アンチヘイトタグは外しました。もう誰もアンチもヘイトもしないでしょう。ハッピーなエンド一直線です。
では、どうぞ。
現状報告。俺は席を移動して陽乃の隣に、雪ノ下と由比ヶ浜はその正面に座っている。妙な沈黙が少し流れ、それを俺がやぶる。
「依頼の方はどうだ?」
「順調よ。演説の内容も考えたし、あとは予備日に立候補してまたそれからって感じかしら」
「そうか。順調そうだな」
「まあ、それとあなたにも話があったのだけれど…。それより気になることがあるのよ」
「…ヒッキーはなんで陽乃さんと?」
ですよね。そこだよね。
「なんでかって聞かれると…、何でだ?」
「さっき別に電話でもよかったって話になったし、特に意味はなかったよね」
「だよな。ということで特に意味はない」
「私は特に意味もなくこうしている理由が聞きたいのよ」
「……友達だから?」
「誰が?」
「誰って、俺と陽乃が」
俺の言葉を聞いて二人が固まる。おーい、戻ってこーい。
「…大丈夫か?」
「…は! ね、姉さんとあなたが友達? 信じられない話なのだけれど」
「ヒッキー、本当?」
「そんな嘘は言わない」
「ほんとだよ」
「そうなんだ…」
由比ヶ浜が小さく呟いた。その言葉に雪ノ下が無表情に続く。
「そう、あなたも姉さんなのね。結局あなたもそこら辺の人と同じ…」
「雪乃ちゃん…」
雪ノ下の言葉を陽乃が底冷えしそうな声で止める。陽乃を横目に見ると、顔は笑っているが目が笑っていない。
「今回は何を言おうとしたのか聞かないでおいてあげるけど、今後八幡のことそんな風に言ったら雪乃ちゃんでも許さないよ。私達のことを録に知りもしないで勝手なこと言わないで」
雪ノ下は突然の陽乃の言葉と雰囲気に唖然としている。陽乃はこれまで直接雪ノ下に矛先を向けるようなことはしてこなかっただろうから、こういうのは初めてなのだろう。
そして、そうやって怒っている陽乃を見て、俺の中で沸き上がってくるこの感情が何なのかが理解できない。ただ、素直に嬉しいと感じていることだけはわかった。
「ご、ごめんなさい。軽率なことを言ったわ。本当に、ごめんなさい」
雪ノ下は俯いて謝った。その口調は本心から言っているように重かった。
「もういいよ。私もきつくいったから、そこはごめん。でも2度と言わないでね」
「ええ。でももう……」
「何?」
「なんでもないわ。最近姉さんが丸くなってた理由がわかったような気がしただけよ」
少しばかりすっきりした顔で雪ノ下が言う。
「なによそれ。妹のくせに生意気だぞっ」
「逆にあなたの妹だからよ。伊達に長い間あなたを追っかけていないわ」
「もう追っかけてないくせに」
「どうかしらね」
「なによそれ、気になるんだけど」
「眠れない夜を過ごしなさい」
そんなことを言って姉妹は互いに笑い合っていた。視線を前に戻すと、どことなく苦い顔をした由比ヶ浜が俺を見ていた。
「どうした?」
「あ、んや! な、なんでもないよ!」
「そうか?」
「うん、そう! ヒッキーは全然気にしなくていいから! ……これは私の問題だから」
由比ヶ浜があたふたしながら答えた。最後の方は声が小さくて喧騒に紛れ、俺には届かなかった。
「で、俺になんかあるって言ってたけど出直すか?」
「いえ、別に今でも大丈夫よ。由比ヶ浜さんから話を聞いて…」
そう言うと雪ノ下は体を俺の方に向け頭を下げた。
「修学旅行では酷いことを言ってごめんなさい。先のことを考えずに何もしなかったのは私だったのに」
「おい、顔をあげろ。俺こそすまなかった。わかっていたのにお前らをきった。改めて二人に謝らせてくれ」
「わ、私もあの時はごめん!」
「いや、お前からの謝罪はもうもらってるからいいんだけど…」
「え? でもヒッキー今…」
「俺は雪ノ下にはまだ謝ってなかったし。陽乃に指摘されて罪が重くなったからまた謝らないとと思ってたんだ」
「そうだったんだ?」
由比ヶ浜が釈然としていない顔のまま言う。
「修学旅行の件はそれぞれの不運に不運が重なっちゃったからねー。誰の責任でもないでしょ。各々の課題を把握するにはいい機会だったんじゃない?ね、八幡」
「結果オーライってことか?」
「だいたいのことはそうでしょ」
「まあな。てかなんで陽乃がいい感じにまとめて全部持ってくんだよ」
「ほら、当事者三人とその他一人。こういうのってその他一人の役目でしょ?」
「…………ようするに姉さんは」
「そうか、陽乃は仲間はずれにされて寂しかったんだな。すまないな、気づいてやれなくて。頭でも撫でようか?」
「ちょ、なに言ってんの!? 雪乃ちゃん達の前だよ! でも、ちょっと…」
「冗談に決まってんだろ。人前でできるわけあるか、二人でもできないのに」
「んな! ふんだ!」
陽乃は拗ねて、グラスの中の氷をストローでつつき始めた。
「…初めて見る姉さんだわ」
「…私も予想外かも」
「なんか、不思議な気持ちね。言葉にできないわ」
「あはは…」
困ったように言う雪ノ下に由比ヶ浜が苦笑いを浮かべる。
「おい最年長。そろそろ威厳を取り戻せ」
「ん、仕方ない。ま、冗談はこのくらいにして」
「あまり冗談には見えなかったのだけれど」
「冗談は!このくらいにして! ……どうしよう八幡?」
「いつになくポンコツだな」
「失礼ね。ネタがないのよ」
「あの、私の話まだ終わってないのだけれど」
「え、他になんかあんの?」
「選挙のことよ。私、生徒会長になりたいの。だから立候補したい、いいかしら?」
「ん? へ? どういった風の吹き回しだ?」
「その、由比ヶ浜さんに……」
そう切り出して雪ノ下は話始めた。
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その日の放課後、部室。雪ノ下と由比ヶ浜は机を挟んで向かい合い選挙の準備をしていた。紙にペンを走らせ、たまに宙を見て考えている雪ノ下に由比ヶ浜は手伝い出してから思っていることを投げ掛けた。
「ゆきのん」
「何かしら」
「なんか、楽しそうだね」
「え?」
「この前から一緒にこうしてるけど、楽しそうだなーって思って」
「そ、そうかしら」
「うん。もしかしてさ、ゆきのん生徒会長やりたいの?」
「べ、別にそういうわけじゃ」
「真面目に答えて」
「その…」
「ゆきのんさ、なんでヒッキーが反対したのかわかってる?」
「それは私のやり方が気に入らないからじゃ」
「違うよ。ヒッキーは今のゆきのんには任せられないから反対してるんだよ」
「どういうことかしら?」
「ヒッキー言ってた。生徒会長は大変な仕事だって、意欲と覚悟があるやつじゃないとダメだって」
「でも私になら」
「ゆきのん、そう言うところだと思うよ。ちょっときついこと言うけど、文化祭でもそうだったじゃん。これまでの依頼も仕事も全部一人でやれてた?」
「……」
「私達はずっとヒッキーに頼ってばっかりで何もできてなかったんだよ。依頼だっていっつもヒッキーにおんぶでだっこだった。私達は依頼に私情をたくさん挟んでたけど、ヒッキーはいつも全体を見て依頼をどうにかすることを考えてた」
「今回もそうなんだよ。適当に生徒会長を誰かにやらせたらその後はどうなると思う? きっと大変なことになっちゃう。だからヒッキーは慎重になってるの」
「ならどうすれば…」
「ゆきのんはさ、生徒会長になりたいの?」
「……」
雪ノ下は黙って頷いた。
「ならちゃんと言うべきだよ。私は生徒会長したいって。今は転がってきたチャンスにただ乗っかっているだけ、ゆきのんの気持ちはその程度なの?」
「違うわ。今まで私は姉さんの後ろを追いかけいただけだったけれど、あなた達と過ごすうちに、そうではなくて自分で何かやりたいと思ったの。それで前から興味があった生徒会長になろうと…」
「そうだったんだ」
「……やはり今のままじゃダメね。由比ヶ浜さんの言う通り、覚悟は足りなかった。明日、比企谷君に話してみるわ。それに修学旅行の件も謝らなければね」
「そうだね。頑張ってゆきのん!」
「あの、色々とありがとう」
「いいんだよ。だって友達じゃん!」
そう言って由比ヶ浜は雪ノ下に抱きつく。
「よし!じゃ、どっか遊びいこうよ」
「あの、まだ準備があるのだけれど」
「ならどっか外でやろ!」
「仕方ないわね…」
そうして二人は街へと繰り出した。
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「……で、今に至るのよ」
「へー、そんなことが。にしても由比ヶ浜」
「そ、そんなたいしたこと…」
「たくさん難しい言葉使ったな。おんぶにだっことかよく知ってたな」
「ちょ、そこ?! 私だって日々成長してるんだよ!」
「でもいいのか? 部活なくしたくないんじゃ」
「そうだけどさ、それよりもゆきのんの背中押したくなったの。部活は時間があるときにはするってゆきのんいってるし、私も手伝いに行くし。それでいいかなって」
「そうか」
「それで比企谷君は、その、やっぱり反対かしら」
「いや、もう特に言うことはない。好きにやれ」
「ありがとう」
雪ノ下はほっとしたように言う。
「雪乃ちゃんはいい友達見つけられたんだね」
「ええ、感謝しきれないわ。でも姉さんも似たようなものでしょ」
「あははは、確かにそうだ。ガハマちゃん、これからも雪乃ちゃんよろしくね」
「もちろんです!」
「じゃ、最後に雪乃ちゃんにアドバイス。もう少し謙虚になりなさい。そうすれば雪乃ちゃんならだいたい上手く出来るから」
「心に留めておくわ」
「じゃ、もう解散か?」
「そうね、もう時間も遅いし、準備はできなかったけれど仕方ないわね」
四人で席を離れ、会計を済ませて外に出る。
「じゃ、八幡。今日は雪乃ちゃんと帰るから」
「おう」
「え、聞いてないのだけれど」
「えー、いいじゃない。せっかくだしさー」
「はあ、まったく。そう言うことらしいわ。じゃあまた明日」
「バイバーイ」
雪ノ下姉妹は二人で帰っていった。その姿はもう普通の姉妹と言ってもいいだろう。いや、スペックは全然普通じゃないけどね。逆に二人揃ってると異世界感あるよ。
「じゃ、俺達も帰るか」
「うん……。ヒッキーはさ、やっぱり陽乃さんのこと…」
「陽乃がどうかしたか?」
「いや、やっぱいいや。なんでもない。じゃ、また明日ね」
「おう、じゃな」
そう言って由比ヶ浜は駆け足で帰っていった。さて俺も帰るか。
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あれから雪ノ下は選挙の準備を順調に進め、予備日に立候補した。平塚先生と一色の説得により一色の立候補取り下げも無事に済んだ。そうして選挙も無事に終わり、雪ノ下は生徒会長になった…。
「で、なんで普通に部活やってんだ?」
「この間言ったじゃない。暇なときにはやるって」
「お前いきなり暇なの?」
「引き継ぎは済んだし、メンバーともちゃんと顔合わせしたわ」
「そうか、やれそうか?」
「どうかしらね。まだわからないけど頑張るわ」
「いざとなったら私もいるしね!」
「いや、そこまで戦力になるとは思えないんだが…」
「期待しないで待っておくわ」
「二人ともひどいし!」
由比ヶ浜が声を荒げる。雪ノ下はそれを見て笑っている。
「あーあ、俺の帰宅部ライフ帰ってくると思ったんだけどなー」
「ふふ、残念だったわね」
「ああ、全くだ」
俺は笑いながらそう答えた。
無事に生徒会選挙終わりました。次はクリスマスですね。たぶんそんなに長くなりません。
では、また次回。