そしてお待たせしました。やっとテストも終わったので、これからたくさん時間を割けます。なのでこんなにあくことはないと思います。
といってもテスト期間中も我慢できずに書いていたんですけどね。それと書くにあたってたくさん考えないといけなくてなかなか大変でした。なんかここ矛盾してないかと思うところがあるかもしれませんが許してください。己の力不足です。
では、どうぞ。
陽乃と友達? になった日の帰り道。俺はベッドに飛び込んでバタバタしたい衝動を押さえ込むのに必死だった。思い返すとものすっごい恥ずかしいこと言いまくってたね。あんなの柄じゃない。それに今間違いなくテンションが高くなっている。いや、浮わついていると言った方がいいか。うん、おそらく、う、嬉しいんだと思う。初めてだったから余計。ほんと、こんなんなるのは柄じゃないぞ。今の自分が本当に自分なのか少し自信がない。少し落ち着こう。こういう時はちゃんと落ち着かないと危ないからな。うっかり黒歴史を量産してしまう。
太陽はほとんど沈んでしまい辺りはだいぶ暗くなっていて、ちょっとした肌寒さも感じる。
「ちょっと急ぐか」
そう呟いて歩みのペースを少し速める。すると、たった今すれ違った人が、ひっ、て声あげてそそくさ逃げていった。ん、なんだ? さっきの人は間違いなく俺の方を見て声をあげていた。失礼な。目が腐ってるからか? それとも他に何か不味いところでもあったか? しかしなにも心当たりがないな。
少し心配になったので歩くのをやめて自分の格好を確かめてみる。注意深く見てみるが何もおかしいところはない。第一さっきまでこれで人とあっていたんだ。おかしいところがあるはずがない。あったら指摘してくれてるはず。してくれるよね? いや、あの人だったらしばらく放置して楽しみそうじゃね?でも今はそういうわけでもなさそうだし。なんなんだろうか。
そんな事を思いながら頬に手を当てる。するとちょっとした違和感を手に感じた。え、もしかして俺……
にやけてる?
触った感じ口の端が少し上がってるようだ。マジかよ。これ完全に黒だ。つまり、なに、落ち着いてるつもりが全然落ち着けてなくて頬緩んでたと。そら逃げるわ。薄暗い道を目の腐った男が少しニヤッとして歩いているんだ。めっちゃ怪しいわ。あの人リアクション正常でした。全然失礼じゃない、悪いの俺だった。通報されなかったのは不幸中の幸いだな。いや、今からお巡りさん来るなんてことはないよね?
しかしこれはかなりまずい。こんなんで家に帰ったら小町に何言われるかわかったもんじゃないし、次こそ通報されちゃうかもしれない。
「少しクールダウンするか」
もう少し進んだ所に公園があったはずだ。今の時間だと人もいないだろうし好都合じゃないかな。途中の自販機でマッカンを買って公園に入り、一番近くにあったベンチに紙袋をおいてその横に腰を下ろした。案の定人はおらず公園は閑散としている。手に持っていたマッカンを開けてあおる。半分くらいいったところでやめ、背もたれに体重をかけ少し先の地面に目を向ける。落ち着くには思考するのが一番いい。という事で、つらつらと考え事をすることにした。
何で俺はこんなに浮かれてんだ? いやそれはもうわかっている。ずっと欲しかった者に出会えたからだ。俺のバカなやり方を見ても笑いながらバカだといい、それでも否定はしないでいてくれるような人。近すぎず遠すぎない、肩を並べて歩ける関係。いつの頃からかそんなものをずっと望んでいた。
きっとどこかで陽乃ならそれになりうるかもしれないと思っていたんだ。彼女と関わり知っていくうちにこの人なら、と期待していたんだ。だから今日、実際どうでもいいような理由をこじつけてまで対面し、勝負に出た。これまで幾度となく期待を裏切られ、もう絶対に求めないとブレーキをかけまくっていたのにやってしまったのだ。今までしたこともないような勝負。どうすればいいのか全くわからなかった。結局やったことと言えば自分の推論や思うことをひたすらにぶちまけただけ。それでも彼女は言った、自分を知ってほしかった、それだけでよかった、救われたと。
俺も同じだったんじゃないだろうか。自分の葛藤や苦労を知って欲しい、しかし同情や慰めはいらない。彼女は俺の独白を聞き、ただただ受け止め自分と重ね、俺に暴かれることを望んだ。互いに似たものを求めていたからこそ、お互いの期待に応えられたのではないだろうか。
ずっとずっと求めていた存在になってくれた陽乃に俺は間違いなく救われた。そしてこれから彼女といることで、話すことで互いに色んなことを突きつけ合い、己を知り、身の振り方を見直して行かないといけなくなる。おそらくそれはかなり難しく辛いだろう。しかしそれと同時にひどく楽しみでもある。これまで未来の自分に何も抱けなかった俺が、変化は逃げだと豪語していた俺がそんな事を思ってしまっている。たとえ変化することが逃げだとしても、それでもいいとさえ思えている。そう思わせてくれたのは陽乃だ。こんなにも今胸が高まっているのは彼女のおかげだ。
そうわかれば、俺はひとつ大事なことを忘れていた。陽乃に言わないといけないことがあった。これは今すぐでなくては。
持っていたマッカンの残りを一気に飲み干し、空き缶を近くのゴミ箱に放る。ズボンのポケットから携帯を取りだし、さっき交換したばかりの番号を画面に表示させる。ん、思い立ったはいいがやはりなれないことなだけあって緊張するな。いや、今更陽乃相手にその必要はないか。一息ついてから発信ボタンを押す。数コール後にぷつっという音と共に電話が繋がり、陽乃の声が聞こえてきた。
「もしもし? 八幡?」
「はい。先程はどうも」
「や、それはこちらこそ。どうかした?」
「ええ、まあそうですね。ちょっとした要件というか、いや、ちょっとではないか。えっとですね……」
そう言い淀んでいると、
「ちょっと詰まってるみたいだけど、なんか言いにくいこと?」
「言いにくいというか、ちょっとばかり恥ずかしいというか」
「恥ずかしい…、あ、もしかして寂しくなってもう会いたくなっちゃった? それならそうと言いなよー。全く八幡ったら。仕方ないなー、無視したら八幡死んじゃうもんね。よし、なら早速明日にでも学校まで迎えに……」
「ちょっ! 待て待て! 何勝手に話進めてるんですか。そんな訳ないじゃないですか。なんすかもう寂しいって、それに死ぬって俺はウサギか何かですか。にしても学校までって、あんた暇人かよ」
「暇人って失礼な。君への優先順位が高いだけだって」
「…………」
くっ、嬉しいことを言ってくれるぜ。つい無言になっちまった。
「おーい、なに黙っちゃってんのー? あー! もしかして嬉しくて言葉にならないとか? ぷっ、あはははははっ、ちょろい、ちょろいよ八幡。ちょろ過ぎ、ぷくくっ」
おい、ぼろくそ言ってくれるじゃねーか。ああそうだよ、ちょろいよ。俺はちょろいんだよ。でも、そんな笑うことなくね。俺泣いちゃうよ? あれ、既に目から汗が……。
「おい、笑いすぎだ。あながち間違ってないから何も言い返せないのが辛いが。とりあえず落ち着け。ちっ、今度絶対なんかで大笑いしてやる」
「くくっ、ふー、いやー笑った笑った。ごめんって。そんなに怒んないでよ。まあこの私を大笑いする機会なんてあるのかな?」
「んなもん作ってやりますよ」
「やれるもんならね。まあ本当にやられそうで少し怖いけど。あ、あとさっきのは別にからかうためじゃないよ。普通に本心だから」
「そうですか、ありがとうございます。嬉しいこといってくれますね。それと別に嘘だとは思いませんでしたよ。だから予想以上に効いたんです」
「う、そう。き、君も嬉しいこといってくれんじゃん。えー、なんか早々にやり返された気分なんだけど」
「ん、案外陽乃もちょろいのか?」
「そんなわけないでしょ! 私は八幡とは違って百戦錬磨なの。どれだけたくさんの人を手の上で転がしてきたと思ってんの!」
いや、なに自信満々言ってんだよ。被害者乙です。そして俺も乙です。
「はあ、何言ってんすか。まあ、その調子だと俺に転がされんのも近そうですね」
「くっ、八幡って弄りすぎると突然強気になるよね。なんなのそれ」
「さあ、羞恥心が許容量を越えると何でもできちゃうんですかね」
「なにそれ怖いよ」
「俺に言われても。だいたいこんなんなるって知ったのは陽乃に弄り倒されてからですし」
「ふむ、私はとんでもない怪物を産み出してしまったのかもしれない…」
「なんすか、怪物って。ちょっとSっ気が強くなるだけじゃないですか」
「いや、今までの君からは考えられなかったからさ」
「それについては同感です」
「でしょ! あ、そういえば結局何の用だったの?」
そうだよ、まだ俺目的果たせてないじゃん。なんかこの人と話してるとどんどん脱線していってよくわからないところに行き着くんだよね。なんで用があるってところから俺が実はSだって話になるんだよ。何の繋がりもねぇ。でも、おかげで緊張解けたけど。
「そういえばさっき言い忘れたことがあったなー、と思いましてね」
「言い忘れたこと? わざわざ電話してくるくらいだから何か重要なことなのかな?」
「そうっすね。俺にとってはかなり大事です」
「ほうほう。あえてメールではなく電話してまでとは。それほどまでに大事なのか。といってガンガンハードルあげちゃう私」
おいやめろ。折角いけそうだったのになんてことしてくれやがる。
「へっ、そこら辺は受けとる側の自由なんであなたがなんて思おうといいですよ。元はと言えば俺の自己満足のためですし」
ちょっとした抵抗をする。そして俺は少しだけ深呼吸して気持ちを落ち着かせる。その様子を感じ取ってか、陽乃は電話の向こうで静寂を保っていた。よし、言うか。
「こちらこそ、俺を信じてくれて、俺を救ってくれてありがとう。陽乃。俺はこれから先が楽しみで仕方ない。だから、これからよろしくな」
言い終えた後も沈黙を破らない陽乃に告げる。
「用件はすんだので、それじゃ、また来週に」
俺はそう付け加えて電話を切った。切っちゃった。いや、仕方ないじゃん! ようやく言ったけど、頑張って告げたけど、リアクションを待てるほどの心の余裕はもうないんですよ。ふー、なかなかに大変な任務であった。
今、陽乃はどんなだろう。アホ面かましているか、笑っているか。俺と同じ事を思ってくれてたら嬉しいな。
そんなことを考えながらしばらく余韻に浸ってボケーっと座っていた。ようやく落ち着いてきたような気がする。しっかり礼も言えたし、そろそろ帰ろうかな。
そう思って立ち上がろうとしたとき、まだ手に持っていた携帯が震えた。どうやらメールらしい。おそらく陽乃からだろう。さっき勝手に電話切っちゃったし。や、これで違ったらすごく恥ずかしいでしょ。空気とかぶち壊しだし、でもそういうのをしれっとやっていくのが広告メールなんだよな。
そんなアホみたいなことを考えながら確認すると、予想通り陽乃からだった。何かな、弄りの文章がつらつら並んでたり、勝手に切ったことへの文句だったりすんのかな。ちょっと怖いな。少し心配しながらメールを開く。
そこには俺の予想に反して簡潔に三言、
「どういたしまして 私も楽しみだから! こちらこそよろしく!」
そんなメールを見て自然と、ひとつ笑みがこぼれる。そして呆れたように俺は呟いた。
「全くこの人は……」
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そうごちる彼の顔には、まだ優しげな笑みが残っていた。
「いいかげん帰るか」
彼はそう呟いて立ち上がり、紙袋を取って家へと歩みを進める。その足取りは軽快で、まるでこれから起こるであろう厄介事にも負けないと言っているようだ。
実際、彼はこれからたくさんの厄介事に巻き込まれる。そして、たくさん面倒をかけられ、彼らしく間違える。その過程で彼が、彼を取り巻く者たちが変わっていくのだが、それはまだ先の話。
そんな彼に月明かりが優しく降り注いでいた。
次はあまり期間が開かないようにがんばります。
では、また次回に。