、性能は標準的だ。それは敵も良くわかっていて、性能差をカバーするために二機のコンビネーションで攻撃してきている。戦術は成功を収めつつあり、こちらは徐々に追い詰められている。やはり一対二は不利なのだ。自分は強化人間だから、攻撃されるのを数秒前には予測できるが、予測してから姫様に回避方向を指示し、彼女が実際に操作するまでの時間を考えると、ほとんど余裕はない。だから、イレブンが援護に戻ってきてくれて本当に助かったのだ。

 

『下がって下さい! わたしが敵の相手をします!』

「イレブン、敵は近くにいるはず。隕石に注意して―」

 

 そのとき、《ネモ》が突然隕石の影から飛び出してきてビーム・ライフルを発射した。

 

「回避! 姫様!」

「間に合わない!」

 

 姫が悲鳴をあげた。

 

「あきらめないで!」

 

 プルフォウは少しでも機体を軽くし、加えて誘爆を回避するために、急いでプロペラントタンクから燃料を放出した。バインダーをパージすればさらに軽くなるが、まだ装甲を失いたくはない。

 ビームが命中するまでに、あと一秒足らずの時間しかなかった。

 

「ファンネル!」

 

 空間にビームが干渉し合うスパークが煌めき、ついで激しい爆発が起こった。イレブンがファンネルからビームを発射して、キュベレイ01を狙ったビームを相殺したのだ。

 

【挿絵表示】

 

 それはなまじの技術ではない。敵機が発射した超高速で迫り来るビームの軌道を一瞬で解析し、ビームを正確に命中させる。ビームは直進するので軌道を読みやすいとは言っても、それをミリオーダーの単位で処理することは、普通の人間には不可能なことだ。

 イレブンは、続けてアクティブ・カノンを発射して《ネモ》を半壊させた。

 

「イレブン、助かったわ!」

『追撃します!』

 

 もう一機の《ネモ》は、すでに加速しながら離脱している。

 

「気をつけて! ファンネルを持っていきなさい!」

 

 プルフォウはファンネルを四機放出させると、イレブンの《量産型キュベレイ》のファンネルコンテナに収納させた。

 

「ありがとうございます、お姉さま」

 

 イレブンは機体を加速させて、エゥーゴ機の追撃に向かった。

 

 

      ※

 

 

「やるな! 面白くしてくれる」

 

 プルツーは、隊長機と思しき金色のモビルスーツ率いる戦闘部隊と交戦していた。一対三という不利な状況ではあるが、彼女はその状況を楽しんでいた。予測能力を有し、戦場において絶対的な支配者となりうる強化人間にとっては、少々不利な方が本気をだせるのだ。

 

「と、強がりを言ってるだけ余裕があるか……ちっ!」

 

 敵モビルスーツが発射した強力なビームを寸前でかわす。素早く正確なビーム攻撃。およそ戦場には似つかわしくない色のモビルスーツは、かなりの手練れだと判断する。コンピューターに機体を解析させると、エゥーゴの攻撃型モビルスーツ《百式》だと判明した。しかし細部が異なるので、おそらくは改良型なのだろうが、まさかパイロットはシャア・アズナブル大佐ではないはずだ。シャア大佐は地球圏の情勢を把握するべく、アクシズを離れてクワトロ・バジーナの偽名でエゥーゴに潜伏していたが、今は行方不明となっているはずだからだ。

 

「派手な色に塗り飾って、そんなに目立ちたいのかい? 気に入らないんだよ!」

 

 実力もないくせに戦場で目立とうとするのは、猪突猛進するだけの頭が足りない馬鹿か、もしくは英雄になろうと夢想しているナルシストに違いない。最初は勇壮に突っ込んで行くが、容赦のない戦場を体験するとまっ先に逃げ出してしまう卑怯者。

 プルツーは、そういう調子の良いやつが大嫌いだった。目の前の金色野郎のメッキを剥がし、晒し者にしてやる!

 

「戦場をなめるんじゃない!」

 

 《百式》タイプの肩プラットホームに装備されたマルチ・ランチャーから、雨のようにばら撒かれるペレット状の対空ビームを、機体を回転させながら回避する。濃密な攻撃をかいくぐって敵機に肉薄すると、その激しい機動にギシッと機体から悲鳴があがった。

 

「意外に安物か! まさか分解することはないだろうなっ!」

 

 《量産型キュベレイ》は、まぎれもなく《キュベレイ》の設計を受け継いでいるが、製造コストを抑えるためにワンランク下の構造材が用いられていた。その妥協が機体の軋みに現れたのだ。だがハマーン閣下は《キュベレイ》でシャア大佐の《百式》を撃破した。《百式》など《キュベレイ》の敵ではない。

 機体を高速機動させつつ、同時に両腕に備え付けられたビーム・ガンで予測位置を狙って偏差射撃を行う。二射されたビームは《百式》のビーム・ライフルに直撃してそれを破壊し、戦闘能力を奪った。

 

「フン、とどめだ! ……うっ!? 罠か!」

 

 意表を突かれた。こちらが攻撃したタイミングにあわせて、デブリに隠れて待ち伏せしていた可変機が左前方からビームを放ってきたのだ。攻撃と防御を同時にこなせる人間はいない。敵はわざと誘い込んで、人間の処理速度の限界を狙ったのである。

 だがニュータイプに、そのセオリーは通用しない。プルツーは、直撃コースのビームを、ファンネルのビームで打ち消すように弾き返した。

 

「甘いね! その程度の攻撃で私を殺ろうなんてさ……お前から死にな!」

 

 不意打ちをくらった自らの迂闊さと怒りを吐き出しながら、機体を急加速させる。そして加速した勢いのまま、前傾姿勢で背中のアクティブ・カノンを発射して可変機を攻撃した。

 

 背中に装備されたアクティブ・カノンは、《量産型キュベレイ》のメイン・ウェポンだ。プロトタイプが装備していたビーム兵器は、ファンネルとビーム・サーベル兼用のビーム・ガンだけで、しかもそれらが内蔵するのは小型のエネルギーCAPだから、けっして威力が高いとは言えない。

《キュベレイ》は、元々は一年戦争時に実戦投入されたニュータイプ専用モビルアーマーMAN-08《エルメス》を小型化した、ファンネル・ビット運用母機である。だが小型化の弊害で、オリジナルの《エルメス》に搭載されていた固定ビーム砲は省略されてしまったのだ。ファンネルやビットは有効な武器だが、失えば母機の戦闘能力は大幅にダウンしてしまうのが欠点だった。アクティブ・カノンは、その欠点を補うべく、再設計による機体構造の効率化で、失われたビーム・キャノンを復活させたと言ってもよい。ビーム・キャノンはジェネレータ直結型の大口径砲なので、通常のビーム・ライフル以上の威力を誇る。

 

 この攻撃力が増した《量産型キュベレイ》を乗機とするニュータイプ部隊を、早期に実戦投入できるレベルに持って行くことが、プルツーに課せられた任務である。そして、そのニュータイプ部隊の中心となるのは、彼女の専用機として開発されている四十メートル級の超大型モビルスーツNZ-000《クィン・マンサ》だ。単機で一個大隊並みの戦闘能力を誇る《クイン・マンサ》と、十数機の《量産型キュベレイ》部隊。その戦闘力は凄まじく、エゥーゴや地球連邦軍など一気に殲滅できるだろう。だから、こんな敵に手間取っている時間などないのだ。

 

「こんな戦闘、さっさと終わらせてやる!」

 

 可変機は、形勢が不利と判断したのか『ウェイブライダー』と呼ばれる戦闘機形態に変形して後方に逃れた。ほっそりとした機体形状から判断すると《ゼータ》系列の機体だ。驚くべきことに、その変形は一秒以内に行われる。機体に内蔵されたムーバブルフレームが瞬時に機体の構成を組み替え、モビルスーツ形態では機体各部に分散しているロケット・バーニアの推力を後方に集中させるのだ。

 ウェイブライダーは爆発的な加速で逃げた。が、突然に機体後部がビームで撃ち抜かれて爆散した。

 

「逃げるのは予測ずみなんだよ!」

 

 プルツーは敵機の進路を予測し、展開させていたファンネルによる偏差射撃でビームを直撃させたのだ。メイン・スラスターがまるごと吹き飛んで不安定になった姿勢を、ウェイブライダーは各部のスラスターで必死に取り繕う。だが、残ったパワーを脱出に振り向けるのかと思いきや、《ゼータ》は再びモビルスーツに変形してビーム・サーベルを脚から引き抜いた。すでに片脚は失われているが、勇敢にも反撃しようというのだ。

 

「無駄なあがきを!」

 

 プルツーは素早く可変機に接近して腕をビーム・サーベルで斬り飛ばすと、続けざまに機体を真っ二つに切り裂いた。ビームで赤熱して焼かれた機体断面からチリチリと火花が見え、その動力の残滓は機体から命が失われたことを示していた。

 

「やったか……! ちっ、金色はどこにいった!?」

 

 金色の姿が見えない。武装を失って後退したのか? だが、まだ遠くには行っていないはずだ。奴は墜とさなければならない。

 追撃するために機体を転じたとき、ミノフスキー粒子を介して、脳裏に敵の存在を感知した。

 

「んっ!? 長距離射撃! 増援か!」

 

 ロングレンジからのビーム攻撃に対し、即座に《量産型キュベレイ》に回避行動をとらせる。この距離で直撃することはまずないだろうが、混戦時に動きを止めれば狙い撃ちされる危険があるのだ。

 

「高見の見物で安心しているなよ!」

 

 プルツーはフットペダルを踏み込み、《量産型キュベレイ》を急加速させた。敵の下方から接近しつつ、ロックオンされないようにランダム加速して距離を詰める。セオリー通りの機動だが、ミノフスキー粒子環境下では非常に有効なのだ。

 モノアイおよび複合センサーで得た情報をデータベースにマッチングさせると、敵機は《ジムⅢ》の砲撃戦仕様だと判明した。両肩に装備されたミサイルポッドの替わりに、ビーム・キャノンとロングレンジ・センサーを据え付けたモデルだ。《ジムⅢ》は元々支援機なので、長距離攻撃能力には侮れないものがある。が、やはり旧式機を改造した機体にすぎないのだ。ジェネレーター出力に余裕がなく、簡易に後付けしたビーム・キャノンは、威力不足の上に大きな迎角をとれないという明らかな欠点があり、はっきりいえば中途半端な機体だった。

 ビーム・キャノンの断続的な攻撃を避けながら、プルツーは《ジムⅢ》に一気に迫った。

 

「フン、ワンパターンなリズムだ!」

 

 攻撃の糸口をつかむために腕部ビーム・ガンで牽制攻撃を行うと、不意を突かれた《ジムⅢ》は、慌ててAMBACを利用して姿勢制御を行った。フラつきながらも、メインのビーム・キャノン下部に取り付けられた近距離用の二連装パルス・ビーム・ランチャーで反撃してくる。

 

「遅いっ!」

 

 操縦桿とフットペダルを複雑に動かし、機体を側転させてビーム攻撃を回避する。腹に力を込め、歯をくいしばって高G機動に耐えるが、徐々に視界が霞んでいく。強化人間は十ニGに耐えられるとはいえ、それは最大値であり、際限なく耐えられはしないのだ。

 

「だが、そんなに連射できないはずだ!」

 モビルスーツのコンデンサーに溜め込まれた電力には限界があるから、ビームを連射し続けることは出来ない。攻撃が止まったときが反撃のチャンスだ。

 

「いまだ!」

 

 はたして攻撃は途切れ、その僅かな隙をついて腕部ビーム・ガンを発射した。袖口から発射されたビームは一瞬でコクピットを貫き、四肢を硬直させた《ジムⅢ》は、膨れ上がりながら爆散した。

 だが、まだ終わりではない。

 

「後ろかっ!」

 

 背後にプレッシャーを感じ、プルツーは、連続した滑らかな動作で背部アクティブ・カノンを発射した。回り込んでいた敵機が、背後から奇襲を仕掛けようとしたのだ。機動を読み切って発射されたアクティブ・カノンの二連ビームは、後方より接近していた《ネモ》に吸い込まれるように命中した。

 

「あたしには後ろに目があるんだよ!……ちっ、もう一機が!」

 

 さらに前方よりモビルスーツが高速接近しつつあった。

 プルツーはコンデンサーに残っている電力を確認すると、ファンネル・システムを素早くオンラインにした。ビーム・ガンとアクティブ・カノンを使用するには、しばらく電力のチャージが必要だ。

 

「正面からやろうっていうのか。動きがよい奴だ」

 

 多機能ディスプレイには《ネモ高機動型》と表示されている。地球連邦軍やエゥーゴの量産型モビルスーツは、基本性能に突出したものはないが、オプション装備で性能を向上させることが多いのだ。巨大な官僚機構である地球連邦政府は、手間がかかる新機種開発に予算を出すのは好まず、くたびれた機体を改修するのを是としている。しかし妥協の産物である改修機など、所詮は《量産型キュベレイ》の敵ではない。

 この《ネモ高機動型》は、データによればバックパックやブースターを大出力の物に換装して改良を施したモデルだ。さらに肩にはハードポイントがあって、様々な追加武装を取り付けることが出来る。

 

「着ぶくれたやつに何ができる。でも、その度胸は褒めてやるよ。……ファンネル!」

 

 サイコミュに脳波を送り込んでコマンドを実行すると、六基の無人ビーム砲台ファンネルがコンテナから射出されて、渦巻きを描くように敵に向かって飛翔した。そしてサイコミュで認識した敵機をロックオンすると、データがコード化され、ミノフスキー粒子を介してファンネルに伝わり、それぞれが意思をもったかのようにビーム攻撃を実行した。

 

「墜ちな!」

 

 必殺の攻撃。ファンネルから放たれた六つのビームが、ターゲットに収束していく。だが《ネモ高機動型》は一気に増速すると、ビームを紙一重で避けた。予測した位置より三メートルも手前に移動したのだ。

 

「……やる!」

 

 《ネモ高機動型》はバーニア・スラスターを全開にして加速してくる。つまり、直線的な機動で攻撃を突破しようというわけだ。なるほどファンネルを良く研究している。

 

「フン、対抗策を編み出したつもりか! 突っ込んでくるのはいいが、あたしに白兵戦を挑むことになるぞ!」

 

 高速機動中にビームを命中させるには、ターゲットに正対しなければならない。つまり進路は簡単に予測できるということだ。《量産型キュベレイ》を最大加速させているので、敵の速度と合わさって、いまや相対速度は凄まじいものになっていた。この速度で激突すれば、お互いにバラバラになってしまうだろう。全天周ディスプレイには予測軌道が表示され、会敵予測時刻が示された。だが、その数値を無視して、プルツーは自らの感覚で攻撃するタイミングを決定した。

 敵パイロットも攻撃手順を決定したのだろう。《ネモ高機動型》は、肩のラッチに装備したビーム・ガトリングを連射し、腰だめに構えたバズーカから散弾を連続発射した。散弾にはガンダリウム合金の球が大量に詰め込まれていて、破裂して扇状にばら撒かれる。弾幕を張って、こちらの脚を止めるつもりらしい。

 展開させていたファンネルが、散弾の嵐にもろに突っ込んで消滅した。

 

【挿絵表示】

 

「小賢しいんだよ!」

 

 操縦桿をぐいっと捻ると、《量産型キュベレイ》の肩バインダーが左右で異なる方向に作動し、そのモーメントの差で機体が大きく傾いた。さらに姿勢制御バーニアが必要なだけ噴射され、機体は大きな螺旋を描くバレルロール機動を開始した。

 次にプルツーは、不愉快なGに耐えながら操縦桿のスイッチを特定のパターンで押した。すると《量産型キュベレイ》の右手に保持されたビーム・サーベルの鍔が、ちょうど傘を開くような形で三つに展開し、三つ刃に変形した。エネルギー消費量が増えるものの、その攻撃力は絶大なのだ。

 

「さあ、こい!」

 

 バレルロールを駆使して、襲い掛かる散弾をギリギリで回避する。散弾のいくつかが肩のバインダーに当たって装甲をへこませたが、かまわずフットペダルを踏み込み加速する。核融合エンジンが唸りを上げ、その律動にプルツーは精神を高揚させた。

 そしてタイミングを見計らって、《ネモ高機動型》に対し、すれ違いざまにビーム・サーベルを振り下ろした。ズシンッと光の刃が人型を分断する手ごたえを感じ、装甲が圧倒的な熱量によって強引に溶断されるのをスローモーションのように認識する。

 機体を三つの刃で切り裂かれ、バラバラになった《ネモ高機動型》は、慣性力で破片を撒き散らしながら吹き飛んでいった。戦闘力を失った機体は、しばらく暴走した核融合炉からプラズマの光を漏らしながら漂っていたが、突然断末魔の悲鳴をあげた後、大爆発を起こした。

 

「戦術は良かったが、相手が悪かったな!」

 

 プルツーは爆発光をバックに、勝ち誇った笑いを浮かべた。あとは隊長機の金色だ。さきほどの戦闘で武装を吹き飛ばしたので戦闘力は落ちているはずだ。

 だが、金色の気配は伺えない。部隊を統べる隊長機が戦場にいないことに違和感を覚える。まさか撤退したのか? だとすれば……。

 そして、生じた疑問を確かめるために巨大な隕石を超えて見た光景には、プルツーもさすがに焦りを覚えた。

 

「戦艦かっ! 三隻もだと!?」

 

 大量のダミー隕石にまぎれて、エゥーゴの戦艦《アイリッシュ》級が鎮座していた。しかも僚艦として、《サラミス改》級を二隻従えている。

 艦隊である。

 艦番や武装などをデータベースと照合させると、艦の特長からアイリッシュ級《ウォーターフォード》、サラミス改級《アクロティリ》、同《ベレロフォン》だと判明した。サイド1のコロニー『ロンデニオン』に駐留していたエゥーゴ艦だ。

 アイリッシュ級はエゥーゴが独自に建造した高性能艦で、連装メガ粒子砲を二門、同単装砲を五門装備する攻撃力に優れた主力戦艦である。さらにその格納庫にはモビルスーツを二十機ほども搭載していて、モビルスーツの展開能力も高い。一方のサラミス改級は、少々くたびれた旧式巡洋艦サラミス級を、モビルスーツを運用可能なように近代化改修した艦だが、その機動力を生かした打撃力にはあなどれないものがあった。

 三艦を合わせると、四十機ほどのモビルスーツが搭載されているはずだ。とてつもない数。たった一機のモビルスーツではかなうはずもない。

 冷や汗が頬をつたうのが分かった。ミネバ様や妹二人も気になる。味方部隊の増援はまだこないのか!

 そのとき、ある可能性に思い至ってプルツーは戦慄した。

 

「まさか情報が漏れている? ミネバ様を狙っているのか!?」

 

 待ち伏せされていたことを考えれば、その可能性は高いだろう。政情が安定しているとはいえないネオ・ジオンで、ミネバ様を暗殺しようと情報をリークする人間もいるかもしれない。あるいはミネバ様を手土産に連邦に亡命しようというのか。

 

「裏切者がいるようだな!」

 

 内通者には、たいてい大金が支払われるのが常だ。寝返りや陰謀には必ず金が絡む。だから、その金の流れを追うことができれば、誰が裏切者なのかわかるはずだ。おそらくはサイド6。あの中立コロニーを調べなくてはならない。

 ネオ・ジオンが資金確保のために用意したダミー口座やペーパー・カンパニーは数多くあるが、そのほとんどはサイド6にある。その理由はただひとつ。地球連邦政府の監視から逃れて、資金調達を行うためだ。サイド6は、一年戦争当時から永世中立を宣言しているが、地球連邦政府の目が届きにくいから、オフショア銀行を通して金を隠したり運用したりするのにぴったりなのである。

 本来ならば、アクシズの諜報部に調査を依頼するべきだろう。しかし情報が漏れていたことを考慮すれば、親衛隊独自で調査しなくてはならない。分析能力に優れたナインやイレブンに調べさせるか? 間違ってもファイブには任せられない。

 プルツーはフットペダルを蹴りつけ、機体を180度ターンさせると、急いで姫と妹たちの援護に向かおうとした。だが、すでに敵艦隊からは多数のモビルスーツが発進し始めていた。

 

「まずいっ! 見つかった!」

 

 プルツーは隠れていた隕石から素早く離れようとしたが、機体に違和感を覚えた。思う通りに動かないのだ。

 

「この機体、動きが鈍くなっている!? フィールド・モーターの不調か!」

 

 一瞬のち、アイリッシュ級の艦砲射撃で隕石は粉々に破壊された。危うく直撃を喰らうところだった。

 フィールド・モーターとは、モビルスーツの関節などに使われる高性能モーターのことで、物理的な抵抗がほぼ存在せず、高速でスムーズな動きが可能なため、モビルスーツには必須の部品である。だが微妙な調整が必要であり、電荷に偏りがあると性能が低下するのが欠点だった。僅か数ミクロンオーダーの不具合が故障の原因となる。精密機械の集合体であるゆえの宿命であるが、それはパイロットにとっては文字通り致命傷となるのだ。あるいは工作精度に問題があるのかもしれない。ネオ・ジオンの工業施設も、地球連邦政府の制裁措置で部品調達が難しくなってきている。激しい戦闘による酷使で機体各部に不具合が発生し、機体は先行量産型で調整不足。この戦闘データをフィードバックすれば完成度は高まるが、はたして無事に持って帰れるか……。

 

「しつっこい奴らだ!」

 

 艦隊から発進したモビルスーツが群れを成して迫ってくる。しかも《ジム》や《ネモ》のような安物の量産型だけではない。正確な機種は不明だが、指揮官型の改良型もいる。パワーもスピードもあるやっかいな相手だ。

 

「新型の実戦テストをやろうっていうのかい? フン、望むところだ!」

 

 急速に接近した四機のエゥーゴ機は、《量産型キュベレイ》を包囲しようと左右に分かれた。囲まれたら勝ち目はないので、プルツーは左に展開した二機に接近し、一気にそれを殲滅しようと試みた。敵機はコンピューターの分析によると《リック・ディアス》の改良型で、マッシブな機体ながら油断できない速さで迫りつつあった。

 MSA-099《リック・ディアス》は、エゥーゴが旧ジオン公国の重モビルスーツMS-09R《リック・ドム》をベースとして、シャア大佐がアクシズから持ち出したガンダリウム合金のデータを流用して開発されたモビルスーツだ。《リック・ドム》をベースとしているから、ジオン機特有の一つ目のカメラ『モノアイ』を装備しているはずだが、この改良型は《ガンダム》タイプのようなツインアイを有している。エゥーゴはティターンズとの内戦に勝利して地球連邦軍の実権を握ったので、さすがにジオン風の機体ではまずいと思ったに違いない。だから地球連邦軍を代表するモビルスーツ《ガンダム》に似せて改修したのだろう。

 

「二つ目にしたからって、強くなんてなるものか!」

 

 プルツーは愚かしい政治的パフォーマンスを嘲笑しながら、操縦桿のトリガーを引いた。同時に《量産型キュベレイ》の両腕のビーム・ガンが火を噴き、真正面に飛び出してきた《ディアス》タイプに直撃した。《ディアス》は攻撃する間もなく爆発して吹き飛んだ。手負いのモビルスーツなど簡単にとどめをさせると思ったのだろう。戦場で慢心は死を招くのだ。

 

 僚機が撃破されたことに激高したのか、もう一機の《ディアス》は急速に接近しながら、主武装である『クレイ・バズーカ』を連射してきた。クレイ・バズーカは粘着榴弾を発射する兵器で、爆薬が敵機の装甲にへばりつくと、その衝撃で内側の装甲を粉々に破壊して飛び散らせる。弾速は遅いが、命中すれば《量産型キュベレイ》といえども、ひとたまりもない。

 プルツーは弾道を感覚で読み、着弾ポイントを予測しながら一気にその間をすり抜けると、すれ違いざまにビーム・サーベルで《ディアス》の頭を切り離した。《ディアス》タイプは頭にコクピットがあるのだ。エゥーゴ機は一瞬で戦闘能力を奪われた。

 

「フン、他愛もない!」

 

が、そう思ったとたんに、背後からMSA-005《メタス》の改良タイプが、モビルアーマー形態から変形した勢いのまま突っ込んでくるのを認識した。右に展開していた二機のうちの一機だ。グリーン色の《メタス》はバックから突き刺さんと、ビーム・サーベルを構えて突進してくる。

自らが差し貫かれるビジョンが浮かび、プルツーはわずかに興奮する。

 

「甘いんだよ!」

 

 プルツーは《量産型キュベレイ》の左手にビーム・サーベルを抜かせて攻撃を受け流すと、振り向きもしないで《メタス》を上下に真っ二つに切断した。

 

「ファンネル!」

 

 さらにもう一機が上方から回り込んでくることを予測して、ファンネルをその予測位置に展開させる。はたして予測通りにもう一機が現れ、胴体にファンネルの集中攻撃を受けた《メタス》は瞬時に光球と化した。

 

「ハハハ! そんなわかりやすい動きであたしを倒せると思ったのかい! ……ん、あれは!?」

 

 プルツーは、アイリッシュ級のカタパルトから打ち出された兵器を見逃さなかった。

 大砲と宇宙艇を合わせたような形をした、大型のサポートマシン。嫌な予感がする。拡大してデータベースで照合すると、その正体はすぐに判明した。

 

「メガ・バズーカ・ランチャーか!」

 

『メガ・バズーカ・ランチャー』とは、モビルスーツが運用する大型ビーム兵器だ。ジェネレーターとバーニア・スラスターを内蔵していて、それ自体が独立した兵器なのだが、恐ろしいのはその攻撃力で、最大出力ならば一撃で戦艦を沈めるほどの威力がある。

 スラスターを吹かして増速したメガバズーカ・ランチャーは、再び戦場に姿を現した金色モビルスーツとランデブーする。武装を失った金色は、身を潜めつつ、母艦にメガ・バズーカ・ランチャーの要請を行ったのだろう。

 

「冗談じゃない。あんなものを喰らってたまるか!」

 

 プルツーは、迂闊にも突っ込んできた《ジムⅢ》を真っ二つにしながら叫んだ。メガ・バズーカ・ランチャーは大型なので、その加速は鈍いはずだ。ファンネルで集中攻撃を仕掛ければ潰せるだろう。

 だが、

 

「ちっ、ファンネルが切れたか! 数が増えてるはずだろ!」

 

 テスト機なので、ファンネル・コンテナには定数の半分しかファンネルが搭載されていなかったのだ。ファンネルがなければ《キュベレイ》タイプの攻撃力は大幅にダウンしてしまう。その攻撃力の低下を補うのが背部のアクティブ・カノンなのだが、使用していてあまり使い勝手が良くないと感じていた。仰角が足りないから、飛行形態でないと前方に発射できないのだ。

 

「これならビーム・ライフルでも装備してきた方がましだ!」

 

 プルツーは八つ当たり気味にコンソールを叩いたが、そのときアラート音が鳴って、金色がメガ・バズーカ・ランチャーの発射態勢を整えたことを警告した。敵機のレーザー・センサーの発振を、警戒センサーが感知したのである。

 急いで回避しなければと思った瞬間、目が眩むような閃光とともにメガ・バズーカ・ランチャーが発射された。通常のビームと比較して、何倍も太い光線が宇宙を走る。鈍くなった機体を必死に操作して、辛うじて射線から回避したが、その強力なビームは掠めただけでキュベレイの左脚を破壊した。

 

「うわーっ!」

 

【挿絵表示】

 

 プルツーは衝撃でコンソールに頭を強打した。一瞬遅れてエアバッグが開き頭部を保護するが、ヘルメットのバイザーが割れて飛び散り、額からどろっと鮮血が流れおちた。

「くくく……やってくれるじゃないか! 面白い! 死ぬまで相手をしてやるよ!」

 

 

■設定資料(プルナイン)

 

【挿絵表示】

 




連載中の小説を本にした「プルフォウ・ストーリー(上) 姫のモビルスーツ」を、COMIC ZINさんととらのあなさんに委託させて頂きました。

■COMIC ZIN http://shop.comiczin.jp/products/list.php?category_id=6289

■とらのあな http://www.toranoana.jp/mailorder/cot/author/21/a5aca5c1a5e34d_01.html

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。